医療保険改革、後期高齢者の自己負担割合や大病院受診時の特別負担、薬剤自己負担などを2020年夏までに議論―社保審・医療保険部会
2020.2.18.(火)
次期医療保険制度改革に向けて、全世代型社会保障検討会議の中間報告に盛り込まれた「大病院における紹介状なし患者への特別負担徴収義務の拡大」や、改革工程表に盛り込まれた「薬剤自己負担の引き上げ」、「医療費について保険給付率(保険料・公費負担)と患者負担率のバランス等を定期的に見える化しつつ、診療報酬とともに保険料・公費負担、患者負担についての総合的な対応」などを今夏(2020年夏)までに議論し、制度改革内容をとりまとめる―。
社会保障審議会・医療保険部会が1月31日に開催され、こういった改革スケジュールを確認しました。
目次
骨太方針や全世代型社会保障検討会議の指示を踏まえ、2020年夏までに意見まとめる
「医療技術の高度化」(代表的なものとして超高額な白血病等治療薬「キムリア」の保険適用などがあげられる)や「高齢化の進展」などにより医療費は増加を続けています。2022年度から、いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が75歳以上に到達することから、今後、さらに急速に医療費が増加していくことが確実です。その後、2040年度にかけて高齢者の増加ペースそのものは鈍化するものの、一方で支え手となる現役世代人口が急速に減少していきます。
「少なくなる支え手」で「増加する高齢者」を支えなければならず、公的医療保険制度の財政基盤は極めて脆くなっていきます。このため、医療保険制度における「給付と負担の在り方」に関する改革が急務となっているのです。
この点、昨年(2019年)6月に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針2019(いわゆる骨太方針2019)では、医療保険制度の持続可能性に向けた「給付と負担の見直し」について「骨太方針2020において政策を取りまとめる」ことを明記。例年、6月末に骨太方針が取りまとめられるため、骨太方針2020に向けて、医療保険制度改革論議を集中的に行っていく必要があります。
また昨冬(2019年冬)には、安倍晋三内閣総理大臣が議長を務める 「全世代型社会保障検討会議」(以下、検討会議)において、「大病院における「紹介状なし外来受診患者」に対する特別負担の金額について、現在の初診時5000円・再診時2500円を増額するとともに、徴収義務対象を『200床以上の一般病院』に拡大し、外来医療の機能分化を促す」方向とともに、2020年夏までに具体的な制度設計を固める方針が示されました。
こうした動きを受けて厚生労働省保険局総務課の宮崎敦文課長は、医療保険部会において▼検討会議の中間報告に盛り込まれた「大病院における紹介状なし患者への特別負担徴収義務の拡大」など▼改革工程表に盛り込まれた「薬剤自己負担の引き上げ」、「医療費について保険給付率(保険料・公費負担)と患者負担率のバランス等を定期的に見える化しつつ、診療報酬とともに保険料・公費負担、患者負担についての総合的な対応」など▼その他の論点―を集中的に議論し、今夏(2020年夏)に意見とりまとめを行うスケジュール案を示しました。
このスケジュール感について異論は出ませんでしたが、例えば「75歳以上後期高齢者の医療費窓口負担(現在、原則1割、現役世代並みの高所得者で3割)を原則2割化すべきか」というテーマについては、佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)をはじめとする費用負担者サイドが「医療保険の持続可能性確保、現役世代との負担バランスの確保のために、低所得者への配慮を行ったうえで『原則2割』へ引き上げるべき」と主張したのに対し、松原謙二委員(日本医師会副会長)をはじめ医療提供サイドからは「自己負担が突然2倍に跳ね上がれば、医療が必要な後期高齢者の医療へのアクセスを大きく阻害してしまう」との反対意見が出るなど、早くも「議論の取りまとめの難しさ」が見えてきています。
大病院の紹介状なし受診時定額負担、医療部会と医療保険部会等の2トラックで議論
また検討会議が打ち出した「大病院を紹介状なしに受診する患者に対する特別負担徴収義務」の拡大に関しては、費用負担者サイドは「医療保険の持続可能性確保に向けた確実な実施」の必要性を訴えましたが、その一方で、医療提供サイドの池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は「国民の多くが『大病院にかかりたい』という意向をもっており、そこをどう改革していくかが重要な視点である。さらに、大病院において『入院医療や専門・紹介外来で経営が成り立つ』ような仕組みを考えなければ、地域医療が崩壊してしまう」との考えを示しました。
このテーマについては、病院団体代表から「同じ200床・300床規模の病院であっても、地域によってその機能は全くことなる」「外来医療の機能分化やかかりつけ医機能の在り方について十分な議論がなされないままに定額負担論議を先行して進めるべきではない」「そもそも一般病院という定義が存在しない」との批判が相次ぎ、厚労省医政局の吉田学局長から社会保障審議会・医療部会や医療計画の見直し等に関する検討会で「外来医療等の在り方」に関する根本的議論を行う方針が明確に示されました。▼外来医療等の在り方(医療部会や検討会)▼制度設計(医療保険部会で制度の大枠を固め、中央社会保険医療協議会で値決めをはじめとする具体的な仕組みを固める)―という2トラックで議論が進められます(関連記事はこちらとこちら)。
外来医療全般の少額定額負担は議論せず、薬剤自己負担の在り方は検討対象
なお、このテーマに関連して「外来医療全般において、3割負担等とは別に少額の定額負担を徴収すべきか」という検討項目も指摘されていますが、宮崎総務課長は「検討会議等でこの点についても議論を行い、『大病院を紹介状なしに受診する患者に対する特別負担徴収義務の拡大』方向が見いだされた。医療保険部会では、外来全般における少額の定額負担については議論しない」との考えを明確にしています。
一方で、「薬剤負担の在り方」(薬剤の種類に応じた償還率の設定や、一般用医薬品類似医薬品(所謂OTC類似医薬品)の保険給付見直しなど)については検討会議の中間報告には盛り込まれていませんが、これまでの議論経過を踏まえて「医療保険部会の検討テーマ」となります。この点、佐野委員は「一般用医薬品類似医薬品については、保険給付から除外することなども含めて検討すべきである。また2020年度診療報酬改定には盛り込まれなかったが、経済性も考慮した生活習慣病治療薬の選択の在り方(例えば後発品の優先使用など)も議論する必要がある」と強く求めています。
関連して佐野委員は「フォーミュラリの導入」についても医療保険部会で検討すべきと進言。フォーミュラリとは、医療機関等が作成した「医学的妥当性や経済性などを踏まえた医薬品使用方針」のことで、「●●疾患には第1選択としてA医薬品(特定の銘柄や成分)を使用する」といったリストのイメージです。採用医薬品を集約化することで「経営の質」が向上する(医薬品の購入コストを抑えることが可能)ことはもちろん、何よりも「医療の標準化」→「医療の質」向上という大きな効果が期待されます。2020年度診療報酬改定に向けて、中央社会保険医療協議会では「特定機能病院におけるフォーミュラリ導入の評価」が検討されましたが、時期尚早との声が強く見送られました。
この点、佐野委員は「積極的な導入と、診療報酬での評価」を検討すべきと訴えていますが、同じ費用負担者サイドでも安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は「フォーミュラリの導入は積極的に進めるべきであるが、診療報酬での評価は時期尚早であると考える。まず医療現場や地域の実施体制などについて実態を把握することが始めよ」と述べています。医療保険部会の議論が、2022年度以降の診療報酬論議に結びついていくことが期待されます(関連記事はこちら)。
なお、この点、医療提供サイドの池端委員は「フォーミュラリが導入された結果、高齢者に不必要な医薬品投与が行われるようなことも想定される。極めて慎重な検討が必要である」との見解を示しました。
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