「特定行為研修を修了した看護師」の介護保険施設等配置で、「状態悪化の手前で対応→入院の防止」など可能に―看護師特定行為・研修部会
2023.8.24.(木)
看護師が特定行為研修を修了することで、例えば、患者等が熱発した場合に「どのようなリスクに基づく疾患が考えられるのか」「食事摂取量や水分摂取量に照らして、輸液が必要な状態なのか」などの臨床推論が可能になる。このため、介護保険施設等で「特定行為研修を修了した看護師」を配置することで、入所者の状態が悪化する前に「こうした対応が必要になる」と推測・行動でき、「疾病の悪化→入院」などを相当程度防ぐことが可能になる—。
もっとも介護保険施設等では看護師数に限りがあり、特定行為研修の受講が難しいのが実際である。「代替要員の確保」「管理医師の制度理解」「施設用の研修プログラム設定」などの総合的な対策・支援が必要ではないか—。
8月23日に開催された医道審議会・保健師助産師看護師分科会の「看護師特定行為・研修部会」(以下、部会)で、こういった議論が行われました。
介護保険施設等での特定行為研修修了者配置は極めて有益
一定の研修(特定行為に係る研修、以下、特定行為研修)を受けた看護師は、医師・歯科医師の包括的指示の下で、手順書(プロトコル)に基づいて38行為(21分野)の診療の補助(特定行為)を実施することが可能になります(関連記事はこちらとこちら)。
昨年度(2022年度)から、人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代が75歳以上の後期高齢者になり始め、2025年度には全員が後期高齢者となることから、今後、医療・介護ニーズが急増していきます。とりわけ在宅療養や介護施設など「医師の関与が手薄になりがちな場面」において、一定の医行為を行える特定行為研修修了看護師が活躍することが期待されています。
さらに、特定行為研修修了者には、▼新型コロナウイルス感染症対応の重要な担い手▼医師働き方改革の中で、医師からの重要なタスク・シフティング先—としての役割(急性期病院等での活躍)も期待されています。
8月23日の部会では、前者の「在宅医療や介護分野での特定行為研修修了者の役割」を議題とし、医療法人大誠会内田病院理事長の田中志子参考人(日本慢性期医療協会常任理事)から、介護保険施設等に特定行為研修修了者を配置することにより次のような効果があらわれていることが発表されました。
▽例えば、患者等が熱発した場合に「どのようなリスクに基づく疾患が考えられるのか」「食事摂取量や水分摂取量に照らして、輸液が必要な状態なのか」などの臨床推論が可能になる
↓
▽医師・看護師間の相互理解が進み、チーム力が強化される
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▽介護保険施設等で「特定行為研修を修了した看護師」を配置することで、入所者の状態が悪化する前に「こうした対応が必要になる」と推測・行動でき、「疾病の悪化→入院」などを相当程度防ぐことが可能になる
症状悪化の防止・入院の防止は、施設入所者の健康を守るうえでも、施設の経営を確保するうえでも、施設スタッフの業務負担を軽減するうえでも極めて重要となります。介護保険施設等への特定行為研修修了者配置が極めて有益であることが分かります。
関連して部会委員や田中参考人は、特定行為研修修了者の評価指標に関して、「特定行為そのものの実施」よりも、「特定行為を実施しなければならない事態に陥る手前で対応する、そのために臨床推論を十分に行う」ことが極めて重要であるという点で考えが一致している点にも注目が集まります。
介護保険施設等から特定行為研修に送り出すには、大きな課題もある
もっとも、介護保険施設等では看護師配置数などにも限りがあることから、「ある看護師が特定行為研修受講のために職場を離れると、その穴を埋める代替看護師の確保が困難である」、「管理者・施設長である医師、同僚看護師が特定行為研修制度について必ずしも十分に理解できてない」などの課題もあります。このため「在宅医療や介護分野での特定行為研修修了者」養成は思うように進んでいないのが実際です。本年(2023年)5月時点で、特定行為研修者は4653名養成されていますが、介護保険施設ではわずか0.6%(30名)、訪問看護ステーションでは5.3%(246名)にとどまっています。
つまり、極めて有益である「在宅医療や介護分野での特定行為研修修了者」養成を推進するための方策を考える必要があるのです。この点について、部会委員や田中参考人からは次のような考えが示されました。
▽院長をはじめとする医師の特定行為研修制度への理解が必要不可欠である(中尾一久委員:全日本病院協会常任理事、東憲太郎委員:全国老人保健施設協会会長、田中参考人)
→関連して特定行為実施のベースとなる「手順書」を医局で詳細に作成する(自院で使用する薬剤名までを盛り込んだフローチャートを作成するイメージ)ことが極めて重要である(田中参考人)
▽看護部の壁も厚い。看護管理者(看護部長、副部長クラス)に特定行為研修を受講してもらい、その重要性を看護部全体で共有することも極めて重要である(鈴木靖子委員:地域医療振興協会NP・NDC研修センター、東委員、田中参考人)
▽個々の特定行為研修修了者に任せきりにせず、医師によるサポート、特定行為研修修了者チームでの定期ミーティング等を行い、個々の特定行為研修修了者の負担を緩和することも重要である(田中参考人)
▽研修受講中の穴埋めを行う代替要員・リリーフナースの確保が重要であるが、小規模施設・グループでは難しい。行政(介護保険の保険者である市町村など)も含めたバックアップ体制を構築する必要がある(山本則子委員:日本看護協会副会長、家保英隆委員:全国衛生部長会長(高知県健康政策部長))
▽介護保険施設で実施する医療行為は「狭い範囲」に限定されている。研修の負担(費用、期間など)を考慮して「施設用の短期間で資格取得できる研修プログラム」開発が必要である(東委員)
▽施設長などがリーダーシップを発揮して、特定行為研修制度に関する情報を施設内に周知し、「研修を受講しやすい環境」の整備、同僚スタッフの理解促進等を図るべき(樋口幸子副部会長:済生会看護室室長)
▽国民の特定行為研修制度への理解も重要である(石垣泰則委員:日本在宅医療連合学会代表理事)
あわせて田中参考人は「自グループでは特定行為研修修了者へのインセンティブ(給与増、特別手当)などを出せていない。介護報酬や診療報酬での対応(特定行為研修修了者配置などに対する加算)を是非おこなってほしい」と強く訴えており、國土典宏部会長(国立国際医療研究センター理事長)も賛同しています。今後の診療報酬・介護報酬改定論議にも注目が集まります。
今後、こうした意見も参考に「在宅医療や介護分野での特定行為研修修了者」養成推進策を練っていくことになります。
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