利尿剤や緩下剤、高齢者で慎重投与が必要だが、高齢になるほど複数使用が増えている―日医総研
2018.5.18.(金)
厚生労働省によるレセプト・特定健診等のデータベースであるNDB(National Data Base)から、とくに利尿剤、緩下剤は、日本老年医学会が「75歳以上の高齢者では、特に慎重な投与を要する」と提言する薬物であるにも関わらず、年齢階級が上がるにつれて複数使用が増えていることなどが分かった。高齢者の医薬品使用適正化に向けて、医師関係者はもちろん、「国民の受療行動、薬局利用動向」に関する取り組みを行う必要がある―。
日本医師会総合政策研究機構(日医総研)は5月15日に、ワーキングペーパー「レセプト情報等データベース活用の一例:高齢者医薬品適正使用のためのエビデンスの構築」を公表し、こういった提言を行いました(日医総研のサイトはこちら)。
NDBを活用した、高齢者の医薬品適正使用に向けたエビデンス構築に期待
高齢になると、▼細胞内水分の減少▼血清アルブミンの低下▼肝血流や肝細胞機能の低下▼腎血流の低下―といった生理機能の低下が生じます。その一方で、薬物吸収能は大きく変化しないため、「医薬品が効き過ぎる」ことがあります。
他方、高齢になると複数の傷病を抱えることが多く、各疾病治療のための「多剤投与」が行われがちです。この多剤投与の中でも害を伴うもの(ポリファーマシー)が問題視され、とくに高齢者をターゲットとした「医薬品使用の適正化」に向けた検討が進められています(もちろん、若人でも適正使用が重要なことは述べるまでもない)。
厚労省の「高齢者医薬品適正使用検討会」では、▼服用薬剤数は、60歳前後から増大し、75歳以上でより多くなる▼多剤服用患者は、複数医療機関を受診する▼通常成人の用法用量でも、高齢者では注意が必要な副作用がある▼6剤以上の服用で、医薬品関連の有害事象の頻度が高くなる―傾向が指摘されていますが、「高齢者において、どのように医薬品の処方が行われているのか、多剤投与でどういった有害事象が生じるのか、必ずしも十分なデータがない」との指摘もあります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
そこで日医総研は、今般、NDB(National Data Base、レセプト・特定健診等情報データベース)を用いて、高齢者における医薬品使用の実態等を分析。その結果、次のような点が明らかになりました。
▽「高齢になるにしたがって病名が増える」傾向がみられる。2011年に比べ、2015年のほうが、80歳以上の年齢階級において、最頻カテゴリーの疾患数が増えている
▽最頻医薬品数(院外調剤の内服医薬品)は、▼80歳未満:2]剤▼80-84歳:3-4 剤▼85歳以上:4-5剤—と、高齢になるにつれ使用医薬品数が増加する傾向がみられる
▽医薬品と有害事象との関係が強く疑われる疾患のうち、とくに▼うっ血性心不全▼脳血管障害▼認知症▼呼吸器疾患—の患者は、年齢が上がるとともに急速に増加している
こうした結果から、上述した「高齢者医薬品適正使用検討会における指摘」が一定程度裏付けられていると言えるでしょう。今後の、NDBを活用したエビデンスの構築に期待が持てます。
もっとも、NDBからは「服用実態」や「副反応の状況」を見ることはできず、別のアプローチが必要となるでしょう。
日医総研では、さらに、高齢者の医薬品適正使用に向けて、医師・医療機関、薬剤師・薬局を中心とした医療関係者のみならず、「国民の受療行動、薬局利用動向における取り組み」や、一部の薬効医薬品について「高齢者の使用を前提とした開発」が必要ではないかともコメントしています。
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