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ロボット支援手術の優越性データを集積し、2022年度の診療報酬改定での点数引き上げ目指す―外保連

2018.11.30.(金)

 ロボット支援下内視鏡手術(以下、ロボット手術)について、レジストリへの症例登録が進んでいる。これを基に「通常の内視鏡手術に比べた優越性」を示し、診療報酬点数の見直し(点数引き上げ)を要望したいが、データが集積され、各種の比較・分析に基づくエビデンスを提示できるのは「2022年度の次々回診療報酬」に向けた要望時になるのではないか―。

 外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の岩中督会長(埼玉県病院事業管理者)は、11月20日に開催した記者懇談会でこのような考えを述べました(関連記事はこちらこちら)。

岩中督外保連会長:埼玉県病院事業管理者

岩中督外保連会長:埼玉県病院事業管理者

 

ロボット手術のデータを集積・分析し、点数引き上げに向けた「エビデンス」を構築

 今般の2018年度診療報酬改定では、ロボット手術の対象が、従前の「前立腺がん」「腎がん」に加え、▼胃がん▼食道がん▼直腸がん▼肺がん▼子宮がん―など12術式に拡大されました。しかし、点数(診療報酬)は腹腔鏡手術と同程度に設定されています。これは「腹腔鏡手術について、ロボットを用いて実施してもよい」と述べているに過ぎません。

2018年度に新たに保険収載されるロボット支援下内視鏡手術一覧

2018年度に新たに保険収載されるロボット支援下内視鏡手術一覧

 
これは、現時点では「腹腔鏡手術に比べたロボット手術の優越性」が必ずしも示されていないことによるものです。裏を返せば、ロボット手術のデータを集積し、その中で「安全性や有効性に関する優越性のエビデンス」が構築されれば、ロボット手術の点数引き上げが期待されるのです。

この点について岩中会長は、現在、症例のレジストリ登録を進めているものの、データが集積され、分析を行い、エビデンスを厚生労働省に提示できるのは、「2022年度の次々回改定」に向けた要望時になるのではないか、との見通しを改めて示しました。

2018年度改定を踏まえ、既に厚労省に「緊急の改善要望」を提出

また、2020年度の次期診療報酬改定に向けては、瀬戸泰之実務委員長(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学・代謝内分泌外科学教授)から、▼新規技術などの保険収載▼人件費や償還不可材料費によって「病院側の持ち出し」になっている手術等の点数引き上げ▼外保連の提唱する「手術の新しい評価軸」(benefitのスコア化、緊急度、2つの命の救助など)のさらなる導入―を要望していく方針が示されたほか、以下の「緊急要望」(既に今年(2018年)6月6日に厚労省保険局医療課に提出済)が紹介されました。

瀬戸泰之実務委員長:東京大学大学院医学系研究科消化管外科学・代謝内分泌外科学教授

瀬戸泰之実務委員長:東京大学大学院医学系研究科消化管外科学・代謝内分泌外科学教授

 
外保連では、診療報酬改定から時間をおかずに、医療現場の状況を調べ、「極めて迅速な改善が必要な課題」について厚労省に緊急要望として提出しており、その内容は次期診療報酬改定で相当程度考慮されます。今般の緊急要望も、2020年度改定において重視されることでしょう。

▽K133-2【後縦靱帯骨化症手術(前方進入によるもの)】(6万9000点)が2018年度改定で新設されたが、通常、後縦靱帯骨化症は多椎間に病変があり3椎間以上の手術が行われることが多いので、【多椎間加算】を設定すべきである

▽L009【麻酔管理料(I)】の【長時間麻酔管理加算】について、▼K529-2【胸腔鏡下食道悪性腫瘍手術】の「1 頸部、胸部、腹部の操作によるもの」▼K552【冠動脈、大動脈バイパス移植術】の「2 2吻合以上のもの」▼K695【肝切除術】の「5 2区域切除」—も技術度は高いため、対象に追加すべきである

▽「経肛門的内視鏡下手術」について評価を引き上げるべきである

▽B001【特定疾患治療管理料】の「28 小児運動器疾患指導管理料」について、対象年齢を6歳未満から15歳未満に引き上げるべきである

▽D023【微生物核酸同定・定量検査】の「8 HPV核酸検出、HPV核酸検出(簡易ジェノタイプ判定)」について、2018年度改定で「過去に子宮頸部円錐切除を行った患者」も対象に追加されたが、さらに「細胞診との同時検査」を認めるべきである

▽「下子宮悪性腫瘍手術(広汎切除)(腹腔鏡下)」を新規に保険収載すべきである

ロボット支援「膵がん手術」、低侵襲で早期化学療法が可能となり「予後改善」に期待

また、11月20日の記者懇談会では、▼縦隔腫瘍▼膀胱全摘▼婦人科▼膵がん―のそれぞれについて、ロボット手術の状況とともに、今後の次期改定に向けたスタンスなどが報告されました。

▼縦隔腫瘍のロボット手術
 2018年度改定での保険収載も追い風となり、呼吸器外科領域のロボット手術は増加(2018年4-9月で肺がん約300件、縦隔腫瘍約100件となり、すでに前年度全体の2.5倍)している。現在、日本呼吸器学会ではプロクター(指導医)制度を設け「ロボット手術を行う施設では、プロクターによる一定の指導を受ける」こととし、安全な普及に努めている。ロボット手術は、「術後合併症が少ない」など安全性が高く、また操作性の高さから「高度肥満患者の手術」や「高位・低位の縦隔腫瘍手術」などで、従来の内視鏡手術よりも優越していると考えられる。ただし、高コストであり、例えば【自動縫合器加算】(2500点)程度の【ロボット鉗子加算】の新設が期待される

縦隔腫瘍のロボット手術を展望する東京女子医科大学呼吸器外科の神崎正人教授

縦隔腫瘍のロボット手術を展望する東京女子医科大学呼吸器外科の神崎正人教授

 
▼膀胱全摘のロボット手術
 ロボット支援下での膀胱全摘術は、従来の内視鏡手術に比べて▼手術時間▼視野の確保(安全性にもつながる)▼操作性―などの点で優っている。特に、高齢者において有用性が認められる。2018年度改定での保険収載も追い風となり、ロボット手術件数が大きく増加している。将来は、膀胱全摘に伴って必要となる「尿路変更術」のロボット手術導入が重要テーマとなろう。
膀胱全摘のロボト手術を展望する岐阜大学大学院医学系研究科泌尿器科学の古家琢也教授

膀胱全摘のロボト手術を展望する岐阜大学大学院医学系研究科泌尿器科学の古家琢也教授

 
▼婦人科のロボット手術
 婦人科領域では、2018年度改定で保険収載された子宮がんを中心にロボット手術が増加しており、安全性確保の観点から、日本産科婦人科学会では「施設登録」を推奨している(問題事例は学会で調査を行うが、現在、問題事例は発生していない)。現在、50施設程度でロボット手術が実施されているようだが、登録は32施設にとどまっており、今後、登録促進を行っていく。また「仙骨膣固定術」について、従来の内視鏡手術に比べたロボット手術の優越性データが集積されてきている。なお、ロボット手術は、視野の確保が容易であり、操作性も高く、「外科医の負担軽減」「働き方改革」にもつながる可能性が高い。
婦人科のロボット手術について展望する東京医科大学産科婦人科学の教室西洋孝主任教授

婦人科のロボット手術について展望する東京医科大学産科婦人科学の教室西洋孝主任教授

 
▼膵がんのロボット手術
 膵がんについてロボット手術は保険収載されていない。しかしロボットは低侵襲ながら、開腹手術に勝る手技が可能となる(ロボットの多関節を用いて、人間の手では行えない手技が可能となる)。また低侵襲であることから「早期の補助化学療法の実施」が可能となるため、「予後の改善」が期待できる(膵がんでは「拡大郭清では予後は改善せず、補助化学療法の実施で予後が改善する」というエビデンスがある)。
膵がんのロボット手術について展望する九州大学大学院臨床・腫瘍外科の中村雅史教授

膵がんのロボット手術について展望する九州大学大学院臨床・腫瘍外科の中村雅史教授

 
 
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