効果的・効率的な医療提供のため、電子カルテ等の「標準規格」を早急に検討、公表せよ―規制改革推進会議
2019.5.8.(水)
効果的かつ効率的な医療提供などを可能とするために、まず電子カルテシステムなど医療データに関する「標準規格」「標準仕様」を早急に検討、公表し、また各種のデータを連結するための環境整備に向けた検討を進めよ―。
規制改革推進会議の医療・介護ワーキング・グループ(以下、ワーキング)は4月24日、このような内容を柱とする「医療分野におけるデータ利活用促進に関する意見」を取りまとめました(内閣府のサイトはこちら)。
我が国の膨大な保健医療データの利活用を、縦割りの制度やベンダー独自の仕様が阻害
国民皆保険体制を敷いている我が国では、▼診療記録(カルテ)▼診療報酬等の明細書(レセプト)▼処方箋▼各種検査データ▼画像診断データ▼健康診査結果―などさまざまな保健医療に関するデータが蓄積されています。
これらを連結し、解析することで、例えば「若年期に●●といった生活習慣を持ち、健診で■■と判定された人は、中年期になると○○疾病に罹患する可能性が高い。その際には□□の治療法が有効である」といった知見を確立することが期待されます。こうした知見に基づけば、より効果的で効率的な医療サービスが提供可能になるとともに、画期的な治療法(医薬品や医療機器等)の開発に結びつく可能性もあります。
ただし、こうしたデータは格納場所、格納方法、様式、保存期限などが区々で、また患者を含む国民が「自らのデータを管理する」ことも困難な状況です。
こうした状況を踏まえてワーキングは、▼当事者(患者等)が、データ利活用に関する方針に合意の上で、契約によって情報の取り扱いを明確に定める▼「特定健診」(40-74歳が対象)以外の各種健診データ(学校や企業等での健診など)についても、個人への提供方法や利活用の在り方を整理し、40歳未満からの継続した健康管理を可能とする―ことが望ましいと強調。その上で厚生労働省に対し、▼健診情報のデータ利活用の必要性や活用方針を 明確にし、公表する▼関係者の意見を踏まえて、データ提供や利活用に関する契約条項例や条項作成時の考慮要素等をガイドライン等で示す―よう要望しています。
具体的には、(1)データ利活用のための「標準規格」の確立(2)データを活用した最適な医療サービス提供のための包括的な環境整備―の2点を実施するよう提言。
まず(1)の「標準規格」は、データを利活用するために極めて重要なテーマです。例えば医療現場で活用が進んでいる電子カルテ1つをとっても、ベンダー(業者)が独自に開発し、それぞれに進化を遂げているため、異なるベンダーの電子カルテデータを連結等することが極めて困難と指摘されます。A社の電子カルテからB社の電子カルテに買い替えようと考えても、過去のデータを移管・連結することが難しいため、「ベンダーによるユーザー(医療機関)の囲い込み」(買い替え等を阻害する)になっているとともに、データの利活用を大きく阻害する要因とも指摘されています。
この点、米国では技術革新に意欲的な民間団体の標準規格策定の後押しや、一定の機能条件を満たした病院システムに対しる補助などの施策を推進し、「標準規格の普及」→「データ利活用環境の整備」が進んでいると言います。
ワーキングでは、標準規格の確立に向けて次のような取り組みを行うよう厚労省に提言しています。
▼技術革新に意欲的な民間の創意工夫を尊重し、国内外での相互運用性(様々なシステムが相互に連携可能なシステムの特性)を意識して「医療分野における標準規格の基本的な在り方」を早急に検討し、公表する
▼官民の役割分担を含む運営体制を構築する
▼データヘルス改革推進計画の一環として予定される「保健医療記録共有サービス」や「マイナポータルを活用したPHRサービス」に先立ち、「最低限必要となる標準規格」を検討し、ガイドライン等の形で公表する
この点については、社会保障審議会の医療部会などでも「電子カルテの標準仕様」 すべきとの強い要望が出ており(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)、厚労省は2019年度予算において「医療情報化支援基金」(国費ベースで300億円を計上)を創設し、▼オンライン資格確認の導入に向けた医療機関・薬局のシステム整備費(マイナンバーカード等によるオンライン資格確認を円滑に導入するため、医療機関等での初期導入経費(システム整備・改修等))▼電子カルテ標準化に向けた医療機関の電子カルテシステム等導入費(国の指定する標準規格を用いて相互に連携可能な電子カルテシステム等を導入する医療機関での初期導入経費)―を補助することとしています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。今後、電子カルテをはじめとする各種データシステムの「標準規格」整備が大きく進むことが期待されます。
また(2)は、患者・国民が「自らの医療データを利活用するための制度やインフラを整備する」よう求めるものです。
ワーキングでは、厚労省に対し、まず▼救命医療における患者情報の医療機関共有▼セカ ンドオピニオンの取得▼自らの健診情報の取得と管理―など、国民のニーズが高いと考えられる具体的な場面について、費用対効果も勘案し「データ利活用のための包括的な環境整備」に向けた検討を開始するよう求めています。例えば、救命医療の際には、患者の既往歴や服薬情報などを迅速に共有できれば、効果的・効率的に診断・治療が行えます。ただし、救命救急を担う医療機関とかかりつけ医療機関とで共有するためには、全国ベースで情報共有を可能とすることが必要となり、その際には「個人情報保護」との関係を十分に整理しておくことが必要でしょう。ワーキングでは「医療における個人情報取扱いに関する特別法 の立法等が必要との意見もある」ことも紹介しています。
【関連記事】
オンライン資格確認や支払基金支部廃止などを盛り込んだ健保法等改正案―医療保険部会
2019年度予算案を閣議決定、医師働き方改革・地域医療構想・電子カルテ標準化などの経費を計上
異なるベンダー間の電子カルテデータ連結システムなどの導入経費を補助―厚労省・財務省
オンライン服薬指導の解禁、支払基金改革、患者申出療養の活性化を断行せよ―規制改革推進会議
審査支払機関改革やデータヘルス改革の実現に向け、データヘルス改革推進本部の体制強化―塩崎厚労相
レセプト請求前に医療機関でエラーをチェックするシステム、2020年度から導入—厚労省
混合介護のルール明確化、支払基金のレセプト審査一元化・支部の集約化を進めよ—規制改革会議
支払基金の支部を全都道府県に置く必要性は乏しい、集約化・統合化の検討進めよ—規制改革会議
審査支払改革で報告書まとまるが、支払基金の組織体制で禍根残る―質の高い医療実現に向けた有識者検討会
支払基金の都道府県支部、ICT進展する中で存在に疑問の声も―質の高い医療実現に向けた有識者検討会
レセプト審査、ルールを統一して中央本部や地域ブロック単位に集約化していくべきか―質の高い医療実現に向けた有識者検討会
支払基金の組織・体制、ICTやネット環境が発達した現代における合理性を問うべき―質の高い医療実現に向けた有識者検討会
診療報酬の審査基準を公開、医療機関自らレセプト請求前にコンピュータチェックを―質の高い医療実現に向けた有識者検討会
都道府県の支払基金と国保連、審査基準を統一し共同審査を実施すべき―質の高い医療実現に向けた有識者検討会で構成員が提案
レセプト審査基準の地域差など、具体的事例を基にした議論が必要―質の高い医療実現に向けた有識者検討会
支払基金の改革案に批判続出、「審査支払い能力に問題」の声も―質の高い医療実現に向けた有識者検討会
診療報酬審査ルールの全国統一、審査支払機関の在り方などをゼロベースで検討開始―厚労省が検討会設置
診療報酬の審査を抜本見直し、医師主導の全国統一ルールや、民間活用なども視野に―規制改革会議WG
ゲムシタビン塩酸塩の適応外使用を保険上容認-「転移ある精巣がん」などに、支払基金
医療費適正化対策は不十分、レセプト点検の充実や適正な指導・監査を実施せよ―会計検査院
レセプト病名は不適切、禁忌の薬剤投与に留意―近畿厚生局が個別指導事例を公表
16年度診療報酬改定に向け「湿布薬の保険給付上限」などを検討―健康・医療WG
団塊ジュニアが65歳となる35年を見据え、「医療の価値」を高める―厚労省、保健医療2035
病院間の情報連携が求められる中で「電子カルテの標準化」が必要―日病協
「電子カルテの早期の標準化」要望に、厚労省は「まず情報収集などを行う」考え―社保審・医療部会
「電子カルテの標準仕様」、国を挙げて制定せよ―社保審・医療部会の永井部会長が強く要請
電子カルテの仕様を標準化し、医療費の適正化を促せ―四病協