2018年2月までに912件の医療事故報告、3分の2で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
2018.3.9.(金)
今年(2018年)2月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は24件。2015年10月の医療事故調査制度スタートから、累計で912件の医療事故が報告され、うち66.6%・607件で院内調査が完了し、遺族や医療機関からのセンターへの調査依頼は累計で62件となった―。
日本で唯一のセンターとして指定されている「日本医療安全調査機構」が3月7日、こういった状況を公表しました(機構のサイトはこちら)(前月の状況はこちら)。
医療事故報告の件数、徐々に幅広い診療科に分散
2015年10月から「医療事故調査制度」がスタートしました。すべての医療機関において、院長などの管理者が予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産」のすべてを、センターに報告することを義務づけるもので、「責任追及」ではなく、「事故の原因を究明する中で『再発防止』策を構築する」ことが目的です(関連記事はこちら)。
センターでは、これまでに再発防止策として(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析—を公表するなど、精力的な活動を行っています。
医療事故調査制度の流れをお浚いすると、▼管理者が医療事故を確認した場合、速やかにセンターに事故報告の旨を報告する → ▼当該医療機関で事故原因の調査【院内調査】を行い、その結果をセンターに報告する → ▼当該医療機関が、調査結果に基づいて事故の内容や原因について遺族に説明する(調査結果報告書などを提示する必要まではない) → ▼センターが事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを練る—と整理できるでしょう(関連記事はこちら)。
我が国唯一のセンターとして指定された日本医療安全調査機構は、毎月、医療事故報告の状況を極めて迅速に公表しており、今年(2018年)2月には、新たに24件の医療事故が報告されました。制度発足からの累計報告件数は912件となっています。
今年(2018年)2月に報告された事故の内訳は、病院からが23件、診療所からが1件で、制度発足からの累計をみると、病院から856件(事故全体の93.9%)、診療所から56件(同6.1%)となっています。
2月報告分を診療科別に見ると、▼消化器科4件▼整形外科3件▼脳神経外科3件―などが目立ちます。また、制度発足からの累計を見ると、▼外科154件(同16.9%)▼内科118件(同12.9%)▼消化器科78件(同8.6%)▼整形外科76件(同8.3%)―などで多くなっていますが、徐々に「各診療科に分散していってる」様子が見て取れます。
センターへ4586件の相談、遺族からの「医療事故の判断」に関する相談は減少か
センターに報告しなければならない医療事故は、「医療機関で生じたあらゆる死亡・死産事例」ではありません。死亡・死産事例のうち「院長などの管理者が▼予期しなかった▼医療に起因し、または起因すると疑われる—」ものに限定されます。例えば「交通事故や火災等で、瀕死の状態で救急搬送された患者」が、治療の甲斐なく死亡した場合には、「死亡が予期された」ため報告対象からは除外されます。もっとも、治療の過程でミスがあり、「予期された経緯」とは別に死亡した場合(例えば、上記事例でも、医薬品の誤投与が原因となって死亡したような場合)には報告対象になる点に留意が必要です。
このような限定があるため、医療機関には「患者が予期せぬ死亡を遂げたが、センターに報告すべき医療事故に該当するのか?」といった疑問が生じるでしょう。また、「初めての報告で、センターへの報告方法がよく分からない」といったケースもあると思われます。
一方、遺族側には「家族が医療機関で死亡したが、医療事故として報告されていない。医療機関側が隠蔽しているのではないか」といった不信感を持つケースもあることでしょう。
そこでセンターでは、こうした疑問に答えるために相談対応を行っており、今年(2018年)2月に、新たに187件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計相談件数は4586件にのぼっています。
今年(2018年)2月に寄せられた新規相談の内訳は、▼医療機関から91件▼遺族などから84件▼その他・不明12件―です。医療機関からの相談内容としては「報告の手続き」がもっとも多く53件(医療機関からの相談の58.2%)。次いで「院内調査に関するもの」が22件(同じく24.2%)、「報告すべき医療事故に該当するか否かの判断」が17件(同じく18.7%)となりました。厚生労働省は、一昨年(2016年)6月に医療事故調査制度の運用改善(医療事故該当性の判断などを標準化するための「支援団体等連絡協議会」を設置するなど)を行っており、医療現場では「報告すべき医療事故に該当するか」の情報・知識が相当浸透してきていると伺えます(関連記事はこちらとこちら)。
一方、遺族などからの相談内容を見ると、「医療事故に該当するか否かの判断」が圧倒的で、64件(遺族などからの相談の76.2%)となりました。もっとも前月に比べて、その割合は大きく減少しており、「一般国民にも制度概要が浸透してきた」可能性もあります。長期的に見ていく必要があるでしょう。なお、この中には、「制度開始前の事例」「生存事例」など、そもそも「報告すべき医療事故でない」ものも含まれている点にも留意が必要です。
センターへの調査依頼は累計62件、うち4件でセンター調査も完了
前述のとおり、医療事故調査制度の目的は「再発防止」にあります。このため、事故が発生した医療機関「自ら」が原因究明に向けた調査【院内調査】を行い、その過程で自院の体制や院内ルールを見直し、ルール遵守の徹底などを図っていくことが期待されています。
今年(2018年)2月に新たに院内調査が完了した事例は29件で、制度発足からの累計では607件となりました。これまでに報告された全912件の医療事故のうち、ほぼ3分の2(66.6%)で院内調査が完了しています。
ところで、遺族の中には「院内調査結果に納得できない」「院内調査が遅すぎる(何かを隠すために時間稼ぎをしているのではないか)」と感じる人もいるでしょう。また、クリニックなど小規模医療機関では、「自力での院内調査が難しい」でしょう(医師会や病院団体などの支援団体によるサポート体制がある)。
そこで、センターでは、「遺族や医療機関からの調査依頼を受け付ける」体制も整えています(ただし「院内調査が時間・内容ともに適正に実施されたか」という観点での調査が中心)。
この点、今年(2018年)2月に、センターになされた調査依頼は3件(遺族から2件、医療機関から1件)で、制度発足からの累計では62件(遺族から47件・75.8%、医療機関から15件・24.2%)となりました。うち4件ですでにセンター調査が終了しており、ほか「院内調査結果報告書の検証中」(院内調査が適切に行われたかどうかを確認)52件、「院内調査結果報告書検証準備作業中」2件、「院内調査の終了待ち」4件という進捗状況です。
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