2024年度からの次期「がん研究10か年戦略」策定に向け有識者会議が報告書を取りまとめ、研究成果が速やかに国民に届くことに期待
2023.10.4.(水)
9月27日に開催された「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」(以下、有識者会議)で、報告書のとりまとめが行われました。
中釜斉座長(国立がん研究センター理事長)と厚生労働省で文言の最終調整を行ったうえで、報告書を最終決定。その後、速やかに内閣府・文部科学省・経済産業省・厚労省の4府省合同で新たな「がん研究に関する戦略」が策定されます。
●報告書案はこちら(今後、文言の修正が行われる可能性がある)
報告書踏まえ、内閣府・文科省・経産省・厚労省の4府省合同で新たな戦略を策定
がん予防・医療・共生を支える「がん研究」については、現在、厚生労働省・文部科学省・経済産業省の共同による「がん研究10か年戦略」(以下、10か年戦略)に沿って進められています。本年度(2023年度)に計画期間が終了することから、2024年度以降の「新たながん研究戦略」の構成を固める議論が有識者会議で進められました(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
これまでの10か年戦略の成果と課題を踏まえたうえで、昨今の医療を取り巻く状況(例えば新たな形でのドラッグ・ラグ/ロスなど)や最新の科学技術(例えばAIやゲノム解析技術など)の状況にも照らし、「さらに推進すべき研究テーマは何か」「新たに進めるべき研究テーマは何か」を整理してきました。
具体的には、第4期がん対策推進基本計画の全体目標「誰一人取り残さないがん対策を推進し、全ての国民とがんの克服を目指す」ために、(1)がん予防に資する研究(2)がん診断・治療に資する研究(3)がんとの共生に資する研究(4)ライフステージ・がんの特性に応じた研究(5)複数分野にまたがる研究(6)研究の効果的な推進のための環境整備(7)がん研究推進に向けた現行制度への意見—などへの考え方をまとめています。既に報じた内容と重複する部分も少なくありませんが、提言内容のポイントを眺めてみましょう。
まず(1)の「がん予防」に関しては、▼新たなリスク要因の同定・リスク層別化に基づく新たな1次予防の推進(例えば「エビデンスが不十分な遺伝要因や環境要因等が発がんリスクに与える影響に関する研究」「ハイリスク集団を対象とした発がん関連遺伝子変異を含むゲノム解析に関する分子疫学的研究」など)▼高リスク層の同定や新たな早期発見手法の活用による2次予防の推進(例えば「がん検診における死亡率減少効果の代替指標や新たな技術の導入・検証方法に関する研究」、「新たな検診手法の実用化を目指した研究」など)—を進めることを提言しています。
また(2)の「がんの診断・治療」に関しては、次のような研究を進めることを要請しています。
▽個別化医療を更に推進する診断技術の開発:「前がん病変を含むがんのより早期かつ高精度の検出を目的とした新規診断技術の開発」、「リキッドバイオプシー等の簡便かつ低侵襲な手法による術後再発リスク・再発の超早期診断、治療効果・耐性予測等の正確なモニタリングを目的とした新規医療技術開発」など、さらに「早期発見が困難ながん」の診断技術開発も新たに要請
▽新規薬剤・治療法の開発
▼がんの難治性の本態を踏まえた新規薬剤・治療法開発:「多層的なデータを活用した個別化医療に資する新規薬剤・治療法の開発」、「希少がん、難治性がん等のいまだ予後不良な疾患における新規薬剤、治療法の開発」、「ドラッグラグ・ドラッグロスの解消に向けた、未承認薬や適応外薬に関する臨床試験」など、さらに「がんワクチン、CAR-T療法・TCR導入T細胞療法等の遺伝子改変T細胞療法をはじめとする新規技術開発に関する研究」の推進も新たに要請
▼患者に優しい治療法:「新規のドラッグデリバリー技術等により副作用の低減された薬物療法、低侵襲手術、低侵襲放射線療法、光線力学療法等の開発」、「がん治療に伴う副作用等に対する支持療法や、がんに伴う症状等に対する緩和ケアにおける新規薬剤・治療法の開発」など、さらに「診断と治療が一体化した新規医療技術」開発も新たに要請
▼医療DX等の新たな手法を用いた新規治療開発:「分散型臨床試験(DCT:Decentralized Clinical Trial)の手法を活用した新規薬剤・治療法の開発」、「リアルワールドデータの活用を含む新規治療・技術の有効性・安全性の検証・実装」など、さらに「遠隔手術等の遠隔医療に資する新たな治療法の開発に関する研究」推進も新たに要請
▽幅広い患者ニーズに応じた新たな標準治療の確立:「術後再発リスクや治療効果・耐性予測等、治療経過を正確にモニタリングできる新規医療技術の開発、その活用による新たな標準治療の開発」、「標準治療の最適化(最適な投与順序・投与期間・投与量等)を目的とする臨床試験」、「新たな標準治療の医療経済上の影響の評価」、「小児・AYA世代のがん、高齢者のがんなど、ライフステージに応じた新たな標準治療の開発」など
他方、(3)の「がんとの共生」を目指し、▼誰もがアクセス可能な相談支援・情報提供(例えば「相談支援・情報提供の質の向上」、「がん患者の多様なニーズに対応した、持続可能な情報提供・相談支援に資するAI等の開発」など)▼充実したサバイバーシップの実現(例えば「ライフステージに応じた療養環境への支援や医療提供体制の構築」、「小児・AYA世代のがん患者とその家族の経済負担を含む心理・社会的な課題や、教育及び就労支援に係る更なる対策」など)—を研究するよう要望しています。
さらに(4)の「ライフステージ・がんの特性」に着目し、「希少がん、難治性がん等のいまだ予後不良な疾患における新規薬剤、治療法の開発」、「リアルワールドデータの活用等により少数例で新規治療法の有効性を検証できる臨床試験」、「高齢者の併存疾患やライフステージに応じた標準治療開発のための新たな評価指標構築」などを進めることが要請されています。
また(5)の「横断的な研究」テーマとしては、▼がんの本態解明(「非患者を含んだビックデータの利用などを通じ、未知の内的・外的な要因等の同定と、がんの発生や形質維持の機構」など)▼シーズ探索・育成(「個別化予防や診断、治療への展開を目指した新たな標的の探索・同定」など)▼バイオバンク・データベースの整備と利活用促進▼先端的な科学技術の活用や異分野融合(「先端的生命科学と、イメージング工学、計算科学、材料工学、物理学、工学、情報科学等の先端分野との異分野融合によりがんの本態解明や創薬」など)▼政策的な課題の把握と解決—などが掲げられています。
さらに、こうした研究を効果的に推進するために「国際連携」「人材育成」「患者・市民参画」をこれまで以上に進めていくことが(6)として掲げられるとともに、(7)で「がん医療をとりまく制度の改善」も求めています。
構成員・参考人からは報告書の確定や、今後の研究推進に向けた要望が出ています。例えば、「報告書はすべての国民にも読んでいただきたい。そのために専門用語については注釈をつける、平易な言葉に修正するなどの対応を行ってほしい」(石岡千加史構成員:日本臨床腫瘍学会理事長、東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野教授、東北大学病院腫瘍内科長、郡山千早参考人:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科疫学・予防医学教授)、「第4期がん対策推進基本計画の趣旨に則り、研究への『市民参画』の重要性をさらに強調してほしい」(大井賢一委員:がんサポートコミュニティ事務局長)、「我が国の研究レベルが低下し、海外研究者からは魅力がないと指摘される点を十分に考慮すべき」(中村祐輔構成員:医薬基盤・健康・栄養研究所理事長)、「研究のゴールは『国民への果実(例えば画期的な医薬品)提供』である点を十分に認識すべき」(安川健司構成員:日本製薬工業協会副会長、アステラス製薬株式会社代表取締役会長)等の声が目立ちました。
今後、こうした要望も斟酌し、中釜座長と厚労省で報告書を決定します。その後、報告書を踏まえた「新たながん研究の戦略」を内閣府・文科省・経産省・厚労省の4府省合同で近々に策定。この戦略をベースに研究者が各々の研究を推進していきます。安川構成員の指摘するように「研究の成果・果実」が一刻も早く国民に届くことに期待が集まります。
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