名古屋大学病院でも、小児がん患者が「遺伝子検査に基づく最適な抗がん剤」使用できる環境整備―患者申出療養評価会議
2025.5.6.(火)
18番目の患者申出療養「小児・AYAがんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療」について、実施可能施設を名古屋大学医学部附属病院にも拡大する—。
また8番目の患者申出療養「遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対するマルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」のうち、抗がん剤「ペマジール錠」を使用するグループについて、予定症例数に達したために新規登録を停止し、今後、統計解析を実施する—。
4月22日に持ち回り開催された患者申出療養評価会議で、こういった点が了承されています。
ペマジール錠用いる8番目の患者申出療養が50症例に達し「追跡・解析」フェイズへ
医療保険制度では「未承認や適応外の医薬品・医療機器等を用いた診療」については「すべてが自己負担」になるのが原則です(混合診療の禁止)。しかし、この原則を貫くと「現在、傷病と闘っている患者」が最新の医療に極めてアクセスしにくくなるという問題点もあり、「保険診療」と「未承認や適応外の医薬品・医療機器等を用いた診療」との併用を一定の範囲内で認める仕組みも準備されています(先進医療、患者申出療養など)。
患者申出療養は、傷病と闘う患者による「海外で開発された未承認(保険外)等の医薬品や医療機器を使用してみたい」という希望・申し出を起点に、当該医療技術(未承認の医薬品等)に一定の安全性・有効性があることを評価会議で確認した上で、保険診療との併用を許可するものです(2016年4月スタート)。
これまでに、次の18種類の患者申出療養が認められています(ただし「1」「2」「3」「4」「5」「6」「7」「9」「10」「11」「12」「13」の技術がすでに新規患者の登録終了、対象技術の保険適用等による取り下げとなっている)。
(1)腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」
(2)心移植不適応な重症心不全患者への「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」(関連記事はこちら)
(3)難治性天疱瘡患者への「リツキシマブ静脈内投与療法」(関連記事はこちら)
(4)髄芽腫、原始神経外胚葉性腫瘍または非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍患者への「チオテパ静脈内投与、カルボプラチン静脈内投与およびエトポシド静脈内投与ならびに自家末梢血幹細胞移植術の併用療法」(関連記事はこちら)
(5)ジェノタイプ1型C型肝炎ウイルス感染に伴う非代償性肝硬変患者への「レジパスビル・ソホスブビル経口投与療法」(関連記事はこちら)
(6)進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」(関連記事はこちら)
(7)早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」(関連記事はこちら)
(8)遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」(関連記事はこちらとこちら)
(9)HER2陽性の手術不能または再発の乳房外パジェット病患者に対する「トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ点滴静注用)静脈内投与療法」(関連記事はこちら)
(10)ROS1融合遺伝子陽性の進行性小児脳腫瘍患者に対する「エヌトレクチニブ(販売名:ロズリートレクカプセル)の経口投与療法」(関連記事はこちら)
(11)免疫グロブリンGサブクラス4自己抗体陽性難治性慢性炎症性脱髄性多発神経炎患者に対する「リツキシマブ追加投与療法」(関連記事はこちら)
(12)BRAFV600変異陽性の進行性神経膠腫を有する小児を対象とした「ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法」(関連記事はこちら)
(13)BRAFV600変異陽性の局所進行・転移性小児固形腫瘍に対する「ダブラフェニブ・トラメチニブの第II相試験」(関連記事はこちら)
(14)EZH2阻害薬の有効性が期待される標準治療がない、または治療抵抗性の小児・AYA悪性固形腫瘍に対する「タゼメトスタット療法」(関連記事はこちら)
(15)胸部悪性腫瘍に対する「経皮的凍結融解壊死療法」(関連記事はこちらとこちら)
(16)筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する「EPI-589再投与」の安全性に関する研究こちら)
(17)線維芽細胞増殖因子受容体阻害薬投与歴のある進行固形がん患者に対するペミガチニブ経口投与療法(関連記事はこちら)
(18)小児・AYAがんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療(関連記事はこちら)
4月22日の持ち回り会合では、このうち「8」、「6と17」、「18」の技術を議題としました。
まず「8」の技術は、遺伝子パネル検査の結果「未承認の分子標的薬(抗がん剤)が奏功する可能性がある」と判明したがん患者が、迅速に当該分子標的薬を用いた治療を受けられるよう、あらかじめ国立がん研究センターで「患者申出療養の計画」を準備しておき、患者から希望があった場合に、すみやかに当該抗がん剤治療の実施を可能とするものです(関連記事はこちらとこちら
現在、本技術で使用できる薬剤は下表のとおりで、薬剤ごとに「50症例」を組み入れる計画となっています。

番目の患者申出療養「遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対するマルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」の使用可能薬剤(2024年9月26日現在)
今般、このうちの「ペマジール錠」(一般名:ペミガチニブ)について、登録患者数が50症例に達したことが報告されました。今後、追跡調査・統計解析を実施し「当該薬剤の適応拡大」(保険診療の中で投与可能ながん種の拡大)を目指します。
名大病院でも、小児がん患者が「遺伝子検査に基づく最適な抗がん剤」が使用できる環境整備
また、「18」の技術は、言わば上記「8」技術の小児版と言えるものです。小児・AYA世代のがん患者が、より円滑に最適な抗がん剤治療が受けられるよう、成人の仕組み((8)の仕組み)と同様に、あらかじめ▼国立がん研究センターで、いわば『患者申出療養の計画』の雛形作成までを準備しておく▼多くの抗がん剤(分子標的薬)を使用可能とする手続きを踏んでおく—こととし、実際に患者から「未承認・適応外の抗がん剤を使用したい」と要望があった際、速やかにこの仕組みに則って「未承認・適応外の医薬品を患者申出療養の中で使用できる」ような体制が整えられています(関連記事はこちら)。
4月22日の持ち回り会合では、この技術ついて、次の2点の拡充を行うことが了承されました。
(1)対象医薬品として「OP-10カプセル125mg」を追加する
(2)実施施設として「名古屋大学医学部附属病院」を追加する
「小児・AYA世代のがん患者が、より身近な医療機関で最適な抗がん剤治療を受けられる」環境が、また一つ整えられたと言えるでしょう。
なお、「6と17」の技術について、事後に「本技術の実施計画書に定められた要件を満たしていない」ことが判明した事象を踏まえ、患者申出療養の実施計画書・患者への説明同意文書などに「実施医療機関において、研究実施計画の適格・除外基準を逸脱した患者に係る具体的対応を規定する」ことが了承されています。
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