医療DX、基盤整備が不十分なまま進めれば医療現場に大混乱!我が国の医療提供体制のビジョンを議論せよ!—日病・相澤会長
2022.10.18.(火)
2024年度からの新たな医療計画(第8次医療計画)に向けた指針策定論議が進んでいる。さまざまな意見は検討会やワーキングで出されているが、時間は限られており、このままでは「議論が中途のままで、従前の医療計画(第7次医療計画)の課題を抱えたまま第8次計画に進んでいってしまう」ことを危惧している—。
医療DXの議論が進んでいるが、基盤となるマイナンバーカードの取得やオンライン資格確認等システムの導入には遅れが目立ち、医療機関での混乱も予想される。国の「医療DXを進めたい」との思いと、「社会基盤の整備スピード」との間に相当のギャップがあることを感じている—。
日本病院会の相澤孝夫会長は、10月17日の定例記者会見でこのような考えを明らかにしました。
目次
我が国の医療提供体制の向かうべき方向に関する大きなビジョンをまず固めるべき
Gem Medで繰り返し報じているとおり、2024年度から「第8次医療計画」がスタートするため、第8次医療計画等に関する検討会や下部組織(ワーキンググループ)などで、都道府県が医療計画を作成する(2023年度中に作成)際の拠り所となる指針(基本指針、2022年度中に都道府県に提示)策定論議が精力的に進められています。
【第8次医療計画等に関する検討会の議論に関する記事】
平均在院日数の地域格差、「地域性があり容認すべき」と考えるか、「医療の標準化に向け解消すべき」と考えるか—第8次医療計画検討会(2)
医療提供体制の基礎となる2次医療圏は適正な規模・エリア設定が重要、他計画にも影響するため優先検討を—第8次医療計画検討会(1)
かかりつけ医機能は医師個人・医療機関の双方に、「制度化や登録制」に疑問の声も—第8次医療計画検討会
「病院・クリニック間の医師偏在解消」「ベテラン医師ターゲットに据えた医師偏在解消」など進めよ—第8次医療計画検討会(2)
病院薬剤師や訪問看護師、特定行為研修修了看護師、医療計画に「ニーズ踏まえた確保策」規定へ—第8次医療計画検討会(1)
医療・介護サービスの一体提供可能とするため、在宅医療圏域は「市町村単位」が望ましいのでは—第8次医療計画検討会(2)
医療安全の向上に向け、例えば医療機関管理者(院長など)の「医療事故に関する研修」参加など促していくべき—第8次医療計画検討会(1)
2次救急と3次救急の機能分担、巡回医師等確保・オンライン診療によるへき地医療支援など進めよ—第8次医療計画検討会(2)
周産期医療・小児医療提供体制、医療の質確保や医師の負担軽減のため「集約化・重点化」を急ぎ進めよ—第8次医療計画検討会(1)
がん拠点病院が存在しない医療圏への対策、効果的な糖尿病対策、精神疾患対策の評価指標などが今後の重要論点—第8次医療計画検討会(2)
外来機能報告データ活用し、紹介受診重点医療機関の明確化だけでなく、幅広く「外来医療機能分化」論議を—第8次医療計画検討会(1)
高額医療機器の共同利用推進、「読影医・治療医配置なども勘案」した広範な議論求める声も—第8次医療計画検討会(2)
外来医師偏在の解消に加え、「かかりつけ医機能の明確化、機能を発揮できる方策」の検討も進める―第8次医療計画検討会(1)
人口減の中「2次医療圏」をどう設定すべきか、病床数上限である基準病床数をどう設定するか―第8次医療計画検討会
今後の医療提供体制改革では、「医療人材の確保」が最重要論点―第8次医療計画検討会
外来機能報告制度や紹介受診重点医療機関が「医師偏在」を助長しないよう留意を―第8次医療計画検討会
感染症対応では情報連携、看護師はじめ医療人材確保が最重要、課題検証し早急な改善を—第8次医療計画検討会
感染症対応医療体制を迅速確保できるよう、強制力持つ法令の整備を検討してはどうか—第8次医療計画検討会
集中治療認定医を専門医と別に養成し、有事の際に集中治療に駆け付ける「予備役」として活躍を—第8次医療計画検討会
2024年度からの医療計画に向けた議論スタート、地域医療構想と医師配置、外来医療など考えるワーキングも設置—第8次医療計画検討会
しかし、相澤会長をはじめとする日本病院会幹部の間では、「検討会やワーキングでは、非常に多様な意見・提案・疑問の声が出ているが、集約には至っていない。一方、検討スケジュールを見ると『本年中(2022年12月中)に意見を取りまとめる』こととされ、まったく時間が足りない。このままでは議論が十分に尽くされず、従前の医療計画(第7次医療計画)の課題を抱えたまま第8次計画に進んでいってしまう恐れがある」との強い懸念があるようです。相澤会長は「日本の医療提供体制をどのような方向に進めていくか、という大きなビジョンをしっかり描き、その方向に進むためには医療計画にどのような内容を盛り込んでいくかという議論が必要である」と改めて訴えています。
医療DX、基盤の整備を十分に行わずに進めれば混乱が生じかねない
ところで、オンライン資格確認等システムを基盤とする「医療DX」推進論議が熱を帯びてきています。例えば、河野太郎デジタル大臣が先頃「現行の保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバーカードによる医療機関受診に切り替える」方向を打ち出しました。
医療DXが推進され、例えば「どの医療機関でも、患者の同意の下で過去の診療情報を閲覧・共有できる」環境が整えば、まったくの初診患者であっても「かかりつけ医と同様の医療サービスを受けられる」ことが可能になるでしょう。医療の質が飛躍的に向上することが期待され、DX推進の方向に反対する声はありません。
ただし、保険証を廃止した場合には、「マイナンバーが付されていない新生児はどのように医療機関を受診するのか」「インターネット環境が十分でない、離島や山村などで、どのような対応をとるのか」「高齢医師の1人で運営するクリニックなど(オンライン資格確認等システムの導入義務を除外)で、どのような対応をとるのか」などの諸課題が生じるため、今後対応方法などを検討していくことになります。
この点について相澤会長は「私見である」と前置きしたうえで、「医療DXの基盤整備(マイナンバーカードの普及、オンライン資格確認等システムの導入など)が十分に進んでいない中で、DXの実を進めれば医療現場に大きな混乱が生じかねない」ことを心配します。さらに、国の「医療DXを進めたい」との思いと「社会基盤の整備スピード」との間に相当のギャップがあることを感じている旨もコメントし、混乱のないようなDX推進に期待を寄せました。
「かかりつけ医機能」の在り方について、近く日病の考え方を提言
なお、日病幹部会合(常任理事会)では「かかりつけ医機能」の議論を続けてきており、概ね▼時間外にも自院で対応、または他院と連携して対応する▼特定の領域に偏らず、全人的な医療提供・マネジメントを行う▼患者に対し総合的な医学管理を行う—などの内容を固めてきています(関連記事はこちらとこちら)。文言の最終調整を行い、来週前半(10月25日頃)には意見・提言内容を公表することになります。
「かかりつけ医機能」の議論が社会保障審議会・医療部会で進められており、日病案・提言も踏まえて、さらに議論が深められていくことでしょう(関連記事はこちら)。
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