看護必要度B項目の記載方法を見直し、特定機能病院では回リハ病棟の届け出を認めない―中医協総会(2)
2019.12.13.(金)
看護必要度B項目について、「患者の状態」と「介助の有無」の2軸での記載を求めることとする―。
また特定機能病院について、今後は【回復期リハビリテーション病棟入院料】の届け出を認めないこととする―。
12月13日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こうした方向が固められました。
また特定機能病院については、「フォーミュラリ作成・維持体制の評価」を試行的に行ってはどうかという論点が提示されましたが、賛否両論が出ており、方向は固まっていません。
なお、支払側からは「特定機能病院の重症患者割合(28%・23%以上)の厳格化を求める」声が出ており、今後の「重症度、医療・看護必要度」見直し論議の中で1つの検討テーマとなります。
目次
看護必要度B項目、「患者の状態」と「介助の有無」の2軸での記載に
2020年度の次期診療報酬改定に向けて、中医協総会では「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」(HBOC)対応の方針を決めるとともに、「入院医療その5」として▼重症度、医療・看護必要度の記録▼特定機能病院に係る評価▼地域の実情を踏まえた対応について▼その他の事項―について議論を行いました。まず本稿では、▼重症度、医療・看護必要度の記録▼特定機能病院に係る評価―に焦点を合わせてみます。
前者の「重症度、医療・看護必要度」(看護必要度)については、患者の状態をみる「B項目」の見直し方向が議論されています。
看護必要度B項目については、▼「患者の状態」を評価する項目と、「介助実施の有無」を評価する項目が混在している▼根拠資料を求められることがあり、現場の負担を重くしている―との課題が指摘されます。
まず前者については、例えば「寝返り」では▼できる(ゼロ点)▼何かにつかまればできる(1点)▼できない(2点)―と患者の状態を評価していますが、「移乗」では▼介助なし(ゼロ点)▼一部介助(1点)▼全介助(2点)―と介助の手間を見ています。両者が混在することによって「B項目は何を評価しているのか」が見えにくくなっているとも言え、厚労省保険局医療課の森光敬子課長は「患者の状態」と「介助の実施」に分けて評価してはどうかと提案しました。下部組織である入院医療分科会の議論を踏まえたものです。
具体的には、現在「介助の実施」で評価している▼移乗▼口腔清潔▼食事摂取▼衣服の着脱―の4項目について、「自立しているのか、介助が必要なのか」という評価軸と、「介助が行われているのか、いないのか」という評価軸で見ていくことになります。
例えば「移乗」については、現在は上述のように▼介助なし(ゼロ点)▼一部介助(1点)▼全介助(2点)―と評価されます。これが、見直し後には▼自立・介助なし(ゼロ点)▼自立・介助あり(ゼロ点)▼一部介助が必要・介助なし(ゼロ点)▼一部介助が必要・介助あり(1点)▼全介助が必要・介助なし(ゼロ点)▼全介助が必要・介助あり(2点)―と評価することになります。「自立・介助あり(ゼロ点)」という評価が実際に行われるのかははなはだ疑問ですが、その場合でも得点は「ゼロ点」となり、現在と評価得点が上下することはなさそうです。
もっとも森光医療課長は、併せて「根拠資料を不要とする」考えも示しています。現場看護師の「極めて大きな負担感」に配慮した格好ですが、「根拠資料が不要になったので、緩めに記録する」(極論すれば、介助をしていないのに「介助あり」と記載する)ことなどがあってはいけません。プロフェッショナルの目で、適切に患者の状態・介助の有無を記録することが必要です。
こうした提案に対し、診療側委員・支払側委員ともに「賛意」を示しています。なお、ICU(特定集中治療室)・HCU(ハイケアユニット)用の看護必要度B項目でも同様の見直しが行われます。
特定機能病院、【回復期リハビリ病棟入院料】の届け出は不可に
特定機能病院について森光医療課長は、まず「届け出ることのできる入院基本料・特定入院料の範囲について、その位置づけや有する機能・体制等を踏まえて見直す」考えを示しました。
特定機能病院は、▼高度医療の提供▼高度医療技術の研究開発▼高度医療に関する教育研修の実施―という3機能を併せ持つ病院として、厚生労働大臣が個別に承認しています。当然、厳しい要件(通常の2倍以上の医師配置、10対1以上の看護配置、16の診療科設置など)が設けられ、例えば、「大学病院の本院」や「国立がん研究センター中央病院・東病院」「がん研究会有明病院」「国立国際医療研究センター」など、我が国を代表する病院が名を連ねています。
しかし、一部の特定機能病院では「回復期リハビリテーション病棟」が設置されています(厚労省は3病院程度を把握)。もちろん違法であるはずもなく(下図表のとおり届け出は可能)、早期から濃密なリハビリテーション実施は状態改善に資するために好ましいのですが、「なぜ特定機能病院でありながら、看護配置の手薄い回復期リハビリテーション病棟を設置しているのか」という疑問がわきます。
例えば、特定機能病院では、回復期リハビリテーション病棟(15対1看護以上)よりも看護配置の手厚い地域包括ケア病棟(13対1看護以上)の設置は認められていません。特定機能病院の機能に照らし「地域包括ケア病棟設置は好ましくなく。そうした医療は別病院で実施すべきである」と判断されたためです。
こうした状況を踏まえて、特定機能病院では「回復期リハビリテーション病棟の設置を認めない」(【回復期リハビリテーション病棟入院料】の届け出を不可とする)ことになりそうです。こうした方向に異論は出ていませんが、診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は「個々の病院が、どういった理由で回復期リハビリテーション病棟を設定しているのか調べてみる必要がある」と注文を付けています。
もちろん、早期からのリハビリテーション実施は非常に重要であり、診療報酬上も【ADL維持向上等体制加算】が設けられています。森光医療課長が問題視しているのは「リハビリテーションの実施」ではなく(これは積極的に進めるべき)、「看護配置の薄い回復期リハビリテーション病棟の設置」である点を誤解してはいけません。
今後、「経過措置を設けるのか」など具体的な部分を詰めていくことになります。
特定機能病院におけるフォーミュラリ体制の試行的評価、診療側委員は「時期尚早」
また森光医療課長は、いわゆる「フォーミュラリ(院内使用ガイド付きの医薬品集)」を作成し、維持する体制について、特定機能病院を対象として「試行的に評価してはどうか」との提案も行いました。
フォーミュラリとは、医療機関等が作成した「医学的妥当性や経済性などを踏まえた医薬品使用方針」のことで、「●●疾患には第1選択としてA医薬品(特定の銘柄や成分)を使用する」といったリストのイメージです。一部の病院ですでに導入されており、例えば浜松医科大学病院では「インフルエンザ患者(成人かつ重症でない)には、第1選択として『ゾフルーザ』ではなく、『オセルタミビル』(タミフルの後発品)を用いる」などの指針を作成しています。また山形県酒田市の地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」では、地域の病院・診療所・薬局を巻き込んだ、いわば「地域版フォーミュラリ」の作成も進んでいます(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
こうしたフォーミュラリを作成・活用することで、「医療の標準化による質の維持・向上」「後発品使用促進や医薬品の銘柄統一による購入コスト削減などに伴う経営の安定化」「医師の負担軽減」などの大きなメリットが得られますが、その作成にあたっては医師・薬剤師などの知見を総動員する必要があり、また日々進化していく薬剤情報を踏まえた更新も必要となり、医療機関にとっては「大きな負担」となります。
そこで、「まず特定機能病院において、フォーミュラリの作成・維持体制を試行的に評価し、その結果を踏まえて一般病院等への拡大を検討していく」方針を森光医療課長は示したのです。この提案には、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)と診療側の有澤賢二委員(日本薬剤師会常務理事)が強く賛意を示し、「例えば、【後発医薬品使用体制加算】の中で、フォーミュラリの作成・維持体制確保を要件化することなどが考えられる」と具体的な提案まで行いました。
これに対し、診療側の松本委員や今村聡委員(日本医師会副会長)、城守国斗委員(日本医師会常任理事)、島弘志委員(日本病院会副会長)は、「フォーミュラリを作成し医療の標準化を進めていく」方向そのものは極めて重要であり、推進していくべきとしたものの、▼作成プロセス等の標準化がなされていない(どういった組織で、どういった職種が作成に関与するのかなど)▼運用ルール等も明確になっていない(どこまで拘束力を持たせるのかなど)―状況で「診療報酬による評価は時期尚早ではないか」と反対しています。幸野委員と同じ支払側の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)も診療側委員と同じ見解を示しています。
12月13日の中医協では、このように診療側・支払側の立場を越えて、「フォーミュラリ体制の評価」に向けた賛否が入り混じっており、また、支払側が「体制の評価」を求め、診療側が「データの蓄積を待つべき」と慎重姿勢を見せるなど、通常とは逆の展開が続いています。また第1ラウンドでのフォーミュラリの評価に関する議論とも少し様相が変わってきており、2020年度診療報酬改定での導入に向けた道筋はまだ固まっていません。今後、どう調整が進むのか注目を集めます。
この点、診療側の今村委員は「特定機能病院は多くの医師が『医療の初歩』を学ぶ場であり、そこで特定の薬剤のみを推奨する環境を整備してよいのか検討する必要がある。同じ成分・銘柄であっても、個々の患者で効果や副作用の発現状況は異なることをしっかりと学ばなければならない。そうした大事な時期に、経済的な要素で医薬品使用制限をすることについて十分に検討する必要がある」とも付言しており、重要な視点と言えるでしょう。
なお、特定機能病院の「重症患者割合の基準値」(看護必要度満たす患者割合の基準値)について、幸野委員は「28%(評価票による看護必要度I)・23%(DPCデータのEF統合ファイルによる看護必要度II)と設定されているが、急性期一般3と同程度である。我が国の医療の砦となる病院にとって、低すぎる数値である。引き上げに向けた検討を進めるべき」と提言しました。今後、「一般病棟用の看護必要度」の項目等見直しの中で、特定機能病院における「重症患者割合の基準値」も検討テーマに据える考えを森光医療課長は示しています。
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