電子カルテ情報共有サービスのモデル事業、まず藤田医大病院中心に開始、「病名」の取り扱いルールなども検討―医療等情報利活用ワーキング(1)
2025.3.14.(金)
患者同意の下で、電子カルテ情報を「患者自身」「全国の医療機関」で共有可能とする仕組みの構築が進んでいる—。
まず本年度(2024年度)中に全国の10程度の病院・地域でモデル事業を行い、その結果も踏まえて来年度(2025年度)中に本格運用(全国展開)を行うが、モデル事業を「愛知県の藤田医科大学を中心」にスタートした—。
今後、モデル事業病院・地域を拡大し、その中で「運用上の課題」が明らかになると考えられる。また「病名」については非常にセンシティブであり、「未告知=患者からは確認できないようにする」などのフラグ設定を行うが、その運用ルールなど詳細に設定する必要がある。こうした課題解決・運用ルール設定のために、「技術的作業班」を設置する—。
3月13日に開催された健康・医療・介護情報利活用検討会の「医療等情報利活用ワーキンググループ」(以下、ワーキング)で、こうした内容が了承されました。構成員からは「拙速に進めれば国民・医療現場の不安・不信感が生じ、医療DX推進に大きなブレーキがかかる。丁寧に検討・運用すべき」との指摘が出ています。モデル事業での課題対応などを行い、「来年度(2025年度)中に本格運用(全国展開)」がスタートします。
なお、同日のワーキングでは「来年度版の医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」も固めており、別稿で報じます。

3月13日に開催された「第24回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ」
「病名」フラグ設定の具体的な運用ルールなど、医療現場の声を踏まえて専門家で詰める
Gem Medで繰り返し報じているとおり、より質の高い医療をより効率的・効果的に提供するために、医療DXの一環として「全国の医療機関や患者自身が診療情報(レセプト情報・電子カルテ情報など)を共有する仕組み」の構築・運用が進められています。この仕組みには次の2つがあり、いずれも「オンライン資格確認等システム」のインフラを活用します(関連記事はこちらとこちら)。
(A)「レセプト」情報を共有・閲覧可能とする仕組み
(B)各医療機関・患者が電子カルテ情報を共有・閲覧可能とする仕組み

医療情報の共有・閲覧に向けて2つの仕組みが動いている(医療部会(2)2 211209)

全国の医療機関での電子カルテ情報共有するにあたり「オンライン資格確認等システムのインフラ」を活用する方針を決定(医療情報ネットワーク基盤WG1 220516)
(A)のレセプト情報を利活用する仕組みは、述べるまでもなく「すでに稼働」しています。
一方、(B)の各医療機関・患者が電子カルテ情報を共有・閲覧可能とする仕組み(電子カルテ情報共有サービス)については、 2023年3月9日の健康・医療・介護情報利活用検討会「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」で大枠が固められ、▼2024年度中にモデル医療機関でスタート▼2025年度中に本格運用する—といったスケジュールが固められています(関連記事はこちら(医療DXの推進に関する工程表))。

電子カルテ情報共有サービスの概要(医療情報利活用ワーキング(1)1 240610)

電子カルテ情報共有サービス運用までのロードマップ(医療等情報利活用ワーキング12 240124)
このうちモデル事業については、次のような状況が報告されました。
(モデル事業を2月3日からスタート済)
▽愛知県 藤田医科大学病院、藤田医科大学ばんたね病院
▽三重県:藤田医科大学七栗記念病院
(モデル事業準備中、近くスタート)
▽北海道:函館医療センター、高橋病院、森町国民健康保険病院
▽山形県:日本海総合病院、本間病院
▽茨城県:水戸済生会総合病院、日立総合病院、ほか2医療機関
▽千葉県:千葉大学医学部附属病院、柏戸病院、みはま病院、稲毛病院、ほか1医療機関
▽石川県:加賀市医療センター、金沢大学附属病院、うわだな小児科医院
▽静岡県:浜松医科大学医学部附属病院、浜松医療センター、中東遠総合医療センター、藤枝市立総合病院、焼津市立総合病院、聖隷浜松病院
▽愛知県:藤田医科大学岡崎医療センター
▽三重県:三重大学医学部附属病院を中心とした地域
▽奈良県:南奈良総合医療センター、ほか4医療機関
▽宮崎県:宮崎大学医学部附属病院、潤和会記念病院、JCHO宮崎江南病院、池井病院、ほか1医療機関

電子カルテ情報共有サービスのモデル事業(医療等情報利活用ワーキング(1)1 250313)
このモデル事業によって「運用上の課題」が明らかになってくるため、ワーキングでは「2025年度中の本格運用実施(全国展開)」に向けて、課題を解決するための「作業班」(医療機関における運用に関する技術作業班)を設置することを決定しました。
あわせて作業班では、モデル事業や厚生労働科学研究の成果などをもとに、▼病名情報登録の際のフラグ設定方法等▼その他アレルギー等情報登録の際のJ-FAGYコードの使用方法—などの検討も行います(作業班は非公開で行われ、適宜、検討内容がワーキングに報告される)。

傷病名の運用について(医療等情報利活用ワーキング6 240124)

傷病名の表示イメージ(医療等情報利活用ワーキング7 240124)
電子カルテ情報共有サービスでは、患者も「自身の電子カルテ情報」をマイナポータル画面で確認することが可能となります。医師が「病名告知はまだ早い。適切な治療のためにタイミングを見計らって病名告知をしよう」と考えたとしても、患者が電子カルテ情報共有サービスで自身の病名を見てしまえば、医師の診療計画と大きな齟齬が生じてしまいかねません。
また「正確な病名が難解であるため、患者には一般的な病名を伝え、電子カルテには正確な病名を記載する」ことがままありますが、患者がマイナポータル画面で「医師から伝えられた病名」とは異なる「正確な病名」を見た場合、医師-患者間の信頼関係が崩れる可能性も考えられます。
さらに、レセコン・電子カルテを一体的に運用する場合などには、保険診療の中で検査を行うための「疑い病名」(いわゆるレセプト病名)を数多く記載するケースもありますが、これも保険診療ルールなどに精通していない患者が見た場合には、患者は「私は何の病気なんだろう。主治医は何か隠しているのではないか」といらぬ心配をし、やはり医師-患者間の信頼関係が崩れかねません。
このために、上記のフラグが用意されていますが、長島公之構成員(日本医師会常任理事)は「医療現場からは『多忙な医師が確実に適切なフラグ立てを行えるだろうか』と心配する声が少なくない」ことを紹介し、「医療現場の声も十分に踏まえ、丁寧に運用ルールを検討すべき」と指摘。あわせて「モデル事業・本格運用(全国展開)を拙速に進めれば国民・医療現場の不信・不安が募り、医療DXに大きなブレーキがかかってしまう(DX推進の最大のブレーキは国民・医療機関の不信感である)。丁寧に検討・運用してほしい。またモデル事業医療機関には多くの相談・質問が患者から寄せられると思う。国や自治体による支援も十分に行ってほしい」と長島構成員は改めて要望しています(関連記事はこちら)。
なお、電子カルテ情報共有サービスでは、「A医療機関から社会保険診療報酬支払基金にデータ提供(電子カルテ情報の登録)を行う」→「支払基金の電子カルテ情報共有サービスに全国の医療機関がアクセスし、情報を確認する」という流れになります。前者については「重要な個人情報の利用」に該当するため、患者の同意が必要となるのが原則です。ただし、都度患者同意を得ることは非現実的なため、国会に提出されている医療法改正案の中に「法的根拠」を設けて「患者の同意を不要」としています(関連記事はこちら)。
しかし、モデル事業時点では改正医療法が成立していないため「法的根拠」が存在しません。この点、厚労省は「個人情報保護法第27条第5項第1号の規定に基づき、医療機関と支払基金で委託契約を締結し、医療機関から支払基金に対して電子カルテ情報の共有について委託を行うことにより、医療機関から支 払基金への情報登録に関する本人同意を不要とする」取り扱いとすること、来院患者に「同意の下で電子カルテ情報共有を行う」旨などを院内掲示等で広報することなどが報告されています。

モデル事業における患者同意の取得中の取り扱い(医療等情報利活用ワーキング(1)2 250313)
こうしたモデル事業を経て「2025年度中」に電子カルテ情報共有サービスの本格運用(全国展開)が始まります。
なお、こうした医療DXを推進していく中では「これまで以上に医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策を強固なものにしていく」必要があります。このため3月13日のワーキングでは「来年度版の医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」も固めており、別稿で報じます。
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