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外来診療 経営改善のポイント 看護必要度シミュレーションリリース

2019年度から、がんゲノム医療や科学的根拠に基づく免疫療法の研究も重点的に進めよ―がん研究あり方有識者会議

2019.3.11.(月)

 現在、がんの本態解明や新規治療法開発などを柱とする「がん研究10か年戦略」が進んでいるが、2019年度からの後半期間においては、「それぞれの柱に沿った研究」をさらに推進することはもちろん、複数の柱にまたがる事項として、例えば「がんゲノム医療」や「科学的根拠に基づいた免疫療法」などの研究も重点的に推進していく必要がある―。

 こういった方針が、3月8日に開催された「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」(以下、有識者会議)で概ねまとまりました。

 厚生労働省健康局がん・疾病対策課の佐々木昌弘課長は、委員から出された意見を踏まえて修文を進め、今年(2019年)4月中(元号が平成の間)に報告書を公表する考えです。

3月8日に開催された、「第9回 今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」

3月8日に開催された、「第9回 今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」

 

2014年度から8つの柱にそった「がん研究10か年戦略」を推進

 がん対策を進める上で、がん発生の原因や動態、有効かつ安全な治療法などの「研究」推進が極めて重要です。我が国のがん研究は、1981年にがんが死因第1位となったことを踏まえ、1984年から「対がん10ヵ年総合戦略」(厚生省、文部省、科学技術庁)、1994年から「がん克服新10か年戦略」(厚生省、文部省、科学技術庁)、2004年から「第3次対がん10か年総合戦略」(厚労省、文部科学省)、2014年から現在の「がん研究10か年戦略」(厚労省、文科省、経済産業省)という形で進められてきています。
がん研究在り方有識者会議1 190308
 
 現在の「がん研究10か年戦略」では、がん対策のベースとなる「がん対策推進基本計画」(2007年から第1次、2012年から第2次、2018年から現在の第3次)に沿い、次の8つの柱を打ち立てています(関連記事はこちら)。
(1)がんの本態解明に関する研究
(2)アンメットメディカルニーズに応える新規薬剤開発に関する研究
(3)患者に優しい新規医療技術開発に関する研究
(4)新たな標準治療を創るための研究
(5)ライフステージやがんの特性に着目した重点研究領域(▼小児がん▼高齢者のがん▼難治性がん▼希少がん―など)
(6)がんの予防法や早期発見手法に関する研究
(7)充実したサバイバーシップを実現する社会の構築をめざした研究
(8)がん対策の効果的な推進と評価に関する研究

がん研究在り方有識者会議2 190308
 

2019年度からの後半期間に向け、研究の進捗状況を中間評価し、重点分野を明確化

 有識者会議では、「がん研究10か年戦略」の後半となる「来年度(2019年度)以降の研究」を支援することが重要と考え、現在の研究成果等の中間評価を行い、報告書(中間評価)としてまとめました。

まず研究全体としては、例えば、がんの本態解明に関連した「腸内細菌叢が肝がんに与える影響」、新規薬剤として「EBウイルス関連白血病に対する世界初のプロドラッグ抗がん剤」の開発、新規治療法として「高精度かつ短時間での治療が可能な放射線照射方法」の開発、小児がん治療を促進させるための「小児がん拠点病院を中心とした研究ネットワーク」構築、がんの早期発見等に資する「遺伝診療現場で使用できるリスク評価」の開発などの成果が上がっており、有識者会議では「概ね順調に進捗している」と高く評価。

その一方で、研究が進む中で「新たな課題」も明らかとなっていることから、8つの柱それぞれについて、次のような「2019年度からの後半期間で進めるべき研究テーマ」を提示しています(抜粋)。

(1)がんの本態解明に関する研究
▽「治療への抵抗性を獲得したがん」への治療戦略の開発

▽ゲノム解析を含めたオミックス解析(遺伝子の発現・タンパク質の構造解析など、網羅的な分子情報の解析)技術を活用した、効率的ながん克服のための標的発見

▽世界的にも進んでいない、RAS遺伝子やp53遺伝子などの「主要ながん促進に関わる遺伝子」(ドライバー遺伝子)を標的とした薬剤の開発

▽がん患者の身体的・精神心理的な苦痛に関する機序の解明

▽これまでの「がんの治療法開発」を目指した本態解明に加えた、「がんの予防法開発」を目指した本態解明に関する研究

 
(2)アンメットメディカルニーズに応える新規薬剤開発に関する研究
▽細胞障害性抗がん剤や新規の薬剤固有の副作用などにより、依然として「大きな身体的苦痛を伴う場合がある」ことを踏まえた、重点的な支持療法の研究

▽ゲノム情報等を利活用した、患者の層別化を進める研究

 
(3)患者に優しい新規医療技術開発に関する研究
▽治療効率の向上や副作用の低減が期待できる「ドラッグデリバリー」(体内の薬物分布を量的・空間的・時間的に制御し、コントロールする手法)に係る研究

▽重粒子線治療装置の小型化、酸素・ヘリウムなどを用いた副作用が少ない重粒子線治療法の開発

▽アクチニウムなど「α線を放出する核種」によるRI(放射性同位元素)内用療法などの研究

▽内視鏡手術やロボット支援下手術の成績検証

▽「使い勝手の良い医療機器」の開発(開発段階から医療機関と企業等が連携)

 
(4)新たな標準治療を創るための研究
▽「がん治療の効果評価」に加えた、「高いQOLを維持できる標準治療」の研究

▽標準的な支持療法、緩和治療の開発

▽「悪液質」(がんの進行に伴い、体重減少、低栄養、消耗状態が徐々に進む状態)の評価モデルの構築

▽がんの治療の一環として重視されてきている「身体活動」「運動の増加」「栄養・食生活改善」などの科学的根拠の確立

▽画期的ながら、非常に高額な薬剤・治療法に関する「コストダウン」

 
(5)ライフステージやがんの特性に着目した重点研究領域
【小児がん】

▽小児がんや肉腫等の希少がんに多い「未分化がん」については、正確かつ迅速な診断に向けた「遺伝子診断」の早期実用化

▽小児用の遺伝子パネル検査(多数の遺伝子について変異の有無を一括して検出する検査)の確立

▽AYA世代(思春期(Adolescent)と若年成人(Young Adult)を合わせた世代、小児がんと成人がんとで治療法が異なる場合もあり、治療成績の改善度合いが低い)の患者に適した治療法の開発

▽二次がんの発生、晩期合併症のリスク因子同定に向けた長期的な研究

【高齢者のがん】
▽認知症や複数の併存症を持つ高齢者特有の課題を踏まえた、最適な治療法の開発

【難治性がん、希少がん】
▽診療・研究に携わる医療従事者が限られており、研究体制の支援等を含めた中長期的な研究支援

▽日本に数症例しかいない「希少がん」に関し、国際的な協力、企業の参画も得て、全ゲノムシークエンス(すべての遺伝子に関する変異の有無を一括して検出する検査)結果も含めたレジストリ構築やサンプル収集

▽スキルス胃がんやATL(成人T細胞白血病)など、日本やアジア地域に多く、かつ難治性のがん種の研究

 
(6)がんの予防法や早期発見手法に関する研究
▽「喫煙」「食生活」「身体活動・運動」「ヒトパピローマウイルスの感染」などのリスク因子について、ゲノム解析等を通したより深い理解の推進

▽行動科学等の知見を活かし、生活習慣の改善を個々人が実践するような科学的介入方法の研究

▽がん検診の新たな有効性指標の開発(現在は、死亡率減少を主要評価項目としているが、検証には長期間かかるため、新たな検診手法の実用化が遅れてしまう)

▽工学・理学都の異分野融合も含めた、膵がんなど「難治性がん」の早期発見手法

▽HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス)やヒトパピローマウイルスなど感染症に起因するがんの予防法開発

 
(7)充実したサバイバーシップを実現する社会の構築をめざした研究、および(8)がん対策の効果的な推進と評価に関する研究
▽緩和ケアの普及に向けた、医療現場などにおける困難感やさまざまな障害の解消

▽がんになっても仕事を辞めずに働くことができる社会の構築

▽ピアサポートをはじめとする学会・患者団体等の患者支援の取り組みを踏まえた、がん患者の精神心理的ケア体制の構築

▽がん患者を支える家族のサポート体制の構築

▽小児がんに対する長期フォローアップ体制の構築

▽AYA世代のがん患者に対する、「教育」「就学」「就労」「生殖機能」の社会生活における課題への支援

▽必要な人に確実に科学的根拠のある正しい「がん医療に関する情報」が伝わるような、適切な情報発信の体制の構築

▽効果的かつ効率的に質の高いがん診療や支援を提供するための「がん診療に携わる者の適正な配置」に関する検証・研究

▽「がん登録データ」とレセプト情報などとの連携研究

▽質の高い相談支援が提供できる人材の育成

▽「障害のあるがん患者」に関する課題を明らかにする研究

がんゲノム医療や免疫療法など「複数の柱にまたがる事項」を重点研究分野に

 さらに、がん研究が進む中では、8つの柱の「複数に関連する課題」も明らかになってきています。有識者会議では、▼がん治療のシーズ(治療法等の原点)の探索▼がんゲノム医療の研究▼免疫療法の研究▼リキッドバイオプシー(血液や尿などを検体として、低侵襲で実施するがんの診断)の研究▼AIなどの新たな科学技術の活用▼データベースなどの基盤整備―を「横断的事項」に据え、2019年度以降の後半期間で重点的に研究を進めるよう提言しています。

 このうち「がんゲノム医療」は、患者の遺伝子変異情報・臨床情報を、国立がん研究センターに設置された「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT)のデータベースに照らし、「最も有効な抗がん剤」の選択などを行うものです。ただし、現時点では▼何に関連するか不明な遺伝子変異も多い▼がんと遺伝子変異との関連は明らかだが、効果的な治療法(抗がん剤)が開発されていないことも多い―ことから、遺伝子パネル検査を行ったとしても80-90%の患者では、有効な治療法が見つからないのです(関連記事はこちら)。

このため有識者会議では、▼未承認薬や適応外薬の治験・先進医療の推進▼同定された遺伝子変異に対応する新規薬剤の開発▼C-CATに集約された情報を活用した、新たな診断法、薬剤の研究、臓器横断的な研究▼全ゲノムシークエンス検査等の研究―を進めることを強く要請。さらに、こうした研究等を下支えする人材の育成、データベースの充実、患者に対する遺伝カウンセリングを含めた「精神心理的サポート」も進めるよう求めています。

 
また免疫療法に関しては、科学的根拠に基づいた「免疫チェックポイント阻害剤」(オプジーボやキイトルーダなど)の開発が進んでいますが、「これらが奏功しない患者」「強い副作用の生じる患者」も少なくありません。有識者会議では、「奏功が期待できる患者」と「強い副作用が予想される患者」を明確にするためにバイオマーカ―を開発していくことが必要と提言します。

さらに、白血病等に対する新たな免疫療法として「CAR-T」療法(患者自身の免疫細胞を採取して、遺伝子組換えを行い増殖し、体内に戻す手法)が開発され、近く、我が国でも保険収載される見込みです(キムリア点滴静注)。米国の臨床試験では「奏効率8割」という優れた結果が出ており、患者や医療現場では大きな期待を寄せていますが、「極めて高額になる」(米国の高齢者向け医療保険制度MediCareでは5560万円の償還価格が設定)とも予想されています。

有識者会議では、▼製剤のコストが高い▼製剤までに時間がかかる―という課題の解決に向け、「iPS細胞の活用」「新たな遺伝子改変技術の開発」などを進めるべきと提言しています。

 
こうした提言内容に対して、いくつかの注文(総括的な文章を加えるべき、晩期合併症は成人でも問題となり記述を整理すべき、など)がついたものの、全体としては了承。この4月中(2019年4月中、元号が平成の間)に修正を行い、公表されます。

2019年度以降、AMED(日本医療研究開発機構:Japan Agency for Medical Research and Development)や厚生科学研究費の研究テーマ採択において、この提言内容が重視されることはもちろん、「民間企業を含めた、今後の我が国におけるがん研究の羅針盤になる」と佐々木がん・疾病対策課長はコメントしています。

有識者会議の構成員と厚生労働省事務局

有識者会議の構成員と厚生労働省事務局

 
 
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