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GemMed塾 2024年度版ぽんすけリリース

新設される「がんゲノム医療拠点病院」、中核病院なみの診療体制を敷きゲノム医療を自院で完結―がんゲノム医療拠点病院等指定要件ワーキング

2019.4.26.(金)

 新設される「がんゲノム医療拠点病院」の指定要件について、遺伝子情報を解釈するエキスパートパネル(専門家会議)設置などの診療体制面については「がんゲノム医療中核拠点病院」並びとし、人材育成などについては「がんゲノム医療連携病院」並びとする―。

 4月26日に開催された「がんゲノム医療中核拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ」(以下、ワーキング)で、こういった方向が概ね固められました(関連記事はこちら)。

 ただし治験や先進医療の実績(患者数など)については、「良質な医療の担保」(有害事象発生時の適切対応など)と「均てん化」との両面を踏まえ、どのような要件を設定するのかさらに議論されます。

4月26日に開催された、「第1回 がんゲノム医療中核拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ」

4月26日に開催された、「第1回 がんゲノム医療中核拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ」

 

がんゲノム医療提供、▼中核病院▼拠点病院▼連携病院―の3類型体制で推進

 ゲノム(遺伝情報)解析技術が進む中で、「Aという遺伝子変異の生じているがん患者にはαという抗がん剤投与が効果的、Bという遺伝子変異のある患者にはβとγという抗がん剤の併用投与が効果的である」などといった情報が明らかになってきています。こうしたゲノム情報に基づいた治療法選択が可能になれば、個々のがん患者に対し「効果の低い治療法を避け、効果の高い、最適な治療法を優先的に実施する」ことが可能となり、▼治療成績の向上▼患者の経済的・身体的負担の軽減▼医療費の軽減―などにつながると期待されます。

 我が国においても、産学官が一体的に「がんゲノム医療」を推進すべく、「がんゲノム医療推進コンソーシアム」(共同体)を構築。次のような流れで、がんゲノム医療を提供する仕組みが整ってきています(関連記事はこちら)。また、「多数の遺伝子の変異の有無を一括して検出する検査」(遺伝子パネル検査)が開発され、近く保険収載される見込みです(関連記事はこちら)。

(1)がんゲノム医療を希望する患者に対し、がんゲノム医療中核拠点病院等が十分な説明を行い、同意を得た上で、検体を採取する

(2)検体をもとに、衛生研究所などで「遺伝子情報」(塩基配列など)を分析し、「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT)に送付する

(3)がんゲノム医療中核拠点病院等は、あわせて患者の臨床情報(患者の年齢や性別、がんの種類、化学療法の内容と効果、有害事象の有無、病理検査情報など)をC-CATに送付する

(4)C-CATでは、保有するがんゲノム情報のデータベース(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験情報などの情報をがんゲノム医療中核拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)に返送する

(5)がんゲノム医療中核拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)において、当該患者に最適な治療法を選択し、これに基づいた医療をがんゲノム医療中核拠点病院等で提供する
がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議2 190308
がんゲノム医療拠点病院等指定要件ワーキング1 190426
 
 このような流れの中で、▼遺伝子検査等の実施▼エキスパートパネルによる遺伝子情報の解釈▼医療提供▼人材開発▼治験―などを実施する医療機関も整備が進んでおり、現在、次の2類型の「がんゲノム医療を提供する病院」が設けられています。

▽がんゲノム医療中核拠点病院(以下、中核病院):エキスパートパネルを設置し、そこでの解釈をもとに最適な抗がん剤治療を提供するとともに、がんゲノム医療に携わる人材の育成や治験等を実施する

▽がんゲノム医療連携病院(以下、連携病院):中核病院と連携しがんゲノム医療を提供する

 現在(2019年4月時点)、中核病院には国立がん研究センター中央病院や東京大学医学部附属病院、北海道大学病院など11施設が指定され、連携病院には都立駒込病院やがん研究会有明、聖路加病院など156施設が指定されています(関連記事はこちら)。
がんゲノム医療拠点病院等指定要件ワーキング2 190426

がんゲノム医療拠点病院等指定要件ワーキング3 190426
 
 11中核病院に設置されたエキスパートパネルでは、年間4000-5000症例(2018年秋時点)の遺伝子情報解析が可能ですが、患者のニーズはこれを大きく上回ると想定され、中核病院の負担が過重になる(さらには中核病院のキャパシティをオーバーする)と考えられます。そこで厚労省は、新たに、エキスパートパネル設置など、がんゲノム医療を自院で「完結」できる【がんゲノム医療拠点病院】(以下、拠点病院)の設置を決め、ワーキングで指定要件の検討を開始したのです。

 3類型のがんゲノム医療提供医療機関が整備されることとなり、これらの機能・役割は次のように整理できるでしょう。
▼中核病院:エキスパートパネル設置など、がんゲノム医療を自院で完結するとともに、人材育成等の機能も担う
▼(新)拠点病院:エキスパートパネル設置など、がんゲノム医療を自院で完結する(人材育成等については中核病院と連携)
▼連携病院:中核病院・拠点病院と連携して、がんゲノム医療を提供する

 
 また、それぞれの関係は次のように考えることができます。

▼がんゲノム医療の提供:「中核病院単独」「拠点病院単独」「中核病院または拠点病院+連携病院」
▼人材育成等:「中核病院と拠点病院での連携」「中核病院と連携病院での連携」

 連携病院では、がんゲノム医療の提供にあたり、現在は「1つの連携病院が複数の中核病院と連携する」ケースが多いようですが、エキスパートパネル負担の軽減・責任所在の明確化などに鑑み、「1つの連携病院は、主に1か所の中核病院または拠点病院と連携する」形への再編が進められます(病院間で協議して進める)。もちろん、抗がん剤投与など実際の治療については「●●がんはA中核病院と、〇〇がんがB拠点病院と連携する」ことなどが可能で、「エキスパートパネルに関しては主に1つの中核病院・拠点病院と連携し、実際の治療は実情に即した連携を行う」という形になることでしょう。
がんゲノム医療拠点病院等指定要件ワーキング4 190426
 

拠点病院、診療体制は中核病院並みに、人材育成は連携病院並みに設定

 このように、拠点病院では「自院でがんゲノム医療を完結できる」体制等が求められることから、ワーキングでは▼診療体制等については中核病院並みとする▼人材育成等は連携病院並みとする(人材育成機能等はもっぱら中核病院が担う)―という方針を確認しました。

 4月26日のワーキングには、厚労省から具体的な指定要件案も示されており、拠点病院では、次のような診療体制等を敷くことが必要となりそうです。なお、中核病院・連携病院の指定要件について、現場の実態等を踏まえた修正も行われる見込みです。

▽遺伝子パネル検査を実施(外部機関との連携を含む)する体制として、例えば、▼第三者認定を受けた臨床検査室・病理検査室の設置(2022年3月までは経過措置)▼病理検査室に病理学の専門的知識・技術を持つ常勤医師の複数配置(うち2名以上がエキスパートパネルの構成員)―などが必要

▽エキスパートパネルを月1回以上開催し、その構成員は▼がん薬物療法に関する専門的な知識・技術を持つ、診療領域の異なる複数の常勤医師▼遺伝医学に関する専門的な知識・技術を持つ医師▼遺伝医学に関する専門的カウンセリング技術を持つ者▼病理学に関する専門的な知識・技術を持つ複数の常勤医師▼分子遺伝学・がんゲノム医療の十分な知識を持つ専門家▼次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析等に必要なバイオインフォマティクスの専門家(自前で遺伝子パネル検査をする場合は必須、外部委託の場合は配置が望ましい)▼対象患者の主治医等―とする

▽遺伝性腫瘍等の患者へ専門的な遺伝カウンセリングを実施するために、複数の診療科と連携した遺伝カウンセリング部門の設置し、その構成員は▼長となる常勤医師▼遺伝医学に関する専門的な知識・技術を持つ医師(1名以上がエキスパートパネルに参加)▼遺伝カウンセリングの専門家(同)―を配置する。また遺伝性腫瘍にかかる遺伝カウンセリング・遺伝学的検査を年間10名程度に実施することが必要

▽「がんゲノム医療に関するデータ」(遺伝子パネル検査の結果や臨床情報など)を管理する部門を設け、患者の同意の下で、適切にC-CATにデータ登録できる体制などを整えていることなどが必要

▽医療安全管理部門を設置し、専任の医師・薬剤師・看護師を適切に配置することが必要

▽がんゲノム医療の統括部門を設置し、患者・家族に適切に情報提供できる体制などを整えていることが必要

 
 また人材育成については、連携病院と同じく「中核病院と連携して、情報共有等を行うとともに、がんゲノム医療の従事者に必要な研修などを行う」ことが求められます。

拠点病院の診療実績要件、「医療の質」と「均てん化」を踏まえて検討

 このような指定要件案は概ね了承されましたが、1点、「治験や先進医療Bの実績」についてはワーキングでさまざまな意見が出ました。

 がんゲノム医療においては、現時点では最適な抗がん剤等が見つかる確率は10-20%にとどまり、さらに、その抗がん剤等の多くは「未承認薬」や「既存薬の適応外使用」となります。また、新たな治療法開発に向けて「新薬の治験」や「先進医療B」(未承認の医薬品・医療機器を用いた先進的な医療、将来の保険収載を目指す)を積極的に実施することも重要となります。しかし、未承認薬や適応外薬の使用は、有効性・安全性が確かめられておらず(それを確かめるために治療や先進医療Bを実施する)、患者に有害事象が一定程度生じることが考えられるのです。

 この点、中核病院では「未承認薬等の治験や先進医療Bの新規患者が、3年間で合計100人以上」という要件が設けられています。有害事象が数%の患者に発生すると仮定して、100人の患者がいれば、「年間1件程度以上の有害事象」に対処することが求められる計算になり、対応方法(知識や技術)が蓄積され、対応スキルも向上すると期待されます。

 新たに指定される拠点病院でも、「自院でがんゲノム医療を完結する」(つまり未承認薬等を使用する)ことから、有害事象が生じた患者への対応能力が求められ、中核病院並みの「3年間で合計100人以上の治験・先進医療B棟の実績」が必要となりそうです【良質な医療の担保】。

 一方、この中核病院の指定要件(3年間で100人以上)は相当ハードルが高いと考えられ、これを拠点病院にそのまま適用すれば、拠点病院への申請が少なくなり、「中核病院の負担軽減」や「地域で高度ながんゲノム医療を受けられる体制の確保(いわば均てん化)」が難しくなってしまいます。

4月26日のワーキングでも、この2点(良質な医療の確保と均てん化)をどう両立させるかが議論され、例えば「拠点病院での治験・先進医療B実績は数十人程度としてはどうか」(中島貴子構成員:聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学教授)、「有害事象報告なども要件に加味してはどうか」(土原一哉構成員:国立がん研究センター先端医療開発センタートランスレーショナルインフォマティクス分野分野長)、「100人以上が『望ましい』などとしてはどうか」(西田俊朗座長:国立がん研究センター中央病院病院長)など、さまざまな意見が出されましたが結論は出ず、今後、西田座長と厚労省で再度考え方を整理し、改めてワーキングで議論することとなりました。

2019年9月にも拠点病院を30施設程度指定する見込み

今後のワーキングで指定要件案をまとめた後、親組織「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」での了承を経て、新たな指定要件(拠点病院の指定要件を新規に定めるとともに、上述のとおり中核病院・連携病院の要件を一部修正)が決定されます【指定要件の設定】。

その後、拠点病院への申請を待ち、別途設けられる「がんゲノム医療中核拠点病院等の指定に関する検討会」での審査を経て、早ければ今年(2019年)9月にも拠点病院が誕生する見込みです【実際の指定】。

連携病院のうち「体制や実績が整った施設」が拠点病院になるケースが多いと考えられますが、要件を満たせば連携病院以外から拠点病院の申請を行うことも可能です。厚労省は「30施設程度」を拠点病院に指定したいとの見通しを持っています。

 
指定期間(いわば指定の有効期間)については、▼中核病院:2020年4月で現在の指定更新を行い、その後、2022年3月まで有効とする(2年間)▼拠点病院:2019年9月に指定を行い、2022年3月まで有効とする(2年半)―とすることがワーキングで了承されました(連携病院の指定は、中核病院・拠点病院が行う)。2022年4月向けて、実績等を振り返り、「指定要件修正の必要はないか」「指定期間をどの程度に設定するか」を改めて検討することになるでしょう。

なお、中核病院については、当初(2018年4月の初回指定段階)は▼初回指定は2年間有効▼その後の指定は4年間有効―とされていたため、ワーキングでは土原構成員や佐々木毅構成員(東京大学大学院医学系研究科次世代病理情報連携学講座特任教授)、前田高宏構成員(九州大学大学院病院遺伝子・細胞療法部部長・准教授)から「(不意打ちにならないよう)中核病院に適切に説明すべき」との注文がついています。

がん医療の質向上・経営の質向上を目指すCQI研究会、8月に都内で研究会を開催

 ところで、100超のがん診療連携拠点病院などが参加する CQI(Cancer Quality Initiative)研究会(代表世話人:望月泉:八幡平市病院事業管理者・岩手県立病院名誉院長)では、DPCデータをもと「がん医療の質向上」に向けた研究を行っており、メディ・ウォッチを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)がデータ分析等を担当しています。

 今年8月24日には、都内で第14回研究会を開催します。研究会では、「診療の質」と「経営の質」を向上するためのデータ分析方法を議論。GHCの開発した「がん診療分析システム」(下図)を用いて、例えば、結腸がんの「術式の割合」(開腹か、腹腔鏡か)、「平均在院日数」や「周術期の医療行為」などを、参加病院の実データを用いてベンチマーク分析し、自院の課題や改善方向などを探ります。

さらに厚労省のがん対策担当者による講演も予定しており、「がん医療の質・経営の質向上」を検討する絶好の機会です。がん診療連携拠点病院や、がん医療に力を入れる急性期病院におかれては、是非、CQI研究会にご参加ください。

◆「第14回CQI研究会」のお申し込みはこちらから
◆お問い合わせ先:CQI研究会事務局(GHC内、担当:八木、森、安斎 E-mail : cqi@ghc-j.com)

 
 
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