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「遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん」や「限局性強皮症」など29疾患、医療費助成の対象に—小慢専門委員会

2021.7.20.(火)

「ホルト・オーラム症候群」や「遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん」「限局性強皮症」など29の小児難病を「小児慢性特定疾患」に追加し、当該疾患の患者に対しても、本年度(2021年度)中に速やかに医療費助成を開始する―。

7月15日に開催された社会保障審議会・児童部会の「小児慢性特定疾患児への支援の在り方に関する専門委員会」(以下、小慢専門委員会)で、こういった内容が承認されました。所定の手続きを踏んだ後、今年度(2021年度)中に医療費助成の対象となる見込みです(成人における指定難病追加の議論も始まっており、その記事はこちら)。

新たに29疾患を、2021年度中に医療費助成の対象に追加

小児慢性特定疾患は、いわば「小児の指定難病」という位置づけで、該当疾患に罹患した小児は医療費助成の対象となります。ただし成人対象の指定難病にある「希少疾患」という要件は設けられておらず、より広く指定および指定拡大が、なされてきています(これまでに762疾患が指定)。

小児慢性特定疾患に指定されるには、(1)慢性に経過する疾病である(2)生命を長期にわたって脅かす疾病である(3)症状や治療が長期にわたって生活の質を低下させる疾患である(4)長期にわたって高額な医療費の負担が続く疾患である―という4要件をすべて満たすことが求められます。日本小児科学会の「小児慢性疾病委員会」で、4要件を満たすであろう疾患を「候補」として選定し、小慢専門委員会で4要件をすべて満たすか否かを確認したうえで、所要の手続きを経て対象疾患に追加されます。

今般、学会から候補として申請された29疾患のすべてが、小慢専門委員会において「4要件を満たす」と判断されました。2021年度に「医療費助成対象」に追加されます。ただし、検討の過程で「分類を見直すべき」「疾病の状態の程度を見直すべき」との指摘が一部疾患にあったことから、申請当初とは分類や名称が若干変更されています(関連記事はこちら)。

21年度に医療費助成対象に追加される29疾患は、次のとおりです。なお、「(●)」と付記した疾患については、申請当初から「疾病の状態の程度」の見直し(他疾患との整合性確保など)が行われました。

【慢性腎疾患】(3疾患)
ギャロウェイ・モワト症候群:腎糸球体硬化症(ネフローゼ症候群)と小頭症(難治性てんかん,精神運動発達遅滞)を2主徴とする疾患で、原因となる染色体異常や遺伝子変異は見つかっていない(●)
鰓耳腎症候群:頸瘻・耳瘻孔・外耳、中耳、内耳奇形など(鰓原性奇形と呼ばれる)に、難聴、腎臓の形態異常(先天性腎尿路奇形)を伴う疾患
常染色体優性尿細管間質性腎疾患:遺伝性腎疾患(MUC1、UMOD、HNF1B、RENおよびSEC61A1の異常)で、進行性の腎機能障害、腎生検での広範な間質性腎障害が認められる(疾患の名称を変更、(●))

【慢性心疾患】(1疾患、分類移動に伴い当初から1疾患増加)
ホルト・オーラム症候群:拇指および橈骨系を中心とした上肢の形成異常と、心房中隔欠損や心室中隔欠損などの先天性心疾患を特徴とする症候群(「染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群」からの分類移動、(●))

【神経・筋疾患】(19疾患、分類移動に伴い当初から5疾患増加)
徐波睡眠期持続性棘徐波を示すてんかん性脳症:▼てんかん▼脳症▼典型的脳波—の特徴を示す
PCDH19関連症候群:正常または軽度の運動発達の遅れを有する乳幼児期の女児に、発熱・感染症等を契機にてんかんを発症する
環状20番染色体症候群:難治な非痙攣性てんかん重積状態を主症状とし、ミオクローヌス、小型・大型の運動発作、複雑部分発作、非対称性の強直発作、過運動発作を伴うこともある疾患
アイカルディ症候群:眼の異常、様々な種類の脳形成異常、難知性てんかん発作、重度の知的障害、運動障害を呈する疾患
ミオクロニー欠神てんかん:意識の曇り、両上肢を中心とする四肢の律動的なミオクロニー性攣縮と強直性収縮を特徴とし、平均7歳頃(11か月-12歳6か月)に発症する
ミオクロニー脱力発作を伴うてんかん:小児てんかんの約1-2%を占める「年齢依存性の全般てんかん症候群」の一型。全般強直間代発作、ミオクロニー脱力発作、非定型欠神発作等の多彩な発作を呈する
大田原症候群:重症のてんかん性脳症で、新生児から乳児期早期に発症し、てんかん性スパズムを主要発作型とする
早期ミオクロニー脳症:生後早期に発症する非ケトン性高グリシン血症などの代謝異常症、遺伝子異常、脳形成異常が原因となるてんかん性脳症。眼瞼、顔面、四肢に不規則なミオクローヌスが出現する
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん:てんかん発症までの発達は正常で、生後6か月以内に発症するてんかん性脳症。発作中にてんかん焦点が移動することが特徴である
視床下部過誤腫症候群:先天性の奇形病変である「視床下部過誤腫」により引き起こされる病態。「笑い発作」や「思春期早発症」を特徴とする
WDR45関連神経変性症:脳内鉄沈着を伴う神経変性症(NBIA)の5型に分類され、女児に発症する
ビタミンB6依存性てんかん:ビタミンB6(ピリドキシンまたはピリドキサールリン酸)の投与によりてんかん発作が消失または著明に改善し、その後も発作抑制のためにビタミンB6治療の継続が必要なてんかんの総称
片側巨脳症:片側の大脳半球が2葉以上にわたり腫大し、生後早期に発症する難治てんかんを特徴とし、不全片麻痺、知的障害を呈する疾患
早産児ビリルビン脳症:神経毒性に起因する脳障害で、淡蒼球・視床下核・海馬・動眼神経核・蝸牛神経腹側核などに選択的な障害を認められる
DDX3X関連神経発達異常症:重度の知的障害、言語発達遅滞、摂食障害、特徴的顔貌を特徴とする先天異常症候群。DDX3X遺伝子のヘテロ接合性の変異を原因とし、ほとんどの症例が女性である(染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群から分類移動、(●))
GRIN2B関連神経発達異常症:重度の発達遅滞および知的障害、筋緊張異常を特徴とする先天異常症候群で、摂食障害、てんかん、自閉症スペクトラム障害、小頭症、運動障害(ジストニアなど)、皮質視覚障害を認める(染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群から分類移動、(●))
PURA関連神経発達異常症:PURA遺伝子のヘテロ接合性の病原性変異を原因とする重度の知的および運動発達の遅れを特徴とする先天異常症候群(染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群から分類移動、(●))
CASK異常症:頭部MRIで橋小脳低形成を認める重度の知的障害、小頭症、特徴的な顔貌を特徴とする先天異常症候群(染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群から分類移動、(●))
先天性グリコシル化異常症:糖たんぱく質の糖鎖合成不全で、主症状として乳児期からの筋緊張低下、精神運動発達遅滞、特徴的顔貌、皮膚症状、心嚢液貯留などが認められる(染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群から分類移動、(●))

【染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群】(4疾患、分類移動に伴い当初から6疾患減少)
バインブリッジ・ロパース症候群(告示病名は「染色体又は遺伝子異常を伴い特徴的な形態的異常の組み合わせを呈する症候群」となり、その1疾患として厚労省通知で名称明示となる):重度の発達遅滞または知的障害、言語発達遅滞、摂食障害を特徴とする先天異常症候群(●)
ヴィーデマン・スタイナー症候群症候群(告示病名は「染色体又は遺伝子異常を伴い特徴的な形態的異常の組み合わせを呈する症候群」となり、その1疾患として厚労省通知で名称明示となる):多毛、低身長、知的障害、特徴的な顔貌を特徴とする先天異常症候群で、筋緊張低下、睡眠障害、経口摂取不良、成長ホルモン分泌不全、けいれんを認める(●)
コーエン症候群(告示病名は「染色体又は遺伝子異常を伴い特徴的な形態的異常の組み合わせを呈する症候群」となり、その1疾患として厚労省通知で名称明示となる):乳幼児期からの筋緊張低下、知的障害、特徴的顔貌、体幹部肥満、網膜ジストロフィーなどの眼異常、間欠的好中球減少症を主要症状とする先天異常症候群(●)
ピット・ホプキンス症候群(告示病名は「染色体又は遺伝子異常を伴い特徴的な形態的異常の組み合わせを呈する症候群」となり、その1疾患として厚労省通知で名称明示となる):重度の知的障害、成長障害、筋緊張低下、特徴的な顔貌を特徴とする先天異常症候群で、ほとんどの例で自立歩行や言語獲得が困難である(●)

【皮膚疾患】(1疾患)
限局性強皮症:皮膚およびその下床に限局した皮膚硬化を伴う疾患で、てんかんや脳神経障害、四肢機能障害などを伴うことがある(●)

【骨系統疾患】(1疾患)
タナトフォリック骨異形成症:長管骨(特に上腕骨と大腿骨、肋骨)の著明な短縮が特徴で、線維芽細胞増殖因子受容体3遺伝子の点突然変異が原因で発症する

2021年度から、新たな小児慢性特定疾病として医療費助成の対象となる疾患一覧(その1)(小慢専門委員会1 210715)

2021年度から、新たな小児慢性特定疾病として医療費助成の対象となる疾患一覧(その2)(小慢専門委員会2 210715)



このうち「ホルト・オーラム症候群」について賀藤均委員(国立成育医療研究センター病院長)は「上肢障害の方が重い患者もおられる可能性がある。今後、運用する中で『慢性心疾患』への分類が妥当かどうか検証し(心疾患への分類では、骨系統疾患の程度が重い患者が医療費助成対象から漏れる可能性がある)、必要があれば分類等を見直しておくべきである」とコメント。五十嵐隆委員長(国立成育医療研究センター理事長)もこの指摘に理解を示しています。

小慢専門委員会で「対象疾患追加」案が了承されたことを受け、厚労省は所定の手続き(パブリックコメント募集など)を経たうえで近く告示改正を行い、本年度(2021年度)中に上記29疾患の患者にも医療費助成が開始される見込みです。

既存の小児慢性特定疾患「強皮症」を、「全身性強皮症」に名称変更

また、既存の小児慢性特定疾患について次のような見直しを行うことも、7月15日の小慢専門委員会で了承されています。

▽告示番号23「強皮症」(膠原病群)について、上述のとおり新たに「限局性強皮症」が追加されることに伴い、疾患名を「全身性強皮症」に改める

▽告示番号57「先天性ポルフィリン症」について、現在は「先天性代謝異常群」に分類されているが、より適切な分類である「皮膚疾患群」に位置づける

3疾患について告示病名明示化が学会から要望されるも、「基準が不明確」なため見送り

なお、日本小児科学会から、次の3疾患について「疾患名の明示化」(告示病名としての明示)が要望されましたが、小慢専門委員会では「『告示病名』としての明示化は見送る。ただし、小児慢性特定疾病情報センターのホームページでの明示化を認める」との結論をくだしました。

要望を行った窪田満参考人(国立成育医療研究センター・総合診療部統括部長)は「患者数が一定程度(小児患者で150-200名程度)に達しており、明示化することで患者サイドに安心感が生まれ、また医療サイドには『当該疾患が医療費助成対象の小児慢性特定疾患である』との理解が進む」と要望の背景を説明していますが、小国美也子副委員長(鎌倉女子大学児童学部教授)は「包括されている疾患を、どういった場合に明示化するのかという基準をまず検討し、明確化する必要がある」との考えを示しています。五十嵐委員長も「今後、疾患名明示化の基準を検討テーマに据える」旨を確認しています。

▽若年性黄色肉芽腫:これまでは「悪性新生物群」の中でいわば「その他の組織球症」として包括されていたが、悪性新生物群の中で疾患名を明示化する

▽ガラクトースムタロターゼ欠損症:これまで「先天性代謝異常群」の中でいわば「その他の糖質代謝異常症」として包括されていたが、先天性代謝異常症群の中で疾患名を明示化する

▽自己免疫性好中球減少症:これまで「免疫疾患群」の中でいわば「その他、慢性の経過をたどる好中球減少症」として包括されていたが、免疫疾患群の中で疾患名を明示化する



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