医療事故報告、事故発生から報告まで、院内調査完了までの期間は長期化―日本医療安全調査機構
2018.3.16.(金)
医療事故報告制度が昨年(2015年)10月からスタートして1年が経過した。相談件数は累計で388件、うち院内調査が完了したものは161件。また、第三者機関である医療事故調査・支援センター(以下、センター)への調査依頼は16件あり、うち遺族からが13件。調査を依頼した理由は「治療や死因に関する院内調査結果に納得がいかない」というものが多かった―。
日本で唯一の医療事故調査・支援センターに指定されている日本医療安全調査機構が3月15日に公表した2017年の「医療事故調査・支援センター 年報〈事業報告〉」から、こうした状況が明らかになりました(機構のサイトはこちら)(関連記事はこちら)。
目次
大規模病院ほど、1床当たり・1施設当たりの事故件数が多い傾向
2015年10月から「医療事故調査制度」がスタートしました。すべての医療機関において、院長など管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてを、医療事故・調査支援センター(以下、センター)に報告することを義務づけるものです。制度創設の趣旨は「責任追及」ではなく、「事故の原因を究明していく中で『再発防止』策を構築する」ところにあります(関連記事はこちら)。
医療事故調査制度の流れをお浚いすると、▼管理者が医療事故を確認した場合、速やかにセンターに事故報告の旨を報告する → ▼当該医療機関で事故原因の調査【院内調査】を行い、その結果をセンターに報告する → ▼当該医療機関が、調査結果に基づいて事故の内容や原因について遺族に説明する(調査結果報告書などを提示する必要まではない) → ▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る—と整理できるでしょう(関連記事はこちら)。
センターでは、精力的に「再発防止策」を検討しており、これまでに(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析—を公表しています。
また医療事故報告の状況を毎月、迅速に公表しているほか、1年間の状況も年報としてまとめています。今般は、2017年1月-12月の状況を公表しました。
まず、報告された医療事故の件数を見ると、2017年1年間で370件、1か月平均で31件弱の報告がある計算です。前年(406件)に比べて、36件・8.9%報告件数は減少しました。
370件を病床規模別に分類すると、「300-399床」の病院で最も多く51件、次いで「200-299床」49件、「100-199床」48件、「400-499床」46件となっています。100-499床の病院で、2017年に報告された医療事故の52.4%を占めています。なお、無床のクリニックからも、2017年には5件の医療事故が報告されました。
ただし、「1床当たりの報告件数」で見てみると、最も多いのは「800-899床」で0.81件、次いで「700-799床」0.63件、「900床以上」0.48件、「600-699床」0.43件などとなっており、概ね「病床規模に比例して、医療事故の報告件数が多くなる」傾向が伺えます。「1施設当たりの報告件数」で見ても、同様の傾向があります。
人口100万人当たりの医療事故、最多の宮崎県と最少の高知県で11.5倍の開き
また制度発足(2015年10月)から2017年12月までに報告された事故は857件となりますが、これを都道府県別に「人口100万人当たり報告件数」として見ると、最も多いのは宮崎県で6.9件、次いで三重県(5.4件)、大分県(5.0件)、鳥取県(4.7件)などとなっています。逆に最も少ないのは高知県で0.6件、次いで鹿児島県(1.4件)、宮城県(1.5件)、山梨県・山口県(1.6件)などと続きます。
最多の宮崎県と最少の高知県では、実に11.5倍の格差があります。全国平均は3.0件で、宮崎県からは平均の2倍超の医療事故が報告されています。今後、都道府県間で大きな格差が生じる要因などの分析も必要となってくるでしょう。
事故発生からセンターへの報告までの期間、4分の1は3か月以上かかっている
また「事故発生から報告までの平均期間」に目を移すと、2017年は平均で57.2日(前年は36.2日)、中央値で28日(同21日)となりました。また3か月以上かかっている医療機関が全体の4分の1(24.9%)に当たる92件(前年は34件・8.4%)、6か月以上かかっている医療機関が全体の6.5%に当たる24件(同10件・2.5%)ある点も気になります。短期間で報告する医療機関も減っており、この背景(報告すべき医療事故との認識が不十分なのか、報告手続きなどに手間がかかっているのか、など)を十分に分析する必要があるでしょう
過半数で院内調査が完了したが、調査期間は長期化傾向
上述の「医療事故報告の流れ」にあるとおり、調査は「まず、事故を報告した医療機関で行う」ことが求められます。調査の中で「院内の体制やルール、遵守状況などに問題がある」ことなどを自ら気づくことで、効果的な再発防止策(普遍的な再発防止策ではない)につながると考えられるからです。
2017年に完了した院内調査は321件で、制度発足からの累計では547件となります。2017年12月までに報告された857件の医療事故のうち53.5%と過半数で院内調査が完了している計算です。
「事故報告から院内調査が完了するまでの期間」は、2017年は平均で222.1日(前年は145.2日)、中央値で209日(同146日)となりました。こちらも長期化する傾向にあり、12か月以上(1年以上)かかったケースが46件で、全体の14.3%を占めています。
この点、「2015年中、2016年中に完了しなかった複雑な医療事故の調査が、2017年になってようやく完了した」というケースも含まれると思われますが、機構が調査に12か月以上もかかった理由を調べたところ、▼外部委員の選出に時間がかかった▼遺族への説明等に時間を要した▼報告書の作成に時間を要した▼委員会開催のための日程調整に時間を要した―など、事務的要因による長期化が目立っており、機構や医師会・病院団体等による「調査支援」をより強化していく必要があるかもしれません(関連記事はこちらとこちら)。
なお、調査において「解剖」「Ai(Autopsy imaging:死亡時画像診断)」を行っているケースは、2017年には解剖:41.4%(前年から7.6ポイント増)、Ai:35.8%(同3.0ポイント減)となりました。
さらに外部委員の院内調査への参加状況を見ると、2017年は86.6%で参加があり、前年から8.2ポイント増加しました。さらなる拡充が期待されます。
センターへの調査依頼、2017年は遺族から32件、医療機関から7件
前述のとおり、医療事故調査制度のベースは「事故が発生した医療機関での院内調査」となりますが、遺族や医療機関からセンターに調査を依頼することも可能です。遺族が院内調査の結果等に納得できない場合や、小規模な医療機関で十分な調査体制を整えられないようなケースが考えられます。
センターへの調査依頼件数は2017年には39件あり、前年から20件増加しています。内訳は遺族から32件(依頼全体の82.1%)、医療機関から7件(17.9%)となっています。
調査依頼の理由を見ると、遺族は「院内調査結果(治療や死因など)に納得できない」が多く、医療機関は「死因が明らかでない」「院内調査結果を検証してほしい」という理由で調査を依頼しています。
冒頭に説明したとおり、医療事故報告制度の報告対象は「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産」のうち「管理者が予期しなかったもの」とされていますが、現場では判断に迷うケースも少なくありません。
このためセンターには数多くの相談が寄せられます。2017年の1年間になされた相談件数は1933件で、前年に比べて202件・11.7%増加しました。1か月当たりの報告件数は平均で161件。うち医療機関からが1019件、遺族などからが765件という状況です。
医療機関からの相談は「相談・報告の手続き」「院内調査」「報告対象の判断」など多岐にわたります。遺族などからの相談は「報告対象の判断」が圧倒的です。
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