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GemMed塾 ミニウェビナー DPC委員会のありかたとは?

連続勤務制限・インターバル確保等で勤務医の働き方は極めて複雑、シフト作成への支援を―医師働き方改革推進検討会

2021.8.5.(木)

2024年度から勤務医に新たな時間外労働上限が課され、労働時間短縮が図られるが、一般労働者と比べて「多くの医師が長時間労働に携わらなければならない」状況そのものは変わっていない。このため、連続勤務時間制限・勤務間インターバル・代償休息などの「追加的健康確保措置」を講じる必要があるが、その分、「勤務シフト」作成が非常に複雑になる。国による何らかの支援が必要ではないか―。

また、連続勤務時間制限・勤務間インターバルの確保が原則であるが、例えば「臓器移植など超長時間手術を行うケース」「臨床研修医が夜間に希少症例を経験しなければならないケース」など、さまざまな事情で「代償休息付与」で対応しなければならないケースも想定され、そうした例外についての考え方を明確化する必要がある。

8月4日に開催された「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が行われました。

8月4日に開催された「第13回 医師の働き方改革の推進に関する検討会」

勤務医の働き方は様々で「シフト作成」が困難、国による支援も必要では

2024年4月から、すべての勤務医に対して新たな時間外労働の上限規制が適用されます。原則として「年間960時間以下」が上限となりますが【いわゆるA水準】、救急医療など地域医療に欠かせない医療機関【いわゆるB水準】や、研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師【いわゆるC水準】などでは、「年間1860時間以下」までに上限が緩和されます。ただし、一般労働者と比べて「多くの医師が長時間労働に携わらなければならない」状況そのものは変わっておらず、医療機関の管理者(院長等)には、▼28時間までの連続勤務時間制限▼9時間以上の勤務間インターバル▼代償休息▼面接指導と必要に応じた就業上の措置(勤務停止など)―といった「追加的健康確保措置」を講じる義務が課されます【医師の働き方改革】

医師働き方改革の全体像(中医協総会1 210721)



検討会では、こうした「医師の働き方改革」の制度化(法令等の規定整備)に向けて▼B・C水準の対象医療機関や指定の枠組み▼追加的健康確保措置の内容と実施確保―などを検討。その内容を盛り込んだ「改正医療法」((良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための 医療法等の一部を改正する法律)が先ごろ成立しました(関連記事はこちら)。

これを受けて検討会では、医師働き方改革の2024年4月実施に向けて、▼働き方改革が地域医療に及ぼす影響を踏まえた対応▼医師労働時間短縮計画の作成支援▼追加的健康確保措置の詳細▼大臣指針―などの詳細を詰めているところです(関連記事はこちらこちら)。



8月4日の会合では、▼追加的健康確保措置の詳細▼大臣指針―を議題としました。

前者の「追加的健康確保措置」とは、上述のとおり、一般労働者と比べて「多くの医師が長時間労働に携わらなければならない」状況を踏まえ、医療機関の管理者(院長等)に対して、次のような義務を課すものです。

【追加的健康確保措置】
(1)追加的健康確保措置1:

(i)B水準・連携B水準・C水準医療機関で月960時間を超える時間外労働を行う勤務医について「28時間までの連続勤務時間制限」「9時間以上の勤務間インターバル」「代償休息」などを義務とする
(ii)A水準医療機関の勤務医、およびB・C水準医療機関で月960時間までの時間外労働となる勤務医ではこれらを努力義務とする

(2)追加的健康確保措置2:月の時間外労働が100時間以上となる勤務医については産業医等が「面接指導」を行い、必要に応じて就業上の措置を行うことを義務とする(前月の労働が80時間を超えた場合、翌月に100時間以上となることを見越して面接指導の準備等を行う)



このうち(1)の(i)をより詳しくみると、次のような規定が設けられています。

(a)通常の日勤および宿日直許可のある宿日直に従事する場合

始業から24時間以内に9時間の連続したインターバルを付与しなければならない(つまり15時間の連続勤務(上限)+9時間のインターバル)

(b)宿日直許可のない宿日直に従事する場合

始業から46時間以内に18時間の連続したインターバルを付与しなければならない(つまり28時間の連続勤務(上限)+18時間のインターバル)

このインターバルは「事前に勤務シフトで予定する」ことが原則で、またインターバル中にやむを得ず労働が発生する場合(緊急の呼び出しなど)には事後的に代償休息を付与することが求められます。

また、(a)の「宿日直許可のある宿日直」(労働密度がまばらで労働時間とは見做されない)に連続して9時間以上従事する場合は、「9時間の連続した休息時間が確保された」と考えます(つまり当該宿日直を休息時間と考える)。しかし、この「宿日直許可のある宿日直」中に、急患などで「通常の勤務時間と同態様の労働」が発生した場合は、医療機関管理者(院長など)は「当該労働時間に相当する時間の休息」を事後的に付与する配慮義務を負います。具体的には、当該医師や上司に対して「休暇の取得を呼びかける」ことなどが必要となります。



8月4日の検討会では、厚生労働省から、勤務パターン別に「連続勤務時間制限・勤務間インターバルをどう組み込むか」というイメージが示されました。

まず、オーソドックスな(a)ケースとして「8時に始業」した場合には、15時間後となる「23時」までに勤務を終える必要があります。そこから翌日の始業開始まで「9時間以上の勤務間インターバル」を付与する必要があることから、23時に終業する場合には、次の始業開始は早くても「翌日の8時」となります。

また(b)として8時に始業し、その後、連続して「宿日直許可のない宿日直」に従事した場合には、最大でも「翌日の12時」に勤務を終えることが求められ(連続28時間勤務)、その後に18時間以上の勤務間インターバルを付与する必要があるので、次の始業開始は、早くても「その翌日の6時」となります。

勤務パターンによる連続勤務時間制限・勤務間インターバルの適用例(その1)(医師働き方改革推進検討会1 210804)



また「始業」は「勤務シフト等で予定された業務の開始時」とされます。このため、例えば「8時始業、13時で終業。同日17時に再び始業、同日23時に終業」などのシフトが組まれる場合には、それぞれの始業から24時間以内に「9時間以上のインターバル」を確保しなければなりません。ただし、「お昼休み」などの短時間休憩について、その終了後を「始業」と考えることにはなりません。この点、城守国斗構成員(日本医師会常任理事)は「現場が迷わないよう、より明確にしてほしい」と要望しています。

さらに、20時から「宿日直許可のない宿日直」を12時間行い、宿日直明けにも勤務をするようなケースでは、上記(b)に該当し、始業(20時)から46時間以内に18時間のインターバルを付与する必要があります。

勤務パターンによる連続勤務時間制限・勤務間インターバルの適用例(その2、3)(医師働き方改革推進検討会2 210804)



一方、「9時間以上のインターバル」、例えば11時間のインターバルをシフト上確保したが、急患等が入り、実際には10時間のインターバルとなったという場合には、「9時間以上のインターバル」は確保されているので代償休息は不要となります。

また、「9時間のインターバル」の間に業務が入りこんだ場合には、事後に代償休息を付与する必要がありますが、シフト上「後に休憩時間」が予定されている場合に、その一部を代償休息に充てることも認められます。

勤務パターンによる連続勤務時間制限・勤務間インターバルの適用例(その4、5)(医師働き方改革推進検討会3 210804)



一方、「宿日直許可のない宿日直」と「宿日直許可のある宿日直」とが混在するような場合には、勤務状況等を踏まえて、上記(a)(b)のいずれかを選択して勤務間インターバル等を確保することが認められます。

勤務パターンによる連続勤務時間制限・勤務間インターバルの適用例(その6)(医師働き方改革推進検討会4 210804)



さらに勤務医が副業・兼業を行っている場合には、病院間で調整して(a)(b)に抵触しないシフトを組むことが求められます。

勤務パターンによる連続勤務時間制限・勤務間インターバルの適用例(その7)(医師働き方改革推進検討会5 210804)



このように、勤務医のシフトは非常に複雑となることから、医療現場では「シフト表作成」に難渋すると予想されます。このため、城守構成員や森正樹構成員(日本医学会副会長、東海大学医学部長)、横手幸太郎構成員(千葉大学医学部附属病院長)、島崎謙治構成員(国際医療福祉大学大学院教授)ら多くの構成員から「国主導で、シフト作成を支援するアプリケーションなどを開発してほしい」との要望が相次ぎました。厚労省で検討が進められますが、民間企業によるアプリケーションに期待を寄せる声もあります。

また、関連して鈴木幸雄構成員(横浜市立大学医学部産婦人科客員研究員)は「現場では医師配置が改善されていないが、無理に1つの病院に医師を集めれば地域医療が崩壊してしまう」と指摘。まさに「医師の働き方改革」と「地域医療構想の実現」「医師偏在の解消」とを三位一体で進めていくことの重要性が再確認されています。

15時間を超える長時間手術が予定される場合、例外的に「代償休息」前提とするシフトも可

ところで、追加的健康確保措置(1)の原則は「連続勤務時間制限・勤務間インターバル」ですが、医療現場では急患の発生などやむを得ない事情で「連続勤務時間制限・勤務間インターバル」を確保できないケースも少なくありません。このため「代償休息」でカバーすることも例外的認められています。逆に言えば、代償休息は例外であり、これを前提として「インターバルを8時間とする」ようなシフトを組むことはできないのです。

しかし、例えば臓器移植など「15時間を超える長時間の手術」が予定されている場合には、上記の(a)ルールに基づくシフト作成は難しく、「代償休息を組み込んだシフト」で運用せざるを得ない、という問題も生じます。

そこで厚労省は、新たに次のような特別ルールを設けることを提案しました。

▽個人が連続して15時間を超える対応が必要な業務(現時点では「術後対応を含む長時間の手術」を想定)が予定されている場合には、「代償休息の付与を前提とした運用」を認める
▽ただし、医師の健康確保の観点から、当該代償休息は「当該業務の終了後すぐに付与する」こととする(通常は「翌月の月末まで」に付与すればよい)

極めて例外的なケースですが、高度手術を数多く実施する病院などでは、この特別ルールが活用される場面が出てくるでしょう。

臨床研修医でも、必要に応じて「代償休息の付与」が可能に

臨床研修医(臨床に従事する医師は、医師免許取得から2年以上の臨床研修が義務付けられる)については、「医師になったばかりで肉体的・精神的な負荷が大きい」といった点に配慮し、次のように、上記よりも「強い追加的健康確保措置」を講じる方針が固められていました(立場的に過酷な労働を強いられ、拒否が難しいという面もある)。

(x)連続勤務時間制限・勤務間インターバル実施を徹底し「代償休息の必要がない」ようにする
(y)勤務間インターバル9時間を必ず確保し、連続勤務時間制限としては15時間 とする(つまり上記(a)のみで、(b)は認められない)
(Z)臨床研修の必要性から「指導医の勤務に合わせた24時間の連続勤務時間とする必要がある」場合はこれを認めるが、その後の勤務間インターバルを24時間とする

ただし、このルールを厳格に適用すると、臨床研修に支障が生じる可能性があります。例えば、臨床研修の必要性から「夜間・休日のオンコール」や「宿日直許可のある宿日直」に従事することが少なくありませんが、その際「通常の勤務時間と同態様の労働」が少しでも発生した場合には(Z)ルール(始業から48時間以内に24時間の連続した休息時間(24時間の連続勤務時間制限))が適用され、翌日を「終日休日」とする必要があります。臨床研修は多くの診療科をローテートとして行われるため、「●●科での研修は1か月」と短いケースもあります。すると、上記の事態が連続する場合「研修期間の大部分が休日になってしまう」ことになるのです。これでは「基本的な診療能力を身につける」という臨床研修の目的を達成することはできません。

そこで厚労省は、次のようなルール見直しを行うことを提案し、検討会で了承されました。

▽次の3点を要件として、(y)(z)ルールに加えて、「代償休息の付与」を認める((x)ルールの例外を認める)
▼臨床研修における必要性から「オンコール」「宿日直許可のある宿日直」への従事が必要な場合に限る(例えば、「臨床研修の研修修了の要件となっている症候・症例を経験するため」「産婦人科研修で自然分娩の十分な経験をするため(診療時間内に分娩があるとは限らない)」「内科研修で心筋梗塞や脳梗塞の緊急治療の十分な経験をするため」「終末期患者を看取る十分な経験をするため」)
▼研修医募集時に「代償休息を付与する形式での研修を実施する」旨を明示する
▼代償休息の付与は「原則として必要性が生じた診療科の研修期間内」とし、それが困難な場合に限り、翌月末までとする(「●●診療科で生じた代償休息」は●●診療科の研修期間内に付与し、次の◆◆診療科の研修に持ち越してはならない、という趣旨)

検討会ではこのルール見直しが了承されましたが、「『夜間でなければ希少症例を経験できない』ことが問題とも言える。通常の診療時間内に希少症例を経験できるような仕組みを考えていく必要がある」(鈴木構成員)、「臨床研修においては『研修の質の担保』も充実であり、『休息など』と『研修の質』との関係を事後に検証できるようにすべきである。『休息』付与方法について記録できないか検討すべき」(片岡仁美構成員:岡山大学病院ダイバーシティ推進センター教授)など、「臨床研修制度の在り方」にも関連する意見が出ています。

臨床研修医を始めとするC水準では、「労働時間を適正化して、医師の健康・生命を守る」という要請と、「医師の診療能力を向上させる」という要請を両立する必要があり、制度を運用する中で、臨床研修制度の在り方も含めて「改善を積み重ねていく」ことが重要でしょう。

働き方改革実現に向けて「国により医療機関の支援」も検討を

ところで、医師の働き方改革を実現するためには、▼行政(国・自治体)▼医療機関の管理者▼地域の医療関係者(医師会や病院団体等)▼勤務医自身▼患者・国民―が全員で「協力・支援」していくことが必要不可欠です。

そこで、厚生労働大臣が、「医師働き方改革を進めるための段階的な手順」(2024年4月以降も労働時間を短縮していくことが求められ、それを段階的に進めるための目標値)とともに、それぞれの関係者に対して「どういった協力・取り組みを行うことが望ましいか」を指針という形で示すことになっています。

この点、改正医療法の審議を行った国会では「医師労働時間短縮計画(B水準等指定のベースとなる)について対象医師からの意見を踏まえ、十分な納得を得る必要がある」「追加的健康確保措置2の面接指導について、医療機関等の管理者がその判定結果等を最大限尊重することなどを担保する必要がある」などの指摘が出ていることを踏まえ、8月4日の検討会で「修正」内容が示されました。例えば、▼面接指導で「何らかの措置が必要」と判定・報告を行った場合には、医療機関管理者は、それを最大限尊重し、勤務医の健康確保のため必要な措置を講じる▼都道府県等が「面接指導を含む追加的健康確保措置の実施状況」を確認し、医療機関に必要な助言指導を行う―ことなどを求める内容が追記されています。

また島田陽一構成員(早稲田大学法学部教授)は、大臣指針の中に「国による医療機関等の支援」が盛り込まれていないことを指摘しました。

例えば上述した「勤務シフト作成」は、個別医療機関での対応は難しく、「国による一定の支援」(技術的支援、財政的支援)を検討する必要が出てきそうです。厚労省も、この指摘を踏まえ、さらに「大臣指針」の改善に向けた検討を行っていく考えです。



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