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オンライン診療料等の要件を段階的緩和、ICT用いた退院時共同指導等を実施しやすい環境整備―中医協総会(3)

2019.11.12.(火)

オンライン診療料の算定要件・対象患者等について、段階的な緩和を検討してはどうか―。

また退院時共同指導において、多忙な医療関係者が一堂に会することには困難も伴うため、ビデオ会議システムなどのICT機器を活用した情報連携等を進めるべきである―。

11月8日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こういった議論も行われました。

ただし、オンライン診療の拡大に向けた考え方は、診療側と支払側とで相当異なっており、具体的な要件緩和等がどのように詰められるのか、注目する必要があります。

11月8日に開催された、「第431回 中央社会保険医療協議会 総会」

オンライン診療に関する考え方、診療側と支払側とで大きな相違があるが・・・

2020年度の次期診療報酬改定に向けた議論が本格化しており、11月8日の中医協総会では、「医療従事者の働き⽅」を支える診療報酬に関し▼タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進▼⼈員配置の合理化推進▼会議の合理化推進―を、また「ICTの利活用」(オンライン診療など)、「情報共有・連携」など非常に幅広い項目について議論を深めました。

働き方改革に関してはすでにGem Medでお伝えしており(11月8日の中医協総会の過去記事はこちらこちら)、本稿では「ICTの利活用」(オンライン診療など)、「情報共有・連携」に焦点を合わせてみましょう。

ICTの利活用は、▼医療の質向上▼医療へのアクセス確保▼医療従事者の生産性向上―など、さまざまな面で非常に重要な検討テーマです。厚生労働省保険局医療課の森光敬子課長は、▼オンライン診療等▼患者が医師といる場合のオンライン診療(いわゆるD to P with D)▼ICTを用いた栄養指導―などについて中医協委員に議論を要請しました。

まずオンライン診療については、2018年度に【オンライン診療料】や【オンライン医学管理料】、【オンライン在宅管理料】が創設されました。いずれも、すでに「医師と患者との間で信頼関係が構築されている」ケース(6か月以上の継続診療など)について、オンライン診療計画に基づいて、対面診療・実際の訪問診療等と組み合わせて、スマートフォンなどを活用した「オンラインによる診療」を行うことを診療報酬で評価するものです。

このオンライン診療については、「患者の利便性を考慮し、拡大していくべき」と主張する支払側委員と、「有効性・安全性に関するエビデンスが構築を待ち、そこから拡大の必要性を検討していくべき」と慎重姿勢を示す診療側委員との間で、大きな意見の隔たりがあります(関連記事はこちら)。

支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)や吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)らは、▼40代、50代の働き盛り世代において、生活習慣病の治療からのドロップアウトを防ぐために、通院時間等を節減できるオンライン診療が重要である▼実際にオンライン診療を受けた人は高く評価をしており、これを1つのエビデンスと考えるべきである▼有効性・安全性のエビデンスを構築するためにも多くの患者がオンライン診療を利用できる環境を整備すべきである―という点を強調し、「オンライン診療の対象者拡大」「オンライン診療の要件緩和」を強く求めました。

オンライン診療への評価とは、森光医療課長が提示した「2018年度診療報酬改定の結果検証調査」で、そこでは▼「対面診療と比べて十分な診察を受けられない」と感じた患者は14.9%、「対面診療と比べて十分なコミュニケーションを取れない」と感じた患者は10.3%にとどまる▼「対面診療と比べて受診する時間帯を自分の都合に合わせられた」と感じる人は87.4%、「対面診療と比べて待ち時間が減った」と感じる人は90.8%、「オンライン診療の手間や費用負担に見合うメリットがある」と感じた人は79.3%にのぼる―ことなどが明らかにされています。

オンライン診療を受診した患者の評価は高い(その1)(中医協総会(3)1 191108)

オンライン診療を受診した患者の評価は高い(その2)(中医協総会(3)2 191108)



これに対し、診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)や今村聡委員(日本医師会副会長)、城守国斗委員(日本医師会常任理事)は、▼結果検証調査をエビデンスと考えるのはいかがなものか▼有効性や安全性について各学会がエビデンス構築に向けた取り組みを進めたばかりである▼「利便性」を根拠にオンライン診療を進めることは本来の趣旨とかけ離れている▼仕事が忙しく医療機関を受診できないのであれば、本来は企業側が「医療基準を気兼ねなく受診できる環境」を整備すべきであろう―と述べ、安易なオンライン診療の拡大論に対し、強く「待った」をかけています。

もっとも、支払側委員も「一気にオンライン診療を拡大すべき」と訴えているわけではなく、診療側委員も「要件緩和は一切認められない」と主張しているわけでもありません。両側ともに「段階的な要件緩和」方向には賛同しており、今後、どういった部分について緩和が可能かを探っていくことになるでしょう。

この点、森光医療課長は「オンライン診療料等における、現時点の問題点」をいくつか整理し、要件見直しなどを検討してはどうか、と中医協に要請しています。

まずオンライン診療全般(自由診療やオンライン保健指導なども含む)に適用される指針(オンライン診療の適切な実施に関する指針)では、「離島・へき地などで医師の急病時等やむを得ない場合には、患者の同意と事前の医療情報の共有を行った上で、2次医療圏内の他医療機関の医師が初診からオンライン診療を行うことが可能」とされました(関連記事はこちらこちら)。しかし、診療報酬上は、オンライン診療料等の算定に当たって、医師は「対面診療を行った医療機関において、オンライン診療を実施する」こととされており、現時点では上述のようなケースでは【オンライン診療料】を算定できません。この点、「指針に沿って【オンライン診療料】の要件を一部緩和する」ことなどが考えられそうです。

また、比較的状態の安定している在宅療養患者に対し、「月1回以上の実際の訪問診療」と「オンライン診療」を組み合わせて在宅医療を提供することが診療報酬上、認められました(オンライン在宅管理料)。この点、指針では「複数の医師が交替で在宅医療を提供する場合は、複数診療科の医師がチームで在宅医療を提供する場合などでは、▼複数医師が関与することを診療計画で明⽰する▼いずれかの医師が直接の対⾯診療を⾏う―ことを要件に、オンライン診療を行うすべての医師が必ずしも直接の対⾯診療を行っていなくともよい」こととされた点と、齟齬が生じています。

2018年度診療報酬改定では「複数の医療機関において、在宅患者訪問診療料を算定する」ことが認められました。在宅療養患者のニーズの多様化・高度化などを踏まえれば、今後、「複数医療機関の医師が在宅医療を提供する」場面が増加していくと考えられ(関連記事はこちら)、【オンライン在宅管理料】などの要件も、こうしたニーズや指針にマッチするような見直しの検討も必要となってきそうです。

さらに、▼生活習慣病患者▼難病患者―などでは、治療の継続において「医療機関へのアクセス」が障壁となっている実態もあります。また、【オンライン診療料】の算定は「特定疾患療養管理料」「地域包括診療料」「認知症地域包括診療料」「てんかん指導料」「生活習慣病管理料」「難病外来指導管理料」「糖尿病透析予防指導管理料」「精神科在宅患者支援管理料」などを算定している患者に、つまり対象疾患が一定程度限定されていますが、学会からは「より多様な疾患を対象に加えるべき」との意見も出ています。こうした点を踏まえた、要件緩和も重要な論点となりそうです。

今後、こうした論点に沿って「要件緩和の必要性があるか」「どのような要件設定・修正を行うべきか」を具体的に検討していくことになるでしょう。

なお、ICT利活用に関する診療報酬について、「医療資源の少ない地域」に配慮したICT利活用要件と、「へき地」に配慮したICT利活用要件との差異をどう解消していくかも重要な論点として浮上しています。

「D to P with Dのオンライン診療」、診療報酬でどう位置付けるか

「患者が医師といる場合のオンライン診療(いわゆるD to P with D)」とは、例えば「患者がかかりつけの医療機関を受診し、その医療機関で、かかりつけ医の診療を受けると同時に、遠方にいる当該疾病の専門医から、オンライン機器を活用して指導等を受ける」といった場面がイメージできます。

D to D with Pのイメージ(中医協総会(3)3 191108)



現在の【オンライン診療料】等が想定していないケースですが、こうした形態の診療を診療報酬にどう位置付けるかを検討してほしいと森光医療課長は要請しました。

こうした「D to P with Dのオンライン診療」が保険診療で可能となれば、希少疾病と闘う患者にとって、「かかりつけ医と専門医の双方から治療を受けられる」という大きなメリットがありそうです。例えば、専門医の指導を、患者の状態や人となりを熟知するかかりつけ医が「かみ砕いて」説明するようなケースが思いつきます。

ただし、診療側の松本委員は、「報酬をどのように請求するのか」などの実務的な課題を解決することが必要であると指摘したほか、「ともすれば、営利に走る医療機関が出てくるのではないか」との懸念も指摘しました。

指針見直しを議論する「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」では、「D to P with Dのオンライン診療」について、上述のようなケースのほか、例えばロボット支援手術を行うにあたり、▼遠隔地にいる高度なスキルを持った医師が難易度の高い部分を担当する▼手術室の主治医が難易度の低い部分を担当する―といったケースも考えられることが紹介されました。

極めて高度な技術や極めて専門性の高い分野の治験を持つ医師の数は限られており、全国の患者は「D to P with Dのオンライン診療」が推進され、その恩恵に預かりたいと考えることでしょう。松本委員の懸念する事項への対応を十分に行ったうえで、診療報酬上の位置づけができるだけ早期に明確になることが期待されます。

ICT機器を用いた栄養指導を診療報酬で評価すべきか

またICT機器を用いた栄養指導については、すでに研究事業・トライアル事業が行われ、「糖尿病等の患者に対する遠隔栄養指導により、通常治療群に比べて有意に減量効果があった」などの成果も出ています。継続した治療・指導が重要な生活習慣病の分野において、治療中断等を防止するために、ICTを活用した栄養指導を診療報酬で評価すべきかも2020年度改定に向けた論点となっています。

ICTを用いた栄養指導には一定の効果があるとの研究結果がある(中医協総会(3)4 191108)



成果に鑑みれば「診療報酬での評価を行ってはどうか」とも思えますが、診療側の松本委員や今村委員は、▼ICTの活用というよりも、管理栄養士による指導が行われたか否かが重要である▼治療中断者の半分は、電話での「再来院」(治療の再開)勧奨に応じている―点を踏まえて、「慎重な検討」を求めています。

ICT機器を用いた退院時共同指導を推進

このほか、森光医療課長は▼患者の同席が想定されない、医療機関間・医療機関内のカンファレンス等において、電子掲示板等を活用した情報共有・連携を進めてはどうか▼退院時共同指導等において、ICTを活用したカンファレンス等を認めてはどうか▼入院栄養食事指導を受けた患者に関して、退院後の後方病床等を担う医療機関等への栄養情報提供を評価してはどうか―といった論点も提示しました。

退院時共同指導は、次のよう診療報酬で評価されています。

▽退院後の在宅療養を担う医療機関(A)が、入院医療機関(B)を訪問し、ABの関係職種(医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士等、社会福祉士)が共同して、患者等に対、文書で「退院後の在宅療養で留意すべき点」などを指導・説明した場合、A医療機関では【退院時共同指導料1】(1500点)を、B医療機関では【退院時共同指導料2】(900点)を算定できる

▽入院医療機関(B)の「医師」が、▼退院後の在宅療養を担う医療機関の医師、看護師等▼訪問看護ステーションの看護師等▼居宅介護支援事業者のケアマネジャー―ら3者と共同指導を行った場合には、【退院時共同指導料2】に【多機関共同指導加算】(2000点)が加算される

ただし医療現場では、「一堂に会して情報共有・連携を行うことが難しい」との声が多数でており、ビデオ通話システムなどのICT活用を認めてはどうか、との論点が浮上しているのです。この点、松本委員は「こういう場面こそICTの活用を積極的に進めるべき」との考えを強調しています。

 
 
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