フィジシャン・アシスタント(PA)等、医師会は新職種創設に反対するも、脳外科の現場医師などは「歓迎」―厚労省
2019.6.17.(月)
医師の働き方改革に向けて、今後、強力に「労働時間を短縮」していくことが求められ、そこでは医師から他職種へのタスク・シフティング(業務移管)が必要不可欠となる。この点について、例えば手術場で医師を補助し、一定の医行為を実施可能な「フィジシャン・アシスタント」(PA)などの新職種創設をどう考えていくか。また現行の「特定行為研修を修了した看護師」の業務範囲などをどう考えていくべきか―。
厚生労働省が6月17日に開催した「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフティングに関するヒアリング」で、こういった点について意見聴取・意見交換が行われました。
目次
医師会や学会、病院団体等の意見踏まえ「どうタスク・シフティングを進めるか」検討
厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が3月末(2019年3月末)に報告書をとりまとめ、次のような方針を明確にしました(関連記事はこちら)。
▽2024年4月から「医師の時間外労働上限」を適用し、原則として年間960時間以下とする(すべての医療機関で960時間以下を目指す)(いわゆるA水準)
▽ただし、「3次救急病院」や「年間に救急車1000台以上を受け入れる2次救急病院」など地域医療確保に欠かせない機能を持つ医療機関で、労働時間短縮等に限界がある場合には、期限付きで医師の時間外労働を年間1860時間以下までとする(いわゆるB水準)
▽また研修医など短期間で集中的に症例経験を積む必要がある場合には、時間外労働を年間1860時間以下までとする(いわゆるC水準)
▽2024年4月までの5年間、全医療機関で「労務管理の徹底」(いわゆる36協定の適切な締結など)、「労働時間の短縮」(タスク・シフティングなど)を進める
このうち「タスク・シフティング」については、医師から他職種に、また他職種からさらに別の職種に「当該職種でなくとも実施可能な業務」を移管し、当該職種が「その資格保有者でなければ実施不可能な業務に集中できる」環境を整えるものです。もっとも、ある業務を他職種に移管した場合でも、安全性・有効性などの『質』が担保されなければなりません。また、業務移管を行ったとしても、例えば「指示等に膨大な時間がかかるが、軽減される業務量はごくわずかである」ような場合には、当面は業務移管を見合わせるという判断も必要となってくるでしょう。
このため厚労省は、30超の医療関係職能団体や関係医学会など(三師会、四病院団体協議会、新専門医制度の基本領域学会、日本専門医機構、日本看護協会ほか)に、「どの業務を、どの職種に移管することが可能と考えられるのか」「業務移管によって、どの程度の負担軽減効果が得られるのか」「業務移管後も医療の質を担保するために、どのような施策が必要と考えられるのか」といった点について意見を聴取するとともに、厚労省幹部との意見交換を行う場を設置したものです。
今夏を目途に意見聴取を終え、その後、厚労省で「タスク・シフティングを進めるために何をすればよいのか」を検討していきます。
6月17日の会合では、▼日本医師会▼日本技師装具士協会▼日本視能訓練士協会▼日本医師事務作業補助研究会▼言語聴覚士協会▼日本臨床工学技士会▼日本脳神経外科学会▼日本病理学会▼日本形成外科学会―の9団体から意見聴取を行いました。膨大な量の意見が示されており、ここではポイントを絞って眺めてみましょう。
日医は「新職種創設」に明確に反対するが、学会はPA等に期待寄せる
まず日本医師会からは、タスク・シフティングを進めるにあたっての考え方として、次のような5つの基本方針を会内で取りまとめていることが報告されました。
(1)医療安全を守るため、医師による「メディカルコントロール」(医療統括)の下での業務が原則である
(2)新職種の創設ではなく、「既に認められている業務」の▼周知徹底▼実践されていない場合の着実な検証―を実行する。
(3)法令改正や現行法解釈の変更による業務拡大をする場合には、適切なプロセスを経て行う
(4)「タスク・シフティング先の医療関係職種」への支援が必要である。
(5)AI等のICTの活用は、医師のタスクをサポートするものとして推進すべき
このうち(2)の「新職種創設」は、「医師の働き方改革に関する検討会」でも時間をかけて議論された▼ナース・プラクティショナー(NP)▼フィジシャン・アシスタント(PA)―などを念頭に置いたものと考えられます。NPは、米国等では「医師等の指示を受けずに、独自の判断で一定の医行為を実施する」ことが認められています。また、PAは医師の監督のもとに▼診察▼薬の処方▼手術の補助―など、医師が行う医療行為の相当程度をカバーする医療資格者をさします。
この点、意見発表した日医の今村聡副会長は「若年人口が減少する中で医療関係職種を確保することが困難なため、新たな職種を創設するべきではない」との考えを明確にしました。
しかし一方で、日本脳神経外科学会の新井一理事長は「米国で修業をした若手の脳神経外科医を中心に、学会ではPAの創設に前向きな意見が圧倒的に多い」ことを紹介しています。PAが活躍する場を目の当たりにし、かつ過酷な急性期医療の現場で日々手術等に携わる医師にとっては、「非常に魅力的なタスク・シフティング先」と捉えられているようです。
ただし新井理事長は「若手医師のトレーニング」とのバランスを考慮することが必要とも指摘しています。手術場では、シミュレーションでは得られない経験を得ることができ、若手医師にとって貴重な実践訓練の場と言えます。ここで、PAにあまりに多くの業務を移管してしまえば、若手医師が「お客さん」になってしまいかねません。「働き方改革」と「技能習得」の双方を考慮したタスク・シフティングを検討していくことが重要なようです。
なお、日医の今村聡副会長は、既存の医療関係職種の中でも「病院に勤務する薬剤師」「医療秘書」の活躍に期待を寄せています。
特定行為研修を修了した看護師、「特定行為」の拡大についてどう考えるか
学会からは、具体的な「タスク・シフティング」案も提示されました。
例えば、日本脳神経外科学会は、看護師へ▼血管撮影、血管内治療後の圧迫止血、止血確認、圧迫解除▼気管チューブの位置の調整、呼吸器管理、中心静脈カテーテルの抜去、末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入、創部ドレーンの抜去、直接動脈穿刺法による採血、橈骨動脈ラインの確保、抗痙攣剤の臨時投与▼鎮静が必要な患者・アレルギーのある患者の検査への立会い▼血管内治療の介助業務(血管撮影における圧迫止血・止血確認・圧迫解除を含む)▼脳卒中の初期対応(病歴聴取、検査オーダー等)▼救急車での患者移送の際の同伴(重症例は除く)―などを業務移管することを提案しています。
このうち「血管内治療の介助業務」などは現行法令では、看護師の実施が「認められてない」「明確に示されていない」ものではあるものの、新井理事長は「特定行為(一定の研修を修了した看護師について、医師の包括的指示の下で実施可能となる医行為)として、トレーニング(特定行為研修)を必須とすることで看護師への業務移管が可能ではないか」と期待を寄せています。手術場や病棟において看護師の働きぶりを見る中で、「こうした業務も十分に実施できるであろう」との判断がなされているものと思われます。
これらは「特定行為」の範囲拡大につながっていきますが、日医の今村副会長は上記(2)に関連して、「特定行為研修を修了した看護師」について、「特定定行為の拡大」をするのではなく、▼研修のパッケージ化▼修了者の増加―を最優先に進めるべきとも強調しており、医師の間(例えば、急性期医療の現場に従事する医師と、診療所等の開業等との間など)では、考え方に違いのあることが伺えます。
もちろん「一方が正しく、一方が誤っている」類の話ではありません。タスク・シフティングの必要性という点では、医師会も学会も完全に同じ方向を向いており、「第1段階としてどこまで進めるか」という点で温度差があるに過ぎません。さまざまな機会を通じてエビデンスに基づいて議論をする中で、「まず、ここまで広げてみよう。次にその結果を検証し、さらなる拡大を行うべきか考えていこう」と意見を擦り合わせていくことが重要でしょう。
また日本病理学会の佐々木毅理事は、▼臨床検査技師(専ら病理検査を担当する臨床検査技師・認定病理検査技師であることが望ましい)へ「手術検体等に対する病理診断における切り出し補助業務」を移管する▼臨床検査技師へ「画像解析システムによるコンパニオン診断(免疫染色)等(乳がんHER2など)に対する計数・定量判定補助」を移管する▼バイオインフォーマティシャンへ「分子病理診断(高度な解析技術を要する遺伝子診断)」を移管する▼臨床検査技師へ「デジタル病理画像の取り込み・機器の調整・データ管理等」を移管する▼認定病理検査技師へ「病理診断報告書のチェック」を移管する―ことを提案しています。
さらに佐々木理事は既存の「臨床検査技師の業務」について、一部の衛生検査書では「無資格者が実施しているという話も聞く。検査の質を担保するためにも、国家試験に合格した臨床検査技師の業務独占とすべき」と訴えています。
職能団体は、法令の壁も越えて「我々にこの業務を任せてほしい」と要望
またヒアリングでは、タスク・シフティング先となるメディカルスタッフの団体から「我々に個の業務を移管すべき」との逆方向からの提案も行われました。
例えば、日本技師装具士協会は「四肢切断術後のドレッシング等の断端形成や、切断者への断端管理に関する指導」などを、日本視能訓練士協会は「白内障・屈折矯正手術におけるオペレーター業務や、脳障害・外傷・高次機能障害などの後遺症に対する視機能回復訓練」などを、日本医師事務作業補助研究会は「検査手順の説明業務や電子カルテの記載」などを、言語聴覚士協会は「高次脳機能障害(認知症含む)・失語症・言語発達障害などの評価に必要な臨床心理・神経心理 学検査種目の選択・実施、および検査結果の解釈、嚥下訓練・摂食機能療法における食物形態等の選択」などを、日本臨床工学技士会は「心・血管カテーテル治療時のカテーテル操作の補助(カテーテルの保持、身体への電気的負荷等)」などを、「我々に任せてほしい」と要望しています。
もちろん、さらなるスキルアップに取り組むことを前提とした要望で、各職種の「向上心の高さ」が伺えますが、法令で規定された業務の範囲を超える内容も多数含まれています。今後、場合によっては「法令(医師法や保健師助産師看護師法など)」の見直しに向けた検討が行われる可能性もあります。
ただし、「法令で規定された業務」に基づいて教育・国家試験の内容が規定されていることなどもあり、法令の見直しに当たっては、多くの関係者を交えた慎重な議論が必要となります(1つの職種の業務範囲見直しは、他職種の業務内容にも影響を及ぼすため、総合的な検討が必要となる)。要望内容が「即、法令改正につながる」ものと考えることは早計に過ぎるでしょう。まずは、現行法令の範囲の中で、「●●行為は〇〇職種の業務の範疇に含まれる」ことなどを明確化していくことが現実的かもしれません。
【関連記事】
医師働き方の改革内容まとまる、ただちに全医療機関で労務管理・労働時間短縮進めよ―医師働き方改革検討会
医師の時間外労働上限、医療現場が「遵守できる」と感じる基準でなければ実効性なし―医師働き方改革検討会
研修医等の労働上限特例(C水準)、根拠に基づき見直すが、A水準(960時間)目指すわけではない―医師働き方改革検討会(2)
「特定医師の長時間労働が常態化」している過疎地の救急病院など、優先的に医師派遣―医師働き方改革検討会(1)
研修医や専攻医、高度技能の取得希望医師、最長1860時間までの時間外労働を認めてはどうか―医師働き方改革検討会(2)
救急病院などの時間外労働上限、厚労省が「年間1860時間以内」の新提案―医師働き方改革検討会(1)
勤務員の健康確保に向け、勤務間インターバルや代償休息、産業医等による面接指導など実施―医師働き方改革検討会(2)
全医療機関で36協定・労働時間短縮を、例外的に救急病院等で別途の上限設定可能―医師働き方改革検討会(1)
勤務医の時間外労働上限「2000時間」案、基礎データを精査し「より短時間の再提案」可能性も―医師働き方改革検討会
地域医療構想・医師偏在対策・医師働き方改革は相互に「連環」している―厚労省・吉田医政局長
勤務医の年間時間外労働上限、一般病院では960時間、救急病院等では2000時間としてはどうか―医師働き方改革検討会
医師働き方改革論議が骨子案に向けて白熱、近く時間外労働上限の具体案も提示―医師働き方改革検討会
勤務医の働き方、連続28時間以内、インターバル9時間以上は現実的か―医師働き方改革検討会
勤務医の時間外労働の上限、健康確保策を講じた上で「一般則の特例」を設けてはどうか―医師働き方改革検討会
勤務医の時間外行為、「研鑽か、労働か」切り分け、外形的に判断できるようにしてはどうか―医師働き方改革検討会
医師の健康確保、「労働時間」よりも「6時間以上の睡眠時間」が重要―医師働き方改革検討会
「医師の自己研鑽が労働に該当するか」の基準案をどう作成し、運用するかが重要課題―医師働き方改革検討会(2)
医師は応召義務を厳しく捉え過ぎている、場面に応じた応召義務の在り方を整理―医師働き方改革検討会(1)
「時間外労働の上限」の超過は、応召義務を免れる「正当な理由」になるのか―医師働き方改革検討会(2)
勤務医の宿日直・自己研鑽の在り方、タスクシフトなども併せて検討を―医師働き方改革検討会(1)
民間生保の診断書様式、統一化・簡素化に向けて厚労省と金融庁が協議―医師働き方改革検討会(2)
医師の労働時間上限、過労死ライン等参考に「一般労働者と異なる特別条項」等設けよ―医師働き方改革検討会(1)
日病が「特定行為研修を修了した看護師」の育成拡大をサポート―日病・相澤会長(2)
医師の働き方改革に向け、特定行為研修修了看護師の拡充や、症例の集約など進めよ―外保連