災害拠点病院・救命救急センターの耐震化率、2018年9月には90.7%に向上も、地域別のバラつきあり―厚労省
2019.8.2.(金)
2018年の病院の耐震化は、前年に比べて1.6ポイント向上し74.5%となった。地震発生時の医療拠点となる災害拠点病院・救命救急センターの耐震化率は同じく1.3ポイント向上し90.7%となった。ただし都道府県別に耐震化率にはバラつきがある―。
厚生労働省が7月31日に公表した、2018年の「病院の耐震改修状況調査の結果」から、こういった状況が明らかになりました(厚労省のサイトはこちら)(前年の記事はこちら)。
病院全体の耐震化率が低いのは、福島・京都・大阪・香川・熊本など
2011年に発生した東日本大震災を大きな契機として、病院の耐震化がクローズアップされています。地震発生時に病院の倒壊・崩壊を防ぐことはもちろん、「一時的な避難先」としての機能、入院患者の安全を確保しながら被災者に適切な医療を提供する機能を維持する必要があるためです。
国は病院の耐震化を推進すべく、例えば厚労省では▼医療施設耐震化促進事業(医療施設運営費等補助金)▼災害拠点病院施設整備事業(医療提供体制施設整備交付金)▼地震防災対策医療施設耐震整備事業(同)▼医療施設耐震整備事業(同)―といった補助メニューを準備しています。あわせて、毎年9月1日時点の病院の耐震化状況を調べ、公表しています。
それによると、2018年9月1日時点における病院全体の耐震化状況は次のとおりであることが分かりました。
▽「全ての建物に耐震性のある」病院の割合(耐震化率):74.5%(前年比1.6ポイント向上)
▽「一部の建物に耐震性がある」病院の割合:7.9%
▽「全ての建物に耐震性がない」病院の割合:1.5%(同0.2ポイント低下)
▽「建物の耐震性が不明」な病院の割合:16.1%(同1.3ポイント低下)
病院の耐震化率は、2005年に36.4%であったことから、13年間で38.1ポイント向上した格好です。上記のうち「医療施設耐震化臨時特例交付金」をもとに各都道府県では基金を創設し、ここから病院の耐震化経費が補助されるなどしています。こうした補助の活用によって耐震化整備が進んでいると考えられます。
都道府県別に病院の耐震化率を見ると、▼静岡県:90.4%(前年比3.7ポイント向上)▼滋賀県:89.5%(同増減なし)▼宮城県:89.2%(同0.6ポイント向上)▼山形県:85.3%(同0.2ポイント低下)▼富山県:85.0%(同1.0ポイント向上)—などで高くなっています。
また今年度(2019年度)末時点の耐震化率見込みを見てみると、全国では75.4%(2018年9月1日時点に比べて0.9ポイント向上)、都道府県別では▼静岡県:91.5%(同1.1ポイント向上)▼滋賀県:89.5%(同増減なし)▼宮城県:89.2%(同0.6ポイント向上)▼山形県:86.8%(同1.5ポイント低下)▼富山県:86.0%(同1.0ポイント向上)―などで、上位の顔ぶれは変わらないようです。
逆に、2018年9月1日時点で耐震化率の低い都道府県は、▼福島県(64.9%、前年比3.0ポイント向上)▼京都府(65.1%、同4.7ポイント向上)▼大阪府(66.9%、同2.4ポイント向上)▼香川県(67.4%、同2.6ポイント低下)▼熊本県(67.8%、同1.6ポイント向上)—などです。
また今年度(2019年度)末時点の耐震化率見込みが低いのは、▼京都府(66.3%、2018年9月1日時点に比べて1.2ポイント向上)▼福島県(67.2%、同2.3ポイント向上)▼大阪府(68.1%、同1.2ポイント向上)▼福岡県(68.5%、同0.6ポイント向上)▼熊本県(68.8%、同0.9ポイント向上)―などとなっています。下位の顔ぶれも変わらず、より一層の努力に期待したいところです。
災害拠点病院などの耐震化、福島・奈良・山口・栃木・鳥取で遅れ
また、災害拠点病院・救命救急センターに限定して、耐震化状況(2018年9月1日時点)を見ると、次のような状況です。
▽「全ての建物に耐震性のある」病院の割合(耐震化率):90.7%(前年比1.3ポイント向上)
▽「一部の建物に耐震性がある」病院の割合:8.6%(同0.5ポイント低下)
▽「全ての建物に耐震性がない」病院の割合:0%(同増減なし)
▽「建物の耐震性が不明」な病院の割合:1.6%(同1.3ポイント低下)
都道府県別に災害拠点病院・救命救急センターの耐震化率を見ると、▼秋田県▼山形県▼群馬県(新)▼富山県▼石川県▼福井県▼長野県▼静岡県(新)▼滋賀県▼和歌山県▼徳島県▼香川県▼高知県▼長崎県▼宮崎県―の15県では100%を達成しています。
また、今年度(2019年度)末時点では、ほかに大分県が100%を達成できる見込みで、2019年度末時点で日本全体の「災害拠点病院・救命救急センターの耐震化率」は91.9%(2018年9月1日に比べて1.2ポイント向上)になりそうです。
一方、▼福島県(50.0%、前年比増減なし)▼奈良県(71.4%、同14.3ポイント向上)▼山口県(71.4%、同増減なし)▼栃木県(72.7%、同増減なし)▼鳥取県(75.0%、同増減なし)—などでは遅れており、さらなる支援の検討も必要かもしれません。
なお、「国土強靱化アクションプラン2015」では、「2018年度(昨年度)までに災害拠点病院・救命救急センターの耐震化率を89.0%とする」との目標値を立てており、これは昨年調査ですでにクリアできています。
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