介護サービス全体の2016年度収支差率は3.3%で、低下傾向続く―介護事業経営調査委員会
2017.10.27.(金)
2016年度における介護サービス事業所・施設全体の収支差比率は3.3%で、前年度(2015年度、3.8%)よりも0.5ポイント、前々年度(2014年度、4.8%)よりも1.5ポイント低下した。サービス種類別に見ると、▼介護老人福祉施設(1.6%)▼居宅介護支援(マイナス1.4%)―などで収支比率が低くなっている。
10月26日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会の「介護事業経営調査委員会」に、こういった結果が報告されました(厚労省のサイトはこちら(概要)とこちら(個別サービスの状況)とこちら(個別サービスの規模別・地域区分別などの詳細))。2018年度介護報酬改定を議論する介護給付費分科会に報告され、改定内容にどう反映すべきかが検討されます。
特養ホームの収支差率は1.6%に縮小、ケアマネは改善するもマイナス1.4%
この結果は、2017年度の「介護事業経営実態調査」によるものです。従前は「1か月」を対象に介護サービス事業所・施設の収支を調べていましたが、「季節変動などもあり、より実態に近い状況を調査すべき」との指摘を受け、2017年度調査(調査対象は2016年度)から「対象期間を1年分とする」「介護施設などの資金繰りを把握するために長期借入金返済支出」なども調べるといった見直しが行われています。
まず介護事業所サービス是対の収支差率を見ると、2016年度は3.3%で、前年度(2015年度、3.8%)よりも0.5ポイント、前々年度(2014年度、4.8%)よりも1.5ポイントの低下(悪化)となりました。2015年度に行われた介護報酬マイナス改定(マイナス2.7%)によって収入が減少する一方で、好景気に伴う人件費増(他の業態に人材を奪われないように、給与水準を引き上げなければいけない)によって収支差率は悪化傾向にあります。
個別サービスについて目立つところをピックアップすると、次のようになっています。
▼介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム):収支差率は1.6%(前年度に比べて0.9%減、前々年度に比べて1.4%減)、給与費比率(収入に対する給与費の割合)は64.6%(前年度に比べて0.8%増)
▼介護老人保健施設:収支差率は3.4%(同0.2%増、同0.5%減)、給与費比率は60.1%(同0.5%増)
▼介護療養型医療施設:収支差率は3.3%(同0.4%減、同2.8%減)、給与費比率は60.0%(同1.2%増)
▼訪問介護(介護予防含む):収支差率は4.8%(同0.7%減、同2.6%減)、給与費比率は76.1%(同0.9%増)
▼訪問看護(介護予防含む):収支差率は3.7%(同0.7%増、同0.2%増)、給与費比率は78.3
%(同1.0%減)
▼通所介護(介護予防含む):収支差率は4.9%(同2.2%減、同3.4%減)、給与費比率は64.2%(同2.1%増)
▼通所リハビリ(介護予防含む):収支差率は5.1%(同0.5%増、同1.4%減)、給与費比率は64.6%(同0.3%増)
▼居宅介護支援:収支差率はマイナス1.4%(同0.4%増、同2.1%増)、給与費比率は84.1%(同1.5%減)
▼定期巡回随時対応型:収支差率は4.8%(同2.0%減、同3.7%増)、給与費比率は81.6%(同0.5%減)
▼小規模多機能型居宅介護(介護予防含む):収支差率は5.1%(同0.3%減、同0.1%減)、給与費比率は67.6%(同0.8%増)
給与費が増加しているサービス類型で収支差率が悪化している傾向にあり、前述のように「給与費(人件費)増が経営を圧迫している」状況が伺えます。
介護事業経営調査委員会では、この数字をもとにした報酬論議は行われませんでしたが、「介護老人保健施設の機能(在宅強化型、加算型、従来型)に応じた詳細な分析をすべき」(田中滋座長:慶應義塾大学名誉教授)、「例えば介護老人福祉施設(特養ホーム)では、【30人】規模で収支差率が4.2%と高く、【31-50人】や【51-80人】では0.8%と極めて低くなっている。このように一部分だけが収支差率が高く、他は非常に厳しいという状況も考慮すべき」(藤井賢一郎委員:上智大学准教授)といった指摘が出ています。10月27日開催の介護給付費分科会に結果が報告され、そこでは報酬とリンクさせた議論が行われることになるでしょう。
なお、3年前の介護事業経営実態調査を見ると、▼特定施設入居者生活介護12.2%▼認知症対応型共同生活介護11.2%▼通所介護10.6%―といった、極めて高い収支差率が報告され、それも背景に「マイナス改定」が実施ました。財政制度等審議会・財政制度分科会は10月25日に「2016年度の臨時改定(処遇改善加算)と今回の2018年度改定が保険料に跳ね返る」ことを指摘し、マイナス改定を要望しています(関連記事はこちら)。
しかし今回調査ではかなり収支差率が低下し、経営状態が悪化している状況が伺えること、さらに冒頭に述べた「調査対象期間の拡大(従前の1か月→1年)」などを考慮すれば、今回の調査結果には相当の信頼性があることなどを踏まえると、大幅なマイナス改定は介護提供体制を崩壊させてしまう恐れもありそうです。今回の結果が、今後の改定率論議にどのような影響を及ぼすのか注目する必要があります。
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