地域医療を守るために、設立母体の垣根を越えて「病院の機能改革」論議を―日病・相澤会長
2019.7.24.(水)
地域医療構想の実現に向けた議論が進んでいるが、ともすれば「民間病院vs公立病院・公的病院等」という構図になってしまうことがあり、残念である。「地域の状況が変化する中で、地域医療提供体制を守るためどのように機能分化・転換をしていくべきか」を、設立母体の垣根を越えて、地域医療の関係者全員でしっかりと議論する必要がある―。
日本病院会の相澤孝夫会長は、7月24日の四病院団体協議会・総合部会後の記者会見でこのような考えを強調しました。
目次
地域医療構想の実現、設立母体の垣根を越えて「病院の機能改革」を皆で議論せよ
2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となることから、今後、医療・介護ニーズが急速に増加していきます。このため、より効果的・効率的に医療・介護サービスを提供する体制が求められ、その一環として「地域医療構想の実現」に向けた取り組みが進められています。2025年の医療ニーズを踏まえ、▼高度急性期▼急性期▼回復期▼慢性期等―の各ベッド数がどれだけ地域で必要となるかを推計し、この構想にマッチするように病院・病棟・病床の機能分化を進めていくものです。
地域医療構想の実現に向けては、まず「地域の公立病院・公的病院等について、『公立病院・公的病院等でなければ担えない機能』への特化を進める」ことが求められています。2018年度末(2019年3月末)時点では、ほぼすべての公立病院・公的病院等について、各地域医療構想調整会議で「機能改革に関する合意」が得られたように見えます(ベッド数ベースで、▼公立病院は95%▼公的病院等は98%―で合意)。
ただし、「数合わせの議論に終わっている可能性もある」との指摘があり、厚労省の「地域医療構想に関するワーキンググループ」では、個別病院の診療実績データを踏まえて、合意内容を検証し、「公立病院・公的病院等でなければ担えない機能」への特化実現を求める方針を固めつつあります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
こうした動きに対し、日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協議会の4つの病院団体で構成される四病院団体協議会(四病協)では、7月24日の総合部会で「公立病院・公的病院等にとどまらず、民間病院(医療法人)もきちんと参画する形で地域医療構想の実現に向けた議論をしていく必要がある」という方向での議論が行われました。
日本病院会の相澤会長は、総合部会終了後の記者会見で「地域医療構想の実現に向けて、都道府県知事が機能分化・転換に関する命令を行えるのは公立病院・公的病院等に限られていることなどから、公立病院・公的病院等の機能改革論議が先んじて行われていると思う。しかし、地域医療構想の実現は『地域の人口減少等が急激に進む中で、これまでどおりのやり方では地域医療を守れない』というところが発端になっている。そのためには、地域の医療機関が設立母体の垣根を越えて、皆で『これまでどおりでは立ち行かなくなる。地域医療を守るためにどうすれば良いか』ということをしっかり話し合わなければならない。困り果ててから改革に着手するのでは、適切な仕組みを作れない。今から『この病院はどういう機能・役割を持っているのか。その機能は地域においてこれからも必要なのか、あるいはすでに必要性が低くなっているのではないか』と話し合うことが必要だ。設立母体でなく、その病院の役割を認識し、地域の医療需要、社会情勢の変化を踏まえていくことが必要である。今は、少し違う方向に進んでいるようで少し残念である」との考えを述べました。
厚労省の「地域医療構想に関するワーキンググループ」などでは、ともすれば「民間vs公立・公的」といった構図で議論が進んでしまうようにも思われますが、相澤会長の指摘どおり「設立母体」のみに着目するのでなく、「病院の機能」に着目した機能改革論議が進むことが期待されます。
「病院」の診療報酬は消費税「課税」とし、補填の過不足を解消せよ
また、7月24日の四病協総合部会では、2020年度の税制改税に向けて、「『病院』の診療報酬について、消費税を課税するべき」との要望を行う考えがまとめられました。
現在、保険診療(言わば診療報酬)については「消費税非課税」となっており、医療機関等が物品購入等の際に支払った消費税は、患者・保険者負担に転嫁できず、医療機関が最終負担しています(いわゆる控除対象外消費税)。この医療機関負担を補填するために、特別の診療報酬プラス改定(消費税対応改定)が行われていますが、医療機関ごとに診療報酬の算定内容は異なることから、どうしても補填の過不足が生じてしまいます(2019年度の消費税対応改定では、病院の種類に応じた補填を行うなどの「精緻な対応」が図られているが(関連記事はこちらとこちら)、個別病院の補填過不足を完全に解消することはできない)。
このため、昨年(2018年)夏には四病協と三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)とが合同で、▼消費税非課税・消費税対応改定による補填は維持する▼個別の医療機関ごとに、補填の過不足に対応する(不足の場合には還付)―という仕組みの創設を要望しました(関連記事はこちらとこちら)。言わば「調整財源をプールし、それをもって個別医療機関の補填過不足を調整する」ものですが、与党の税制調査会は「税理論上、非課税制度を維持したまま税の還付を行うことはできない」とし、事実上のゼロ回答を突きつけました(関連記事はこちら)。
この点、日本医師会は「消費税対応改定の精緻化により、消費税問題は解消した」としていますが、病院では▼物品購入量が多く(特に急性期病院)、補填不足が生じやすい▼クリニックと異なり、いわゆる四段階制(社会保険診療報酬の所得計算の特例措置で、概算経費率を診療報酬収入が2500万円以下の医療機関では72%、2500万円超3000万円以下では70%、3000万円超4000万円以下では62%、4000万円超5000万円以下では57%の4段階とする)などの優遇措置もない―ことから、「補填の解消に向けた更なる対応が必要」と判断。今般、「医療機関の診療報酬」ではなく、「病院の診療報酬」に限定して、消費税を原則「課税」とし、「還付」による個別医療機関の補填過不足完全解消を図るべきと要望することになったものです。例えば「ゼロ%の消費税を課税して患者負担増を回避し、病院に生じる『物品購入等に係る消費税負担』を個別に還付する仕組み」などが考えられそうで、今後の税制改正論議の行方が注目されます(関連記事はこちら)。
外部監査の対象となる医療法人、「より高収益の病院」に限定せよ
さらに7月24日の四病協総合部会では、「医療法人の外部監査」の対象を見直すよう要望する考えもまとめました。
今年(2019年)4月2日以降に始まる会計年度(医療法人により異なる)から、▼事業収益70億円以上、または負債50億円以上の医療法人▼事業収益10億円以上、または負債20億円以上の社会医療法人▼社会医療法人債を発行している社会医療法人―では、公認会計士・監査法人による「外部監査」を受けることが義務付けられています(厚労省のサイトはこちら)。
しかし、2017年度の医療経済実態調査(医療機関調査)によれば、医療法人の税引後総損益差率は1.4%にとどまっており(厚労省のサイトはこちら)、四病協では「薄い利益の中から監査費用を捻出することは極めて難しい」とし、外部監査対象の見直し(より高収益の病院を対象とするべき)を求める考えをまとめています。
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