診療所敷地内で不動産賃貸借関係のある薬局、調剤基本料を引き下げ―中医協総会(3)
2019.12.5.(木)
診療所敷地内にあり不動産賃貸借関係のある薬局について、病院敷地内薬局のように調剤基本料を引き下げる―。
12月4日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こういった調剤報酬議論も行われています(12月4日の中医協総会に関する記事はこちらとこちら)。
処方箋集中率が特に高い薬局の基本料をさらに引き下げ
2020年度の次期診療報酬改定では、「調剤報酬の見直し」が大きな論点となっています。これまでにも中医協総会で議論が進んでいますが、12月4日には▼調剤基本料▼かかりつけ薬剤師・薬局の評価を含む対人業務―に焦点を合わせました。
前者の調剤基本料は、「医薬品の備蓄(廃棄、摩耗を含む)等の体制整備に関する経費」を評価したもので、薬局経営の「効率性」を踏まえ、▼処方箋集中率の⾼さ▼処方箋の受付回数―の2軸で5区分に設定されています。例えば、いわゆる門前薬局では「処方箋集中率が高い」ことから、備蓄品目数が少なくすみ、効率的な経営が可能なため、低い調剤基本料の設定となっています。
この点、厚生労働省保険局医療課の田宮憲一薬剤管理官は、次のように課題と対応策(案)を整理しました。
【課題】処方箋集中率が⾼くなるにつれて医薬品の備蓄品⽬数が少なくなり、集中率95%以上では特に少ない
→【対応策】(案)「特定の医療機関から処⽅箋を多く受け、かつ、⼀定程度の処⽅箋の受付枚数がある薬局の評価を見直す(引き下げる)」
【課題】診療所敷地内の薬局の損益率が⾼かった
→【対応策】(案)「診療所の敷地内にあり、不動産の賃貸借等の関係にある薬局の評価を⾒直す(引き下げる)」
この方向に反対意見は出ていませんが、有澤賢二委員(日本薬剤師会常務理事)は「さらなる細分化(6区分・7区分にするなど)は好ましくない」と注文を付けています。また今村聡委員(日本医師会副会長)は「医療機関敷地内の薬局に、他院からの処方箋を持ち込むケースは極めて少ないであろう。診療所敷地内薬局では、処方箋集中率要件は不要であろう」との考えを示しました。
また、いわゆる「大規模薬局チェーン」については、2019年の医療経済実態調査(医療機関等調査)で「より小規模店舗の薬局と、損益率に大きな差はない」ことが判明(競争環境が激化か)しており、さらなる基本料の切込みが行われるかは微妙です。
かかりつけ薬剤師の推進に向けた報酬見直しも
また「患者がどの医療機関を受診しても、身近な薬局(かかりつけ薬局)で処方薬を調剤してもらうような体制を組んでいくべき」との提言『患者のための薬局ビジョン』(2015年10月23日)に沿って、診療報酬改定でも「かかりつけ薬局・薬剤師への移行推進」が目指されています。「対物」業務から「対人」業務への移行を積極的に促すものです。
具体的には、2016年度の前々回改定で【薬剤服用歴管理指導料】を、▼かかりつけ薬剤師・薬局が指導・管理を行う場合の【かかりつけ薬剤師指導料】【かかりつけ薬剤師包括管理料】に▼かかりつけ薬剤師・薬局以外が指導・管理を行う場合の【薬剤服用歴管理指導料】―に組み換える、などの見直しが行われました。
田宮薬剤管理官は、「かかりつけ薬剤師・薬局について、対物業務から対人業務への転換の観点等も踏まえた評価」の在り方を論点の1つに掲げており、より点数にメリハリをつけることになりそうです。
また【薬剤服⽤歴管理指導料】は下表のように、▼調剤基本料はどの区分を取得するか▼「6か月以内の再度の来局」か、それ以外か▼お薬手帳を持参したか―によって点数が区分されています。
このうち、調剤基本料1を取得する薬局において、「6か月以内の再度来局」であり「お薬手帳」を持参した患者については、通常よりも【薬剤服用歴管理指導料】が低く(41点)設定されています。患者負担が小さくなる(通常53点が41点で安くなる)ことで、患者が「この薬局をまた利用しよう」と考えることを期待するものです。
この点、田宮薬剤管理官は「患者が同じ薬局を繰り返し利⽤することを推進する」(つまり「かかりつけ」になる)ことなどを目指し、▼再度の来局の期間を6か⽉から⼀定程度短縮する▼【調剤基本料1】算定の場合のみ低い点数が設定されているが、他の基本料にも広げる―ことを提案しました。
この提案には賛成する意見もありますが(有澤委員)、「調剤基本料1以外には拡大すべきではく、再度来局期間を短縮するなら点数も引き下げるべき」(松本吉郎委員:日本医師会常任理事)や「そもそも、この仕組みで患者が『この薬局を選択しよう』と考えるだろうか、抜本的な見直しが必要ではないか」(間宮清委員:日本労働組合総連合会「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)などの意見も出ています。
なお、関連して▼お薬⼿帳に「患者が普段利⽤する薬局の名称等を記載する」取り組みを進める▼患者が異なる医療機関からの複数の処⽅箋を同時に薬局に提出した場合等について、同じ薬局を患者が繰り返し利⽤することを推進する観点等から、調剤基本料の算定回数を1回とする(下図)―ことも提案されています。後者には「薬局の負担が異なり、丁寧な検討が必要」(有澤委員)との注文がついており、さらに検討が深められる見込みです。
喘息患者への吸入器指導など、中医協委員は評価に慎重な構え
さらに田宮薬剤管理官は、薬局の実態を踏まえた評価の充実を提案しましたが、中医協委員からは少なからず「異論」「反論」が出ており、さらなる調整が必要な状況です。
▽【提案】初めて吸⼊薬を使⽤する喘息患者や処⽅薬が変更になった喘息患者等に対して、デモ機も⽤いつつ、必要な吸⼊指導を⾏った場合を評価してはどうか
→「薬剤師の本来業務、当然の業務である」(松本委員、支払側の吉森俊和委員:全国健康保険協会理事)、「医師の特別の指示に基づいて薬剤師が吸入指導を行う場合に限定すべき」(今村委員)などの反論多数
▽【提案】簡易懸濁法を開始等する在宅患者に対し、医師や家族等からの依頼に基づき、薬剤師による薬剤選択の提案、家族等に対する簡易懸濁法の説明・指導を⾏った場合を評価してはどうか(必要に応じて患者の状況等を医師や看護師等に情報提供することが前提)
→「従前から行われている業務である。在宅療養患者の医薬品使用における選択肢増加は良いことだが、選択は医師・訪問看護師・ケアマネジャーなどと十分に相談のうえで行うものであり、新たな評価には疑問がある」との慎重意見(松本委員)
▽【提案】糖尿病等の患者で、処⽅薬の種類や⽤法・⽤量等が変更になった場合について、調剤後に電話等により服用上の注意等について改めて指導等を⾏った場合を評価してはどうか(必要に応じて結果を処方医に情報提供)
→「処方変更・調剤変更の時点で注意点は説明しており、評価の必要性が明らかでない」(松本委員、今村委員ら)
▽【提案】患者の⾎液・⽣化学的検査の結果を活⽤し、医師への疑義照会により、患者の処⽅薬の⽤法・⽤量の最適化が⾏われた場合の評価を拡充してはどうか
→「医師・患者・薬剤師の信頼関係構築が前提となり、検査結果を薬剤師に見せたか同課で評価を区別する必要はない」との慎重意見(松本委員)
また診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)は、「薬剤師の本来的な業務を、細かく区分けして評価しているように感じる。これでは調剤医療費が膨らむ一方である。本来は、新たに業務を拡大したり、複雑な業務が発生したりした点について、指標を設け、そこに報酬をつけるのが筋である」と述べ、上記提案は慎重に検討すべきと釘を刺しています。
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