医師の働き方改革、診療報酬で対応できる部分も少なくない。医師増員に伴う入院基本料引き上げも検討を―四病協
2019.3.28.(木)
医師の働き方改革においては、宿日直の在り方、副業・兼業の取扱いが大きなポイントになり、今後の動きを注視していく必要がある。また、医師働き方改革の推進に向けて、「専従要件の弾力化」「常勤要件の緩和」など診療報酬で対応できる部分が小さくない。また、医師の働き方改革を進めれば「医師の増員」が必要となり、その分のコストを入院基本料などに反映させることも検討すべきではないか―。
3月27日に開かれた四病院団体協議会(日本医療法人協会、日本病院会、全日本病院協会、日本精神科病院協会で構成)の総合部会後に記者会見を行った全日本病院協会の猪口雄二会長は、個人的見解も含めて、こうした考えを示しました。
目次
医師働き方改革、ポイントは宿日直や副業・兼業の取扱い
厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」は本日(3月28日)、意見とりまとめを行う予定です。すべての医療機関で「労務管理の徹底」「タスク・シフティングなどによる労働時間の短縮」を強力に推し進めていくとともに、2024年4月から新たに時間外労働の上限を設定するといった内容が盛り込まれる見込みです(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
こうした内容について四病協の総合部会では、「概ね了承できるが、今後の▼宿日直許可基準(4月以降に改正通知が示される見込み)▼副業・兼業の取扱い(別の検討会で議論中)―の2点がポイントになる」という点で一致していることが、総合部会後に記者会見を行った猪口雄二・全日本病院協会会長から報告されました。
宿日直のうち、「業務がまばらである」などとして労働基準監督署長の許可を得た場合には、労働時間に該当しません。許可するか否かの基準(宿日直許可基準)は、1949年(昭和24年)に作成されたままであり、今般、現在の医療現場にマッチするような改正が行われます(4月以降の予定)。この点、どういった業務等が「労働時間に該当する」のか、あるいは、どういった場合であれば「労働時間に該当しない」のかが非常に重要となります。
また、大学病院等の若手医師が、副業・兼業で中小病院の宿直等を行うことが多々ありますが、「副業・兼業でも労働時間は単純に通算(合算)する」のか「一定程度の調整が行われる」のかなども極めて重要なポイントとなります。
現時点では、この2点の取扱いがどうなるのかは不透明であり、四病協では「今後の動きを注視していく」ことを確認しています(関連記事はこちら)。
前述したように、今後、5年間(2024年4月まで)の間に、すべての医療機関で「労務管理の徹底」「タスク・シフティングなどによる労働時間の短縮」を強力に推し進め、まず、原則となる「時間外労働、年間960時間以内」(A水準)を目指します。労働時間短縮等をしてもA水準を満たせない救急医療機関等では、都道府県知事による特定(この場合、年間1860時間(B水準)までの時間外労働が可能となる)を目指します。
この点について猪口全日病会長は、個人的見解であるとした上で、「働き方改革の影響が最も出るのは急性期病院、とくに2次救急病院であろう。連続勤務時間制限や勤務間インターバルが義務化されることから、どうしても医師の増員が必要となる。しかし、医師を派遣してくれる大学病院も働き方改革を進めなければならず(やはり医師増員が必要)、どれだけアルバイト医師を確保できるかが不安である。今後、急性期病院、救急病院は集約されていくのではないか」と見通します。
さらに、副業・兼業の取扱い如何によっては、「宿日直をするアルバイト医師がいなくなり、日本中の中小病院は成り立たなくなる」と危機感を募らせています。
医師働き方改革で必要となる「医師増員のコスト」、入院基本料引き上げで対応を
また、3月27日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、2020年度の次期診療報酬改定に向けて、▼患者の年代別の課題▼働き方改革など昨今の医療と関連の深いテーマ―について、今夏(2019年夏)まで横断的に議論していく方向を固めました(関連記事はこちら)。
この点について中医協委員でもある猪口全日病会長は、「医師の働き方改革により、全国的に医師不足感が加速し、『効率化』が求められる。そうした中では、人員配置などのストラクチャー評価から、結果・成果に着目したアウトカム評価への移行や、医師の専従要件の弾力化(2018年度改定で緩和ケア診療加算等に導入した、緩和ケアチームでは専従者は1人で良いとするなど)、常勤配置要件の緩和(リハビリ職員なども短時間職員の組み合わせで常勤換算しても良いとするなど)といった、診療報酬で対応できる部分も相当ある。さらに、医師を増員すればコストに跳ね返る。診療報酬改定財源は厳しいが、入院基本料等の引き上げも検討する必要があるのではないか」との見解を示しました。
4月からの中医協論議が注目されます。
診療実績を踏まえた機能分化、公立病院等にとどまらず、民間病院にも影響するのか
また、厚労省の「地域医療構想ワーキング」(「医療計画の見直し等に関する検討会」の下部組織)では、公立病院・公的病院等について「地域での診療実績を踏まえた機能改革」論議を進め、検証していく方針が固まりつつあります。具体的には、地域の公立病院・公的病院等における、がんなどの診療実績データを分析し、例えば「地域で、一定数以上の診療実績を持つ医療機関が複数あり、近接している」場合や、「診療実績が特に少ない」場合などには、その機能を他の医療機関への集約できないかを検討・検証することが求められます(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
この点について四病協では、「公立病院・公的病院等に限った話」なのか、「民間病院にも影響する話」なのかを注視する必要があると見ています。後者は、「地域に、公立・公的の基幹病院があり、周囲に中小の民間病院があったとして、公立・公的病院で手術等の診療実績が圧倒的に勝っている場合、中小民間病院は手術等機能を公立・公的病院等に集約しなければならない」という点にまで進むのか、という問題です。
地域医療構想ワーキングでは、構成員間で「民間病院は自然淘汰されるのを待つことになるだろう」との議論が行われていますが、明確に確認されたわけではありません。猪口全日病会長は、この点についても「今後の動向を注視する必要がある」との見解を示しています。
このほか、3月27日の四病協・総合部会では▼新専門医制度について、基本領域(19領域)は日本専門医機構がグリップすべきだが、サブスペシャリティ領域については線引きが難しく学会の裁量を認めるべきではないか▼医師の需給について、働き方改革の動きも見て、検証していく必要がある―といった議論も行われています。
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