社会保障制度・国家存続を脅かす「少子化」への対策を強化するとともに、不断に医療・介護制度改革に取り組むべき—社保審
2023.1.31.(火)
社会保障制度はもちろん、日本国の存続をも脅かす「少子化」に対応するため、子育て支援はもちろん、その前段階からの支援を強力かつ広範に行う必要がある—。
一方、施策の効果が現れるには時間がかかり、今後も少子化の進行に伴って医療・介護保険制度の基盤が脆弱になっていく。このため医療・介護制度改革に継続して取り組む必要がある—。
1月30日に開催された社会保障審議会において、こういった議論が行われました。なお、新たな社会保障審議会長に遠藤久夫氏(学習院大学経済学部教授)が選任されています。
組織再編に伴って児童部会を廃止し、小児慢性特定疾患対策部会を新設
社会保障審議会は、我が国の「社会保障制度を総合的な視点で議論する」場です。医療保険や介護保険、公的年金制度、福祉施策、少子化対策などの個別の社会保障制度に関する議論は下部組織である部会等で詳細に検討され、親組織である社会保障審議会では、これら制度全体のあるべき姿などを高所大所から検討します。
1月30日の会合では、厚生労働省から「全世代型社会保障構築会議の報告書」と「2023年度厚生労働省予算案」について報告が行われ、これ関する自由討議が行われました。
全世代型社会保障構築会議では、「現在の社会保障制度は『給付は高齢者に、負担は現役世代に偏って』おり、これを『経済的能力に応じて負担し、必要に応じて給付する』仕組みへと改める」ことを主眼に、「少子化対策給付への拡充」「医療保険・介護保険において、経済的能力の高い高齢者の負担増」などの方針を提示。これをベースに社会保障審議会・医療保険部会や介護保険部会などで具体的な制度設計が行われています(関連記事はこちら(医療保険改革)とこちら(介護保険改革))。
また、2023年度の厚労省予算案では▼サイバー攻撃対策などの医療DX推進▼地域医療構想の実現—などのほか、「多様な働き方改革」を重要な柱に据えています。
なお、少子化対策に深く関連する「児童家庭局」関連は、内閣府に新設される「こども家庭庁」に移管(組織再編)されます。これに伴い、社会保障審議会についても▼児童部会を廃止する(内閣府の関係審議会に移行)▼児童部会の下部組織であった「小児慢性特定疾患児への支援の在り方に関する専門委員会」については、難病施策と一体的に議論するために、社保審に「小児慢性特定疾病対策部会」を改組・新設する—ことになっています。
こうした状況について委員からは、「子育て支援策の充実」を広範に求める声が多数出ています。例えば▼非正規雇用者の婚姻率は、正規雇用者の半分である。子育て支援の前段階の支援も充実すべき(武田洋子委員:三菱総合研究所研究理事、シンクタンク部門副部門長、政策・経済センター長)▼実際の子育て支援策を展開する市町村に恒久財源支援を行うべき(内堀雅雄委員:全国知事会社会保障常任委員会委員長、福島県知事)▼子育て支援により出生率改善にはつながるが、短期的に「人口減」ストップにはつながらない点に留意すべき(津谷典子委員:慶應義塾大学教授)—などの意見が目立ちます。
もっとも「経済支援をすれば『子どもを産み・育てよう』という意識が生まれるわけではない」「いわゆる『偉い人』が机上で考えた施策にどれほどの効果があるのか?若者の生の声を聴くべきではないか」と強く指摘する識者も少なくありません。社会保障審議会委員が全世代型社会保障構築会議にも参画しており、「報告書を自画自賛する」意見が出ている点も気になります。
少子化の進行は、「社会保障財源の支え手」はもちろん、「医療・介護サービスの担い手」が足らなくなることを意味します。さらに社会保障制度にとどまらず、我が国の存立そのものをも脅かします(国家の3要素である「領土」「国民」「統治機構」の1つが失われ、日本国そのものが消滅しかねない)。より広範な対策を、若者を交えて検討することに期待したいところです。
なお、医療制度・介護保険制度改革に関しては、▼高齢者の受診抑制にならないような配慮を国の責任で行うべき(内堀委員)▼「給付の見直し」(引き下げ)に不断に切り込んでいくことが重要である(武田委員)▼多様化する医療・介護ニーズへ適切に対応できる「地域包括ケアシステム」の構築推進、サービスのベースとなる人材確保に向けた処遇改善の推進に引き続き取り組んでほしい(村上陽子委員:日本労働組合総連合会副事務局長)—といった声が出ています。今後も少子高齢化は進み、2040年にかけて現役世代が急速に減少するため、医療保険・介護保険財政が極めて脆弱になっていきます。医療・介護制度改革は「今後も継続する最重要課題である」点を国全体で認識する必要があります。
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