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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

同一建物減算により、かえって多数回の介護サービス利用が可能という不公平―会計検査院

2017.10.23.(月)

 有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の運営者が、同一建物に訪問介護事業所などを開設し、入居者に訪問介護を提供する事例が増えている。この場合、訪問介護費などの介護報酬は減算される(同一建物減算)が、その分、区分支給限度基準額の範囲内で多数回のサービス提供が可能となっており、保険給付の公平性が担保されていない。改善が必要である—。

会計検査院は10月19日、厚生労働大臣に宛ててこのような意見を表明しました(会計検査院のサイトはこちら)。同じ論点について社会保障審議会・介護給付費でも議論されており、2018年度の次期介護報酬改定で見直される可能性が高くなっています。

同一建物減算・区分支給限度基準額の趣旨踏まえ、公平性の担保を

会計検査院は、憲法第90条第1項に基づいて設置された組織で、内閣から独立して国の収支決算を検査し、国会に報告する権能を持っています。検査の中で「会計経理に関し法令に違反し、または不当であると認める事項がある」場合や、「制度または行政に関し改善を必要とする事項があると認める」場合などには、主務官庁などに改善を求めることができます(会計検査院法第30条の2ほか)。今回の提言もこの権限に基づいて行われたもので、政府は、提言を踏まえた施策改善に取り組むことになります。

訪問介護事業所などが、有料老人ホームやサ高住などと同一の建物に設置されている場合、同一建物入居者に訪問するために必要なコストが小さくなります。このため、介護報酬が一定程度減算されます(例えば訪問介護や訪問看護、訪問リハビリなどでは10%減算)。

各種の訪問・通所サービスについて同一建物居住者へサービス提供する場合の減算規定が準備されている

各種の訪問・通所サービスについて同一建物居住者へサービス提供する場合の減算規定が準備されている

 
ところで介護保険制度では、居宅サービスを利用するに当たり、1か月当たりの利用限度額(区分支給限度基準額)が設定されています。過度なサービス利用を抑制することが目的で、限度額を超過したサービスを利用する場合には、超過分が全額自己負担となります(混合介護が正面から認められている)。
区分支給限度基準額の概要

区分支給限度基準額の概要

 
両者を勘案すると、訪問介護を同一建物の事業所から利用すれば、計算上「訪問介護を11%増しの回数利用できる」ことになります。会計検査院の調査によれば、東京都や北海道などの「有料老人ホームなどに併設されている訪問介護事業所で、2015年4月において区分支給限度基準額の90%以上を利用している利用者がいる」65事業所・3155人のうち、54事業所・937人において「同一建物減算前の介護報酬に置き換えてみると、区分支給限度基準額を超過している」状況が明らかになりました。実際に、一部の同一建物減算対象者では、通常(減算非適用)と比べて多数回のサービスを利用していることが分かります。
同一建物減算の対象者では、そうでない利用者に比べて、多数回のサービス利用が可能となってしまっている

同一建物減算の対象者では、そうでない利用者に比べて、多数回のサービス利用が可能となってしまっている

 
会計検査院は、▼限度額は、要介護度ごとに標準的に必要と考えられる居宅サービスなどの種類・回数など勘案して設定されている▼同一建物減算は「移動などの労力が軽減されることを考慮する」趣旨である—ことを踏まえると、「同一建物減算の適用の有無により介護保険として利用できる訪問介護の回数に差違が生ずる」などの事態は、保険給付の公平性が確保されておらず、適切ではないと指摘。「同一建物減算の適用の有無で、利用回数に差異が生じない」ような措置をとるよう要望しています。

例えば同一建物減算の対象者であっても、「区分支給限度基準額の判定については減算前の介護報酬で計算する」ことなどが考えられます。この点について会計検査院では、東京都や北海道などの41市区町・1一部事務組合・1広域連合から2015・16年度のレセプトをもとに「同一建物減算前の介護報酬」への置き換えを行うと、区分支給限度基準額を超過し、同一建物減算適用によって保険給付対象が増加している利用者が19万5595人おり、上記の見直しを行うと26億4702万円の介護費が削減されると分析しています。

 
なお、この問題は8月23日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会でも論点になりました。厚生労働省老健局老人保健課の鈴木健彦課長はこうした不公平を是正する必要があるのではないかと提案。委員からも「不公平は好ましくない。区分支給限度基準額に係る費用の算定においては、減額前の報酬で計算すべき」との見解を示しており、2018年度の次期介護報酬改定での見直しは濃厚と考えられます。

 
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