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一定所得以上の後期高齢者で医療機関窓口負担を2割に引き上げ、線引きをどう考えるか―社保審・医療保険部会

2020.2.27.(木)

75歳以上の後期高齢者について、一定所得以上では医療機関の窓口負担(自己負担)を現在の「1割」から「2割」に引き上げる方向が示されているが、「一定所得」をどの程度と考えるべきか。高齢者の日常生活への影響なども考慮したうえで検討していく必要がある―。

2月27日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こういった議論が行われました。

2月27日に開催された、「第125回 社会保障審議会 医療保険部会」

全世代型社会保障検討会議が「後期高齢者2割負担」の方向を打ち出す

「医療技術の高度化」(代表的なものとして超高額な白血病等治療薬「キムリア」の保険適用などがあげられる)や「高齢化の進展」などにより医療費は増加を続けます。2022年度から、いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が75歳以上に到達することから、今後、さらに急速に医療費が増加していきます。その後、2040年度にかけて高齢者の増加ペースそのものは鈍化するものの、一方で支え手となる現役世代人口が急速に減少していきます。

「少なくなる支え手」で「増加する高齢者」を支えなければならず、公的医療保険制度の財政基盤は極めて脆くなっていきます。このため、医療保険制度における「給付と負担の在り方」に関する改革が急務となっているのです。

医療保険部会では、▼全世代型社会保障検討会議の中間報告に盛り込まれた「大病院における紹介状なし患者への特別負担徴収義務の拡大」など▼改革工程表に盛り込まれた「薬剤自己負担の引き上げ」、「医療費について保険給付率(保険料・公費負担)と患者負担率のバランス等を定期的に見える化しつつ、診療報酬とともに保険料・公費負担、患者負担についての総合的な対応」など▼その他の論点―を集中的に議論し、今夏(2020年夏)に意見とりまとめを行うことを1月31日の前回会合で確認。2月26日には、 全世代型社会保障検討会議の中間報告に盛り込まれ、これまでにも各所で議論されてきている「後期高齢者の医療機関窓口負担の在り方」を議題としました。

後期高齢者の医療機関窓口負担は、現在、所得に応じて次のように区分されています。

(1)【現役並み所得】(課税所得145万円以上かつ年収約383万円以上等)[後期高齢者の約7パーセント]
3割負担(暦月の自己負担上限は収入に応じて8万100-25万2600円+(医療費-26万7000-84万2000円)×1%、多数回該当:4万4400-14万100円)

(2)【一般】(課税所得145万円未満、年収約155-383万円)[同53%]
1割(同5万7600円、外来上限・月額1万8000円(年14万4000円))

(3)【低所得II】(住民税非課税、年収約80-155万円)[同23%]
1割(同2万4600円、同8000円)

(4)【低所得I】(住民税非課税(所得がない者)、年収約80万円以下)[同18%]
1割(同1万5000円、同8000円)

後期高齢者の現在の医療機関等窓口負担(医療保険部会1 200227)



この点、全世代型社会保障検討会議は、中間報告の中で、現行の「1割負担」を「一定所得以上は2割」に引き上げる方針を提示((1)の現役並み所得者については現状どおり3割を維持)。医療保険部会において、▼施行時期(遅くとも、団塊の世代が後期高齢者となり始める2022年度には実施する)▼2割負担となる高齢者の所得基準▼長期にわたり頻繁な受診が必要な患者の生活等に与える影響を踏まえた配慮―を検討するよう指示しています。

この方針に沿えば、少なくとも低所得者とされる(3)と(4)については「1割」を維持し、(2)の「一般」について▼一部(高所得者)を2割とする▼すべてを2割とする―ことなどが考えられるでしょう。

医療保険部会では、この全世代型社会保障検討会議の方針そのものについて「やむを得ない」との方向が態勢を占めています。後期高齢者(75歳以上)と若人(74歳未満)とで実効負担率を比較すると、前者では相当程度小さいことが分かり、「世代間の公平性確保」が必要との判断でしょう。もっとも具体的な制度設計に関してはさまざまな意見が出ています。

後期高齢者では若人世帯に比べて、自己負担・保険料の負担割合が小さい(医療保険部会2 200227)



例えば、医療費の負担者サイドに立つ佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)や藤井隆太委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)は、「(1)の『一般』について、原則として2割に引き上げるべき」と指摘。2割負担の対象を限定すれば「医療費適正化効果も限定定期なものとなってしまう」とコメントしています。また一部に「1割から2割へ引き上げれば自己負担は2倍になる」との指摘がありますが、これには「高額療養費による自己負担上限が設定されており、一律に、また単純に2倍の自己負担になるわけではない」とも指摘しました。

これに対し、兼子久委員(全国老人クラブ連合会理事)や松原謙二委員(日本医師会副会長)は、「自己負担引き上げに、医療費適正化効果はあるのだろうか」「1割から2割への引き上げで、高齢者の生活は厳しくなってしまう」ことなどを挙げ、「原則1割負担」とし、「余裕のある人について2割負担を導入すべき」と反論。

この点、安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)らは「詳細なシミュレーションを行い、それを踏まえて議論することが必要」と提案しています。例えば、「課税所得●万円以上の人を2割負担とした場合、対象者はどの程度となり、医療保険財政への影響はどの程度となるのか」などを数パターン用意するイメージでしょう。

また、そこで重要になるのが「1割から2割への負担引き上げが、後期高齢者の日常生活にどのような影響を与えるか」という点です。高齢になれば医療機関にかかる頻度がどうしても高くなります(これが高齢者医療費の高さの主因である)。「医療費自己負担のために日常生活を送れなくなる」「医療費自己負担が重すぎ、必要な受診を控えてしまう」ようなことは好ましくありません。この点に関して、石上千博委員(日本労働組合総連合会副事務局長)や菅原琢磨委員(法政大学経済学部教授)らは「高齢者は同じ年齢であっても、所得等の幅が非常に広い。平均だけで考えるのではなく、分布も考慮した検討が必要である」と指摘しています。どのような分析が可能となるのか、厚労省内部で検討が進められることでしょう。

なお、現在、70-74歳の前期高齢者の医療費自己負担(窓口負担)はすでに「2割」となっています。このため、新たに75歳以上となる人を対象に「2割負担」とすれば、個人単位では「負担増」とならずに「後期高齢者の医療費自己負担2割」を導入することができます。この点も加味して、どのような制度設計とするのかを今後、具体的に医療保険部会で詰めていくことになります。

現役並み所得のある後期高齢者では3割負担、その基準値をどう考えるか

関連して医療保険部会では、(1)の「現役並み所得者」の基準値をどう考えるかも検討テーマにあがりました。

現在は上述したように2つの基準を組み合わせて「現役並み所得者」を設定しています。
▼課税所得145万円以上:協会けんぽの平均所得者と同程度の水準に設定(下の上図)
▼年収約383万円以上(単身世帯、夫婦2人世帯では520万円以上):高齢者では所得構造のバラつきが大きく(年金中心、給与所得中心など)、それを補正する意味を持つ(下の下図)

協会けんぽ(旧、政管健保)加入者の平均所得と同水準の課税所得(各種控除を除く)のある者が「現役並み所得者」のベースとなる(医療保険部会3 200227)

後期高齢者の所得構成には大きな差があり、課税所得だけで判断すると不公平が生じてしまう(同じ年収でも1割負担者と3割負担者が生じてしまう)(医療保険部会4 200227)



この基準値が妥当であるのか(現役世代の給与動向を踏まえたうえで妥当であるのか、また後期高齢者の中で公平性が担保されているのか)を医療保険部会で探っていきます。

なお、現役並み世帯の基準値が下がれば、3割負担の対象者が増加します。この点、佐野委員らは「現役並み所得の後期高齢者では、医療費について公費負担がなされない。このため、本来であれば50%であるはずの公費負担割合は、現実には47%になっており、単純計算で5000億円程度(50-47の3%に相当)を現役世代が負担している格好だ。現役並み所得の対象者が増えた場合に、現役世代の負担が増加しないような仕組みを検討すべき」と要請しています。

現役並み所得者には公費投入されないことから、公費負担割合は5割よりも少なく、その分を現役世代の支援金等で補填する格好となっている(医療保険部会5 200227)



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