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6番目の患者申出療養「進行固形がんへのインフィグラチニブ投与」、有効性等評価は困難も、患者希望に応える重要な意味―患者申出療養評価会議

2025.1.24.(金)

6番目の患者申出療養である「進行固形がん患者へのインフィグラチニブ経口投与療法」が終了したことを受け、総括報告書をまとめる。対象患者が1名のみであり有効性・安全性等の十分な評価を行うことはできないが、「極めて稀なタイプの腫瘍患者に対し、有効性の可能性がある薬剤を投与する」重要な意味があった—。

18番目の患者申出療養である「小児・AYAがんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療」について、九州大学病院で実際に治療を始める—。

1月23日に開催された患者申出療養評価会議で、こういった点が了承されました。

1月23日に開催された「第57回 患者申出療養評価会議」

進行固形がん患者へのインフィグラチニブ経口投与、総括報告書を了承

医療保険制度では「未承認や適応外の医薬品・医療機器等を用いた診療」については「すべてが自己負担」になるのが原則です(混合診療の禁止)。

患者申出療養は、傷病と闘う患者による「海外で開発された未承認(保険外)等の医薬品や医療機器を使用してみたい」という希望・申し出を起点に、当該医療技術(未承認の医薬品等)に一定の安全性・有効性があることを評価会議で確認した上で、保険診療との併用を許可するものです(2016年4月スタート)。

これまでに、次の18種類の患者申出療養が認められています(ただし「1」「2」「3」「4」「5」「6」「7」「9」「10」「11」「12」「13」の技術がすでに新規患者の登録終了、対象技術の保険適用等による取り下げとなっている)。
(1)腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」
(2)心移植不適応な重症心不全患者への「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」(関連記事はこちら
(3)難治性天疱瘡患者への「リツキシマブ静脈内投与療法」(関連記事はこちら
(4)髄芽腫、原始神経外胚葉性腫瘍または非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍患者への「チオテパ静脈内投与、カルボプラチン静脈内投与およびエトポシド静脈内投与ならびに自家末梢血幹細胞移植術の併用療法」(関連記事はこちら
(5)ジェノタイプ1型C型肝炎ウイルス感染に伴う非代償性肝硬変患者への「レジパスビル・ソホスブビル経口投与療法」(関連記事はこちら
(6)進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」(関連記事はこちら
(7)早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」(関連記事はこちら
(8)遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」(関連記事はこちらこちら
(9)HER2陽性の手術不能または再発の乳房外パジェット病患者に対する「トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ点滴静注用)静脈内投与療法」(関連記事はこちら
(10)ROS1融合遺伝子陽性の進行性小児脳腫瘍患者に対する「エヌトレクチニブ(販売名:ロズリートレクカプセル)の経口投与療法」(関連記事はこちら
(11)免疫グロブリンGサブクラス4自己抗体陽性難治性慢性炎症性脱髄性多発神経炎患者に対する「リツキシマブ追加投与療法」(関連記事はこちら
(12)BRAFV600変異陽性の進行性神経膠腫を有する小児を対象とした「ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法」(関連記事はこちら
(13)BRAFV600変異陽性の局所進行・転移性小児固形腫瘍に対する「ダブラフェニブ・トラメチニブの第II相試験」(関連記事はこちら
(14)EZH2阻害薬の有効性が期待される標準治療がない、または治療抵抗性の小児・AYA悪性固形腫瘍に対する「タゼメトスタット療法」(関連記事はこちら
(15)胸部悪性腫瘍に対する「経皮的凍結融解壊死療法」(関連記事はこちらこちら
(16)筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する「EPI-589再投与」の安全性に関する研究こちら
(17)線維芽細胞増殖因子受容体阻害薬投与歴のある進行固形がん患者に対するペミガチニブ経口投与療法(関連記事はこちら
(18)小児・AYAがんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療(関連記事はこちら



1月23日の会合では、このうち「6」と「18」の技術を議題としました。

まず「6」の技術は、「『インフィグラチニブ』の治験を受けていた患者が、当該薬の治療継続を希望し、患者申出療養としての実施」が認められました(関連記事はこちら)。

その後、製薬メーカーがインフィグラチニブの開発を中止し、当該患者は別の薬剤(ペミガチニブ)を用いた治療(こちらも患者申出療養)に移行しており(関連記事はこちら)、「6」の技術は終了。これを踏まえて総括報告書案が1月23日の患者申出療養評価会議に提出されました(厚労省サイトはこちら)。

もっとも対象患者が1名のみであることから、▼有効性については「評価することは困難だが、投与継続中はSD(stable disease、安定している、腫瘍増大なし)を維持できた」▼安全性については「いくつかの有害事象、危惧されていた高リン酸血症の発現がみられるがいずれも回復している」—と評価されるにとどまっています(インフィグラチニブの腫瘍関連分野における企業開発は中止されており、本総括報告書が薬事承認などにつながる可能性はほぼない)。

もっとも本技術の評価を行った上村尚人構成員(大分大学医学部臨床薬理学講座教授)は「本技術の対象患者は、極めて稀なタイプの腫瘍患者であり、同タイプ患者を集めて知見などを行い、有効性・安全性に関するデータ・エビデンスを構築し、薬事承認等につなげることなどはほぼ不可能である。そうした点を考慮すれば、患者申出療養で1例1例について評価していく手法の重要性は今後も継続検討していく必要がある」旨のコメントを寄せています。

患者申出療養には、「データを集積し、未承認薬等の保険適用につなげる」という重要な役割がありますが、加えて「個々の患者の、『未承認薬を使用してみたい』という藁をもつかむ思いに応える」という要素もあります。上村構成員のコメントは「後者の要素の重要性」を再確認したものと言えそうです。

九大病院で、小児・AYAがん患者への「最適な抗がん剤治療」に向けた患者申出療養実施

次に「18」の技術について見てみましょう。

我が国でも「がんゲノム医療」が推進されてきており、次のような流れで進められています。
▽患者の同意を得た上で、患者の遺伝子情報・臨床情報を「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT、国立がん研究センターに設置)に送付する

▽C-CATで、送付されたデータを「がんゲノム情報のデータベース」(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験などの情報を整理する

▽がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)において、C-CATからの情報を踏まえて当該患者に最適な治療法を選択し、これに基づいた医療を提供する
がんゲノム医療拠点病院等指定要件ワーキンググループ1 190527

がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議2 190308



ただし、遺伝子パネル検査により有効な抗がん剤が見つかる可能性は現時点では1割弱にとどまっており(関連記事はこちら)、また「有効な抗がん剤が見つかったものの、保険適応外(当該がん種への効能効果が薬事承認されていない)・未承認(本邦での使用が薬事承認されていない)であった」というケースも少なくありません。

適応外・未承認の抗がん剤を使用する場合には、原則として「一連の治療すべてが自己負担」となり(混合診療の禁止)、患者の経済的負担が非常に重くなります。このため治療をあきらめざるを得ないケースも生じえます。

そこで、2019年秋に8番目の患者申出療養として「遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する『マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療』」が設けられました(関連記事はこちら)。抗がん剤ごとに、いわば「実施計画の雛形」を準備しておき、標準治療を終えた、あるいは標準治療のないがん患者が希望した場合、迅速に「奏効する可能性がある」抗がん剤にアクセスできるような環境を整えておくものです。

ただし、小児患者やAYAがん患者では「この仕組みを利用しにくい」との声があり、昨年(2024年)1月から「小児版の仕組み」として「18」の技術が設けられるました(関連記事はこちら)。

成人の仕組み((8)の仕組み)と同様に、あらかじめ▼国立がん研究センターで、いわば『患者申出療養の計画』の雛形作成までを準備しておく▼多くの抗がん剤(分子標的薬)を使用可能とする手続きを踏んでおく—こととし、実際に患者から「未承認・適応外の抗がん剤を使用したい」と要望があった際、速やかにこの仕組みに則って「未承認・適応外の医薬品を患者申出療養の中で使用できる」ような体制が整えられています。

「適応外の抗がん剤」治療で効果があると判明した患者が、一刻も早く患者申出療養を申請できるよう、臨床研究中核病院で「下準備」を進めておく



対象患者は、「標準治療がない、または標準治療に不応・不耐であり、次の(a)(b)いずれかに該当するゼロ歳から29歳のがん患者」で、すでに「4名」の患者について、患者申出療養制度に基づく適応外・未承認の抗がん剤治療が開始されています。
(a)遺伝子パネル検査(我が国で保険適用済み・評価療養として実施)を受け、actionableな遺伝子異常を有することが判明している。かつ、エビデンスレべルD以上と判定されたactionableな病的バリアンスと、それに基づく治療選択肢を提示したエキスパートパネル報告書、およびその根拠となった遺伝子パネル報告書がある

(b)我が国または海外(FDA(アメリカ食品医薬品局)またはEMA(欧州医薬品庁))で薬事承認された分子標的薬(▼我が国で成人には薬事承認されているが小児では承認されていない(小児の用法用量の記載がない)医薬品▼海外(FDAまたはEMA)で小児に薬事承認されているが、我が国で小児に薬事承認されていない医薬品—)の適応がん種と病理学的に診断されている

小児がん等に最適な分子標的薬使用を可能とする新たな仕組み1(患者申出療養評価会議1 230921)

小児がん等に最適な分子標的薬使用を可能とする新たな仕組み2(患者申出療養評価会議2 230921)



本技術は、▼国立がん研究センター中央病院北海道大学病院九州大学病院岡山大学病院—で実施することが可能です。

これまで「国立がん研究センター中央病院」でのみ、患者・家族からの「本技術を受けたい」との申請がなされていましたが、今般、「九州大学病院」でも患者・家族からの申請があったことが報告されています(厚労省サイトはこちら)。



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