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認知症患者が自由なテーマで話し合う本人ミーティングの実践が、地域共生社会の構築の第1歩—健康長寿医療センター研究所

2023.2.24.(金)

認知症患者同士が自由なテーマで話し合う「本人ミーティング」を実践していくことで、認知症患者自身は「仲間と出会い、自分の考えを他の人に伝える」機会を得られ、認知症ではない人は「認知症患者の思いを理解し、思いやりを持って応援する」機会を得られる。こうした機会の積み重ねが「地域共生社会の実現」につながるのではないか—。

東京都健康長寿医療センター研究所が2月16日、こうした研究結果を公表しました(研究所のサイトはこちら)。

本人ミーティングは認知症患者自身はもとより、それ以外の人にも極めて有意義

高齢化の進行に伴って認知症患者が、今後さらに増加すると見込まれています。2018年には認知症患者数は500万人を超え、65歳以上高齢者の「7人に1人が認知症」という状況になり、また2025年度には675-730万人に到達すると推計されています。

政府もこうした状況を重く見て、認知症対策の充実・強化に向け、新オレンジプランを大改革した「認知症施策推進大綱」を2019年6月に取りまとめました。そこでは、「認知症の人との共生」「認知症の予防(発症を遅らせる)」を目指し、(1)普及啓発・本人発信支援(2)予防(3)医療・ケア・介護サービス・介護者への支援(4)認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援(5)研究開発・産業促進・国際展開―という5つの柱を打ち立てています(関連記事はこちら)。また、介護保険制度改革においても「認知症対策」が重要な柱の1つに位置づけられています(関連記事は こちら)。

そうした中で「認知症の本人が主体的に社会参加し、緒的・道具的・情報的サポートを授受しあい、潜在能力・残存能力を引き出す」ことが重要と考えられています。そのための施策としては、例えば▼本人だけでなく家族介護者や地域住民も含めて広く地域住民が参加する「認知症カフェ」▼認知症患者が集い、認知症患者同士が主となり自らの体験や希望、必要としていることを語り合い、自分たちのこれからの暮らし、暮らしやすい地域のあり方を一緒に語り合う「本人ミーティング」▼両者を帆包含する「ピアサポート活動支援事業」—などが展開されています。

都健康長寿医療センター研究所の研究チームでは、東京都板橋区の高島平団地でコミュニティに基礎をおく参加型研究(Community-Based Participatory Research: CBPR)を行っています(高島平スタディ)。そこでは、「隣居住者が自由に過ごし、専門職に気軽に相談できる地域拠点」を開設。そこで、上述した「本人ミーティング」も実践しています(2018年スタートし、昨年(2022年)9月までに43回開催)。概ね月1回、認知症と診断された人、もの忘れが心配な人などが集い(参加費無料、予約不要、氏名・住所・認知症の有無などを伏せて参加可)、認知症患者自身がファシリテーターを務め、1つのテーブルを囲んで自由なテーマで話し合いを行うものです。

スタッフは、「利用者を『お客様扱い』せず、認知症があってもなくても、あたたかく、対等で自由で、お互いを尊重し合える態度で接する」「歓談中、スタッフは関わりすぎず、自由な雰囲気で過ごすことができるようにする」「認知症や障害を持つ方への差別や偏見が垣間見られるときには、スタッフが自然な態度で合理的な配慮を示す」「必要に応じて、認知症や障害を持つ本人の思いを尋ねたり、考えたりして助け合いができるようにする」という基本的態度で参加しているといいます。

これまでに延べ484名が参加(参加者の4割は80歳代、6割が女性)。「ほかの人の話を聞きたかったから」という理由で参加する方が多いようです。

ミーティングで出てくる話題としては、「認知症や認知機能障害、老いとともに生きていく上での様々な苦労」「認知症への疑問や質問、日々の生活やこれまでの人生を振り返る話題」などのほか、「症状の改善」「自分の世界が広がった経験」「過去に出会った認知症の人や未来に認知症になる人に思いを巡らせた思いやり」など、ポジティブな内容も含めた多様なものとなっています。

また、ミーティング参加者からは、例えば「人と会って話すことが大切だと実感できる」「もの忘れがあっても良いじゃないか、という前向きな気持ちになれる」「ファシリテーター(若年性認知症)から具体的なアドバイスをもらえる」「自分からも他者のために体験談を話している」などの声が聞こえてきています。

研究チームでは、「認知症患者同士が集まり、批判や拒絶される心配がない場があれば、自分のことを語っても自分をありのままに受け入れてくれる安心感が得られる」「ありのままの自分を他の人たちから受け入れてもらう経験の積み重ねは、『ありのままの自分自身を受け入れていく』ことにつながっている」「認知症患者同士が集まると、自分の体験や生活の中で得た知恵を語りあい、お互いの経験から学ぶことができる」といった大きな効果があると分析。上述した「人の話が聞きたかったから」という参加動機が多いことには、こうした背景があると考えられます。さらに参加者の中には「自分自身の体験を他者に語る」(=他者を支援する)役割も担い始めています。「自分が他者の役に立つ」「自分が社会において大きな存在意義をもっている」と感じることが極めて有意義であることは、述べるまでもないでしょう。

なお、この本人ミーティングは地域拠点で開催されており、そこでは「認知症になっても良くなることもあるのよね」「あなた(認知症と公表している人)、元気になったね」などの声も聞こえてきます。医学的に「認知症が改善した」わけではないと思われますが、「人と話をすることでもの忘れが気にならなくなる」「生き生きと自分の体験を語る」ことが「改善している」と見えるのでしょう。このため本人ミーティングでは、常連参加者が初回参加者などに「人と話すと元気になれるから、(通常営業、本人ミーティング以外の)地域拠点にもいらっしゃい」と積極的に声をかけることも少なくないようです。さらに「その他の障害を持つ人の話を聞く」「役所の手続きに一緒についていく」などの簡単な日常生活サポートも積極的に行われています。

研究チームでは、こうした状況を踏まえて、本人ミーティングには▼認知症患者本人にとって「仲間と出会い、話すことで自分の考えを整理し他の人に伝える」機会となる▼認知症ではない人にとって「認知症患者の語る姿を見て、語りを聴いて『認知症と共によく生きる』ことの実感を得ながら、認知症患者の思いを理解し思いやりを持って応援できる」機会となる—との大きな効果があると分析。

現在、「要介護状態となっても住み慣れた地域で生活を継続できる地域包括ケアシステム」の上位概念となる「世代や分野を超えてつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会地域共生社会」の実現が目指され、2024年度からの新たな介護保険事業(支援)計画でも重要視点の1つとなっています(関連記事はこちら)。研究チームでは「地域共生社会は、まず認知症患者との対話によって始まり、お互いを理解し合うことで進展していく」のではないかと分析し、今後、地域にいくつもの小さな対話の輪ができるような実践と研究を進めて行く構えです。



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