現行の激変緩和措置は廃止するが、対象期限つきの新たな緩和措置を設定—DPC評価分科会
2017.7.19.(水)
DPC制度において暫定調整係数の機能評価係数IIへの置き換えが完了することに伴い、現行の激変緩和措置は廃止する。ただし、制度改定に伴い報酬が激変するDPC病院が生じる可能性があるため、期限(例えば改定後1年間)を設けた新たな緩和措置を設定してはどうか―。
19日に開催された診療報酬調査専門組織・DPC評価分科会では、こういった方針が厚生労働省から提案されました(関連記事はこちらとこちら)。
またI群・II群病院について「機能評価係数IIの重み付け見直し」を検討しますが、これに伴う医療機関群の選択については2018年度診療報酬改定では実施しないことが決まりました。
目次
現行の激変緩和措置は、激変緩和の「循環」を生んでいる
DPCの(暫定)調整係数については、基礎係数・機能評価係数IIへの置き換えが段階的に進められています。この置き換えによって収入に大きな変動が生じる医療機関があるため、病院経営の安定を考慮した激変緩和措置が講じられています。具体的には、改定の前後で診療報酬収入がプラスマイナス2%を超えて変動しないように医療機関別係数を調整するものです。2018年度改定ではこの置き換えが完了するため、「現行の激変緩和措置は廃止する」ことが決まっています(関連記事はこちらとこちら)。
もっとも、置き換え完了後も制度改正などによって報酬が大きく変動してしまうDPC病院もあると考えられます。これを放置すれば安定した病院経営が阻害され、地域医療にダメージが及ぶ可能性もあるため、厚労省は「2018年度以降の改定でも、推計診療報酬変動率をベースにした一定の緩和措置が必要」との考えを示しています。
ところで、厚労省の分析によれば、マイナス緩和措置(改定前に比べて収入が大きく減少してしまう場合の救済)対象病院においては、2012年度改定時の暫定調整係数が高いことが分かりました。調整係数は2012年度改定以前は、事実上『DPC参入前の報酬水準』(つまり出来高時代の報酬水準)を維持できるように設定されていました。さまざまなケースがありますが、(暫定)調整係数を機能評価係数IIに置き換える中で、十分な機能を果たしてない病院では報酬が大きく減少するため、激変緩和措置が行われ、これが毎回の改定で積み重ねられ今に至っていると考えられます。
例えば、▼2010年度にDPCに参加し、2009年度の出来高報酬を維持するように調整係数を設定→▼2012年度改定で25%を機能評価係数IIに置き換え、報酬減少を激変緩和措置で救済【A1の激変緩和を実施】→▼2014年度改定で50%を機能評価係数IIに置き換え、A1で上乗せした報酬からの減少を激変緩和措置で救済【A1での上乗せ調整をベースに激変緩和A2を実施】→▼2016年度改定で75%を機能評価係数IIに置き換え、A2で上乗せした報酬からの減少を激変緩和措置で救済【A2での上乗せ調整をベースに激変緩和A3 を実施】―というイメージです。そもそもの2010年度の調整係数が、その後の激変緩和措置の循環によって、一定程度継続されていることが分かります。
このように、激変緩和措置の循環【Aの継続】が生じてしまう原因として厚労省は「改定前年度の診療報酬収入」と「改定年度の診療報酬収入」とを比較している点にあると分析しました。そこで、2018年度以降の新たな緩和措置においては、循環を断つために「緩和措置の対象期間に上限(例えば1年間)を設けてはどうか」と提案しています。
例えば2018年度に新たな緩和措置(ここでは1年間の上限)を行うとすれば、▼2018年4月から2019年3月は緩和措置に基づく医療機関別係数を設定【B】→▼2019年4月から2020年3月は緩和措置を除外した医療機関別係数を設定【C】―といったイメージです。
現行の激変緩和措置では、2020年3月まで【B】が継続され、「改定前のBを加味した高い報酬」と「改定後の報酬」とを比較するので、報酬に大きな変動が生じ、2020年度以降も激変緩和を行わなければいけなくなります。しかし、厚労省の新提案では2019年4月以降【B】は継続されないため、「改定前のBを加味しない報酬」と「改定後の報酬」とを比較することになり、報酬変動は上記より小さくなり、激変緩和の循環を断ち切れるケースが多くなると考えられます。
こうした提案について、石川広己委員(千葉県勤労者医療協会理事長)らは「これだけの資料では判断できない、具体的なケースを示し、病院経営の安定を確認したい」と述べ、態度を保留しています。病院によって事情はさまざまであり、あるケースを他の病院に適用することは困難です。厚労省が、今後どのような資料を提示するのか注目が集まります。
重症度係数は廃止、重症患者評価は診断群分類の精緻化で対応
ところで2016年度の前回改定では、いわば激変緩和措置の一環として重症度係数が機能評価係数IIに導入されました。マイナス緩和措置の対象病院では「DPC点数表などでは評価されにくい、重症の患者をより多く受け入れている」との考えに基づく仕組みです。
しかし、効率化・標準化を推し進めた病院などでは重症度係数がゼロと評価されるなど、医療現場の不満は大きく、19日の分科会で厚労省は「廃止する」方針を明らかにしました。もっとも重症度係数廃止により経営に大きな影響が出てはいけないので、前述の「新たな緩和措置」で対応を行うことになります。
この方針に明確な反対意見は出ていませんが、藤森研司分科会長代理(東北大学大学院医学系研究科公共健康医学講座医療管理学分野教授)は「入院患者の重症度評価を放棄してしまってよいのか」とコメントしています。この点、どう考えるべきでしょう。重症患者には医療資源投入量(コスト)が多くなるため、何らかの評価が必要とも思えますが、一方で低コストの軽症患者に対するマイナス評価は存在しません(必要との意見もない)。包括支払い方式であるDPCにおいては、重症患者の評価はDPC点数表の精緻化(CCPマトリックスの拡大や、副傷病名などの追加など)で対応することが本筋と言えそうです。
I・II群、効率性・複雑性・カバー率の重み付け変更を検討
19日の分科会では、機能評価係数IIの「重み付け」についても議論となりました。I群・II群病院では、等分評価となっている機能評価係数IIの各項目について重み付けを変えてはどうかという検討方向が示されています(関連記事はこちらとこちら)。
厚労省は、▼効率性係数▼複雑性係数▼カバー率係数—の3項目を対象に、重み付けに関する分析・検討を行う方針を示しています。この点、「効率性係数などを高く評価してさらなる強化を目指す」方向と、「効率性などはI群・II群では当然進めるものであり、これらを低く評価し、別の地域医療などの強化を目指す」方向の両方が検討されます。
なお、これに関連し「重み付けによって、II群病院の中にはIII群を選択したほうが有利であるケースもあり、その場合にはIII群選択を認めてはどうか」との論点がありましたが(関連記事はこちらとこちら)、厚労省は「制度改定内容が明らかでない時点で「III群が有利」といった判断を医療機関側が行うことは困難」と考え、見送ることを決めています。
病院情報のホームページでの公開、項目などの見直しを検討
なお、機能評価係数IIの保険診療指数(旧、カバー率指数)について次のような見直しを検討していく考えも示されています。
▼「部位不明・詳細不明コードの使用割合が20%以上の場合の減点」「未コード化傷病名の使用率が20%以上の場合の減点」などについては、実効的な規定(現在、減点対象はごくわずか)となるよう基準値を見直す【伏見清秀委員(東京医科歯科大学大学院医療政策情報学分野教授)は、平均+2SDを超える場合を減点対象にすることを提案】
▼病院情報の公表について、今秋の公表内容について臨床現場に合わせた一部見直し(診断群分類別患者数などについて上位5項目の症例とし、成人市中肺減の重症度分類をA-DROP方式による4段階表記とする)を行うとともに、「病院ホームページのトップページなどへの記載」を求めることや、項目追加などを検討する【石川委員は、患者・住民からみて病院の機能などを評価できる項目になっていないと指摘】
▼I群・II群の加点・減点規定(I群における指導医療官の派遣に関する加点や、II群における精神病床を備えない場合の減点)について、他の係数との整理や項目の見直しを検討する【指導医療官派遣については伏見委員や井原裕宣委員(社会保険診療報酬支払基金医科専門役)が廃止を提唱。II群の精神病床については福岡敏雄委員(大原記念倉敷週央医療機構倉敷中央病院総合診療科主任部長)が自院の経験から一定の評価を行った】
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