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1028ミニセミナー診療報酬改定セミナー2026

2026年度厚労省予算概算要求は34兆7929億円、新地域医療構想の策定・実現、医療DX推進、サイバーセキュリティ対策など目指す

2025.9.1.(月)

厚生労働省は8月29日、財務省に対して来年度(2026年度)予算の概算要求を行いました。労働保険などの特別会計を含まない一般会計は34兆7929億円を要求しており、これは今年度(2025年度)当初予算に比べて4865億円・1.4%の増額要求となっています(過去最高)。

また年金・医療など社会保障に係る経費については、このうち32兆9387億円を要求。こちらは今年度(2025年度)当初予算に比べて3516億円・1.1%の増額要求となりました(2026年度予算概算要求に関する厚労省のサイトはこちら)。

2026年度厚生労働省概算要求1



厚労省と財務省で内容・金額の精査を進め、年末の予算編成過程で最終調整を行い、年内に来年度(2026年度)予算案が確定します(今年度(2025年度)予算案編成における大臣折衝に関する記事はこちら)。そこには、注目される「診療報酬の改定率」なども含まれます(診療報酬・介護報酬の同時改定が行われた2024年度予算案編成における大臣折衝に関する記事はこちらこちら)。

新たな地域医療構想の策定・実現を目指す

厚労省の2026年度予算概算要求では、重点事項として次の3本の柱を打ち立てました。
(1)社会の構造変化に対応した保健・医療・介護の構築
(2)物価上昇を上回る賃上げの普及・定着に向けた三位⼀体の労働市場改⾰の推進と多様な⼈材の活躍促進
(3)包摂的な地域共生社会等の実現

今後、2040年頃にかけて、高齢者数そのものは大きく変化しない(高止まり)ものの、▼医療・介護の複合的ニーズを抱える85歳以上高齢者のシェアが急拡大していく▼支え手となる現役世代人口が急減していく▼こうした人口動態の状況は地域によって大きく異なる—ことが分かっています。「減少する一方の支え手」で「増加する一方の高齢者」を支えなければならず、医療・介護・年金といった社会保障制度の基盤が極めて脆弱になり、今後もますます厳しさを増していく状況も踏まえた柱建てと言えるでしょう。



本稿では主に(1)の中から、保健・医療・介護を中心に主要事項を眺めてみます。

まず医療提供体制の確保に関して、次のような要求を行っています。

地域医療介護総合確保基金(医療分)の確保:613億円

▽入院・外来機能の分化・連携推進等に向けたデータ収集・分析事業:4億7000万円
→病床機能の分化・連携に向けた「病床機能報告」、外来機能の分化・連携に向けた「外来機能報告」のほか、2026年度から新たに開始される「医療機関機能報告」の集計等を行う

2026年度厚生労働省概算要求2



▽地域医療構想の実現に向けた医療機能分化・連携等に関する調査・分析等支援事業:2億円
→地域医療構想を推進するための課題の調査・分析、再編等を検討している医療機関等からの相談窓口対応、国が重点的に支援する「重点支援区域」への再編支援(事例紹介、データ分析 等)、重点支援区域への申請の前段階の再編を企画・検討する区域に対する支援(重点支援区域の設定の要否を判断するまで支援)、「モデル推進区域」へのアウトリーチの伴走支援など

2026年度厚生労働省概算要求3



▽在宅医療の効率化のためのデジタル化・ICT導入促進に係るモデル事業:1億1000万円
→希望する自治体をもとに設定した「モデル地区」に対するデジタル化・ICTの導入補助とそれらを活用した在宅医療の実施を円滑に進めるための伴走支援を実施

2026年度厚生労働省概算要求4



▽重点医師偏在対策支援区域における診療所の承継・開業支援事業:20億円
→「重点区域内で承継・開業する診療所で、都道府県の地域医療対策協議会・保険者協議会で支援対象とすることを合意した診療所」の運営に必要な診療部門(診察室、処置室等)等の整備に対する補助、医療機器の整備に対する補助、一定期間の定着支援を行う(関連記事はこちら

2026年度厚生労働省概算要求5



▽総合的な診療能力を持つ医師養成の推進事業:5億6000万円
→総合診療医センター(総合診療科の医師を責任者に据え、地域枠学生の選考時から卒後のキャリア支援までを一貫して行う組織)の設置、リカレント教育(総合的診療能力獲得に向けた教育)のための全国推進事業を行う(関連記事はこちら

2026年度厚生労働省概算要求6



▽医師偏在是正に向けた広域マッチング事業:2億円
→中堅・シニア世代等の医師を対象に「医師不足地域での医療に関心・希望を有する医師の掘り起こし」「キャリアコンサルティング」を行い、必要に応じてリカレント教育(上記)や現場体験につなぎ、医師少数地域の医療機関とのマッ チング、その後の定着支援等を行うための財政支援を行う(医師不足地域での勤務を希望する医師と、医師不足地域の医療機関等とのマッチング、リカレント教育、定着支援など

2026年度厚生労働省概算要求7



▽「ICT機器を活用した勤務環境改善」の推進に向けたモデル医療機関調査支援事業:2億円
→モデル医療機関における勤務環境改善に資するICT機器等のパッケージ導入支援(経費支援)、関連機器のパッケージ導入に係るプロセス等の調査分析(ICT機器等の導入前後の労働時間分析を行い、ICT機器を活用した取り組みの効果検証)を行い、導入プロセスを好事例としてとりまとめる

2026年度厚生労働省概算要求8



▽看護現場におけるデジタルトランスフォーメーション推進実証事業:1億6000万円
→医療機関等におけるICT機器を活用した「効率的・効果的な看護業務」の検証等の実施に必要な経費支援とともに、病院、診療所、訪問看護ステーションが連携して「在宅療養生活の整備、在宅医療の関係職種間の情報共有、通院困難な患者のオンライン診療」などについてICT機器を用いた効率的・効果的な看護実践の検証等の実施に必要な経費支援を行う

2026年度厚生労働省概算要求9



▽特定行為に係る看護師の研修修了者加速的養成事業:7億円
→看護師特定行為に係る研修機関導入促進支援、指定研修機関の運営費支援、看護師や医師等の医療関係者が特定行為研修に関する情報を収集しやすい環境の整備支援などを行う

2026年度厚生労働省概算要求10



▽無痛分娩を含めた地域連携周産期医療体制モデル事業:6億円
→地域医療機関が連携して「周産期医療体制」を確保するモデル事業を実施するとともに、地域で「基幹病院」と「麻酔科専門医が常駐していない医療機関」とが連携して無痛分娩提供を行うモデル事業を実施する(関連記事はこちら

2026年度厚生労働省概算要求12

「訪問介護」提供体制の確保をさまざまな角度から支援

また介護提供体制の確保に関しては、次のような取り組みを行うための予算が要求されています。

地域医療介護総合確保基金(介護施設等の整備に関する事業分):252億円

地域医療介護総合確保基金(介護従事者の確保に関する事業分):97億円
→▼訪問介護における人材確保のための タスクシェア・タスクシフト推進支援(地域のボランティア組織や福祉的就労機関、民生委員や家政士、退職後の高齢者、学生・若者など地域の多様なリソースを地域の支援体制に組み込み、訪問介護におけるタスクシェア・タスクシフトを全国的に推進する)
→▼中山間・人口減少地域等に存在する 通所介護事業所等の多機能化(訪問機能の追加)の推進
→▼地域のケアマネジメント提供体制確保支援(ケアマネジャー人材確保、ケアマネ業務負担軽減、ケアマネ事業所の経営改善を支援する、関連記事はこちら

▽離島・中山間地域等サービス確保対策事業:2000万円
→離島・中山間地域等で介護サービスの提供体制を確保していくため、複数町村との連携や関係事業所との協議の実施、ホームヘルパー養成などの地域の実情に応じた人材確保対策の実施に向けて、具体的な方策・事業の検討や試行的事業等を実施する(関連記事はこちら

2026年度厚生労働省概算要求11

医療DX推進とセットで、医療機関のサイバーセキュリティ対策も推進

さらに「医療・介護DXの推進」に関連する事項を眺めてみましょう。散在する医療・介護等データを紐づけして分析・解析することによって、「より質の高い、効率的な医療・介護」提供が可能になると期待され、政府は昨年(2023年)6月2日に「医療DXの推進に関する工程表」を取りまとめ、例えば▼全国の医療機関で電子カルテ情報を共有可能とする仕組みを構築し、2024年度から順次稼働していく▼標準型電子カルテについて、2030年には概ねすべて医療機関での導入を目指す—などの具体的なスケジュールを示しています。

あわせて厚労省は、▼医科クリニック向けにクラウド型の標準型電子カルテ仕様を2026年度中に完成し、2026年夏までに具体的な普及計画を策定する▼病院、とりわけ特定機能病院や地域医療支援病院については、オンプレミス型の電子カルテが導入されていることを踏まえて、まず各病院における直近のシステム更新時に「電子カルテ情報共有サービス/電子処方箋管理サービスに対応できるような改修」を、医療情報化支援基金を活用して促していく▼国が本年度(2025年度)中に示す予定の「電子カルテの標準仕様(基本要件)」に準拠した病院向けのクラウドネイティブな医療情報システムが登場してきた段階で、順次、「オンプレミス型からクラウドネイティブなシステムへの移行」を進めていく—方針も固めています(関連記事はこちら)。



こうした目標の実現に向けて、次のような事項が要求されています。

▽公費負担医療制度等のオンライン資格確認の推進:46億円
→骨太方針2025年等に基づき、公費負担医療制度等(難病医療費助成など)のオンライン資格確認について、2026年度中の全国導入に向けて、自治体システムの改修等、医療機関・薬局システムの改修、安定的な実施体制の整備を推進する(関連記事はこちら

2026年度厚生労働省概算要求13



▽医療機関におけるサイバーセキュリティ確保事業:3億円
→「外部接続点が多数存在する医療機関」に対して、その適正化まで事業対象を拡充し、維持管理支援をすることでサイバー攻撃に対する安全性をより一層強化する

2026年度厚生労働省概算要求14



▽国保総合システムの最適化及び審査領域の共同開発・共同利用に関するシステム開発:20億円
→国保総合システムについては、「審査支払機能に関する改革工程表」等を踏まえシステムを整合的かつ効率的なものにしていく必要があり、システムの最適化および審査支払領域に係る支払基金との共同開発・共同利用を段階的に進める必要がある。審査支払機関の改革を推進するため、国保総合システムの最適化、共同開発・共同利用に向けた▼システム間の連携機能の構築▼システムの最適化に向けた対応—に着手する

2026年度厚生労働省概算要求15



ほか各種疾患等対策の強化、医薬品の安定供給等に向けて次のような事項・予算の要望も行われています。
(疾患対策強化)
▽がん・難病の全ゲノム解析等の推進事業:13億円
→がんや難病患者を対象とした全ゲノム解析・マルチオミックス解析等を実施することで得られる全ゲノムデータ、マルチオミックスデータ、臨床情報等を搭載した質の高い情報基盤を構築し、民間企業やアカデミア等へその本格的な利活用を促し、診断創薬や新規治療法等の開発を開始。あわせて解析結果等の速やかな日常診療への導入や、出口戦略に基づいた新たな個別化医療の実現についても更に推進する

2026年度厚生労働省概算要求16



▽糖尿病性腎症患者重症化予防の取り組みへの支援:6600万円
→糖尿病性腎症等で「生活習慣の改善により重症化の予防が期待される者」に対して医療保険者と医療機関とが連携した保健指導等の費用補助、糖尿病性腎症の重症化予防に加えて、循環器病の予防・進行抑制を目的とした生活習慣病の重症化予防のための保健指導等の費用補助を行う

2026年度厚生労働省概算要求17



▽共生社会の実現を推進するための認知症基本法等に基づく施策の推進:130億円
→認知症に関する国民の理解の増進等(認知症サポーターの養成など)、バリアフリー化の推進(広域的な認知症高齢者の見守り推進など)、保健医療サービス・福祉サービスの提供体制整備(認知症医療提供体制の拠点の支援、認知症初期集中支援チームの設置)など

2026年度厚生労働省概算要求18



▽がん医療提供体制の均てん化・集約化に関する事業:6000万円
→均てん化・集約化が望ましい医療の具体的な内容の整理、がん種ごとに都道府県内で役割分担する医療機関の整理、医療機関ごとの診療実績を一元的に発信する際の公表項目についての検討などを支援(関連記事はこちら

2026年度厚生労働省概算要求19



▽重喫煙者に対する低線量CTによる肺がん検診実証事業:1億3000万円
→肺がんCT検診実証事業に取り組む市区町村を公募し、運用等に係る費用を補助するとともに、参加市区町村への技術的支援、課題の整理・改善策の検討を事業者に委託する

2026年度厚生労働省概算要求20



▽難病・小児慢性特定疾病対策の着実な推進:1692億円
→難病患者等への医療費助成、難病医療提供体制の構築(都道府県における難病の医療提供体制の拠点となる難病診療連携拠点病院を中心とした連携体制の構築等に対する支援)、小児慢性特定疾病対策の推進、難病・小児慢性特定疾病に関する調査・研究などの推進(関連記事はこちら

2026年度厚生労働省概算要求21



▽移植医療対策の推進:49億円
→造血幹細胞移植対策の推進、臓器移植対策の推進を行う

2026年度厚生労働省概算要求22



(医薬品の安定供給)
▽医薬品安定供給・流通確認システムの運用・保守業務:1億9000万円
→医薬品の供給状況の報告に係る国・製薬企業の作業負担を軽減しつつ、経時分析などの複雑な解析を可能とし、出荷状況の変更等を迅速に医療機関、薬局等に通知する「医薬品安定供給・流通確認システム」を2025年度に新規構築し、2026年度からシステムを稼働させる

2026年度厚生労働省概算要求23



▽医薬品安定供給・流通確認システムの機能追加に係る設計・開発:5億1000万円
→平時より市場全体の医薬品の供給状況や地域ごとの医薬品(成分)の供給不足の兆候を把握する仕組みの実用化に向け、製造販売業者の供給状況に係るデータを集計し、モニタリングに必要なシステム改修を行うとともに、医療現場における需給状況について電子処方箋管理サービスにおける薬局の調剤データ等を活用したモニタリング検証を実施する

2026年度厚生労働省概算要求24



▽抗菌薬等医薬品備蓄体制整備事業:5億8000万円
→感染症対症療法薬・治療薬や安定確保医薬品を対象に、一定以上の積み増しを行う製薬企業に対し「積み増しに伴う増産(設備整備費、人件費、資材の保管経費等)・備蓄(設備整備費及び保管費用)に係る追加費用」を補助する

2026年度厚生労働省概算要求25



▽医薬品安定供給支援事業:5100万円
→海外依存度の高い「医療上必要不可欠な医薬品の原薬」等について、国内での安定供給を確保するため、供給リスクの低減に取り組む製薬企業等を支援する

2026年度厚生労働省概算要求26



なお2026年度には診療報酬改定が予定され「一定のプラス改定」が想定されています(関連記事はこちら)。

診療報酬、つまり医療費の財源の4分の1は国費であり、プラス改定をするには「相応の財源を確保し、予算に計上する」ことが必要です。

しかし、診療報酬改定率は「年末の予算案編成過程で政治的に決まる」ため、概算要求時点では具体的な金額を盛り込まない「事項要求」となっています。今後、年末の予算編成に向けて「どの程度の予算が必要となるのか」を財務省と厚労省で協議していくことになります。



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