地域の独自報酬設定をする介護保険者、基準該当サービスを活用する市町村が増加―厚労省
2020.9.29.(火)
介護保険の地域密着型サービスについて、報酬を独自に設定している保険者は21あり、区分支給限度基準額に独自の上乗せを行っている保険者が16で、若干の増加傾向にある―。
また要介護認定に係る調査について、外部に委託している市町村は若干減少傾向にある—。
さらに、法令や条例による人員配置・構造設備の基準を完全には満たさない「基準該当サービス」の活用が若干増加している―。
厚生労働省が9月25日に公表した2019年度の「介護保険事務調査の集計結果」から、こういった状況が明らかになりました。なお、2018年度調査結果についてはさらに数字の修正が行われていますが、掲載記事の内容に変更はありません。
目次
低所得者の介護保険料を減免する485市町村、「3原則」を遵守割合は低下傾向に
介護保険事務調査は、毎年4月1日現在の(1)介護保険料(2)要介護認定(3)地域支援事業(4)給付―などを、市町村(1741)あるいは保険者(1571)別に集計したものです。介護給付費実態調査や介護保険事業情報報告などとともに、介護保険制度の実態把握、今後の制度改革(関連記事はこちらとこちらとこちら)・介護報酬改定(関連記事はこちらとこちら)のために重要な調査です。
まず(1)の保険料について見てみると、65歳以上の第1号被保険者では▼年金から保険料を天引きする「特別徴収対象者」(こちらが原則)は約3192万人(前年調査結果に比べて約26万人増)▼例外的に振り込みなどで保険料を納める「普通徴収対象者」は約347万人(同8万人増)―となり、第1号被保険者の90.2%(前年調査から0.1ポイント減)となりました。
また低所得者の保険料を減免している保険者は485(前年から3減)で、全体の30.9%(同0.2ポイント減)となりました。
介護保険制度においては、保険料を減免する場合、▼収入のみに着目して一律に減免するのではなく、負担能力を個別に判断して減免する▼全額免除はできるだけ行わず、減額にとどめる▼保険料を減免しても、市町村の一般会計からの財源の繰り入れは行わない―という「3原則」があります。保険料の減免を行っている485保険者のうち、この3原則を遵守しているのは424保険者(87.6%、前年調査から2.3ポイント減少)でした。3原則遵守保険者の割合は、▼2016年度:92.8% →(3.9ポイント減)→ ▼2017年度:88.9% →(2.3ポイント減)→ ▼2018年度:87.6%―と低下傾向にある点が気になります。なぜ3原則を守れていないのか、その背景も含めて分析していく必要があるでしょう。
要介護認定調査、外部委託をする保険者が若干減少
(2)の要介護認定については、新規の認定調査を▼「直接」実施している保険者が1550(保険者全体の98.7%、前年調査と同率)▼事務受託法人へ「委託」している保険者が210(同13.4%、前年調査から1.4ポイント減)―、更新・区分変更の認定調査を▼「直接」実施している保険者が1505(保険者全体の95.8%、前年調査から0.4ポイント増)▼事務受託法人へ「委託」している保険者が214(同13.6%、前年調査から0.1ポイント減)▼指定居宅介護支援事業所(ケアマネ事業所)などへ「委託」している保険者が1064(同67.7%、前年調査から3.3ポイント減)―となっています。
「直接実施」と「委託」を組み合わせている保険者もあり(結果に重複あり)、合計は100%になりません。
市町村の判断で実施できる「任意事業」、実施市町村が増加傾向に
次に(3)の地域支援事業(任意事業)の実施状況を見てみましょう。
市町村の実施する地域支援事業は現在、次の事業で構成されています(2014年に改正)。
(i)介護予防・日常生活支援総合事業(単に「総合事業」と呼ぶことも多い)(▼介護予防・生活支援サービス事業(要支援者に対する訪問・通所サービス、配食などの生活支援サービス、介護予防支援事業)▼一般介護予防事業―)
(ii)包括的支援事業(▼地域包括支援センターの運営▼在宅医療・介護連携推進事業▼認知症総合支援事業▼生活支援体制整備事業―)
(iii)任意事業(▼介護給付費適正化事業▼家族介護支援事業―など)
ここでは(iii)の「任意事業」のうちの「その他の事業」を2019年度(2019年4月-20年3月)に、どの程度の市町村が実施したのかを調べています。
それによれば、▼成年後見制度利用支援事業:1454市町村(市町村全体の83.5%、前年調査に比べて4.5ポイント増)▼福祉用具・住宅改修支援事業:863市町村(同49.6%、前年調査に比べて1.8ポイント増)▼認知症対応型共同生活介護事業所(グループホーム)の家賃等助成事業:98市町村(同5.6%、前年調査に比べて0.7ポイント増)▼認知症サポーター等養成事業:1350保険者(同77.5%、前年調査に比べて2.4ポイント減)―などとなっています。2016年度から17年度にかけては各事業ともに「減少」が目立ちましたが、17年度から18年度にかけては逆に「増加」が目立ちます。市町村が、家族介護支援などに力を入れている状況は非常に喜ばしいと言えるでしょう。
指定基準を完全には満たさない「基準該当サービス」、実施は211保険者に増加
また(4)の給付のうち、基準該当サービスの実施状況に注目してみましょう。
地域によってはマンパワー不足などにより、指定介護サービス(基準を完全に満たされなければ指定を受けられない)が不足するところもあります。そこで、「介護保険法や条例の厳格な基準こそ完全には満たしていないものの、設備や人員体制を一定程度整備しており、介護サービス提供を適切に行える」と市町村が自ら認めた事業所を介護保険の適用対象とすることができます【基準該当サービス】。
基準該当サービスを実施している保険者は211(前年調査に比べて3増)あり、全体の13.4%(同0.2ポイント増)となりました。介護報酬改定や地域の人口変動などにより基準を満たせない事業所が増加し、「基準該当サービス」の出番が若干増えてきたのか、あるいは別の事情があるのか、今後、詳しく分析していくことが重要でしょう。
サービスごとの基準該当件数を見ると、▼居宅介護支援(ケアマネジメント):37(前年調査から1減)▼訪問介護:75(同3減)▼通所介護:30(同3減)▼福祉用具貸与:11(同2増)▼短期入所:108(同1増)▼介護予防居宅介護支援:14(同1減)▼介護予防福祉用具貸与:7(同1増)▼介護予防短期入所:59(同5増)―などとなっています。
介護の「質」を考えれば、基準該当サービスではなく、人員・構造設備の基準を満たした「指定介護サービス」の拡充が期待されます。一方、前述のとおり、地域によっては「指定介護サービス」だけでは、十分な介護サービスの「量」を確保できないため、やむを得ず「基準該当サービス」を活用している面もあります。各市町村において、介護サービスの「質」と「量」のバランスを考慮していくことが現実的なようです。
また、被保険者に対して介護サービスの利用券(バウチャー)を事前に交付し、これに基づいてサービスを受ける(現物給付)という仕組みを採用している保険者は8(前年調査比べて1減)あります。介護保険制度創設に向けて議論の中では、「介護サービスの不正受給を避けるためにバウチャー制度を全国的に導入すべきではないか」との意見も少なからずありましたが、採用はごくわずかにとどまっています。実際にバウチャー制度を採用している、あるいはしていた保険者からのヒアリング等を行い、メリットとデメリットの抽出を改めて行うことも必要でしょう。
独自の報酬設定や区分支給限度基準額の上乗せをする市町村は若干増加
介護保険制度では、公的医療保険制度と異なり、市町村独自のサービスなどを追加で行うことも認められています(上乗せサービス、横出しサービス)。
この独自サービスの実施状況を見ると、▼地域密着型サービスに市町村独自の報酬を設定している:21保険者(前年調査に比べて2増)▼区分支給限度基準額(要介護度別の、毎月の保険サービス利用上限、上限超過は自費となる)を上乗せしている:16保険者(前年調査に比べて2増)―などとなっています。
市町村独自の報酬設定を行っている地域密着型サービスの種類を見ると、▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護:4(前年調査に比べて1増)▼夜間対応型訪問介護:2(同増減なし)▼小規模多機能型居宅介護:20(同2増)▼看護小規模多機能型居宅介護:4(同1増)―などとなっています(重複あり)。独自報酬とサービス整備状況や利用状況などとの関係を詳しく調べることも必要でしょう。
看多機を含めた地域密着型サービス、公募による事業所指定が若干の増加
介護保険サービスのうち、定期巡回随時対応サービスなどの地域密着型サービスについては、導入初期の事業所乱立による「共倒れ」を防ぐために、「サービス提供事業所の指定」が行われるケースがあります。サービス創設初期では利用者やケアマネジャーの認知度が低く、事業所数が過剰になれば利用者の安定確保が難しくなります。結果、経営が困難になり、地域から撤退してしまい、「将来の重要なサービス事業所」の芽を摘んでしまいかねないという点を考慮した仕組みです。
この事業所の指定を公募制で実施している保険者は264(前年調査に比べて30増)あります。その内訳は、▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護:119(同4増)▼小規模多機能型居宅介護:164(同21増)▼看護小規模多機能型居宅介護:119(同19増)―という状況です。2016年度から17年度にかけては各事業ともに「減少」が目立ちましたが、17年度から18年度にかけては逆に「増加」が目立ち、背景を詳しく見ていくことが重要でしょう。
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