薬剤師も処遇改善の対象に加えるべき、職種間・病院間の分断を懸念する声も—日病・相澤会長
2022.7.11.(月)
病院薬剤師の確保が難しく、その大きな理由として「給与水準」がある。一方、看護職員等の処遇改善に向けた補助金・診療報酬を「薬剤師の給与改善」に充てることは認められておらず、病院の実態にマッチしていないのではないか。看護職員等処遇改善として病院に配分された財源(補助金・診療報酬)について、「薬剤師の給与改善」にも充てることを認めるべきである—。
日本病院会がこういった「要望を厚生労働省等に宛てて行う」方針を固めたことが、7月11日に記者会見を行った相澤孝夫会長から明らかにされました。
処遇改善の補助金・診療報酬、「たいへんありがたい」が課題もある
昨年(2021年)11月19日に閣議決定された新たな「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」、12月20日に成立した2021年度補正予算を踏まえ、「看護職員について、賃上げ効果が継続される取り組みを行うことを前提として、収入を1%程度(月額4000円)引き上げるための補助が行われています(今年(2022年)2月から9月)。
また昨年12月22日の後藤茂之厚生労働大臣・鈴木俊一財務大臣合意において、「10月以降は診療報酬で同様の処遇改善(看護職員の収入を3%程度改善できる処遇改善)を行う」方針も固められ(関連記事はこちら)、制度設計論議が鋭意進められています(関連記事はこちらとこちら)。
さらに厚生労働省は、補助金・診療報酬によって病院に配分された財源について「看護補助者やリハビリ専門職などのコ・メディカル(メディカルスタッフ)の処遇改善に充てることも可能」との考え方を示しています。
このように「医療職の給与改善に向けて公費等での支援が行われる」ことについて日本病院会幹部は歓迎しているものの、次のような課題に直面し「四苦八苦している」状況も明らかになってきています。
(1)職種間の給与格差により「チーム、組織の分断」が生じかねない
▽「看護職員」のみの処遇改善に充てるとすれば、他の医療専門職種との給与バランスを確保するために「病院が自前で他の医療専門職種の給与改善」をする必要が出てくる。もともと経営状況が非常に厳しい中で「給与改善」負担が大きい
▽財源の範囲内で「職種間の給与バランスを確保」するために、看護職員以外も含めて処遇改善を行えば、「看護職員の給与改善幅が小さく」なってしまい、「4000円、1万2000円引き上げると聞いていたのに、実態が異なる」と不平・不満が出てくる。これを解消するために病院が自前の財源を投入することも、非常に負担が大きい
(2)病院間の格差による「分断」が生じかねない
▽補助金・診療報酬の対象は「救急医療管理加算を算定する、救急搬送件数が年200台以上の医療機関および三次救急を担う医療機関」に限定されており、それ以外の「新型コロナウイルス感染症と闘っている」病院等へは補助・診療報酬による手当が行われない
▽このため、例えば同じ病院グループ(例えば医療法人●●会)の中で「A病院の看護職員等は給与が上がる」が「B病院の看護職員等は給与が上がらない」といった格差が生じてしまう。これを解消するためには、やはり「自前での給与改善」が必要になるが、病院経営が厳しい中では非常に負担が大きい
そうした中で、従前から「病院薬剤師への処遇改善に、今般の補助金・診療報酬を充てられないか」との指摘が多くの病院団体から出ています(関連記事はこちら)。上述のように「看護補助者やリハビリ専門職などのコ・メディカル(メディカルスタッフ)への処遇に充てる」ことは認められていますが、例えば「薬剤師」へ配分することなどは禁じられているためです。
この点、このほど日病が行った会員アンケート調査(706病院が回答)によれば、▼79.4%の病院が「薬剤師の確保に難渋」している(地域による差は小さく、どの都道府県でも病院薬剤師確保に苦労している)▼薬剤師が確保できない理由として「調剤薬局の給与水準が高く、そちらに流れてしまう」「地域に薬剤師が少ない・いない」などが多い—ことが明らかにされました。
7月6日に開催された日病の幹部会議(常任理事会)では、こうしたアンケート結果も踏まえて、「病院薬剤師の給与アップを図りたいが、病院経営が厳しい中、自前での実施は難しい」「看護職員の処遇改善に向けた補助金・診療報酬を、病院薬剤師の給与アップにも充てたいが、それが認められてない。厚労省の定めた配分ルールと、医療現場の実態とがマッチしていないのではないか」との声が多数出ており、「薬剤師の給与改善にも、補助金・診療報酬を活用することを認めてほしい」との要望を厚労省に行う方針が固められました。
7月11日の記者会見で相澤会長は「要望書の内容や提出時期はこれから詰めていく」が、「要望を行う」方針は決定している旨を明確にしています。また要望の際には、上述したアンケート結果など「病院薬剤師確保などの現状」も訴えていく見込みです。今後の日病の動き、さらにそれを踏まえた国の動きにも注目が集まります。
なお相澤会長は、「あくまで私見」と断りを入れたうえで、「病院の機能が多様化している一方で、病院の収益の柱である診療報酬は全国一律に設定されている。こうした中では、同じ職種、同じ病院グループの中であっても同じ給与水準を確保していくことが難しい時代になってきており、今後、こうした難しい問題をどう考えていくべきかも重要な検討課題になる」との考えも示しています。
【更新履歴】薬剤師確保アンケート調査の図表を追加しました。
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