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切除できない局所進行食道がん、「放射線治療+抗がん剤治療+免疫チェックポイント阻害剤投与」で治療成績向上—国がん

2025.2.21.(金)

切除できない局所進行食道がんに対しては、これまで「放射線治療+抗がん剤治療」が行われているが、ここに「免疫チェックポイント阻害剤投与」を加える(放射線治療+抗がん剤治療+免疫チェックポイント阻害剤投与)で治療成績が向上する—。

国立がん研究センターが2月20日に、こうした研究結果を発表しました(国がんのサイトはこちら)。

完全奏功割合が、従来の15-20%程度から「42.1%」に向上

食道がんは依然予後の難治性のがんです。食道がんの中でも「動脈や気管などにまで広がっており、手術で切除はできないものの、肺や肝臓への転移までは認めない局所進行食道扁平上皮がん」に対して、現在は「放射線治療と抗がん剤治療を組み合わせる放射線化学療法」が行われています。しかし完全奏効(CTや内視鏡検査で「がんが完全に消失」した状態)となる割合は15-20%程度にとどまっており、また、「完全奏効とならない症例は、予後が不良である」と報告されています。

ところで、「切除できる、もしくは他臓器に転移しており根治治療が難しい食道扁平上皮がん」に対しては、すでに免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボやキイトルーダなど)の有効性が証明され、広く使われています。一方、「切除できない局所進行食道扁平上皮がん」に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性・安全性は明らかになっておらず、今般、国がんの研究チームがこの点に着目した研究を実施しました。

具体的には、「切除できない局所進行食道がん」患者40名を対象に、「放射線化学療法」(放射線治療+抗がん剤治療)の後に「3週間毎にアテゾリズマブ(テセントリク点滴静注、オプジーボの類似薬である免疫チェックポイント阻害剤)」を12か月間投与(放射線治療+抗がん剤治療+免疫チェックポイント阻害剤治療)。次のような効果・成果が得られました。

【最重要評価ポイント】
▽完全奏効割合:42.1%
→従来(上記)を大きく上回る高い成績が得られた

【その他の有効性評価ポイント】
▽1年後の無増悪生存(がんが進行せずに生存する)割合:29.6%
▽1年後の全生存割合:65.8%

【安全性評価ポイント】
▽重篤な副作用:5%程度(肺炎や軽度のホルモン異常など)
▽治療関連死:なし

こうした効果・成績を踏まえ、国がんでは「アテゾリズマブ(テセントリク点滴静注)投与が安全かつ有望な追加治療法である」と判断しています。



放射線化学療法(放射線治療+抗がん剤治療)には、「放射線と化学療法による腫瘍細胞の破壊」に加えて、「免疫系の活性化を促進する」効果が期待されています。後者の効果については、「放射線化学療法によって腫瘍周辺で免疫細胞が活性化される→免疫チェックポイントであるPD-L1(がん細胞・正常細胞が持つタンパク質)の発現が増加する」ことが確認されました。

PD-L1は免疫細胞の働きを抑えますが、ここに免疫チェックポイント阻害剤投与を行うことで「アテゾリズマブ(テセントリク点滴静注)がPD-L1をブロックする→免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすくなる→がん細胞の成長抑制や治療効果が持続する」と考えられます。



また、上記の治療「前」と「後」に採取された組織・血液を用いた研究から、「放射線化学療法の効果を予測するバイオマーカー」候補を複数特定することもできました。

治療前に特定の遺伝子変異や免疫細胞の分布が確認された場合、治療効果が高い傾向が見られました。特に「完全奏効となる患者」では、そうでない患者と比べて、▼放射線化学療法「前」▼放射線化学療法「後」▼アテゾリズマブ(テセントリク点滴静注)投与後—のいずれにおいても「抗腫瘍免疫応答の中心的な役割を担うCD8陽性T細胞におけるPD-1(免疫細胞の一種であるT細胞の表面にあるタンパク質)の発現が高く、活性化状態にある」「抗腫瘍免疫応答を抑制する作用のある制御性T細胞のPD-1、CTLA—4(T細胞の表面に存在するタンパク質で、免疫システムの「ブレーキ」として働く)が低く、免疫応答を抑制する作用が弱まっている」ため、有効な抗腫瘍免疫応答が起こりやすい状況となっていることが分かりました。これらから、将来、「個別の患者ごとに最適な治療法を提案できる」可能性があります。



また、「治療に対する耐性を起こしたがん細胞」の解析からは、いくつかの耐性機構が明らかになりました。具体的には、「放射線化学療法後のがん細胞では炎症を引き起こす遺伝子が活性化される」→「制御性T細胞などの免疫反応を抑制する細胞が腫瘍組織内部で増加し、がん細胞が抗腫瘍免疫応答から逃れ、再び成長しやすくなる」傾向が見られました。こうした耐性機構を踏まえれば、「アテゾリズマブ(テセントリク点滴静注)」+「炎症を抑える薬剤」「特定の免疫細胞を標的とする薬剤」の組み合わせによって治療効果がさらに向上することが期待されます。



国がんでは、こうした研究成果を踏まえて、「局所進行性食道扁平上皮がんに対して、従来の放射線化学療法(放射線治療+抗がん剤治療)に免疫チェックポイント阻害薬治療を追加することで、治療効果が向上する可能性がある」と結論づけました。

すでに大規模臨床試験(NCT04543617)が行われており、ここでの効果検証も行われる予定です。さらに国がんでは、患者ごとに効果が異なる原因を探り「個別化医療」の実現を目指すとともに、「アテゾリズマブ(テセントリク点滴静注)と他の免疫療法薬との組み合わせによる、より効果的な治療法の開発」に向けた研究を進める考えです。



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