薬価収載の手続きと、外国平均価格調整ルールについて改善を―中医協総会
2016.11.9.(水)
一度薬価収載が承認されたにも関わらず、メーカーの戦略で薬価収載申請を取り下げ、後に改めて薬価収載を申請することは好ましくないのではないか。また、外国平均価格調整の対象国からアメリカを除外するなどの見直しを行うべきではないか―。
9日に開かれた中央社会保険医療協議会総会では、診療側・支払側双方の委員からこういった指摘が出されました。2018年度の次期薬価制度改革に向けて、論点の1つになります。
承認後に薬価収載申請を取り下げ、再度申請することは妥当なのか
9日の中医協総会では、23成分・35品目の新薬について薬価収載すべきか否かが議論され、了承されました。18日に保険収載される予定です。これらの中には、生命を脅かす出血・止血困難な出血の発現時や、重大な出血が予想される緊急手術・処置の施行時にダビガトラン(抗凝固薬)の作用を中和する「イダルシズマブ(遺伝子組換え)」(販売名:プリズバインド静注液2.5mg)があります。本剤を使用した場合、次期改定までDPCの全診断群分類において出来高算定となることも了承されました(高額な薬剤ゆえ)(関連記事はこちら)。
ところで、9日に議論された薬剤の中には『イキセキズマブ(遺伝子組換え)』(販売名:トルツ皮下注80mgシリンジ、同80mgオートインジェクター)が含まれています。同薬剤は、8月24日の中医協総会でも薬価収載すべきかが検討され、「効能効果(既存治療で効果不十分な尋常性乾癬・関節症性乾癬・膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症)が同じ他の(低価格)や薬剤で十分な効果が得られない場合に使用できるとの保険診療上の留意事項を付す」という条件付きで承認されました。効能効果が同じである「コセンティクス皮下注150mgシリンジ」(薬価7万3132円、1日薬価5224円)、「ルミセフ皮下注」(キット部分を加味した薬価が7万315円、1日薬価5226円)に比べて、同薬剤の算定薬価が24万5783円と極めて高額であったためです。
しかし、これでは同薬剤が医療現場で使用されるケースが極めて限られるため、製造販売メーカーは薬価収載の申請を取り下げるという異例の事態となりました。
同薬剤が高額になった理由は「外国平均価格調整」という薬価算定ルールによります。これは、同じ医薬品について日本国内と外国で価格が大きく異なることを是正する(内外価格差の是正)ことを目的とし、「類似薬効比較方式・原価計算方式で算定された薬価が、外国(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス)の平均価格を大幅に上回る、あるいは下回る場合には調整(前者では引き下げ、後者では引き上げ)を行う」というものです。
今般、為替変動によりアメリカでの価格が下がるなどし、外国平均価格との差が小さくなり、価格調整がなされなくなったことを受け、メーカーは同薬剤の薬価収載を再申請。同薬剤の算定価格は14万6244円となりました。
こうした状況について、9日の中医協総会では大きく2つの問題点が指摘されました。
1点目は、「一度、中医協総会で承認されたにも関わらず、メーカー都合で申請を取り下げ、その上で戦略的に再申請をすること」の是非についてです。
2点目は、「外国平均価格調整」ルールの在り方についてです。
前者(1点目)について診療側の中川俊男委員(日本医師会副会長)は「メーカーの戦略に中医協が翻弄されている」と指摘。支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)も「メーカーの都合で申請取り下げが自動的になされてよいものか。保険収載希望後に取り下げるのであれば、合理的な理由を中医協で説明し、委員の納得を得てからとすべきではないか」と提案しました。また同じく支払側の花井十伍委員(日本労働組合総連合会「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)は、「医療上の必要性が高いために、採算割れしながら医薬品の製造・販売を維持してくれているメーカーがある」とし、今回のメーカーの姿勢を批判しました。
この点について厚労省保険局医療課の迫井正深課長と中山智紀薬剤管理官は、薬価収載は「メーカーの申請を前提としたものである」ことを説明した上で、「今後、手続きの改善に向けて中医協で検討してもらう」旨の考えを明らかにしています。
外国平均価格調整、価格比較の対象国からアメリカを除外すべきか
後者(2点目)では、外国平均価格調整において、価格比較の対象国からアメリカを除外すべきではないか、との指摘が多くの委員から出されました。8月時点では、同薬剤のアメリカでの価格(当時の為替レートで58万6001円)に引っ張られて、高額な薬価が設定されるなど、従前から「アメリカの価格を比較対象とすることは適当ではない」との指摘がなされています。
中川委員は「アメリカの価格は、言わばメーカーの希望価格であり、値引きを前提に高く設定していると考えている」と指摘。同じく診療側の松原謙二委員(日本医師会副会長)や支払側の花井委員も「アメリカの価格は参考程度にとどめ、価格比較対象からは除外すべき」と提案しています。
これらの指摘を受け、迫井医療課長は「従前から指摘されているテーマであり、今後、中医協で議論していただき改善に努めたい」との考えを示しています。
このほか、中川委員は「新薬開発の推進に異議はないが、その原資を診療報酬に求めることには無理があるのではないか。経済産業省予算などで、新薬開発のための補助金を創設することを検討してほしい」と要望。また幸野委員は、「8月の申請時に比べて、薬価が10万円も下がっているが、それでも経営が成り立つようだ。医薬品における『営業利益率』が次期薬価制度改革に向けた大きな課題となる」とコメントしています。
これまでにも中川委員を筆頭に、中医協では「薬剤費の伸びが医療費を膨張させる主因となっている。2018年度に向けて薬価制度全般を根本から見直す必要がある」との指摘がなされており、今後、中医協の薬価専門部会を中心に、さまざまな角度から薬価制度改革論議が行われることになりそうです。
著しく高額な医療機器を用いる医療技術、費用対効果評価の検討開始
9日の中医協総会では「高額な医療機器を用いる医療技術の費用対効果評価」について、具体例を選定して検討していく方針が固められました。
医療費が膨らむ中で、「あらゆる医療技術を保険収載していくことは近い将来難しくなり、医療技術の費用対効果を評価して、公定価格を考えていく必要があるのではないか」との議論が中医協でなされ、現在、医薬品(オプジーボなど)と医療機器(胸部大動脈瘤の治療に用いるカワスミNajuta胸部シテントグラフトシステムなど)については、費用対効果評価の検討が具体的に進められ、2018年度改定時に「再算定」が行われる見込みです(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
今般、厚労省は「著しく高額な医療機器を用いる医療技術」についても、2016年度診療報酬改定の附帯決議を踏まえて、費用対効果評価の考え方を検討することにしたものです。9日の総会では、まず「具体例」を選定し、制度設計に向けた整理を行うことが確認されました。具体例について厚労省は明らかにしていませんが、例えば粒子線治療などが思い浮かびます。
今後、中医協の費用対効果評価専門部会で、対象機器や技術を選定し議論していきますが、評価結果を2018年度改定につなげる(点数に反映させる)かどうかなどはまだ決まっていません。
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