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ポリファーマシー対策、2021年度の病院実践踏まえ、2022年度は「地域実践」に拡大―高齢者医薬品適正使用検討会

2022.4.20.(水)

高齢者の医薬品適正使用に向けて、指針や業務手順書などが作成されている。2021年度に3病院で「指針・業務手順書に沿ったポリファーマシー対策」を実践し、指針等の有効性・有用性が確認された―。

2022年度には、地域において「指針・業務手順書に沿ったポリファーマシー対策」実践に入るため、病院実践で明らかになった課題などを踏まえて、指針・業務手順書について改訂が必要か否かを検討していく―。

4月13日に開催された「高齢者医薬品適正使用検討会」(以下、検討会)でこういった議論が行われました。

入院中の「減薬」を、退院後にも継続できるか否かが重要ポイントの1つ

高齢になると、▼細胞内水分の減少▼血清アルブミンの低下▼肝血流や肝細胞機能の低下▼腎血流の低下―といった生理機能の低下が生じます。その一方で、薬物吸収能には大きな変化がないことから、「医薬品が効き過ぎる」ことがあります。この点からは「医薬品を使いすぎない」ことが重要となります。

一方で、高齢者では複数の傷病を抱えることが多く、各傷病の治療のためにどうしても「多剤投与」とならざるを得ない実態もあります(薬剤を使わなければ傷病治療が困難である)。この多剤投与の中でも害を伴う「ポリファーマシー」が問題視されています。

そこで、「いかに現傷病を悪化させずに減薬を行うか」が重要な政策テーマとなっているのです。単に薬剤を減少させるだけでは「傷病が悪化」してしまい、傷病治療だけしか考えなければ「薬剤の使い過ぎによる弊害」(例えば、ふらつき→転倒→骨折や脳挫傷などにつながる可能性)が生じてしまいます。

厚労省はポリファーマシ―対策の一環として、2017年4月に「高齢者医薬品適正使用検討会」を設置。検討会では、医薬品の処方を行う医師・歯科医師、調剤を行う薬剤師を主なターゲットとした「高齢者の医薬品適正使用の指針」(ガイダンス)作成に向けた議論を行い、2018年5月に指針の【総論編】(▼高齢者の状態▼治療の必要性▼薬剤処方内容―などを総合的に勘案し、医師・薬剤・看護師等が協働して「医薬品処方の適正性」を常に評価し、必要があれば減薬や中止などの見直しを行うことを提言、関連記事はこちらこちら)を、2019年6月に指針の【各論編(療養環境別)】(外来・在宅医療、回復期・慢性期入院医療、介護保険施設を対象、関連記事はこちら)を、さらに2021年3月には通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」(関連記事はこちら)を示しています。

あわせて検討会ではポリファーマシー対策を医療機関で具体的にどう進めていくかを確認するために、▼藤田医科大学病院(愛知県豊明市)▼国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)▼三豊総合病院(香川県観音寺市)―の3病院において、上記の指針や通知(通知の中に業務手順書が示されている)に基づいたポリファーマシー対策の言わばモデル事業を実施。今般、その結果報告が行われました。

例えば、新たにポリファーマシー対策を実施した藤田医大病院では、薬剤部のポリファーマシー対策チームが、医療チームと連携して「個別患者に処方されている医薬品の適正性評価、減薬の可能性検討、減薬の実践」といった取り組みを開始。結果、▼【薬剤総合評価調整加算】(入院前に6種類以上の内服薬が処方されていた患者について、処方内容を総合的に評価し必要な指導を行う場合に、入院料に上乗せされる加算)の算定率・件数の向上▼PIMs(特に慎重な投与が必要な薬剤、例えば催眠鎮静剤、利尿剤、H2受容体拮抗薬など)中止件数の向上―などの成果が出ています。

藤田医大病院におけるポリファーマシー対策の成果(その1)(高齢者医薬品適正使用検討会1 220413)

藤田医大病院におけるポリファーマシー対策の成果(その2)(高齢者医薬品適正使用検討会2 220413)

藤田医大病院におけるポリファーマシー対策の成果(その3)(高齢者医薬品適正使用検討会3 220413)



また、従前よりポリファーマシー対策に取り組んできている三豊総合病院では、上記指針等を契機に更に積極的に、「自院の取り組み拡大」だけでなく、地域のかかりつけ医機能を持つクリニックや薬局をも巻き込んだポリファーマシー対策に取り組んでいます。その結果、ポリファーマシー対策に取り組みにくい「退院後」にも減薬が継続する割合が91.6%という驚異的な成果を生み出しています(一部減薬継続も「継続」をカウント、ただし「入院時と同じ減薬」が完全継続している割合も8割程度にのぼっている)。

三豊総合病院におけるポリファーマシー対策の成果(その1)、退院後も「減薬が継続」している割合は9割超となっている(高齢者医薬品適正使用検討会4 220413)

三豊総合病院におけるポリファーマシー対策の成果(その2)、介入家数などが大幅増加している(高齢者医薬品適正使用検討会5 220413)



このように、ポリファーマシー対策の推進に向けて指針や通知が有効かつ有用であることが確認されています。もっとも、これらも完全ではなく、例えば▼他科の処方内容に介入することについて医師はどうしても敬遠しがちである▼急性期病院では疾病治療が最優先され、ポリファーマシー対策は後手になりがちである▼ポリファーマシー対策に人手を割くことが難しい(コスト面も含めて)▼退院後のフォロー(入院中に減薬が、退院後のクリニックで維持されているか否かなど)をどう進めるかが見えにくい―などの課題も明らかになってきています。

この点、例えば「医師が『他の医師の処方内容』に介入しにくい」という課題に対しては、医療従事者全体に対し「ポリファーマシー対策の重要性」をより深く周知することで一定の対応が可能となることでしょう。上述の指針において「ポリファーマシー対策の重要性」が説かれていますが、よりコンパクトな内容に整理することも一案として浮上しています。



また入院中は「常に患者の傍らに医療者がいる」ために、減薬によって「例えば病状が悪化した」「別の健康上の問題が生じた」場合などにすぐ対処でき、また患者が自覚できない変化にも医療者が気づき、適切な対応を行うことが可能です。さらに療養環境が整っているため、患者の状態も比較的安定し「減薬しやすい」状態にあると言えます。

一方、退院後には「常に医療者が傍らにいるわけでない」「健康状態をリアルタイムで把握することが困難」「患者が様々なストレスにさらされる」などの背景もあり、「入院中に実施した減薬」を維持することが困難になってきます。このため、上述の三豊病院における「退院後の減薬継続率9割超」について「驚異的」と賞賛されるのです。三豊病院では、地域の医療機関・薬局を巻き込むことで「退院後の減薬継続」が可能になっていますが、より具体的な取り組み内容などを明文化・周知していくことに期待が集まります。



また、上記の3病院はいずれも大規模な地域の基幹病院であり、マンパワーが充実しています。一方、病院の多数を占める中小病院ではマンパワーが限られており「同様の取り組みを行うことが難しい」のが実際です。このため「ポリファーマシー対策チームを設置せずとも可能な取り組み」「ポリファーマシー対策チームを設置する前にも可能な取り組み」を具体的に明示することが中小病院サイドから求められています(美原盤構成員:全日本病院協会副会長)。

さらに、ポリファーマシー対策では「減薬」そのものが目的ではなく、「減薬によりふらつきや転倒が減少した」「減薬しても、患者の健康状態(傷病治療成果など)が悪化しない」などの健康確保が重要であるため、「アウトカム指標をより明確にしてはどうか」との指摘もあります(城守国斗構成員:日本医師会常任理事、池端幸彦構成員:日本慢性期医療協会副会長)。



今年度(2022年度)には「地域で指針や通知に沿ってポリファーマシー対策を推進していく」こととなっています。21年度は病院単位での推進を、22年度はより広く地域単位での推進を行い、「ポリファーマシー対策の効果検証、課題抽出」などを行っていきます。

このため、上述した「21年度の病院単位での推進」(3病院での実践)で浮上した課題を踏まえ、指針や通知について「改訂が必要ないか」を印南一路座長(慶應義塾大学総合政策学部教授)と秋下正博座長代理(日本老年医学会理事長、東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座教授)、さらに厚生労働省で検討していく方針が固められました。大幅な見直しは行われませんが、例えば「ポリファーマシー対策の重要性」強調や、「ポリファーマシー対策チーム設置前にも実施可能な点」追記などが指針や通知(業務手順書)に行われる可能性があります。

ポリファーマシー対策の推進に向け、2021年度に病院実践を行い、その経験を踏まえて2022年度には地域実践を行う(高齢者医薬品適正使用検討会6 220413)



ポリファーマシー対策は「薬剤の処方内容を適正化することで医療の質を向上させる」ことを目指しています。多くの医療機関・薬局などで取り組みが進むことに期待が集まります。



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