訪問看護の医療レセプト、オンライン請求は2024年5月から(24年4月診療分)に後ろ倒し―社保審・医療保険部会(2)
2021.8.3.(火)
訪問看護ステーションにおける「医療保険レセプトの電子請求」について、「2023年1月から」(2022年12月診療分)としてきたが、国保総合システムの更改に合わせて「2024年5月から」(2024年4月診療分)に変更する―。
7月29日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、厚生労働省保険局医療介護連携政策課の山下護課長からこういった報告が行われました。
国保連のシステム全面更改に合わせ、訪問看護レセプトのオンライン請求もスケジュール変更
医療現場の負担軽減、データの一元的管理(集計・分析等を容易にする)ことなどを目的に「レセプトのオンライン請求」が進められていますが、「医療保険の訪問看護」については遅れています。
これは「訪問看護事業所の負担増」(介護保険の訪問看護ついてはレセプトオンライン請求が進んでいる)、「訪問看護に関するデータ分析・評価の遅れ」につながってしまうことから、厚労省は「2023年1月(2022年12月診療分)からオンライン請求を可能とする」との考えを示していました。
しかし、他方で「レセプト審査を行う、社会保険診療報酬支払基金(被用者保険のレセプトを審査し、支払いを行う)と国民健康保険団体連合会(国保など地域保険のレセプトを審査し、支払いを行う)について、審査基準の統一等を図る」議論が進められており、その一環として「国保連のシステムを2024年4月に全面更改し、支払基金と国保連で整合的なコンピュータチェックを可能とする」スケジュールが固められました(審査支払機能の在り方に関する検討会)。
このため、訪問看護のオンライン請求を2023年1月にスタートすれば、その1年後に「システム改修」を余儀なくされることになります。
そこで山下医療介護連携政策課長は、「国保連のシステム更改に合わせ、訪問看護のオンライン請求についても、『2024年5月から』(2024年4月診療分)に変更する」考えを明らかにしました。システム改修を効率的に進め「無駄なコスト投入」を避けることが主な狙いと考えられます。
この点について秋山智弥委員(日本看護協会副会長)は「スケジュールの遅延は遺憾である。少なくとも『2024年5月からオンライン請求開始』(2024年4月診療分)のスケジュールは遵守してほしい。また、同時に『オンライン資格確認等システム』についても訪問看護ステーションに導入してほしい」と強く求めています。
「オンライン資格確認等」とは、次のように、医療機関等での窓口において、患者が示したマイナンバーカードを用いて「この患者がどの医療保険に加入しているのか」を確認する仕組みです。
▼患者が、健康保険被保険者証機能を持つ「マイナンバーカード」を医療機関等窓口のカードリーダーにかざす
↓
▼医療機関等のパソコン端末から、オンラインで社会保険診療報酬支払基金(支払基金)・国民健康保険中央会(国保中央会)のデータに「当該患者がどの医療保険(健康保険組合や国民健康保険など)に加入しているのか」を照会し、回答を得る
患者の中には「会社を退職する際に保険証(被保険者証)を返還せず、そのまま使い続ける」人がいます(1か月当たり30―40万件)。これを防止するために、オンライン資格確認等システムが導入されますが、「医療機関等で本人同意の下、特定健診情報や過去の診療情報などを確認できる仕組み」などのベースにもなります。
山下医療介護連携政策課長は、このオンライン資格確認等システムの本格導入(今年(2021年)10月)に向けて、次のように準備が進められていることを報告しています(関連記事はこちら)。
【顔認証付きカードリーダー申込数】(今年(2021年)7月18日時点)
▽全体:57.0%(13万429施設)
▽病院:77.7%(6416施設)
▽医科クリニック:44.6%(3万9856施設)
▽歯科クリニック:49.4%(3万5028施設)
▽薬局:81.4%(4万9129施設)
【プレ運用参加施設数】(今年(2021年)7月26日時点)
▽全体:1664施設
▽病院:159施設
▽医科クリニック:535施設
▽歯科クリニック:439施設
▽薬局:531施設
ただし、佐野雅宏委員(健康保険組合連合会理事)は「プレ運用への参加は1700施設に満たず、会員(健康保険組合の被保険者・被扶養者)へオンライン資格確認糖システムの利用案内をしたくてもできない」と述べ、「更なる医療機関等の参加促進」の重要性を訴えています。
2024年度からの新医療費適正化計画に向けた議論もスタート
また、7月29日の医療保険部会では、次のような点も確認されました。
▽2024年度から新たな「医療費適正化計画」(6年計画、都道府県で実施)がスタートするため、今後、医療保険部会で▼実態・課題を把握する▼医療費見込みから「診療報酬改定の影響」を除外する▼地域医療構想との整合性を確保する▼保険者が都道府県の計画作成に強く関与する―などの見直しを検討していく
▽効果的な予防・健康づくり、重症化予防に医療保険者が積極的に取り組んでいくために、「40歳未満の被保険者の事業主健診」情報について、本人の同意なく保険者に提供することを可能とする(健保法に規定があり、個人情報保護法に抵触しない)
▽NDBからのデータ提供内容を充実させるため、新たに▼郵便番号・市町村コード▼高額療養費の自己負担限度区分額▼医療機関等の種類(大規模病院かクリニックか、など)▼公費負担医療のデータ―についても提供を行う
このうち医療費適正化計画は、各都道府県において▼6年後(計画満了時)の医療費見込み▼医療費適正化を実現するための方策(特定健診・保険指導の推進、糖尿病の重症化予防、後発医薬品の使用促進、地域医療構想の実現など)―を計画に落とし込み、実行を求めるものです(2008年度からスタート)。
医療技術の高度化、高齢化の進展などにより「医療費は膨張」を続けていきますが、その一方で、負担者である現役世代は減少していくため、「医療費の伸びを抑える」ことが、医療保険制度維持のために必要不可欠なためです。
ただし、「医療費見込みから診療報酬改定の影響を除外すべきではないか」(例えばマイナス改定が行われ医療費が減少したとして、逆にプラス改定で医療費が増加したとして、それは「都道府県が努力した、怠けた」ためのものではない)、「地域医療構想の実現に向けた動きが進んでおり、それを反映させるべきではないか」、「計画作成に保険者がより関与すべきではないか」との指摘が出ていることを踏まえ、上記のような見直しを議論していくこととなったものです。
この点、委員からは「計画の効果を明らかにしていくべきではないか」「保険者の関与は重要だが、マネジドケア(医療保険者が医療費および医療機関の診療内容を厳しく監視する仕組み、米国で導入されている)のようなものは好ましくない」などの意見が出ており、今後の議論に注目が集まります。
またNDBに関しては、民間企業を含めたより広い第三者へのデータ提供が行われますが、その利便性をより高めるために、付加情報の提供を行うものです。例えば、診療内容の分析等をする際に、「どこの医療機関か」という情報まではいらないものの「この医療行為が、診療所でなされたのか、それとも大規模な急性期病院でなされたのか」などは非常に重要な情報となります。また患者の住所を一定程度把握できるようになれば「どのエリアに居住する患者が、どういう疾患に罹患し、どういった医療を受けているか」をより的確に把握できるようになります(現在は医療機関等の所在地情報がベースで、患者居住地は明らかでない)。
もっとも、こうした付加情報により「個人が特定されやすくなるのではないか」との疑問もわきますが、山下医療介護連携政策課長は「個人を特定できない仕掛けをすでに盛り込んでおり、心配に当たらない」旨を説明しています。
なお、データ提供に当たっての手数料について、来年4月(2022年4月)からの引き上げ(抽出コスト等の向上)が検討されますが、安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は「研究者と民間企業では手数料を分けて設定してもよいのではないか」との見解を示しています。
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