Generic selectors
Exact matches only
Search in title
Search in content
Post Type Selectors
0819ミニセミナー病院ダッシュボードχ ZERO

患者申出療養を活用し、「H3K27M変異を有するびまん性神経膠腫」(DMG)患者への未承認薬「OP-10」投与がスタート—国がん

2025.6.12.(木)

18番目の患者申出療養「小児・AYAがんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療」において、「H3K27M変異を有するびまん性神経膠腫(diffuse midline glioma、DMG)に対する、未承認薬『OP-10』投与」がスタートした—。

国立がん研究センターが6月6日に、こうした点を明らかにしました(国がんのサイトはこちら)(関連記事はこちら)。

DMG患者とその家族からの「未承認薬『OP-10』を使用したい」との要望に応える

医療保険制度では「未承認や適応外の医薬品・医療機器等を用いた診療」については「すべてが自己負担」になるのが原則です(混合診療の禁止、未承認の医薬品等では安全性・有効性が確立されてないこと、医療保険財政への悪影響もあり得ることなどに由来する)。

しかし、この原則を貫くと「現在、傷病と闘っている患者」が最新の医療に極めてアクセスしにくくなるという問題点もあり、「保険診療」と「未承認や適応外の医薬品・医療機器等を用いた診療」との併用を一定の範囲内で認める仕組みも準備されています(先進医療、患者申出療養など)。

患者申出療養は、傷病と闘う患者による「海外で開発された未承認(保険外)等の医薬品や医療機器を使用してみたい」という希望・申し出を起点に、当該医療技術(未承認の医薬品等)に一定の安全性・有効性があることを厚生労働省の患者申出療養評価会議で確認することなどを条件に「保険診療との併用を許可」するものです(2016年4月スタート)。

これまでに、次の18種類の患者申出療養が認められています(ただし「1」「2」「3」「4」「5」「6」「7」「9」「10」「11」「12」「13」の技術がすでに新規患者の登録終了、対象技術の保険適用等による取り下げとなっている)。
(1)腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」
(2)心移植不適応な重症心不全患者への「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」(関連記事はこちら
(3)難治性天疱瘡患者への「リツキシマブ静脈内投与療法」(関連記事はこちら
(4)髄芽腫、原始神経外胚葉性腫瘍または非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍患者への「チオテパ静脈内投与、カルボプラチン静脈内投与およびエトポシド静脈内投与ならびに自家末梢血幹細胞移植術の併用療法」(関連記事はこちら
(5)ジェノタイプ1型C型肝炎ウイルス感染に伴う非代償性肝硬変患者への「レジパスビル・ソホスブビル経口投与療法」(関連記事はこちら
(6)進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」(関連記事はこちら
(7)早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」(関連記事はこちら
(8)遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」(関連記事はこちらこちら
(9)HER2陽性の手術不能または再発の乳房外パジェット病患者に対する「トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ点滴静注用)静脈内投与療法」(関連記事はこちら
(10)ROS1融合遺伝子陽性の進行性小児脳腫瘍患者に対する「エヌトレクチニブ(販売名:ロズリートレクカプセル)の経口投与療法」(関連記事はこちら
(11)免疫グロブリンGサブクラス4自己抗体陽性難治性慢性炎症性脱髄性多発神経炎患者に対する「リツキシマブ追加投与療法」(関連記事はこちら
(12)BRAFV600変異陽性の進行性神経膠腫を有する小児を対象とした「ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法」(関連記事はこちら
(13)BRAFV600変異陽性の局所進行・転移性小児固形腫瘍に対する「ダブラフェニブ・トラメチニブの第II相試験」(関連記事はこちら
(14)EZH2阻害薬の有効性が期待される標準治療がない、または治療抵抗性の小児・AYA悪性固形腫瘍に対する「タゼメトスタット療法」(関連記事はこちら
(15)胸部悪性腫瘍に対する「経皮的凍結融解壊死療法」(関連記事はこちらこちら
(16)筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する「EPI-589再投与」の安全性に関する研究こちら
(17)線維芽細胞増殖因子受容体阻害薬投与歴のある進行固形がん患者に対するペミガチニブ経口投与療法(関連記事はこちら
(18)小児・AYAがんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療(関連記事はこちら



このうち「8」の技術は、遺伝子パネル検査の結果「未承認の分子標的薬(抗がん剤)が奏功する可能性がある」と判明したがん患者が、迅速に当該分子標的薬を用いた治療を受けられるよう、あらかじめ国立がん研究センターで「患者申出療養の計画」を準備しておき、患者から希望があった場合に、すみやかに当該抗がん剤治療の実施を可能とするものです(関連記事はこちらこちら)。

また、「18」の技術は「上記『8』技術の小児版」と言えるものです。小児・AYA世代のがん患者が、より円滑に最適な抗がん剤治療が受けられるよう、成人の仕組み((8)の仕組み)と同様に、あらかじめ▼国立がん研究センターで、いわば『患者申出療養の計画』の雛形作成までを準備しておく▼多くの抗がん剤(分子標的薬)を使用可能とする手続きを踏んでおく—こととし、実際に患者から「未承認・適応外の抗がん剤を使用したい」と要望があった際、速やかにこの仕組みに則って「未承認・適応外の医薬品を患者申出療養の中で使用できる」ような体制が整えられています(関連記事はこちら)。

現在、▼国立がん研究センター中央病院北海道大学病院九州大学病院岡山大学病院名古屋大学医学部附属病院—の5病院で、この「18」の技術(小児・AYAがん患者に最適だが未承認・適応外の抗がん剤を使用し、保険診療と保険外診療とを併用可能とする仕組み)が実施されています。

本技術の中で使用可能な抗がん剤は下表のとおり(今般スタートした「OP-10」を含めて9成分)で、すべて製薬メーカーから無償提供されており、その姿勢に頭が下がります。さらにGem Medで報じているとおり「薬剤(各薬剤は極めて高価である)を無償提供する」製薬メーカーが増えてきています。対象薬剤ごとに「最大30名」に投与が行われる計画が立てられています。

18番目の患者申出療養「小児・AYAがんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療」で使用可能な薬剤リスト(2025年6月6日現在)



今般、この「18」の患者申出療養の中で、新たに「H3K27M変異を有するびまん性神経膠腫(diffuse midline glioma、DMG)に対する、未承認薬『OP-10』投与」がスタートしたことを国がんが明らかにしました。

「びまん性神経膠腫」(diffuse midline glioma、DMG)と「びまん性内在性橋グリオーマ」(DIPG)は、いずれも悪性の脳腫瘍です。よく似た特徴を持ちますが、▼後者「DIPG」は脳幹の一部である「橋」にできる腫瘍をさし、特に子供に多く見られる▼前者「DMG」はより広く、DIPGを含む、視床や脊髄など脳や脊髄の中心(midline)にできる同タイプの腫瘍をまとめた名称—です。いずれも「H3K27M変異」という遺伝子の変化が関係していることが多く、これを手がかりにした治療法の研究・開発が進められています。

この「DMG」治療薬として開発されている医薬品の1つに、今般の「OP-10」があります。

DMGの多くでは、「H3K27M変異」という遺伝子レベルの異常が見られます。この変異は、細胞中の「ヒストン」という遺伝子の働きを調整するタンパク質の一部に起こり、H3K27M変異があると「がんに関わる遺伝子が本来よりも活発に働いてしまう」ことが分かっています。また、この「H3K27M変異」を持つ神経膠腫では「ドパミンD2受容体が異常に多く作られている」ことも分かっています。ドパミン受容体は、神経細胞のシグナル伝達に関わるタンパク質で、がんの増殖にも影響を及ぼすと考えられています。

「OP-10」は、▼ドパミンD2・D3受容体に選択的に作用し、これらの働きをブロックすることで「がんの進行を抑える」▼がん細胞中にある「ClpP」というタンパク質の働きを活発にし、がん細胞のエネルギーを作る仕組み・遺伝子の働きを調整する仕組みを乱して、がん細胞のアポトーシス(がん細胞が自ら壊れる)を導く—働きがあると考えられます。さらに、H3K27M変異を持つ神経膠腫に対しては、「OP-10によって、細胞内の異常な状態が改善され、がんの性質を変えてしまう」可能性も示されています。

各国で「OP-10」の研究開発が進められていますが、現時点では、どの国でも承認されていません(治験などが走っている、あるいは治験結果の解析待ちなどの状況)。このため「治験に参加できない患者」(年齢や合併症などで治験参加要件を満たさない患者、既に治験の被験者募集が終わっているなど)には、この「OP-10」投与が行えず、治療の選択肢が限定的となっています。

このため、DIPG患者やその家族から「治験に参加できないが、OP-10での治療を受けたい」という切実な要望が出ており、今般、患者申出療養の仕組み(上記「18」の技術)を用いて、「患者にOP-10投与を行う」こととしました。

この仕組みの中で使用する医薬品は製薬企業(大原薬品工業社)から無償で提供され、患者サイドには「治療にかかる薬剤費の自己負担」はありません(ただし、検査や入院などの診療に部分については、通常どおり1-3割の自己負担が生じる)。ちなみに患者申出療養の仕組みを使えない場合、薬剤費はもちろん、検査や入院などの診療部分も全額患者負担(10割負担)となってしまうため、患者申出療養によって「未承認や適応外の医薬品等を使用可能となる」ことに加え、「患者サイドの経済的負担(医療費負担)を大きく軽減できる」点に注目する必要があります。

もっとも、「希望した患者がすべて、この仕組みを利用できる」わけではなく、次のような適格基準などを満たす必要があります。患者申出療養は、「未承認、適応外の医薬品等の保険適用」を目指し、臨床試験として行われるためです(薬事承認・保険適用にかかる審査をパスするために、有効性・安全性を評価できるような臨床試験を実施しなければならない)。
【OP-10コホートの主な適格規準】(下記以外にも様々な要件がある点に留意)
・組織診によって小児がん国際分類に含まれる腫瘍と診断されていること
・標準治療がない、または標準治療に抵抗性である1-29歳の小児・AYA世代のがん患者で、体重10kg以上であること
・本邦で「保険適用済み」または「評価療養」として実施されている遺伝子パネル検査に基づいて、専門家会議(エキスパートパネル)および担当医から「OP-10が推奨」されていること(関連記事はこちら
・適格規準を満たさないなどの理由によって治験や先進医療に参加できないこと(治験や先進医療に参加できるのであれば、そちらの仕組みで「OP-10投与」を受けられるため)
・日常生活に大きな支障がなく、重症の合併症を有さないこと
・血液検査や尿検査等の規準を満たすこと
・登録前28日以内に実施した下腿を含む全身CTで静脈血栓症がないこと
ほか



ところで、患者申出療養には、上述のように「現在、がんと闘っている患者が、奏功する可能性のある未承認・適応外の医薬品などにアクセスしやすくなる」というメリットがありますが、さらに「有効性・安全性に関するデータをもとに保険適用がなされれば、他のがん患者が、従前は未承認・適応外であった医薬品にアクセス可能となる」という、もう一つの非常に大きなメリットもあります。「小児・AYA世代のがん患者が、より身近な医療機関で最適な抗がん剤治療を受けられる」環境が、さらに整っていき、結果「保険診療の中で使用可能な優れた抗がん剤が増えていく」ことに期待が集まります。



病院ダッシュボードχ ZEROMW_GHC_logo

【関連記事】

名古屋大学病院でも、小児がん患者が「遺伝子検査に基づく最適な抗がん剤」使用できる環境整備―患者申出療養評価会議
北大病院、岡山大病院でも「小児・AYA世代のがん患者へ最適な抗がん剤治療を可能とする患者申出療養」を開始—患者申出療養評価会議
6番目の患者申出療養「進行固形がんへのインフィグラチニブ投与」、有効性等評価は困難も、患者希望に応える重要な意味―患者申出療養評価会議
8番目の患者申出療養「遺伝子変異に対応した分子標的薬治療」、メキニスト小児ドライシロップを対象薬剤に追加―患者申出療養評価会議
「最適だが保険適応外の抗がん剤」を保険診療と併用するための患者申出療養、薬剤の添付文書改訂踏まえ実施計画見直し―患者申出療養評価会議
岡山大病院でも、小児がん患者が「遺伝子検査に基づいた最適な抗がん剤」治療を受けられる環境を整備—患者申出療養評価会議
15番目の患者申出療養「胸部悪性腫瘍に対する経皮的凍結融解壊死療法」、患者負担を考慮して実施期間を18か月延長—患者申出療養評価会議
より身近な施設で、小児がん患者が、遺伝子検査に基づいた「最適な抗がん剤」治療を受けられる環境を整備—患者申出療養評価会議
BRAFV600変異陽性グリオーマ小児へのダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法、腫瘍縮小などの優れた成果―患者申出療養評価会議
小児・AYAがん患者へ「効果ある未承認等の分子標的薬」を迅速投与する仕組み、製薬メーカー協力で対象薬剤さらに拡大―患者申出療養評価会議
1番目の患者申出療養「進行性胃がんへのパクリタキセル・S-1併用療法」最終評価、対象患者絞り標準治療との比較を―患者申出療養評価会議
小児・AYAがん患者へ「効果のある未承認等の分子標的薬」を迅速投与できる仕組み、メーカー協力で対象薬剤を拡大―患者申出療養評価会議
13番目の患者申出療養、「BRAF V600変異陽性の小児固形がん」への抗がん剤併用療法を条件付きで承認―患者申出療養評価会議
進行性胃がんへのパクリタキセル・S-1併用療法、乳房外パジェットへのカドサイラ投与など実施計画見直し―患者申出療養評価会議
8番目の患者申出療養「遺伝子変異に対応した分子標的薬治療」、ニラパリブを対象薬剤に追加―患者申出療養評価会議
耳介後部コネクター用いるDT療法の有効性に期待、遺伝子パネル検査による抗がん剤治療で対象薬剤追加―患者申出療養評価会議
患者申出療養から「初の薬事承認・保険適用」技術登場、抗がん剤「適応拡大」にも期待集まる―患者申出療養評価会議
8番目の患者申出療養「遺伝子変異に対応した分子標的薬治療」、リキッドバイオプシーも検査対象に追加―患者申出療養評価会議
12番目の患者申出療養、「BRAF V600変異陽性の小児神経膠腫」への抗がん剤併用療法を承認―患者申出療養評価会議
11番目の患者申出療養として、難病CIDPへのリツキシマブ追加投与療法を認める―患者申出療養評価会議
患者申出療養で実施される保険外の医療技術、しかるべき時期に安全性・有効性の評価が必要—患者申出療養評価会議
患者申出療養の計画変更を了承、ただし「野放図な期間延長」などは好ましくない―患者申出療養評価会議
10番目の患者申出療養として、小児脳腫瘍へのエヌトレクチニブ投与療法を認める―患者申出療養評価会議
小児がん患者も迅速に「適応外の分子標的薬」にアクセスできる環境を整備―患者申出療養評価会議(2)
乳房外パジェットへのカドサイラ投与、9番目の患者申出療養として導入―患者申出療養評価会議(1)
小児がん患者が「最適な抗がん剤にアクセスしやすい環境」の整備に向け、患者申出療養を拡充―患者申出療養評価会議
遺伝子パネル検査に基づく「適応外抗がん剤」使用、患者申出療養での実施を承認―患者申出療養評価会議
遺伝子パネル検査に基づく抗がん剤の適応外使用想定した事前準備、国がんで進む―患者申出療養評価会議
患者申出療養評価会議からメーカーに「薬剤等供給」協力を要請する仕組み設ける―患者申出療養評価会議
早期乳がんのラジオ波熱焼灼治療を患者申出療養に導入、再発リスク説明等が必要―患者申出療養評価会議
遺伝子パネル検査で「適応外の抗がん剤治療」の可能性ある場合、迅速に治療開始できる準備進める―患者申出療養評価会議
「非代償性肝硬変へのハーボニー投与」、5種類目の患者申出療養に―患者申出療養評価会議
阪大病院での患者申出療養すべてで死亡含む重篤事象が発生、適切な患者選択を―患者申出療養評価会議
有効性・安全性の確立していない患者申出療養、必要最低限の患者に実施を—患者申出療養評価会議
心移植不適応患者への植込み型人工心臓DT療法、2例目の患者申出療養に―患者申出療養評価会議
2018年度改定に向けて、入院患者に対する「医師による診察(処置、判断含む)の頻度」などを調査―中医協総会

患者申出療養、座長が審議の場を判断するが、事例が一定程度集積されるまでは本会議で審議―患者申出療養評価会議
患者申出療養評価会議が初会合、厚労省「まずは既存の先進医療や治験の活用を」
患者申出療養の詳細固まる、原則「臨床研究」として実施し、保険収載を目指す―中医協
患者申出療養の提案受けた臨床研究中核病院、「人道的見地からの治験」の有無をまず確認―中医協総会
大病院受診、紹介状なしの定額負担など16年度から-医療保険部会で改革案まとまる