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GemMed塾 2024年度版ぽんすけリリース

民間生保の診断書様式、統一化・簡素化に向けて厚労省と金融庁が協議―医師働き方改革検討会(2)

2018.7.11.(水)

 医師の働き方改革を推進し、医師の長時間労働を是正するには、国民の理解・教育が不可欠である。例えば「かかりつけ医をまず受診する」「診療時間内に受診する」といった意識を持ってもらうことが重要である。加えて、医師が大きな負担を感じている「民間の生命保険会社に患者が提出する診断書」等について、様式の統一化・簡素化を行うべく金融庁と協議中である―。

 7月9日に開催された「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、検討会)では、厚生労働省からこういった考え方も示されています。

また19病院・325名の医師を対象に行った1分間タイムスタディ調査からは「医師の働き方が極めて多様である」ことが改めて浮き彫りになったほか、検討会が2月に取りまとめた「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取り組み」の実施状況が芳しくないことが病院団体の独自調査から明らかになっています。

7月9日に開催された、「第8回 医師の働き方改革に関する検討会」

7月9日に開催された、「第8回 医師の働き方改革に関する検討会」

 

診療時間内に受診等できるよう、企業にも「休暇取得しやすい環境」整備を要請

 医師の働き方改革(長時間労働の是正など)を進めるためには「国民の理解と協力」が不可欠です。例えば、医師の時間外労働について上限を設けるなどしても、国民サイドが「家族が入院しており病状や治療方針を説明してほしいが、勤め先を抜けられない。夜9時以降に説明をお願いしたい」「平日の日中は外来が込み合っている。夜間の救急外来を利用しよう」などといった行動を続ければ、医師の負担は一向に軽減されず、ひいては地域医療の崩壊につながってしまいます(関連記事はこちら)。

そこで厚労省は、患者・家族をもちろん、企業も含めた国民全般が医療・医師の現状を正しく理解し、適切な受診等に努めるよう意識啓発することが必要不可欠とし、次のような考え方を提示しました。
▼患者が診療時間内に受診したり、患者の家族が診療時間内に医師から説明を受けたりできるよう、「働いている人が休暇取得しやすい環境づくり」について、企業等の事業主も含めて幅広く取り組む必要がある
▼一人ひとりの国民が、「地域医療や医師の勤務実態」「医療機関へのかかり方」を理解し、実際の行動に反映していくために、国民全体を対象とした意識醸成と、身近な地域や職場での個別具体的な取組を重層的に展開していくことが必要である
▼医療機関へのかかり方を国民に周知するに当たり、医療を必要とする人が受診しづらい、受診を控えざるをえないといった事態を招かないよう、身近なかかりつけ医や地域の医療機関を上手く利用すべきと伝えることが必要である

こうした方針には検討会の構成員も賛同しており、今後、より具体的な取り組み内容を検討していくことになります。例えば、「いきなり大病院を受診するのではなく、まず身近なかかりつけ医療機関等を受診する」「可能な限り診療時間内に受診するよう努める」「緊急時に備えて、小児救急電話相談(#8000)や夜間・休日診療所を把握し、活用する」「複数主治医制をとっている医療機関があり、必ずしも1人の医師がすべての診療・説明を行うものではないことを理解する」ことなどを国民に周知したり、かかりつけ医や夜間・休日診療所の情報提供を行う、企業に「休暇取得をしやすい環境づくり」を要請するなどが考えられます。

さらに厚労省は、医師の負担軽減方策の一環として金融庁と「民間の生命保険会社における診断書等」の様式について統一化・簡素化に向けた検討を進めていることを明らかにしています。民間の生命保険者会社等では、傷病治療について保険給付を行うサービスを展開しており、加入者が保険給付請求を行う際には、各社が定めた様式に則った「診断書」等の提出が求められます。医療現場からは、この「診断書」等の記載要領がさまざまで「負担が大きい」との声が数多く出されています。もちろん、民間の保険サービスはさまざまで様式を完全に統一することは難しいと思われますが、可能な範囲での統一化・簡素化が進めば、医療現場の負担は一定程度軽減すると期待されます。

厚労省が300名超の医師対象に勤務実態を詳細調査、極めて多様なことを再確認

 医師の働き方改革を議論する上では、「医師の勤務状況の実態」を把握する必要があります。厚労省はすでに、2016年12月に「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」(いわゆる10万人調査)を実施し、その結果を2017年4月に公表しており、検討会の議論のベースにもなっています。

 厚労省は、より詳しく「医師の勤務実態」を見るために、19病院(5つの大学病院、14の一般病院)に勤務する325名の医師を対象に、精緻な1分間タイムスタディ調査(例えば「A医師は、●時○分から仮眠に入ったが、■時□分に急患の診療につき、◆時◇分に再び仮眠に入った」といった追跡調査)を実施。今般、検討会に調査結果が報告されました。

調査結果を眺めると、次のように「医師の働き方は極めて多様である」ことが改めて浮き彫りになりました。医療界の統一意見書でも「医師の働き方は多様で一律の規制は不適切」の旨が主張されており(関連記事はこちら)、これを裏付けるものと言えるでしょう。

▼一口に「当直」といっても、「日中と同程度に診療を行っている」ケースもあれば、「ほぼ診療を行わず、いわゆる寝当直となっている」ケース、「断続的に診療が発生している」ケースなど、極めて多様である

宿直の態様はケースによって千差万別である(濃い灰色が診療等を行っており、薄い灰色が休憩・仮眠時間を意味する)

宿直の態様はケースによって千差万別である(濃い灰色が診療等を行っており、薄い灰色が休憩・仮眠時間を意味する)

 
▼当直中の仮眠時間について、「全体では一定程度確保できている」ような医師であっても、実際には「断続的な診療の合間に、短時間の仮眠を何回かに分けてとっている」に過ぎない
全体では一定程度の仮眠時間を確保できているように見えても、細かくみると「短時間仮眠」の継ぎ接ぎであったりする

全体では一定程度の仮眠時間を確保できているように見えても、細かくみると「短時間仮眠」の継ぎ接ぎであったりする

 
▼自己研修・研究の時間は、医師により大きなバラつきがあり、最も少ない医師では0時間、最も多い医師では11時間を超えていた
自己研修・研究時間は、医師によって大きなバラつきがある

自己研修・研究時間は、医師によって大きなバラつきがある

 
▼大学病院・一般病院ともに研究時間が特に長い医師がいるが、その内訳として「学会準備」「論文執筆」の時間が長い場合が多い
研究時間は医師によって大きなバラつきがある

研究時間は医師によって大きなバラつきがある

研究の内訳を見ると、研究時間の長い医師では「学会準備」「論文執筆」などに時間をかけているケースが多い

研究の内訳を見ると、研究時間の長い医師では「学会準備」「論文執筆」などに時間をかけているケースが多い

 
▼大学病院・一般病院ともに自己研修の時間が長い医師がいるが、その内訳はさまざまで、若手医師の場合が多い
自己研修時間にも医師によって大きなバラつきがある

自己研修時間にも医師によって大きなバラつきがある

自己研修の内訳を見ると、医師によって千差万別である

自己研修の内訳を見ると、医師によって千差万別である

 
▼タスク・シフティングの可能性について、診療時間に占める「事務作業」時間の割合は、当直あり・当直なしともに21%程度である(平均の事務作業時間は、当直ありでは4時間程度、当直なしでは2時間程度)
宿直ありの医師において、多職種にシフト可能な事務的作業の時間は4時間程度で、診療時間の21%を占めている。

宿直ありの医師において、多職種にシフト可能な事務的作業の時間は4時間程度で、診療時間の21%を占めている。

宿直なしの医師において、多職種にシフト可能な事務的作業の時間は2時間程度だが、診療時間に占める割合は、宿直ありと同じく21%である

宿直なしの医師において、多職種にシフト可能な事務的作業の時間は2時間程度だが、診療時間に占める割合は、宿直ありと同じく21%である

 
▼大学病院の医師について、とくに「助教」職で教育・研究の時間が特に長くなっている
助教は、准教授や講師、一般の医員などと比べて、教育や研究にか費やす診療外の労働時間が長い

助教は、准教授や講師、一般の医員などと比べて、教育や研究にか費やす診療外の労働時間が長い

 
 
 このうち「助教」の教育・研究時間が長い点について、山本修一構成員(全国医学部長病院長会議「大学病院の医療に関する委員会」委員長、千葉大学病院長)は「専門業務型裁量労働制」の対象に加えるべきと改めて強調(関連記事はこちら)。また猪俣武範構成員(順天堂大学付属病院医師)も「助教の研究・教育が妨げられないように専門業務型裁量労働制の対象に加えてほしい。ただし、研究・教育に携わらない助教もおり、どういった助教を対象にするかも検討してほしい」と要望しています。

医師の勤務時間短縮に向けた緊急取り組み、7割の病院では準備中を含めて未実施

 ところで検討会では、今年(2018年)2月に、働き方改革に関する論議の結論を待たずに、今すぐに全医療機関が、勤務医の労働時間短縮に向けて取り組まなければならない項目として、勤務時間の客観的な把握や36協定(労使協定で法定の8時間労働を超える労働を可能とする)の着実な締結などを整理。厚労省は、「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取り組み」(以下、緊急取り組み)として、これを各医療機関に周知し、積極的に取り組むよう求めてきました(関連記事はこちらこちらこちら)。

医師の労働時間短縮に向けて、各医療機関が実施しなければならない「救急取り組み」の概要

医師の労働時間短縮に向けて、各医療機関が実施しなければならない「救急取り組み」の概要

 
 今般、病院団体が緊急取り組みの実施状況を調査したところ、次のような状況が明らかになりました。

【緊急取り組みの実施状況全般】
▼実施済:一般病院の26.8%、大学病院の30.3%
▼実施予定:一般病院の33.7%、大学病院の55.7%
▼未定:一般病院の37.5%、大学病院の13.9%

【医師の在院時間を客観的に管理する方法の導入状況】(カッコ内は「従前から導入済」の病院を加味したもの)
▼導入済:一般病院の6.3%(55.7%)、大学病院の9.7%(46.7%)
▼導入予定・検討中:一般病院の63.0%(29.8%)、大学病院の87.5%(51.6%)
▼導入予定なし:一般病院の20.2%(9.5%)、大学病院の1.4%(0.8%)

【時間外労働に関する36協定の締結・届出状況】(「適正に締結・届出済であり、締結・届出不要」と回答した病院を除く)
▼新たに締結・届出済:一般病院の6.0%、大学病院の12.2%
▼新たに締結・届出予定:一般病院の17.8%、大学病院の19.1%
▼内容の見直しを予定・検討中:一般病院の44.8%、大学病院の55.3%
▼点検し、見直し不要と判断:一般病院の26.5%、大学病院の10.6%

【タスク・シフティング(業務移管)に関連した特定行為研修修了看護師の勤務状況】
▼勤務中:一般病院の15.5%、大学病院の42.6%
▼非勤務:一般病院の82.9%、大学病院の57.4%

 調査は今年(2018年)5月下旬から6月初旬にかけて行われました(四病院団体協議会、全国自治体病院協議会が一般病院を、全国医学部長病院長会議が大学病院を調査)。この点について、検討会構成員からは「2月の緊急取り組みの要請から3か月程度が経過しているにもかかわらず、一般病院・大学病院ともに7割(実施予定+未定)が緊急取り組みを実施していない。危機意識が足らないのではないか」との批判が多数出されました。

特に渋谷健司構成員(東京大学大学院国際保健政策学教授)は、「実施予定や検討中で満足してはいけない。検討会には、従来とは異なる議論・報告書が期待されている。医療現場は変わっていなければならない」と訴え、緊急取り組みの未実施(検討中も含めて)病院に猛省を求めています。

これに対し、山本構成員は、「小規模な病院では、緊急取り組み実施に向けた支援を行うことなども必要ではないか」と提案。各病院において緊急取り組みの内容が実施され、「医師の労働時間が適正化される」ことが重要であり、そのためには「実施していない。問題である」との追及だけでなく、支援の検討も現実問題として必要となってきそうです。
 
 
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