新型コロナ対応で医薬品価格交渉進まず、その中で薬価調査・薬価改定を実施すべきか―中医協総会(2)・薬価専門部会
2020.6.11.(木)
新型コロナウイルス感染症への対応で、医療機関や薬局はもちろん、製薬メーカーや医薬品卸販売業者も平時とは全く異なる状況となっており、医薬品の価格交渉も進んでいない。こうした中で薬価調査を実施したとしても、結果の妥当性が担保できない。2020年度の薬価調査および2021年度の薬価改定は実施すべきではない―。
6月10日に開催された中央社会保険医療協議会の「薬価専門部会」では、製薬メーカーや医薬品卸販売業者からこうした意見が相次ぎました。診療側委員もこうした意見に賛同していますが、支払側委員は「政府で『2020年度の薬価調査等は実施しない』方針が固まるかもしれないが、それまでは中医協において調査実施方法等を粛々と検討すべき」との考えを示しています。
製薬メーカー・医薬品卸・診療側は「薬価調査は見送るべき」との考えを強調
「国民皆保険の持続性確保」と「イノベーションの推進」を両立しながら、「国民負担の軽減」「医療の質の向上」の実現を目指した「薬価制度の抜本改革」が進められています(2018年度改定で実施に着手され、2020年度改定でもさらなる改革を推進)。抜本改革の内容としては、▼新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象品目の限定(真に医療上必要な医薬品について価格の下支えを行う)▼長期収載品から後発医薬品への置き換えを促進するための新ルール(G1・G2ルール)の創設)▼費用対効果評価に基づく価格調整ルールの導入など―を行うほか、「毎年度の薬価改定の実施」が盛り込まれています。
「市場実勢価格を適時に薬価に反映して国民負担を抑制する」ために、従前「2年に1度」であった薬価改定について、中間年度においても必要な薬価の見直しを行うものです。毎年度改定は2021年度から実施されることとなっており、このためには、まず2020年度に薬価調査(医療機関等と卸業者との間の取引価格(市場実勢価格)を調べる)が必要となります(市場実勢価格を踏まえ、一定のバッファを置いた上で薬価を引き下げる)。
薬価調査では、「医薬品卸業者による販売価格」と「医療機関等による購入価格」が調べられますが、今般の新型コロナウイルス感染症が医療現場に大きな影響を及ぼしている中で、「薬価調査を実施すべきか」「調査実施するとして、どのような方法で行うべきか」が重要論点として浮上(関連記事はこちら)。今般、製薬メーカー・卸業者から意見聴取を行ったものです。
この点、製薬メーカーサイド(日本製薬団体連合会、米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA Japan))、卸サイド(日本医薬品卸売業連合会)の双方とも「2020年度の薬価調査を実施できる状況ではない」と強調しています。
その理由として卸連は「新型コロナウイルス感染症の影響で、医療も医薬品流通も通常時とは大きく異なる状況にある。価格交渉が進んでいない」ことを掲げました。また、仮に薬価調査を実施したとしても、「第2波、第3波が到来した場合には調査に協力できなくなる」「医薬品の価値を踏まえた取引価格のデータが得られない」とも付言しています。
また日薬連では、「ワクチンや治療薬の研究開発」「グローバルなサプライチェーン監視による、医薬品の安定供給確保」に関する取り組みを第2波、第3波に向けて継続していることを強調したうえで、「新型コロナウイルス感染症により世界中が混乱する中での薬価調査は行うべきではない」とコメントしています。
こうした意見に対し、松本吉郎委員(日本医師会常任理事)をはじめとする診療側委員は理解を示し「2020年度の薬価調査は実施すべきではない」との見解を改めて明確にしました。
一方で支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、7月にずれ込む予定の骨太方針2020(経済財政運営と改革の基本方針)で「2020年度の薬価調査、2021年度の薬価改定は行わない」と決定されるまでは、「中医協としては薬価調査実施に向けて粛々とその方法を検討するべき」との考えを示しています。「薬価調査等を当初予定通り実施するのか、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえて中止するのか」は政府が決定する事項であり、その前に「実施しない旨を中医協で決定するべきではない」と幸野委員は主張しています。
この点、診療側の今村聡委員(日本医師会副会長)は「現場から『正しいケッケが得られないので、調査や改定は延期せよ』との意見が出ている。これを踏まえ、専門家の集団である中医協から政府に意見を述べていくべき」と反論しました。
また薬価専門部会終了後に開催された中医協・総会でも、2020年度の薬価調査について議論が行われ、「価格交渉が進まない状況の中で薬価調査を実施した場合、結果の妥当性を検証しなければならない。今回の2020年度調査は見送るべきである」(島弘志委員:日本病院会副会長)、「新型コロナウイルス感染症の第2波、第3波に備えなければならない。この非常事態の中での薬価調査は、医療機関の負担も過重となり、見送ってほしい」(猪口雄二委員:全日本病院協会会長)といった意見が相次ぎました。
仮に2020年度の薬価調査・2021年度の薬価改定を実施する(9月取引分を対象に調査を行い、2020年末の2021年度予算編成を経て、2021年4月から薬価の引き下げを行う)となった場合、6月中には調査内容の詳細(どの範囲の卸業者を対象とするのか、医療機関等の調査を行うのかなど)を固めておく必要があります。今後も中医協で、2020年度薬価調査に関する議論が続きます(関連記事はこちら)。
【関連記事】
2021年度からの毎年度薬価改定に向け、2020年度の薬価調査を実施すべきか―中医協・薬価専門部会
2020年度薬価制度改革に向けて論点整理、新薬創出等加算の企業・品目要件を一部見直しへ―中医協・薬価専門部会
市場拡大再算定や基礎的医薬品のルールを2020年度改定に向けてどう見直すべきか―中医協・薬価専門部会
先行バイオ医薬品と同一のバイオAG、苦渋の選択として「先行バイオ品の70%」とするしかない―中医協・薬価専門部会
再製造の単回使用医療機器(RSUD)、オリジナル品と別の機能区分とし、低い償還価格を―中医協、材料専門部会・薬価専門部会
長期収載品の段階的価格引き下げルール、2020年度改定で厳格化すべきか―中医協・薬価専門部会
再生医療等製品、独自の薬価算定ルールを設けるべきか―中医協・薬価専門部会
新薬の価値そのものに着目した評価を求めるメーカーに対し、中医協委員は「新薬開発の競争促進」も重要と指摘―中医協・薬価専門部会
2020年度の薬価・材料価格制度改革に向けて、中医協で本格議論スタート―中医協、薬価・材料専門部会
2020年度薬価制度改革、新薬創出等加算や後発品使用促進策などが重要テーマ―中医協・薬価専門部会
先行バイオ医薬品とまったく同一の「バイオセイム」登場、薬価の在り方など検討―中医協総会(2)
薬価制度抜本改革案を修正、新薬創出等加算の厳格化を一部緩和―中医協薬価専門部会
新薬創出等加算の見直し、「容認できない」と製薬メーカー猛反発—中医協薬価専門部会
薬価制度抜本改革の具体案、費用対効果評価による価格引き上げも—中医協薬価専門部会
医療現場に必要不可欠な医薬品の価格下支え、対象拡大の方向―中医協・薬価専門部会
新薬の原価計算方式、診療・支払双方が改めて問題点指摘—中医協・薬価専門部会
医薬品の画期性・革新性、薬価にどう公平に反映させていくべきか—中医協・薬価専門部会
新薬創出等加算、「産業構造の転換」促すため対象企業要件を厳格化してはどうか—中医協・薬価専門部会
長期収載品から後発品への置き換え促進、新薬創出等加算などとセットで議論すべき—中医協・薬価専門部会
製薬メーカーが新薬創出等加算の継続を強く要望―中医協・薬価専門部会
後発品の薬価、現在3区分の価格帯をさらに集約していくべきか-中医協・薬価専門部会
原価計算方式における薬価算定、製薬メーカーの営業利益率などどう考えるか-中医協・薬価専門部会
薬価調査において、医療機関に対する価格調査は継続すべきか-中医協・薬価専門部会
中間年の薬価見直し、対象品目の基準(乖離率など)を事前に示しておくべきか―中医協・薬価専門部会
新薬の薬価設定で、比較対象薬(類似薬)に付加された補正加算をどう考えるべきか―中医協・薬価専門部会
材料価格制度も「皆保険の維持」や「イノベーション」目的に、2018年度に抜本改革―医療材料専門部会
薬価の外国平均価格調整、診療・支払両側から「米国価格は参照対象から除外すべき」との指摘―中医協・薬価専門部会
効能追加などで市場拡大した医薬品の薬価再算定、対象や引き下げ方法の議論開始―中医協薬価専門部会
薬価の毎年改定方針を決定、DPC点数表も毎年改定へ―厚労省