K022の1【組織拡張器用いた乳房再建手術】、当面、一般用の組織拡張器使用でも算定可―疑義解釈17【2018年度診療報酬改定】
2019.10.11.(金)
厚生労働省は10月9日に「疑義解釈資料の送付について(その17)」を公表しました(厚労省のサイトはこちら)。
今回は、K022【組織拡張器による再建手術(一連につき)】の1「乳房(再建手術)の場合」について、医療現場の疑問に答えています。
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K022の1【乳房再建手術】、算定要件上は「乳房用の組織拡張器」使用が必須だが
乳がん患者等において、乳房切除を行った後には乳房再建術を行うことがあります。
我が国では、2013年に乳房再建に用いる「ゲル充填人工乳房」として▼ナトレル ブレスト・インプラント▼ナトレル 410 ブレスト・インプラント―が、また皮膚拡張器として▼ナトレル 133 ティッシュ・エキスパンダー-が薬事承認されており、2014年度の診療報酬改定では、乳がん等で乳房を全摘した患者等を対象に「ゲル充填人工乳房を用いた乳房再建術」が保険適用されています。
具体的には、乳腺腫瘍に対する乳房切除術または乳腺悪性腫瘍手術後で、▼一次一期的再建(大胸筋が温存され皮膚欠損が生じない乳輪乳頭温存皮下乳腺全摘術を行った)▼一次二期的再建(乳腺全摘術時に組織拡張器が挿入され、十分に皮膚が拡張されている)▼二次再建(乳腺全摘術後で大胸筋が残存し、初回手術で組織拡張器が挿入され十分に皮膚が拡張されているか、皮弁移植術などにより皮膚の不足が十分に補われている、あるいは十分に補われることが見込まれる)―症例に対し、「ゲル充填人工乳房」を用いた乳房再建術を行う場合に、K476-4【ゲル充填人工乳房を用いた乳房再建術(乳房切除後)】(2万5000点)を算定できます。
また、ゲル充填人工乳房を用いない場合(生理食塩水注入など)には、K022【組織拡張器による再建手術(一連につき)】の1「乳房(再建手術)の場合」(1万8460点)を算定します。対象患者は上記K476-4【ゲル充填人工乳房を用いた乳房再建術(乳房切除後)】と同じですが、「乳房用の組織拡張器を挿入した場合に限り算定できる」こととされており、上述した「ナトレル 133 ティッシュ・エキスパンダー」を用いることになります。
厚労省の「社会医療診療行為別統計」によれば、2017年6月審査分のレセプトベースで、全国で546件にK476-4【ゲル充填人工乳房を用いた乳房再建術(乳房切除後)】が実施されており、ここから年間6550人(単純に12倍)程度の患者にゲル充填人工乳房を用いた乳房再建術が実施されている、またK022【組織拡張器による再建手術(一連につき)】の1「乳房(再建手術)の場合」は同じく102件に実施され、推計値ですが年間1224人程度に実施されていると考えられます。
ところで、ゲル充填人工乳房については、従前より「因果関係は解明されていないものの、▼乳がん▼乳がん以外のがん▼未分化大細胞型リンパ腫(ALCL:Anaplastic large cell lymphoma)▼結合組織疾患/自己免疫疾患▼神経系疾患▼自殺―の各疾患等と、将来的には関連があると思われるリスクの可能性がある」ことが知られていました。
その後、米国FDA(食品医薬品局)が、「BIA-ALCL(ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫)のリスクから新規患者を保護するため、BIOCELLと呼ばれる表面テクスチャード加工の『ブレスト・インプラント』(人工乳房)および『組織拡張器』を米国国内で自主回収する」ようAllergan社に要請。
さらに今般、我が国で初めて「未承認のゲル充填人工乳房を植込んだ患者において、BIA-ALCL)の診断を受けた症例」が日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会から報告されました(事態を重く見た厚労省はゲル充填人工乳房について「使用上の注意」を改訂するよう指示)。
こうした状況を受け、我が国のアラガン・ジャパン社も「日本国内における製品の自主回収」を実施(今年(2019年)7月25日から)。この結果、現在、我が国において「保険適用されたゲル充填人工乳房」および「保険適用された組織拡張器」が流通していない状況となってしまっています。
この点、アラガン・ジャパン社は代替品(▼ナトレル 133 ティッシュ・エキスパンダー(組織拡張器)▼ナトレル ブレスト・インプラント(ゲル充填人工乳房)―)を開発し、厚労省・PMDA(医薬品医療機器総合機構)は迅速に薬事承認しています。
ただし、これらが保険適用され市場に出回るには一定の時間がかかります。その間、「事実上、乳房再建術が実施できない」のでは患者にとって大きな不利益となります。
そこで厚労省は今般の疑義解釈で、K22【組織拡張器による再建手術(一連につき)】の1「乳房(再建手術)の場合」において、算定要件上は「乳房用の組織拡張器を挿入した場合に限り算定できる」とされているものの、「当該機能区分に相当する製品が安定供給されるまでの間、『一般用の組織拡張器』を乳房再建術を行う症例に使用しても差し支えない」との考えを明らかにしました。
乳房切除をした乳がん患者に対し、迅速に乳房再建手術を可能とする柔軟な対応と言えます。
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