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初診からのオンライン診療に向け指針見直しを概ね了承、当面はコロナ特例優先―オンライン診療指針見直し検討会

2021.11.30.(火)

初診からのオンライン診療の制度化に向けて、例えば「初診からのオンライン診療は、かかりつけの医師(かかりつけ医ではない点に留意)による実施を原則」とし、ただし診療情報提供書などで患者の医学的情報を十分に把握できる場合にも実施可能とする―。

また診療情報提供がない場合でも、診療前のオンライン相談(診療前相談)で医師が「医学的情報が得られた。オンライン診療を行える」と判断した場合にも例外的にオンライン診療を可能とする―。

オンライン診療と対面診療とを適切に組み合わせることが重要であるが、中には「オンライン診療のみで完結する傷病」もある可能性があり、そこは学会の整理を待って判断していくこととする―。

11月29日に開催された「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(以下、検討会)で、こういった内容を盛り込んだ指針改正案が概ね了承されました。構成員からの指摘も踏まえ、山本隆一座長(医療情報システム開発センター理事長)と厚生労働省で修正内容を詰め、近く正式なオンライン診療指針の改訂内容が固められます。

●厚労省のサイトはこちら(初診オンラインへの対応案)こちら(指針見直し案)(今後、加筆修正が行われる見込みです)

なお、「オンライン診療指針」(オンライン診療の適切な実施に関する指針)が改正された後も、現在のオンライン診療・電話診療にかかる新型コロナウイルス感染症に対応するための臨時特例が継続される間は、「臨時特例が優先適用」されます。したがって、見直し後の新指針がいつ適用されるかは現時点では不透明です(臨時特例が終了しなければ新指針は適用されない)。

11月29日に開催された「第19回 オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」

初診からのオンライン診療は「かかりつけの医師による実施」が原則である点に留意

検討会では、「オンライン診療指針」を策定し、見直すことが主な議題です。例えば「なりすまし医師によるオンライン診療」や「セキュリティが極めて脆弱な環境でのオンライン診療」など不適切な事例が散見されていたこと、さらに「そもそもオンライン診療は医師法第20条で禁止される無診察治療に該当しないのか」という根本的な問題もあったことから、「保険診療だけでなく、自由診療を含めたオンライン診療を適切に行うためのガイドライン」策定が求められたものです(指針に沿ったオンライン診療は医師法第20条等に抵触しない取り扱いとなる)。

そこでは、オンライン診療について「対面診療に比べて得られる情報が格段に少なく、誤診や見落としのリスクが高い」ことから、原則として「初診からのオンライン診療は不可」とされていました。しかし、菅義偉前内閣において「安全性と信頼性をベースに、初診も含めオンライン診療は原則解禁する」(恒久化)方針が決まり、これまで「初診からのオンライン診療を適切に行うための方策」について議論が行われて来ました(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちらこちらこちら)。

厚労省は、こうした議論を踏まえ、次のような点をオンライン診療指針に盛り込んではどうかと提案。一部、注文が付いていますが概ねで了承されています。

まず、初診からのオンライン診療は、上記のような誤診・見落としリスクがあることを踏まえ、原則として「日頃より直接の対面診療を重ねているなど、患者と直接的な関係が既に存在する医師」(以下、オンライン診療指針においてこうした医師を「かかりつけの医師」と呼ぶ。他で議論される「かかりつけ医」とは異なる定義である点に留意が必要である)が行うものである点が確認されました。どういうケースが「かかりつけの医師」に該当するのかは、今後、Q&Aなどで示される見込みです



ただし、患者の情報が一定程度得られている場合には誤診・見落としリスクが低減されると思われ、初診からのオンライン診療が可能になります。その際の「患者の情報が一定程度得られている場合」とは、具体的には、例えば▼過去の診療録▼診療情報提供書▼健康診断の結果▼地域医療情報ネットワーク▼お薬手帳—などから、現場医師が「既往歴、服薬歴、アレルギー歴などのほか、症状から勘案して問診・視診を補完するのに必要な医学的情報が得られている」と判断した場合をさします。この場合、どういった情報をもとに判断したのかを診療録に記載することが求められます。

診療前のオンライン相談で「医学的情報が得られた」場合にも例外的にオンライン初診可

ところで、例えば若者などでは「ここ数年、医療機関を受診したことなどない」というケースも少なくありません。この場合、上記に該当せず、初診からのオンライン診療を受けられなくなりそうですが、規制改革推進会議の強い意向も踏まえて次のような【診療前相談】という仕組みが設けられました。

これは「医師-患者間で映像を用いたリアルタイムのやりとりを行い、医師が患者の症状・医学的情報を確認する行為」で、医師がそこで「適切な情報が把握ができた」と判断し、医師と患者の双方が「オンラインでの診療が可能であると判断し、相互に合意した」場合にはオンライン診療の実施を可能とするものです。

この【診療前相談】は「診断、処方その他の診療行為は含まない」ために、オンライン診療には位置づけられませんが、▼後にオンライン診療が行われた場合には、【診療前相談】で得た情報を診療録に記載する(義務)▼オンライン診療に至らなかった場合にも【診療前相談】記録の保存が望ましい▼【診療前相談】で対面診療が必要と判断され、他院で対面診療が行われる場合には、【診療前相談】で得た情報を必要に応じて適宜情報提供する▼事前に「オンライン診療が行えない可能性がある」ことや費用などを、医療機関のホームページ等で示すなど、あらかじめ患者に十分周知することが必要である―などの点に留意が必要です。

【診療前相談】は新たな概念であり、詳細がQ&Aなどが示されるとともに、事例を積み重ねる中で、「こうした事例は想定しなかった、ここはどう考えるべきか」などの事態に直面することも考えられ「具体的な運用方針を都度都度見直していく」ことなども重要です。

「セキュリティ要件の緩和」など求める声に対し、患者サイドは「医療安全の確保」重視

この点、患者代表として参画する鈴木美穂構成員(認定NPO法人マギーズ東京共同代表理事)は「【診療前相談】さえ行えば、どの患者でもオンライン診療を受けられるとすることには危険を感じる。患者がリスクを負うことになり、医療安全を確保できる仕掛けが必要ではないか」とコメントしています。

ほとんどの患者・国民は「医療・医学に関する知識が乏しい」のが実際で、オンライン診療のリスクなども十分に把握していないケースが多いと考えられます(美容医療等での問題事例を見れば、こうしたケースが多いことは容易に推察できる)。この点「バッドドクターの存在はオンライン診療に限らない」との考えもありますが、「オンライン診療で医療安全上のリスクが高まる」ことは避けるべきでしょう。さらに「リスクを気にするのであるならオンライン診療を受けなければ済む」と切り捨てる考えもありますが、上述した「患者・国民のほとんどは医療・医学に関する知識が乏しい」ために、リスクを承知せずにオンライン診療を受けてしまうことも多いのです。医療安全を確保しながら、適切なオンライン診療を進めていくためには「慎重に段階的に拡大していくべき」との患者代表の声に十分に耳を傾ける必要がありそうです。

この点、オンライン診療推進派と言える佐藤主光構成員(一橋大学経済学研究科・政策大学院教授)や大石佳能子構成員(メディヴァ代表取締役社長)らからは「オンライン診療に、対面診療以上の制限をかけるべきではい」との指摘が数多く出ています。しかし、上述したように実際に「なりすまし医師によるオンライン診療」などの問題も生じていることや、インターネットを介した様々な情報漏洩がオンライン診療以外でも広く生じていることなどを踏まえれば、「一定の規制」「対面診療では問題とならないが、オンライン診療では問題となりうる事象への特別の対応」が必要になってくることは火を見るよりも明らかと考えられるでしょう。

なお、大石構成員は「医療弱者(仕事や家事・子育てなどに忙殺され、医療機関にかかる暇のない人など)の健康確保のためにオンライン診療のハードルを下げるべき」とも指摘しています。非常に重要な視点ですが、「対面診療に行けない環境を改善する」方策も併せて考える必要があるでしょう。

医学会が「初診からオンライン診療が可能な傷病」などを整理

また、初診からのオンライン診療が「一定程度可能な傷病」と「極めて困難な傷病」があると考えられます。南学正臣構成員(東京大学大学院医学系研究科腎臓・内分泌内科学教授/日本医学会)は「例えば高血圧症一つをとっても、慢性期の本態性高血圧症であればオンライン診療が可能であろうが、そうであるのか、特定の原因に基づく2次性高血圧症との鑑別などはやはり対面診療が必要となる。学会において、どういった傷病について初診からのオンライン診療が可能となるのか整理する」考えを明示。改訂オンライン診療指針でも、この学会における整理を踏まえて医師がオンライン初診可能か否かを判断し、適さない場合には対面診療を速やかに実施すべきなどの考えを示しています(関連記事はこちら)。



併せて、初診からのオンライン診療では「薬剤処方にも一定の制限」が設けられるべきでしょう。無制限の医薬品処方は「安全性」に大きな問題があるためです。この点、上記と同じく学会が診療ガイドラインを定めることとなっており、それに則ることが求められます(関連記事はこちら)。

また現在のコロナ臨時特例に倣い、初診からのオンライン診療では▼麻薬・向精神薬の処方▼ 基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する、特に安全管理が必要な薬品(診療報酬における薬剤管理指導料の「1」の対象となる、いわゆるハイリスク薬)の処方▼基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する8日分以上の処方—は行えないこととが、改訂オンライン診療指針にも明示されます(関連記事はこちら)。

オンライン診療と対面診療との組み合わせが原則、一部「オンラインで完結可能」な傷病も

ところで、オンライン診療では主に慢性期疾患などが対象になると考えられ「オンライン診療と対面診療の組み合わせ」が重要となります。その際、かかりつけの医師がオンライン診療を行う場合には、医師が適切に「オンライン診療と対面診療を組み合わせる」ことになるため、問題は生じません。

しかし、「かかりつけの医師」以外がオンライン診療を実施する場合には、どのように対面診療を適切に組み合わせていくかが問題となってきます。この点、厚労省は次のような整理を行ってはどうかとの考えを提示しました。

(A)患者に「かかりつけの医師」がいる場合
(例えば「かかりつけの医師」がオンライン診療を行っていない場合や、休日・夜間などで「かかりつけの医師」がオンライン診療に対応できなかった場合など)
→オンライン診療を行った医師が「かかりつけの医師」に紹介し、「かかりつけの医師」が対面診療を実施することが望ましい

(B)患者に「かかりつけの医師」がいない場合
→オンライン診療を行った医師が対面診療を行うことが望ましい
→患者の近隣にある「対面診療が可能な医療機関」を紹介することも想定される
→「オンライン診療を行った医師自身では対応困難な疾患・病態の患者」や「緊急性がある場合」には、オンライン診療を行った医師がより適切な医療機関に自ら連絡して紹介することが求められる

この点、臨時特例の状況から「多くのオンライン診療では、上気道炎等の診療を行い、当該オンライン診療で治療が完結する」ことを引き合いに「オンライン診療と対面診療の組み合わせを常に求めるべきではない。現場の判断に委ねればよい」とする意見が、佐藤構成員や大石構成員らから出ています。

しかし、今村構成員らは「エビデンスが積みあがっていない中で、医療現場の判断に委ねるのは危険である。学会での『初診からオンライン診療が実施可能な傷病』の整理が行われる。それも踏まえて『オンライン診療で完結可能な傷病』の整理も検討していくべきであろう」との見解を示しました。上述のようにオンライン診療指針は定期的に改訂されます。一度の改訂に「可能性のある将来展望」までも含めて盛り込むことは、こと医療においては極めて危険であり、山口育子構成員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)は「今村構成員、南学構成員の指摘通り、学会での整理を待ち、それを踏まえてオンライン診療指針を見直していくべきである」との考えを示しています。例えば、学会で「オンライン診療のみで完結することが多いと考えられる傷病」などが整理された場合、指針改訂やQ&A発出などで順次対応していくことが現実的ではないか、との考えを厚生労働省医政局医事課の担当者も示しています。

ただし、その際には「どういったエビデンスなどがあれば、オンライン診療で完結すると認められるのか」などの指針も示しておく必要があり、大石構成員・山口構成員がこの点の重要性を指摘しています。



このほか、オンライン診療指針全般について、▼コロナ感染症に対応する中で、オンライン診療の有効性も認識されている点なども記載すべき(金丸恭文構成員:フューチャー株式会社代表取締役会長兼社長グループCEO)▼セキュリティ確保について、現場に分かりやすい記載などに見直していくべき(高倉弘喜構成員:国立情報学研究所アーキテクチャ科学研究系教授)—などの注文もついています。



今後、山本座長・厚労省で必要な見直しを行った後、任意のパブリックコメント募集を経て、改訂オンライン診療指針が発出されます(医政局長通知など)。

ただし、現在はオンライン診療・電話診療に関する臨時特例が稼働しているため、これが優先され、改訂指針の稼働は「臨時特例が終了してから」となる点に留意が必要です。

なお、指針改訂内容が概ね固められたことを受け、今後、中央社会保険医療協議会において「診療報酬での対応」(例えば、初診からのオンライン診療に関する点数は現時点で存在しない)も検討されることになりそうです。



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