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電子カルテの標準化、「電子カルテの導入・維持・更新コストが下がるか」も重要―健康・医療・介護情報利活用検討会

2022.3.14.(月)

昨今、ランサムウェアによるサイバー攻撃で医療機関も被害を受けていることなどを踏まえ、2021年度中にランサムウェア対策などを盛り込んだ「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」改訂を行う―。

積年の課題である「電子カルテの標準化」論議が進んでいる。その際、「電子カルテ価格の低減」という直接のメリットがなければ、医療現場に浸透していかない恐れがある点に留意する必要がある―。

「健康・医療・介護情報利活用検討会」(以下、検討会)が3月4日に開催され、こういった議論が行われました。意見を踏まえてガイドライン改訂や電子カルテ標準化論議を進めていくことになります。

医療情報システムガイドライン、2021年度内改訂でランサムウェア対策など規定

医療・介護サービスなどの質を向上させ、また効率化を図っていくために「データヘルス改革」が急ピッチで進められています。加藤勝信元厚生労働大臣指示の下で、まず▼EHR(全国の医療機関で、患者個々人の薬剤、手術・移植、透析などの情報を確認できる仕組み)を構築し、2022年夏から運用する▼電子処方箋を2022年夏から運用する(ただし今夏の入札に参加がなく、2023年1月スタートに延期)▼PHR(国民1人1人が、自分自身の薬剤・健診情報を確認できる仕組み)について2021年に法整備を行い、2022年度早期から運用を開始する―方針が固められ、実施に向けた準備が進められています【集中改革プラン】

あわせて、「ゲノム解析に基づく優れた医療提供の実現」や「審査支払機関改革による効率的かつ公平・公正な審査・支払いの実施」など様々な分野でのデータヘルス改革が進んでおり、3月4日の検討会では、(1)医療情報システムの安全管理に関するガイドライン(2)電子カルテの標準化(3)電子処方箋(4)電子版お薬手帳(5)PHR拡大(6)医療的ケア児等医療情報共有システム(MEIS)―に関する現状報告を受け、今後の取り組みに向けた意見交換が行われました。



このうち(1)の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」は、機微性が極めて高い患者の個人情報である診療データについて、安全かつ適切に保存し、利活用するための指針と言えます。安易に外部接続し、患者の個人情報が流出した場合には取り返しのつかない事態が生じるため「しっかりとしたセキュリティ対策を講じる」こと、しかし利活用が阻害されては医療の質が上がらないため「利活用面にも配慮する」ことの両立を目指しています。

この点、例えば「ランサムウェアと呼ばれるコンピュータウイルスによって医療機関等が多大な被害を受けてしまった」「規制改革実施計画(2021年6月)の中で『外来ネットワーク等の利活用可能性』をさらに周知すべき等の指摘がなされた」といった大きな動きが生じていることを受け、「2021年度内の改訂」を目指した議論が検討会の下部組織である「医療等情報利活用ワーキンググループ」で進められていることが厚労省医政局研究開発振興課医療情報技術推進室の田中彰子室長から報告されました(関連記事はこちら)。

ランサムウェア(Ransom(身代金)+Software(ソフトウェア)の造語)はコンピュータウイルスの1種で、例えば組織(ここでは医療機関)の保有するデータを暗号化し(つまり読めなくする)、「データをもとに戻して欲しければ多額の費用(身代金)を支払え。言うことを聞かなければ機密データをばらまくぞ。さらにデータを二度と使えなくしてやる」などと脅してくる犯罪に使われています。海外はもちろん、我が国でもこのランサムウェアによる被害が急増しており、昨秋(2021年秋)には徳島県の病院がランサムウェア攻撃を受け、患者の電子カルテをはじとする医療データがすべて暗号化され病院で利用できなくなってしまう(病院側でデータを見ることができなくなり、実質的に消失した形)という大きな事件が起きました。当該病院では院内システムが利活用できなくなったことから数日間、「新規患者の受け入れ停止」「救急患者の受け入れ停止」をせざるを得ず、地域医療提供体制にも大きな影響が生じる事態となりました。

これまでには、例えばサイバー攻撃により個人情報が流出するなどした場合には「被害者1人につき500円程度のお見舞金を支払うことになる」などの、いわば「被害相場」がありますが、ランサムウェアによる被害では「組織が存続できなくなってしまう」ほどの桁違いの大打撃を受けるケースもあると危機管理の専門家は指摘しています。

改訂は大きく、▼制度的な対応(例えば私物のスマートフォンやパソコンで診療情報を使用しないことの明確化など)▼技術的な対応(上述したランサムウェア対策など)▼規制改革実施計画などへの対応(例えば外部ネットワークの利活用明確化など)―の3視点で行われ、3月末に改訂版(5.2版)が確定する見込みです。

制度的な動向への対応(医療等情報利活用WG2 211217)

ランサムウェアによる被害防止など技術的な動向への対応(医療等情報利活用WG3 211217)

規制改革実施計画などへの対応(医療等情報利活用WG4 211217)

医療情報システムガイドラインの改訂スケジュール(健康・医療・介護情報利活用検討会1 220304)



こうした見直し方向に異論は出ていませんが、▼利便性ありきではいけない。利便性に配慮しながらも安全性・信頼性の確保を重視すべき(長島公之構成員:日本医師会常任理事)▼サイバー攻撃はランサムウェアに限られない、より広範な対策も考えていくべき(高倉弘喜構成員:国立情報学研究所アーキテクチャ科学研究系教授)―などの注文が付いています。ガイドラインは改訂・改善を継続していくことが必要かつ重要で、その際にも非常に重要な視点となるでしょう。

電子カルテ標準化、医療機関サイドは「電子カルテ価格の低減」が重要と指摘

また(2)は、積年の課題である「電子カルテの標準化」問題です。

電子カルテについては「ベンダー(いわば開発・販売メーカー)によって仕様が全く異なり、データの共有・連結などが事実上不可能である」という問題があります。医療・介護連携を進めていくうえで、非常に大きなハードル、さらに誤解を恐れずに言えば阻害要因となってしまいます。

また、データ共有・連結の難しさは「ベンダーによる顧客(医療機関等)の囲い込みにつながっている」という問題も引き起こしています。A社の電子カルテを導入した病院が、数年経過後に「使い勝手が良くない。良い評判を聞くB社の電子カルテに買い替えよう」と考えたとしても、これまでの患者情報(A社の電子カルテデータ)をB社の電子カルテと連結することが極めて困難なため、結果、買い替えが阻害されてしまうのです。

そこで検討会の下部組織である「医療等情報利活用ワーキンググループ」や「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」において、▼医療機関同士などでデータ交換を行うための規格(アプリケーション連携が非常に容易な「HL7 FHIR」という規格を用いる)を定める → ▼交換する標準的なデータの項目、具体的な電子的仕様を定める → ▼厚労省標準規格として採用可能なものか民間団体による審議の上、標準規格化を行う → ▼ベンダーで「標準化された電子カルテ情報・交換方式を備えた製品」を開発する → ▼医療情報化支援基金等により「標準化された電子カルテ情報・交換方式」等の普及を目指す―という流れを固め、現在、標準化に向けた動きを具体化させています(関連記事はこちら)。

田中室長は、近く「標準規格化を完了」させ、その後に各ベンダーで「標準規格に沿った製品の開発、上市などが行われる」旨の見通しを示しました。まずは▼傷病名▼アレルギー情報▼感染症情報▼薬剤禁忌情報▼救急時に有用な検査情報▼生活習慣病関連の検査情報▼処方情報―、併せて、これらを踏まえた▼診療情報提供書▼キー画像等を含む退院時サマリー▼健康診断結果報告書―などから標準化が進められ、順次、拡大されていきます。

電子カルテ標準化に向けた検討の状況1(健康・医療・介護情報利活用検討会2 220304)

電子カルテ標準化に向けた検討の状況2(健康・医療・介護情報利活用検討会3 220304)



この点については「標準化によるダイレクトなメリットがなければ浸透・普及しない。医療機関にとっては電子カルテ導入・維持・更新のコストが莫大であり、標準化による価格低減が極めて重要である」との指摘が長島構成員から出されました。

関連して印南一路構成員(慶應義塾大学総合政策学部教授)からは「電子カルテが高価格になる背景には『ベンダーロックイン』(特定ベンダーの独自技術に大きく依存した製品)がある。この点にまで踏み込んだ議論を行うのか」と質問しました。田中室長は「今後、そうした点も検討していく必要があるかもしれない」との考えを示しました。

電子カルテから吐き出す情報が標準化されることで、こうした問題が一定程度解決するとも思われますが、それだけで解決しない問題も出てくるかもしれません。

なお費用負担については、1月7日に開催された「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」において、標準化規格に準拠した電子カルテの導入・買い替えを行う「中小医療機関」について、医療情報化支援基金による支援も検討されています(関連記事はこちらこちらこちら)。長島構成員の指摘する「価格低減」に直接つながるものではありませんが、医療機関サイドの負担軽減効果という面では同じ方向に向かうものと言えます。



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