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ゲル充填人工乳房の使用患者が悪性リンパ腫を発症、リスクの説明とフォローアップを―厚労省

2019.6.12.(水)

我が国で初めて、ゲル充填人工乳房の埋め込み患者が悪性リンパ腫を発症した。ゲル充填人工乳房の使用にあたってはリスクの説明を行うとともに、フォローアップを継続して実施せよ―。

 厚生労働省は6月7日に通知「ゲル充填人工乳房の『使用上の注意』の改訂について」を発出し、こうした注意喚起を行いました(医薬品医療機器総合機構(PMDA)のサイトはこちら)。

 
 乳房再建術あるいは乳房増大術においてゲル充填人工乳房を用いることがあります。我が国では、2013年に「ナトレル ブレスト・インプラント」「ナトレル 410 ブレスト・インプラント」が薬事承認され、後述するように2014年度の診療報酬改定で、乳がん等で乳房を全摘した患者等を対象に「ゲル充填人工乳房を用いた乳房再建術」が保険適用されています。

ただし、本人工乳房の使用には、次のような有害事象が発生する可能性のあることが、かねてより知られています。

【急性期の有害事象】
▼血腫▼漿液腫/体液貯留▼乳房の疼痛▼その他の疼痛▼炎症(発赤、腫脹)▼感染▼組織/皮膚の壊死▼インプラント露出―

【遠隔期の有害事象】
▼血腫▼漿液腫/体液貯留▼乳房の疼痛▼その他の疼痛▼炎症(発赤、腫脹)▼感染▼組織/皮膚の壊死▼乳房皮膚知覚異常▼被膜拘縮▼肥厚性瘢痕▼しわ・凹み▼インプラント露出▼インプラント位置異常▼再手術▼インプラント交換▼インプラント摘出―

 また人工乳房との因果関係は解明されていないものの、▼乳がん▼乳がん以外のがん▼未分化大細胞型リンパ腫(ALCL:Anaplastic large cell lymphoma)▼結合組織疾患/自己免疫疾患▼神経系疾患▼自殺―の各疾患等と「将来的には関連があると思われるリスクの可能性がある」ことが示されており、さらに海外では、▼乳がん▼脳腫瘍▼呼吸器がん▼肺がん▼子宮頸がん▼外陰がん▼胃がん▼白血病▼リンパ腫▼視覚、知覚、筋力、歩行、平衡感覚、思考力または記憶力困難などの神経系の症状▼多発性硬化症などの疾患―が報告されています。

 
 医療現場では、こうした有害事象のリスクを考慮しながら人工乳房を用いた乳房再建術・乳房増大術が実施されていると考えられますが、今般、我が国で初めて「未承認のゲル充填人工乳房を植込んだ患者において、未分化大細胞型リンパ腫(ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫:BIA-ALCL)の診断を受けた症例」が日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会から報告されました。

事態を重く見た厚労省は、「ナトレル ブレスト・インプラント」の製造販売メーカー(アラガン・ジャパン社)に、次のように「使用上の注意」を改訂すること、および医療機関等へ適切な情報提供を行うことを依頼しました。

●改訂内容
▽【警告】の項に、「本品の使用前に、関連学会作成の2019年6月付の『ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫について』を参考に、ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)発症のリスク等について患者に十分に説明し、本品埋入後は継続的なフォローアップを行う」旨を追記する

▽【重要な基本的注意】の項の[術者が注意する事項]に、「インプラント埋入からBIA-ALCL発症までの期間を、文献報告等を基に記載した上で、継続的なフォローアップが必要である」旨を追記し、「検査・治療フローチャートについては、関連学会の『ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫について』を参考にする」旨を追記する

▽【重要な基本的注意】の項に、[患者への注意事項]として、「▼インプラント周囲の腫れ▼疼痛▼左右非対称▼乳房や腋窩のしこり▼発赤▼胸の硬化―などのような症状がある場合は、『漿液腫(BIA-ALCL)の疑い』の可能性があり、すみやかに受診させる」旨を追記する

▼【不具合・有害事象】の項に、[重大な有害事象]を新たに設け、「ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)」を記載する

 
 
 2014年度の診療報酬改定で、▼乳腺腫瘍に対する乳房切除術▼乳腺悪性腫瘍手術後―にゲル充填人工乳房を用いた乳房再建術が保険適用され(K476-4【ゲル充填人工乳房を用いた乳房再建術(乳房切除後)】)、「乳房の部分切除よりも全摘出を選択する」乳がん患者が増えてきているとの情報もあります。厚生労働省の「社会医療診療行為別統計」によれば、2017年6月審査分のレセプトベースで、全国で546件にK476-4【ゲル充填人工乳房を用いた乳房再建術(乳房切除後)】が実施されており、ここから年間6550人(単純に12倍)程度の患者にゲル充填人工乳房が埋め込まれていると推計されます(e-Statのサイトはこちら(2018年社会医療診療行為別統計の統計表の一部、こちらの表8から医科の手術件数を見ることができる))。

これからゲル充填人工乳房を用いた乳房再建を行う患者に対して十分な説明とフォローアップが必要なことは、上述の通りで、述べるまでもありませんが、「これまでにゲル充填人工乳房を用いて乳房再建を実施した患者」についても適切なフォローアップが行われることが期待されます。

 

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