「特定行為研修修了看護師」の活躍に向け、茨城県の真壁医師会が標準手順書作成しバックアップ―看護師特定行為・研修部会
2024.2.5.(月)
特定行為研修を修了した看護師は、医師の作成する手順書に基づいて医行為(特定行為)を実施することになる。こうした取り組みを地域単位で進めるべく、茨城県の真壁医師会では「標準手順書」を作成し、地域の医療機関に周知・活用を要請していくこととしている(おそらく初の「地域医師会」による特定行為研修制度支援)—。
こうした取り組みを、さらに多くの地域医師会で進めていくことが期待される—。
2月2日に開催された医道審議会・保健師助産師看護師分科会の「看護師特定行為・研修部会」(以下、部会)で、こういった議論が行われました。
特定行為研修の「負担軽減」もさまざまな角度で進めよ
一定の研修(特定行為に係る研修、以下、特定行為研修)を受けた看護師は、医師・歯科医師の包括的指示の下で、手順書(プロトコル)に基づいて38行為(21分野)の診療の補助(特定行為)を実施することが可能になります(関連記事はこちらとこちら)。
昨年度(2022年度)から、人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代が75歳以上の後期高齢者になり始め、2025年度には全員が後期高齢者となることから、今後、医療・介護ニーズが急増していきます。とりわけ在宅療養や介護施設など「医師の関与が手薄になりがちな場面」において、一定の医行為を行える特定行為研修修了看護師が活躍することが期待されています。
さらに、特定行為研修修了者には、▼新型コロナウイルス感染症をはじめとする新興感染症対応の重要な担い手▼医師働き方改革を進める中で、医師からの重要なタスク・シフティング先—といった「急性期病院等での活躍」も期待されています。
しかし、例えば、「地域医療機関での制度理解が十分でないため、身に着けた特定行為の知識・スキルを活用できない」「研修負担が大きい」といった課題もあり、さらなる特定行為研修修了者の養成・活躍に向けた対策が部会で検討されています。
前者の「地域医療機関での制度理解が十分でないため、身に着けた特定行為の知識・スキルを活用できない」という課題に対しては、茨城県の真壁医師会(筑西市、下妻市、桜川市、八千代町をカバー)が「標準手順書作成・周知事業」を立ち上げるという画期的な取り組みを始めたことが、同医師会の阿部田聡副会長から報告されました。現場の声を踏まえながら、すでに「標準手順書」の雛形を作成しており、パブリックコメント等を経て近く完成する見込みです。
上述のとおり、特定行為研修を修了した看護師が医行為(特定行為)を行うためには、医師による「手順書」が必要となります(医師が手順書を作成しなければならない)。しかし、特定行為研修制度への理解が十分に進んでおらず、医師は必ずしも手順書作成に前向きでないのが実際です(また作成負担もある)。
この点、地域医師会が標準手順書を作成し、地域の医療機関に周知することにより、例えば医師が訪問看護を指示するにあたり「手順書に基づき、●●さん(特定行為研修を修了した訪問看護師)の判断で医行為を行ってください」と円滑に依頼することが可能となります。特定行為研修を修了した看護師が活躍する場が大きく広がると期待されます。真壁医師会では、標準手順書の作成にとどまらず、リーフレットや医師会報など、様々なツールを活用して「特定行為研修制度の周知」にも努める考えです。
小規模なクリニックでは、例えば訪問診療を行う際にも「限界」(地理的な限界、人手の限界など)があります。その際、地域の「特定行為研修修了者が在籍する訪問看護ステーション」と連携することで、きめ細かい「訪問診療+訪問看護」をより広く、より多くの患者に提供することが可能となると考えられます。
これまで、ともすれば医師会は「特定行為研修制度の活用に消極的」でしたが、「特定行為研修制度をバックアップする医師会」がついに登場(厚生労働省医政局看護課の担当者も「知る限り初めてのケース」とコメント)したことで、今後の「医療・看護の連携が加速化する」ことが期待されます。
本年度(2023年度)の厚労省補正予算で設けられた「地域標準手順書普及等事業」では、こうした「特定行為研修制度をバックアップする医師会」の増加を狙っています(3つの医師会において標準手順書作成・周知事業を実施したい考え)。この事業が広がれば、「特定行為研修制度を理解し、活用する医師・医療機関」が増加し、これは「特定行為研修を受けた看護師が活躍する場が広がる」ことを意味します。厚生労働省医政局看護課の担当者は「ゼロが1になった」と上述の真壁医師会の取り組みを極めて高く評価しています。
また、特定行為研修修了者の育成・養成にも「研修負担が大きく、例えば看護師数の限られる訪問看護ステーションなどでは研修にスタッフを送り出しにくい」といった課題もあります。
特定行為研修では「医師配置施設での研修実施」も求められるため、訪問看護ステーションに併設医療機関がない場合には「外部の医療機関」に出向いて研修を受けなければなりません。しかし、4割の研修機関は外部受講生募集を行っていない、外部受講生を受けている研修機関でも「訪問看護ステーションや介護施設からの受講生」受け入れは低調である、などの実態があります。
この点、大阪府豊中市のセコム豊中訪問看護ステーションでは、連携先医療機関等と相談して「在宅医療の場での研修」を実施していることが紹介されました。「柔軟に特定行為研修を受けることができた」こと以外にも、「事後の医療・訪問看護連携がさらに強まった」「研修先の医師が手順書作成にさらに前向きになってくれた」などの多くの副次効果が確認されています。
さらに、部会では(1)研修負担を軽減するために、科目の一部(共通科目)を特定行為研修受講前から受けられることをさらに進めてはどうか(2)特定行為研修修了者の活動を推進するために、修了者を配置する医療機関等に「特定行為研修推進委員会」の設置をすすめてはどうか(3)特定行為研修修了者の判断力・技術等を維持・向上するためのフォローアップ体制を充実してはどうか—といった点も議論されました。
このうち(1)については「特定行為研修の組織定着化支援事業の参加研修機関の3割で『新人』からの共通科目の一部受講を可能としている」ことが分かりました。現在、共通科目は「250時間」のカリキュラムが組まれていますが、この一部について「事前受講」を可能とすることで、研修の負担軽減が期待されます。
さらに山本則子委員(日本看護協会副会長)は「看護学生の基礎教育課程において共通科目の一部受講を認めてはどうか」とも指摘しています。
これが認められれば、さらなる研修負担の軽減が可能となりますが、「学生時代には『特定行為の実施』をイメージしにくいのではないか。看護師資格を取り、現場で働く中で、先輩が特定行為研修修了者として活躍する姿を目の当たりにし、そこから共通科目を受講することが重要ではないか」(樋口幸子副部会長:済生会看護室室長)という声もあります。
基礎教育カリキュラム、共通科目カリキュラムのそれぞれを細かく分解・整理し「この部分は基礎改定で良いのではないか。この部分は看護師資格を保有してからでなければいけない」といった切り分け作業も必要になってきそうです。
また(2)の「特定行為研修推進委員会」は、特定行為研修修了者が院内等で特定行為を実践できる体制の整備を図るために「組織内共通の手順書を作成し、必要に応じて見直す」「安全な特定行為の実施が行われているか確認する」などの役割を果たすものです。
特定行為研修の組織定着化支援事業の参加研修機関では、この委員会の設置が義務付けられており、そのメンバーとしては看護管理者、指導医、特定行為研修修了者のほか、院長、副院長などが参加するケースも少なくなく、「組織全体で特定行為研修修了者の活動を推進していく」意気込みが強く伺えます。
こうした取り組みがさらに多くの医療機関(特定行為研修修了者を配置する医療機関全体)に広まることに期待が集まります。
なお、多くの委員から「特定行為研修修了者への経済的インセンティブ(特別手当など)が必要であり、その財源確保策を考えるべき」との声も数多く出ており、今後の重要検討テーマの1つなります。
こうした議論は今後も継続されます。
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