医療安全の向上に向け、例えば医療機関管理者(院長など)の「医療事故に関する研修」参加など促していくべき—第8次医療計画検討会(1)
2022.8.5.(金)
2015年10月にスタートした医療事故調査制度について、「地域間、医療機関間で制度理解や協力に関する大きなバラつき」がある。制度の周知・理解度の向上に向け、まず医療機関管理者に「医療事故調査センターの開催する研修」への参加を促すこととしてはどうか―。
都道府県や2次医療圏に設置される「医療安全支援センター」について、活動状況が芳しくない地域が少なからずあり、また一般市民はもちろん、医療関係者間での認知度も低い。このため「スタッフ向け研修」「医療従事者向け研修」「住民への情報提供」などについて充実を促していくことしてはどうか―。
8月4日に「第8次医療計画に関する検討会」(以下、検討会)が開催され、こうした議論が行われました。医療事故調査制度については「制度の見直し」を求める声も出ていますが、「今後の検討課題」となりそうです。
同日の会合では、下部組織「在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ」の検討状況を踏まえた議論も行われており、別稿で報じます。
医療安全向上に向け、医療機関院長などの「医療事故調査制度に関する研修」受講を促す
Gem Medで繰り返し報じているとおり「2024年度からの新たな医療計画(第8次医療計画)」に向けた議論が進んでいます(都道府県が作成する医療計画のベースとなる厚生労働省の指針論議)。
医療計画は、いわば「地域医療提供体制の設計図」であり、そこには、▼一定の医療を完結できる地域(医療圏)をどう設定するか▼医療圏におけるベッド数をどう考えるか(基準病床数)▼地域医療構想(高度急性期・急性期・回復期・慢性期等の機能ごとの必要病床数など)の実現に向けてどのような方策をとるか▼5疾病(がん、脳卒中、心血管疾患、糖尿病、精神病)・6事業(救急、災害、へき地、周産期、小児、感染症)+在宅医療について、どのように対策を進め、どのような目標値を設定するか▼医師確保をどのように進めるか▼効率的かつ効果的な外来医療提供体制をどのように構築するか—などのほか、医療提供に当たって極めて重要である「医療安全の確保」についても記載することとなっています。
「医療安全の確保」は、第5次医療計画(2008-12年度)から記載事項とされ、例えば(1) 医療施設の医療安全確保の現状と目標(医療安全管理者を配置している医療施設割合、専従・専任の医療安全管理者を配置している病院割合など)(2)医療安全支援センターの現状と目標(センターを設置している二次医療圏割合、相談職員(常勤換算)の配置数、センターの活動状況の情報公開など)—を記載し、医療現場の安全確保向上を目指しています。
第6次(2013-17年度)・第7次(2018-23年度)の医療計画では、「医療安全確保の記載事項」に関する大きな見直しは行われていませんが、▼医療事故調査制度の発足(2015年10月スタート、関連記事はこちら)▼特定機能病院における医療安全確保体制関連人する指定要件強化(副院長をトップとする医療安全管理部門の設置など、関連記事はこちら)—など、医療安全策のさらなる充実を目指した動きがあることを踏まえ「第8次医療計画において『医療安全確保の記載事項』見直し」が議論の俎上に上がったものです。
まず(1)の「医療施設における安全確保」については、次のような記載事項見直し案が厚生労働省医政局地域医療計画課医療安全推進・医務指導室の梅木和宣室長から提示されました。
(a)「管理者が『医療事故調査・支援センターまたは支援団体等連絡協議会が開催する研修』を受講した医療施設割合」を新たに項目へ盛り込む
(b)「他の病院から医療安全対策に関して評価を受けている(ピアレビュー)または第三者評価を受審している病院割合」を新たに項目へ盛り込む
前者(a)は、2015年10月からスタートした医療事故調査制度への医療機関サイドの理解を深めることを目指す見直し内容です。
医療事故調査制度がスタートしてから7年近くが経ち、制度が医療現場に浸透してきていますが、▼事故報告状況に大きな地域差がある▼900床以上病院の中ですら「これまでに1件も事故報告をしていない」病院がある▼死亡・死産事例が「医療事故に該当するか否か」を判断する医療機関管理者(院長など)の医療事故調査制度研修への参加が芳しくない(これでは適切な判断が可能かどうか疑問がわく)—などの課題があります(関連記事はこちら)。
そこで、今回は「医療機関管理者(院長など)の研修参加」を促すために、上記(a)の項目追加が検討されるものです。この見直し提案に反対する声は出ていませんが、▼超大規模病院でも「これまでに事故報告なし」があり、これが遺族の不信感を招き「医療訴訟が減少していない」点につながっているのではないか。特定機能病院の医療安全管理対策について大きなバラつきがある(山口育子構成員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)▼死亡・死産事例が医療事故に該当するか否かの判断基準(療に起因し、または起因すると疑われる)について、より明確化を図るなどして医療機関間の判断バラつきを是正し、患者サイドの不信解消に努めてはどうか(今村知明構成員:奈良県立医科大学教授)—など、「医療事故調査制度の見直し」などにも着手すべきとの指摘が出ています。
制度をすぐさま見直すことは難しい状況ですが、「将来の重要な検討課題」と言えそうです。
また、(b)のピアレビュー・第三者評価では「自院で気づいていなかった問題点が明らかになる」という大きな効果があり、積極的な実施・受審に期待が集まっています。特定機能病院では義務化がなされ、一般医療機関で【医療安全対策地域連携加算】(ピアレビューなどを要件とする加算1:50点、他院からの評価などを要件とする加算2:20点)として診療報酬上の評価が行われるなど、ピアレビュー・外部評価の浸透も進んでいることを踏まえ、今般、医療計画の記載事項への盛り込みが検討されるものです。
この論点にも異論・反論は出ておらず、今後、詳細を詰めていくことになります。
都道府県等に設置される医療安全支援センター、研修実施や情報提供などの機能充実を
(2)の医療安全支援センターは、都道府県・保健所設置市・2次医療圏に設置され、▼住民の医療に関する苦情に対応し、または相談に応ずる(患者・家族、医療機関の管理者に必要に応じて助言を行う)▼医療機関、患者・家族 住民に対し「医療安全確保」に関する必要な情報提供を行う▼医療機関に対し「医療安全に関する研修」を実施する▼医療安全確保のために必要な支援を行う—といった役割を担います。
言わば第三者的な、公平な立場で「医療に関するトラブル」の解消につとめるとともに、地域の医療安全の水準を向上させていく、非常に重要な組織ですが、次のような課題もあります。
▽センター1か所あたりのセンタースタッフ向け研修受講者は全国平均で1.26 人にとどまり、また「1人も受講していない」都道府県も複数ある
▽「住民への医療安全に関する普及啓発活動」について、全国平均実施率は82.4%にのぼるが、大半は「ホームページでの情報掲載」にとどまっている
▽医療従事者を対象とした研修について、全国平均実施率は27.1%にとどまっており、「ゼロ%」の都道府県も複数ある
▽「医療安全推進協議会(地域の関係者による医療安全向上に向けた協議・情報共有の場)の定期的な開催」について、全国平均実施率は27.4%にとどまっており、「ゼロ%」の都道府県も複数ある
積極的に医療安全支援センターが活動している地域もありますが、全国でみると「芳しい」とは言えない状況です。そこで梅木医療安全推進・医務指導室長は、第8次医療計画において「医療安全支援センターに関する記載事項」を次のように充実し、都道府県により積極的な取り組みを求める考えを提示しました。
(a)医療安全支援センターの相談対応に関する質の向上のため、「医療安全支援センター総合支援事業で実施する研修を受講した相談職員数割合」を追加する
(b)医療安全に関する相談、情報提供、研修等の充実に向けて、▼都道府県、二次医療圏、保健所における医療従事者向け研修を実施しているセンター割合▼都道府県、二次医療圏、保健所における患者・住民に対する医療安全促進のための意識啓発活動の実施状況—の2項目を追加する
(c)「医療安全向上に資する活動が活発となる」ことが重要であるため、「医療安全推進協議会の設置状況」に関する記載項目を、「都道府県、二次医療圏、保健所における医療安全推進協議会の設置・開催状況」へ変更・充実する
こうした見直し方向も「医療安全の向上」につながるものであり、異論・反論は出ていません。ただし、▼医療安全支援センターの認知度は非常に低く、病院関係者も存在を知らないことがある。このため医療事故が生じた際に、患者に「医療安全支援センターに相談してはどうか」と伝達することができず、後でセンターの存在を知った患者が、病院への不信感を募らせてしまうケースがあると指摘されている。認知度向上にも努めるべきである。さらにセンターの第三者評価受審も検討してはどうか(今村構成員)▼センタースタッフの研修が極めて重要である。また、医療安全情報について「ホームページ掲載」とは別の取り組みなども求めるべきである(山口構成員)—などの建設的な提案が出ています。
構成員の意見も参考に、自治体の事務負担なども考慮しながら、第8次医療計画に向けて「医療安全支援センターの機能充実」を図っていくことになります。
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