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2024年度からの次期「がん研究10か年戦略」、研究テーマを第4期がん対策推進基本計画の柱立てに沿って整理―がん研究あり方有識者会議

2023.7.28.(金)

2024年度からの新たな「がん研究10か年戦略」においては、本年(2023年)3月に閣議決定された「第4期がん対策推進基本計画」の柱立てと平仄を合わせ、▼「がんの予防」に関する研究▼「がんの診断・治療」に関する研究▼「がんとの共生」に資する研究▼横断的事項に関する研究—という章・項目立てとし、国民への分かりやすさも重視する—。

7月27日に開催された「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」(以下、有識者会議)でこうした方針が概ね固められました。個別研究テーマを、各項目・章立ての中に入れ込んだ「とりまとめ素案」が次回会合に示される予定です。

項目立てを単純化しすぎても、細かくしすぎても分かりにくくなる点に留意

がん予防・医療・共生を支える「がん研究」については、現在、厚生労働省・文部科学省・経済産業省の共同による「がん研究10か年戦略」(以下、10か年戦略)に沿って進められています。本年度(2023年度)に10か年戦略が終了することから、2024年度以降の「新たながん研究戦略」の構成を固める議論が有識者会議で始まっています(関連記事はこちら)。

現在の10か年戦略では、▼がんの本態解明に関する研究▼アンメットメディカルニーズに応える新規薬剤開発に関する研究▼患者に優しい新規医療技術開発に関する研究▼新たな標準治療を作るための研究▼ライフステージやがんの特性に着目した重点研究領域(小児がん、高齢者のがん、難治性がん、希少がんなど)▼がんの予防法や早期発見手法に関する研究▼充実したサバイバーシップを実現する社会の構築をめざした研究▼がん対策の効果的な推進と評価に関する研究▼シーズ探索▼がんゲノム医療に係る研究▼免疫療法に係る研究▼リキッドバイオプシーに係る研究▼AI等新たな科学技術▼基盤整備等(データベース、細胞株やサンプルの利用、患者参画に係る取り組み、患者報告アウトカム、がん研究を担う人材の育成)—という章立てになっています。これまで有識者会議でも、この章立てに沿って「さらに推進すべき研究テーマは何か」「新たに進めるべき研究テーマは何か」という議論が行われ、例えば「新たな形でのドラッグ・ラグ/ロスの解消」や「がんゲノム医療の更なる推進」「データベースの構築と利活用推進」「さらなる患者参画の推進」など非常に多様かつ重要な意見が数多く出されています(関連記事はこちらこちらこちら)。

今後、構成員から出された意見を踏まえて「新たな10か年戦略」に向けた取りまとめ論議に入っていきますが、厚生労働省は7月27日の会合において「新たな10か年戦略では、これまでの章立てを大きく変更し、本年(2023年)3月に閣議決定された第4期がん対策推進基本計画の柱立てに沿った形で取りまとめを行ってはどうか」と提案しました。

がん研究は、ともすれば「一部の研究者・専門家だけに関係している」と思われがちですが、研究のゴールは「がん治療などの成績を向上させる」ことにあり、がん患者・家族はもちろん、一般国民にも深く関係する事項です。

このため研究テーマを、第4期がん対策推進基本計画の柱である「がん予防」「がん診断・治療」「がんとの共生」などに結びつける形で整理することにより、「●●がんの治療成績を上げるために、このような研究が行われていくのか」「小児がん領域では、こうした研究に力がそそがれているのか」と国民が理解しやすくなると期待されます。多くの構成員が「非常に分かりやすい」と、新たな章立ての考え方に賛同しています。

厚労省は、「第4期がん対策推進基本計画の柱立て」に沿って、次のような新たながん研究10か年戦略の章立て案を提示しました。

【「がんの予防」に関する研究】
(1)リスク層別化に基づく新たな1次予防の推進
(2)高リスク層の同定や発症リスクに応じた2次予防の推進
(3)その他の政策的な課題解決

【「がんの診断・治療」に関する研究】
(1)一人ひとりに最適な治療の実現を目指した診断技術の開発
(2)がんの難治性の本態を踏まえた新規薬剤・治療法の開発
(3)幅広い患者ニーズに応じた新たな標準治療の開発
(4)その他の政策的な課題解決

【「がんとの共生」に資する研究】
(1)誰もがアクセス可能な相談支援・情報提供
(2)その他の政策的な課題解決

【ライフステージやがんの特性に着目した重点研究領域】(再掲)
(1)小児がんおよびAYA世代のがん
(2)高齢者のがん
(3)希少がんおよび難治性がん

【効果的な推進のための基盤整備等】
(1)がんの本態解明等の基礎的研究の推進
(2)利活用を念頭においたデータベースの整備
(3)医療情報・検体の利活用、患者・市民参画、人材育成

【(別途整理)現行制度に係る意見】

新たな「がん研究10か年戦略」の項目立ては、従前と異なり、第4期がん対策推進基本計画の柱立てに沿う(がん研究在り方有識者会議 230727)

第4期がん対策推進基本計画の概要(がん対策推進協議会1 230428)



もっとも、上述した「これまでの研究戦略の項目立てと、それに関する具体的な研究テーマ」と「第4期がん対策推進基本計画の柱立て」とをマッチングすることは容易ではありません。例えば「がんの本態解明」は、予防にも診断・治療にも深く関連しますし、「新規薬剤開発」も診断・治療だけでなく、基盤整備などにも関連するという具合に、非常に複雑な関係にあるのです。厚労省では、今後、膨大な個別研究テーマを、上記の章立て・項目立ての、どの部分に盛り込むかを整理・調整し、「とりまとめ素案」を作成します(次回会合に提示予定)。その際には、複数の章・項目に関連する研究テーマも多数出てくると考えられ、それらは「再掲」という形で、関連各所に盛り込まれることになります。



また、上記の章立て・項目立ては「案」であり、今後、調整が進みます。この点、「章・項目をまとめなければ、研究テーマの羅列になってしまい、分かりにくくなる」半面、「章・項目をまとめすぎれば、どの章・項目にどういった研究テーマが含まれているのか分かりにくくなる」というジレンマがあります。構成員からは、自身の注目する研究テーマについて「項目立てに明示してほしい」「新たな項目として立ててほしい」との要望が多数出ていますが、すべてを採用すれば「研究テーマの羅列になってしまい、分かりにくくなる」という弊害が出ます。一方、上記項目立てについて「●●研究はどこに含まれるのか分かりにくい」との指摘もあり、項目立ての調整が続けられます。

こうした章・項目立てについて「本質でない」と軽視する向きもありますが、「内容に漏れ、重複がないようにする」ためにも非常に重要であり、また「一目で全体像が理解されなければ、存在そのものが軽視されてしまう」という弊害もあります。実は「章・項目立て」は、地味ながら極めて重要な作業なのです。

このように「項目立て」は、どのような研究が行われているかを網羅的に把握するために極めて重要であり、構成員・参考人から様々な意見が出ており、例えば次のような意見が目立ちました。

▽国民への分かりやすさが重要であり、項目立てをまとめすぎない、単純化しすぎないほうがよい(石岡千加史委員:日本臨床腫瘍学会理事長、東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野教授、東北大学病院腫瘍内科長)

▽非常に重要な項目である『がんの本態解明』は【基盤整備】というラベルの章とは馴染まない。【基盤整備】ではなく【横断的事項】という章ラベルに見直すべき(野田哲生参考人:がん研究会がん研究所所長、宮園浩平参考人:理化学研究所理事、東京大学大学院医学系研究科卓越教授)

▽「シーズ探索・育成」という項目立てを入れ、臨床実装につなげることを意識すべき(野田参考人、宮園参考人

▽「利活用を念頭においたデータベースの整備」という項目が立てられているが、データベースのみならず、細胞株やサンプルなどの利活用も非常に重要である点を意識した項目立てとすべき(中村祐輔構成員:医薬基盤・健康・栄養研究所理事長)

▽「アンメットメディカルニーズ」(医学医療が進歩してきた中でも、いまだに満たされていない医療ニーズ)が1つのキーワードとなった、項目立てとして加えてはどうか(谷島雄一郎構成員:ダカラコソクリエイト発起人・世話人/カラクリLab.代表)

▽AI(人口知能)について項目立てをしないわけにはいかないであろう。現在の【基盤整備】(横断的事項に変更せよとの指摘あり)の項目に加えるべき(中村構成員、黒瀬巌構成員:日本医師会常任理事)

▽「研究成果の評価」に係る研究ついて、項目立てするか否かは別に、研究を推進していくことを明確化すべき(郡山千早参考人:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科疫学・予防医学 教授)

▽「社会、経済的事由(貧困など)と予防・診断・治療との関係」に関する研究を推進していくべきであり、項目立てしてはどうか(黒瀬構成員、谷島構成員、郡山参考人)

▽「研究への企業参画」を前面に押し出してはどうか、産学連携をさらに推進する必要がある(石岡構成員)



いずれも極めて重要な意見ですが、すべてを盛り込むと、上述のように「研究テーマの羅列となり、かえって分かりにくくなる」という弊害も出てきます。今後、厚労省で意見を踏まえた「項目立ての整理、調整」を行うとともに、「個別研究テーマをどの項目立ての中に盛り込むか」という難解な業務が進められます(中釜斉座長(国立がん研究センター理事長)は「項目立て、研究テーマの対照表を提示してはどうか」と提案)。8月・9月に取りまとめに向けた議論を行い、年度内(2023年度中)に「新たながん研究10か年戦略」が決定され、来年度(2024年度)から稼働する運びです。



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