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北大病院、岡山大病院でも「小児・AYA世代のがん患者へ最適な抗がん剤治療を可能とする患者申出療養」を開始—患者申出療養評価会議

2025.3.21.(金)

18番目の患者申出療養である「小児・AYAがんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療」について、北海道大学病院・岡山大学病院でも実際に治療を開始した—。

3月17日に持ち回り開催された患者申出療養評価会議で、こういった点が報告されました。

「最適だが保険適応外の抗がん剤」を保険診療と併用するための患者申出療養、実施計画見直し

医療保険制度では「未承認や適応外の医薬品・医療機器等を用いた診療」については「すべてが自己負担」になるのが原則です(混合診療の禁止)。

患者申出療養は、傷病と闘う患者による「海外で開発された未承認(保険外)等の医薬品や医療機器を使用してみたい」という希望・申し出を起点に、当該医療技術(未承認の医薬品等)に一定の安全性・有効性があることを評価会議で確認した上で、例外的に「保険診療との併用」を認める制度です(2016年4月スタート)。

これまでに、次の18種類の患者申出療養が認められています(ただし「1」「2」「3」「4」「5」「6」「7」「9」「10」「11」「12」「13」の技術がすでに新規患者の登録終了、対象技術の保険適用等による取り下げとなっている)。
(1)腹膜播種・進行性胃がん患者への「パクリタキセル腹腔内投与および静脈内投与ならびにS-1内服併用療法」
(2)心移植不適応な重症心不全患者への「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」(関連記事はこちら
(3)難治性天疱瘡患者への「リツキシマブ静脈内投与療法」(関連記事はこちら
(4)髄芽腫、原始神経外胚葉性腫瘍または非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍患者への「チオテパ静脈内投与、カルボプラチン静脈内投与およびエトポシド静脈内投与ならびに自家末梢血幹細胞移植術の併用療法」(関連記事はこちら
(5)ジェノタイプ1型C型肝炎ウイルス感染に伴う非代償性肝硬変患者への「レジパスビル・ソホスブビル経口投与療法」(関連記事はこちら
(6)進行固形がん(線維芽細胞増殖因子受容体に変化を認め、従来治療法が無効、かつインフィグラチニブによる治療を行っているものに限る)患者への「インフィグラチニブ経口投与療法」(関連記事はこちら
(7)早期乳がん患者への「ラジオ波熱焼灼療法」(関連記事はこちら
(8)遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療」(関連記事はこちらこちら
(9)HER2陽性の手術不能または再発の乳房外パジェット病患者に対する「トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ点滴静注用)静脈内投与療法」(関連記事はこちら
(10)ROS1融合遺伝子陽性の進行性小児脳腫瘍患者に対する「エヌトレクチニブ(販売名:ロズリートレクカプセル)の経口投与療法」(関連記事はこちら
(11)免疫グロブリンGサブクラス4自己抗体陽性難治性慢性炎症性脱髄性多発神経炎患者に対する「リツキシマブ追加投与療法」(関連記事はこちら
(12)BRAFV600変異陽性の進行性神経膠腫を有する小児を対象とした「ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法」(関連記事はこちら
(13)BRAFV600変異陽性の局所進行・転移性小児固形腫瘍に対する「ダブラフェニブ・トラメチニブの第II相試験」(関連記事はこちら
(14)EZH2阻害薬の有効性が期待される標準治療がない、または治療抵抗性の小児・AYA悪性固形腫瘍に対する「タゼメトスタット療法」(関連記事はこちら
(15)胸部悪性腫瘍に対する「経皮的凍結融解壊死療法」(関連記事はこちらこちら
(16)筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する「EPI-589再投与」の安全性に関する研究こちら
(17)線維芽細胞増殖因子受容体阻害薬投与歴のある進行固形がん患者に対するペミガチニブ経口投与療法(関連記事はこちら
(18)小児・AYAがんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療(関連記事はこちら



3月17日の会合では、このうち「8」と「18」の技術を議題としました。

我が国でも「がんゲノム医療」が推進されてきており、次のような流れで進められています。
▽患者の同意を得た上で、患者の遺伝子情報・臨床情報を「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT、国立がん研究センターに設置)に送付する

▽C-CATで、送付されたデータを「がんゲノム情報のデータベース」(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験などの情報を整理する

▽がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)において、C-CATからの情報を踏まえて当該患者に最適な治療法を選択し、これに基づいた医療を提供する
がんゲノム医療拠点病院等指定要件ワーキンググループ1 190527

がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議2 190308



ただし、遺伝子パネル検査により有効な抗がん剤が見つかる可能性は現時点では1割弱にとどまっており(関連記事はこちら)、また「有効な抗がん剤が見つかったものの、保険適応外(当該がん種への効能効果が薬事承認されていない)・未承認(本邦での使用が薬事承認されていない)であった」というケースも少なくありません。

適応外・未承認の抗がん剤を使用する場合には、上述のとおり、原則として「一連の治療すべてが自己負担」となり(混合診療の禁止)、患者の経済的負担が非常に重くなります。このため治療をあきらめざるを得ないケースも生じえます。

そこで、2019年秋に8番目の患者申出療養として「遺伝子パネル検査でactionableな遺伝子異常を有すると判断された固形腫瘍に対する『マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療』」が設けられました(関連記事はこちら)。抗がん剤ごとに、いわば「実施計画の雛形」を準備しておき、標準治療を終えた、あるいは標準治療のないがん患者が希望した場合、迅速に「奏効する可能性がある」抗がん剤にアクセスできるような環境を整えておくものです。

本年(2025年)1月22日時点で、▼国立がん研究センター中央病院(82症例)▼北海道大学病院(38症例)▼東北大学病院(22症例)▼国立がん研究センター東病院(58症例)▼慶應義塾大学病院(139症例)▼東京大学医学部附属病院(47症例)▼名古屋大学医学部附属病院(33症例)▼京都大学医学部附属病院(137症例)▼大阪大学医学部附属病院(45症例)▼岡山大学病院(82症例)▼九州大学病院(75症例)▼静岡県立静岡がんセンター(14症例)▼がん研有明病院(3症例)—で本技術が実施されています。

今般、このうち東北大学病院と岡山大学病院において「研究責任医師を交代する」などの実施計画見直しが了承されました。

患者申出療養で得られた有効性・安全性データも活用した「薬剤の適応拡大」も行われてきており(関連記事はこちら)、さらなる研究推進に期待が集まります。

北大病院、岡山大病院でも、小児等患者への最適な抗がん剤治療に向けた患者申出療養実施

ところで、「小児患者やAYAがん患者では(8)の技術を利用しにくい」との声があり、昨年(2024年)1月から「小児版の仕組み」として「18」の技術が設けられています(関連記事はこちら)。

成人の仕組み((8)の仕組み)と同様に、あらかじめ▼国立がん研究センターで、いわば『患者申出療養の計画』の雛形作成までを準備しておく▼多くの抗がん剤(分子標的薬)を使用可能とする手続きを踏んでおく—こととし、実際に患者から「未承認・適応外の抗がん剤を使用したい」と要望があった際、速やかにこの仕組みに則って「未承認・適応外の医薬品を患者申出療養の中で使用できる」ような体制が整えられています。

「適応外の抗がん剤」治療で効果があると判明した患者が、一刻も早く患者申出療養を申請できるよう、臨床研究中核病院で「下準備」を進めておく



対象患者は、「標準治療がない、または標準治療に不応・不耐であり、次の(a)(b)いずれかに該当するゼロ歳から29歳のがん患者」とされています。
(a)遺伝子パネル検査(我が国で保険適用済み・評価療養として実施)を受け、actionableな遺伝子異常を有することが判明している。かつ、エビデンスレべルD以上と判定されたactionableな病的バリアンスと、それに基づく治療選択肢を提示したエキスパートパネル報告書、およびその根拠となった遺伝子パネル報告書がある

(b)我が国または海外(FDA(アメリカ食品医薬品局)またはEMA(欧州医薬品庁))で薬事承認された分子標的薬(▼我が国で成人には薬事承認されているが小児では承認されていない(小児の用法用量の記載がない)医薬品▼海外(FDAまたはEMA)で小児に薬事承認されているが、我が国で小児に薬事承認されていない医薬品—)の適応がん種と病理学的に診断されている

小児がん等に最適な分子標的薬使用を可能とする新たな仕組み1(患者申出療養評価会議1 230921)

小児がん等に最適な分子標的薬使用を可能とする新たな仕組み2(患者申出療養評価会議2 230921)



本技術は、▼国立がん研究センター中央病院北海道大学病院九州大学病院岡山大学病院—で実施することが可能です。

このうち、国立がん研究センター中央病院と九州大学病院で、患者・家族からの「本技術を受けたい」との申請がなされていました(関連記事はこちら)。

さらに今般、次の2病院でも患者・家族から申請があり、実際に本技術に基づく治療が始まったことが報告されました。

▽北海道大学病院:本年(2025年)2月17日スタート

▽岡山大学病院」:本年(2025年)2月19日スタート



より多くの病院で小児・AYA世代のがん患者に「遺伝子変異に基づく最適な抗がん剤治療」の実施が始まっており、今後も広がっていくことに期待が集まります。



病院ダッシュボードχ ZEROMW_GHC_logo

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