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「欧米で既承認の抗がん剤」が我が国では未承認、標準治療開発にも遅れ、ドラッグ・ラグ/ロスの解消進めよ―がん研究あり方有識者会議

2023.6.28.(水)

「欧米で承認されている抗がん剤」が、我が国においては未承認であるドラッグ・ラグ/ロスの問題が再燃している。当然、がん標準治療の開発遅れにもつながっており、産学官が連携し総合的な対策を早急に進める必要がある—。

6月28日に開催された「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」(以下、有識者会議)でこうした議論が行われました。

がんゲノム医療を受けやすい環境整備に向けた研究も進めよ

がん予防・医療・共生を支える「がん研究」については、現在、厚生労働省・文部科学省・経済産業省の共同による「がん研究10か年戦略」(以下、10か年戦略)に沿って進められています。本年度(2023年度)に10か年戦略が終了することから、2024年度以降の「新たながん研究戦略」の構成を固める議論が有識者会議で始まっています(関連記事はこちら)。

議論は、10か年戦略をベースに「さらに進める点は何か」「新たに実施すべき事項を何か」という視点で行われています。6月28日の会合では、▼がんの本態解明▼アンメットメディカルニーズに応える新規薬剤開発▼新たな標準治療の創出▼小児がん▼シーズ探索▼がんゲノム医療▼AI等新たな科学技術▼その他—など広範なテーマを議論しました(前回の「患者にやさしい医療技術開発」などの論点に関する議論の記事はこちら)。

このうち「アンメットメディカルニーズに応える新規薬剤開発」「新たな標準治療の創発」に関しては、我が国における新たな形でのドラッグ・ラグ/ロスの解消が注目されました。

この点は、厚生労働省の厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」でも、極めて重要かつ喫緊のテーマであることが確認され、例えば▼先発品メーカーが特許期間中に研究開発コストを回収でき、特許期間後は後発品に市場を明け渡す環境を整える▼薬価制度の改革を行い、これらを下支えする—ことなどを盛り込んだ報告書をとりまとめています。

6月28日の会合では、▼2020年時点で、欧米の既承認医薬品243品目(2016-20年に承認されたもの)のうち、本邦では72%に当たる176品目が「未承認」である▼中でも抗悪性腫瘍剤が最多の44品目が未承認であり、2016年(21品目)から倍増している—ことが安川健司構成員(日本製薬工業協会副会長、アステラス製薬社代表取締役会長)から報告されています。欧米の先進諸国で「がん治療に使える薬剤」が、我が国のがん患者には届いていない状況です。

ドラッグ・ラグ/ロスの状況(がん研究有識者会議 230628)



我が国で、優れた抗がん剤が未承認(=当然、保険適用外)であるため「標準治療」に中にも盛り込まれておらず、谷島雄一郎構成員(ダカラコソクリエイト発起人・世話人/カラクリLab.代表)は「標準治療の開発遅れにもつながってきており、日本国民が不利益を被っている」と強く指摘しています。

こうした事態を解消・改善するために、有識者からは「創薬の加速する基礎研究の推進、産学の専門人材の流動化による最先端研究成果を臨床に橋渡しする仕組みづくり、小児がんや希少がん等を含む『日本でのリクルートが難しい疾患』の治療薬開発環境整備、開発のハードルとなる規制の国際調和(日本独自の規制により臨床試験が年単位で遅れてしまう)、患者・家族への情報提供を補完・支援する仕組み、研究開発・臨床応用を促進するための、薬価制度をはじめとする抜本的なインセンティブ改革、などを総合的に進める必要がある」(安川構成員)、「抗がん剤の多くは『日本法人や国内管理人を持たない企業』(Emerging Biopharma:EBP)が開発しているが、我が国で開発を行ってくれていない実態がある。日本市場の魅力向上、日本で臨床試験をしやすい環境の整備などが急務である。また研究においては『論文発表』などをゴールとするのではなく、『薬事承認→保険適用』をゴールに据えて進める必要がある」(藤原康弘参考人:医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)、「患者の臨床試験参画を促すために、『リアルタイム』でデータ収集し、研究成果を患者に還元する仕組みを早急に構築する必要がある。海外企業からすると『日本ではどういった患者が、いつの時点で、どこにおられるのか』を把握できず、結果、臨床試験を実施できない。リアルタイムで更新される患者データベースの構築も急ぐ必要がある」(中村祐輔構成員:医薬基盤・健康・栄養研究所理事長)、「研究を支援するリサーチナースや事務スタッフの育成・配置も強力に進める必要がある」(大井賢一構成員:がんサポートコミュニティ事務局長)、「臨床研究中核病院でも研究に苦戦している。制度面・規制面からも研究を推進しやすい環境の整備を行うべきである」(土岐祐一郎構成員:日本癌治療学会理事長、大阪大学大学院医学系研究科外科学講座消化器外科学教授)など、非常に幅広く、かつ前向きな意見が相次ぎました。



関連して、「医師働き方改革により、大学病院の医師において『研究』時間が自己研鑽扱いとなってきており、臨床研究に支障が出始めている。こうした点へのサポートも考えていくべき」(土岐構成員)、「診療データ等の利活用において、行き過ぎた個人情報保護が支障になるケースもあり、手当てを考えていく必要がある」(末松誠構成員:実験動物中央研究所所長)、「小児がん患者への有効な抗がん剤開発も遅れている。短期的な対応としての『患者申出療養の活用推進』や、中長期的な対応としての『速やかな保険適用』など、保険制度面での対応も重要である」(大賀正一参考人:日本小児血液・がん学会理事長、九州大学大学院医学研究院成長発達医学分野教授)、「我が国ではベンチャー企業に投資・支援を行うキャピタル企業が少なく、ベンチャーが海外に流出してしまう。経済産業省などと連携した『キャピタル企業育成』も考えていくべき」(佐谷秀行構成員:日本癌学会理事長、藤田医科大学がん医療研究センター特命教授兼センター長)、「研究者と企業とのマッチングを行う仕組みも必要であろう。1研究者が、自身の探索したシーズ・研究内容を支援してくれる企業を探すことは極めて困難である。研究者の知的財産権の管理支援も必要である」(古関明彦構成員:理化学研究所生命医科学研究センター 副センター長、石岡千加史構成員:日本臨床腫瘍学会理事長、東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野教授、東北大学病院腫瘍内科長)といった意見も出ており、いずれも重要な検討の視点と言えるでしょう。

「外国では使える薬が、我が国は入ってこない」状況は、今現在、がんをはじめとする疾病と闘う患者にとって非常に厳しいものです。多方面からドラッグ・ラグ/ロスの解消に向けて早急に取り組むことに期待が集まります。



このほか、がんゲノム医療に関して「遺伝子パネル検査が保険適用されているが、より早期に実施できる環境を整えるべき。また遺伝情報が差別に結びつかないような患者・家族支援も重要である」(谷島構成員)、「近い将来、エキスパートパネル(遺伝子変異情報をもとにした最適な抗がん剤選択を行うがんゲノム医療中核拠点病院等に設置される専門家会議)はAIにとってかわられることであろう。将来は、どこの病院でも検体を採取し、それをAI等で解析し、最適な抗がん剤治療を受けられる環境を目指していくべき」(中村構成員)、「がんゲノム医療が普及する中で、『遺伝子変異と疾病』に関する基本的な教育を中学生段階から始め、差別を生まないような環境を整えていくべき」(間野博行参考人:国⽴がん研究センター 理事・研究所)との意見が、さらにがん対策の効果評価に関して「高齢化が進む中で『健康寿命の延伸』などを指標化していく研究も重要である」(黒瀨巌構成員:日本医師会常任理事)、「経済性・地域性とがん対策の効果に関する研究を進めるべき。『誰一人取り残されない』視点が第4期がん対策推進基本計画でも重視されている」(谷島構成員)などの意見が出ています。

さらに、大井構成員や直江知樹構成員(名古屋医療センター名誉院長)は、「がん研究においては治療や予防が重視されているが、緩和ケアを含めた『ターミナル期』『人生の最終段階』を苦痛なく、安らかに過ごすための医療等に関する研究も忘れてはならない」とコメントしています。がん研究が進みますが、高齢化の進展などに伴って「がんで亡くなる」人も増加していく中で、非常に重要な視点です。



今後、こうした構成員・参考人の意見も踏まえて「次期10か年戦略」のベースを有識者会議を中心に練っていくことになります。



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