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新医療技術の恩恵を受ける国民を対象に「いくらまで支払えるか」を調査—中医協・費用対効果専門部会

2017.7.12.(水)

 医療技術の費用対効果を評価する指標を定めるために「国民が健康のためにどの程度の費用を支払ってもよいと考えるか」(支払い意思額)を調べますが、12日に開催された中央社会保険医療協議会の費用対効果評価専門部会では、委員から調査手法についてさまざまな意見が出されました。

 なお専門部会では今夏にも、費用対効果評価の制度化(本格導入)に向けた中間とりまとめを行うため、次回会合で関係団体からのヒアリングを行うことにしています。

7月12日に開催された、「第43回 中央社会保険医療協議会 費用対効果評価専門部会」

7月12日に開催された、「第43回 中央社会保険医療協議会 費用対効果評価専門部会」

国民を対象とした「いくら支払えるか」の調査に、中医協委員は異論

 医療技術の費用対効果評価は、概ね次のような手順で行うことが固まっています(関連記事はこちらこちら)。

(1) 医薬品・医療機器・高額な医療機器を用いた医療技術を保険収載する(一度、償還価格を決定する)(関連記事はこちらこちら

(2)医薬品・医療機器メーカーなどが費用と効果(質調整生存年:QALYを基本とする)に関するデータと分析結果を提出し、公的な専門体制の下でそのデータを再分析する

(3)中医協の費用対効果評価専門組織で「総合的評価」(アプレイザル)を実施する(関連記事はこちらこちら

(4)薬価算定組織・保健医療材料専門組織で費用対効果評価結果に基づいて、(1)の償還価格について調整を行う(関連記事はこちらこちら

新薬などは一度保険収載を行い(薬価などを設定)、後に費用対効果評価を行い、その結果を価格に反映(価格調整)する

新薬などは一度保険収載を行い(薬価などを設定)、後に費用対効果評価を行い、その結果を価格に反映(価格調整)する

 
 このうち(3)の「総合的評価」では、当該医療技術の費用対効果が良いのか悪いのかを判断しますが、その際の基準として「国民が健康のためにどの程度なら支払ってもよいのか」(支払い意思額)を用いることになっています。診療報酬や医薬品・医療材料の費用は、医療保険の財源で賄われ、また新規医療技術の恩恵を受けるのは、我々日本国民自身であるからです。費用対効果評価の結果が、日本国民の多くが「支払ってもよい」と考える金額よりも低廉であれば「費用対効果が良い」と判断する、といったイメージです。

ただし「健康のために支払ってもよい」と考える金額は、国民1人1人で異なります。そこで、多くの国民を対象に「支払ってもよい」と考える金額を調査し、例えば「●円であれば80%の国民が支払ってもよいと考えている」「◆円になると、国民の60%が支払ってもよいと考える」「▲円となると、30%の国民しか支払ってもよいと考えない」といったデータを積み上げ、受諾確率曲線というグラフを描きます。このグラフに沿って、「医療技術の費用対効果が●円以下であれば多くの国民が支払ってもよいと考えるので『費用対効果が良い』と判断し、▲円以上であれば、ごく一部の国民しか支払ってもよいと考えないので『費用対効果が悪い』と判断する」ことになります。

ICERの値を支払い意思額調査に基づく受託確率曲線に照らし、費用対効果の良し悪しを判断する

ICERの値を支払い意思額調査に基づく受託確率曲線に照らし、費用対効果の良し悪しを判断する

 
12日の専門部会では、この「健康のために支払ってもよい」と考える金額の調査手法について、具体的な内容が厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨企画官から紹介されました。

調査は、全国100の市町村で、性・年齢に偏りが生じないように3000人を抽出し、「ある人が病気にかかっており、死が迫っています。しかし、この病気に対する新しい治療法が開発されました。そのためこの治療を受ければ、完全に健康な状態で1年間だけ寿命を延ばすことができます。この治療法の費用を公的医療保険から支払おうと考えています。治療全体で一人○円ですが、この費用を公的医療保険で支払うべきだと思いますか?」と問う形で行われます(例えば「10万円なら支払ってもよいか」を問い、よいと答えた人にはさらに「15万円ならどうか」と、よくないと答えた人には「では7万円ならどうか」と問うイメージです)。この○円(例で言えば10万円、15万円、7万円の数字)は複数パターン用意され、「一体、日本国民はいくらまでなら支払ってもよいと考えるか」の実態を探っていきます。

国民が健康のためにいくらなら支払ってもよいと考えているかを調査する

国民が健康のためにいくらなら支払ってもよいと考えているかを調査する

 
また、収入や健康状態などによって「支払ってもよい」と考える金額が異なることも予想されるため、調査では▼収入▼最終学歴▼家族の状況▼健康状態(身体および精神)―なども併せて調べ、仮に「収入や健康状態などが金額に大きな影響を及ぼしている(分布に偏りがある)」場合には、一定の補正を行うことも検討されます。

この調査で得られた結果は、現在13品目を対象に行われている『試行』の結果を評価する際に用いられます(関連記事はこちら)。その後、多くの医薬品や医療機器などを対象に費用対効果評価は『制度化』(本格導入)されますが(関連記事はこちら)、その際の指標として「今回の調査結果を用いるのか、改めての調査を行うのか」などは、別途、検討されることになります。

しかし、この調査手法について委員からは多くの異論が出されました。支払側の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)は「死が迫っていると言えば、国民の多くは『金額は問わない』と答えるかもしれない。支払額が健康保険料に及ぼす影響なども丁寧に説明する必要があるのではないか」と指摘。同じ支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)も「国民の多くは医療保険制度も、その財政状況がどうなのかもしない。その答えをもとにしてよいのだろうか」と疑問を提示しました。診療側の松本純一委員(日本医師会常任理事)も同様の見解を述べています。

このように委員から十分な納得が得られていない状況を見て、眞鍋企画官は「調査方法について委員の指摘・疑問に答えられるよう改めての整理を行う」考えを示しています。

ただし、中医協委員の「多くの国民が医療保険制度を理解していない」というのは事実と考えられますが、仮に3000人に「詳細な医療保険制度の説明を行い、十分な理解を得られた」(あるいは医療保険制度に詳しい人を3000人抽出する)として、その後に得られる答えが「国民全体の意思を反映している」と言えるかについては別の疑問も生じます。新規の医療技術の恩恵は国民全体が受けるものであり、医療保険制度は「制度に詳しい人から、あまり知らない人」を含めた国民全体で支えている仕組みです。となれば「医療制度を十分に理解している人から、まったく知らない人まで含めて調査を行い、その結果を費用対効果評価に用いる」という今回の調査手法には相当程度の妥当性・合理性があるとも考えられます。今後の専門部会の議論に期待が集まります。

 
なお、12日の専門部会で、費用対効果評価に関する全体の議論が一通り済んだ(対症品目や除外品目の考え方、評価手法、評価結果の反映方法など)ことから、眞鍋企画官と厚労省保険局医療課の迫井正深課長は「次回の専門部会で、関係団体(製薬メーカー団体、医療機器メーカー団体、卸業団体)からヒアリングを行う」考えを示しました。上記のとおり「支払い意思額調査」には委員の納得・了承が得られていませんが、制度の枠組みに関する議論は別に進める必要があるためです。

 
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