第4期がん対策の成果・効果を適正に評価するためのロジックモデルを7月目標に完成させ、2026年度に中間評価を—がん対策推進協議会
2023.5.3.(水)
第4期がん対策推進基本計画が稼働しているが、2026年度に「中間評価」を行い、次の第5期計画につなげていく—。
また、最終アウトカム→中間アウトカム→アウトプット→具体的な施策へと落とし込んでいく「ロジックモデル」が第4期計画から導入されており、「今年(2023年)7月の完成」を目標に検討を進めていく—。
4月28日に開催されたがん対策推進協議会で、こういった議論が始まりました。また、今年度(2023年度)には3回目の「患者体験調査」を実施し、患者の「がん医療等に関する考え、満足度」などを詳しく探っていきます。
がん対策、最終目標から個別施策に落とし込むロジックモデルの完成を目指す
我が国のがん対策は「がん対策推進基本計画」に沿って進められ、今年(2023年)3月28日に新たな「第4期がん対策推進基本計画」が閣議決定されました。
●第4期がん対策推進基本計画はこちら
第4期計画では、「誰1人取り残さないがん対策を推進し、全ての国民とがんの克服を目指す」ことを全体目標として掲げ、▼がん検診受診率の向上(目標値を50%→60%に引き上げ)によるがん予防の推進▼がんと診断されたときからの「緩和ケア」実施や、新規医療技術の速やかな臨床実装などによるがん医療の向上・充実▼アピアランスケア(外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア)にも配慮したがんとの共生の充実▼これらを支える研究や人材育成、教育などの基盤強化—が進められます(関連記事はこちらとこちら)。
第4期計画は「2028年度まで」を対象期間としており、2029年度からは次の「第5期がん対策推進基本計画」にバトンタッチされます。第5期計画は「前期となる第4期の状況」を評価し、「良いところは維持」し、「不十分なところはテコ入れを行う」などの改善が行われますが、第4期計画の終了を待って評価を行ったのでは、第4期計画と第5期計画との間に間隙が生じてしまいます。
そこで第4期計画の中間年である2026年度に「中間評価」を行い、その結果を踏まえて第5期計画につなげることになります(医療計画の中間見直しとも歩調を合わせることになる)。
がん対策推進基本計画の内容を固める「がん対策推進協議会」(以下、協議会)では、この「中間評価」に向けた「評価項目」を固める議論を開始しました。
ところで第4期計画では、計画・取り組みの効果を評価する指標に「ロジックモデル」の考え方が盛り込まれました。
例えば「死亡率低下」「生存率向上」などの最終アウトカムを達成するために、「分野別アウトカム」→「中間アウトカム」→「アウトプット指標」→「個別施策」へと落とし込んでいくイメージです。
例えば「死亡率低下」という最終アウトカムを実現するために、「がん予防」の分野では「早期がんの割合を増加させる」「進行がんの罹患率を減少させる」という分野別アウトカムを設定。これらを実現するために中間アウトカムとして「検診受診率の向上」「検診精度の向上」を実現する。このために、▼検診受診勧奨実施市町村数をどの程度まで引き上げるか▼指針に基づく検診の実施率をどの程度まで引き上げるか—というアウトプット指標を設定。さらに、この指標をクリアするために「より科学的かつ効率的な受診勧奨策を、関係学会や企業等の協力を得て、都道府県・市町村と連携して推進する。受診者の立場に立ったがん検診を受診する上での利便性の向上に努める」「職域におけるがん検診について、実施状況の継続的な把握・適切な実施に向けた課題の整理を行い、必要に応じて法的な位置付けも含めた対応を検討する」などの具体的施策に落とし込んでいきます。
また、がん医療の分野別アウトカムとしては、「診療の質向上」を設定し、このアウトカム実現に向けて▼医療提供体制の均てん化・集約化▼がんゲノム医療の推進▼科学的根拠に基づく手術療法・放射線療法・薬物療法の推進▼チーム医療の推進▼がんリハビリテーションの推進—などの中間アウトカムを設定。さらに具体的に、次のような施策につなげていくことになります。
▽地域の実情に応じ「均てん化」を推進するとともに、持続可能ながん医療の提供に向け「拠点病 院等の役割分担を踏まえた集約化」を推進する
→その際、国は、都道府県がん診療連携協議会等に対し好事例の共有、他地域や他医療機関との比較に向けたデータ提供などの技術的支援を行う
▽がんゲノム医療中核拠点病院等を中心としたがんゲノム医療提供体制の整備等を引き続き推進する。関係学会等と連携し、がん遺伝子パネル検査等の更なる有効性に係る科学的根拠を引き続き収集するとともに、必要な患者が、適切なタイミングでがん遺伝子パネル検査等・結果を踏まえた治療を受けられるよう既存制度の見直しも含めた検討を行う
▽標準的治療の提供に加えて、科学的根拠に基づく「ロボット支援手術を含む鏡視下手術」等の高度な手術療法の提供についても、医療機関間の役割分担の明確化・連携体制の整備等 の取り組みを進める
▽患者が、病態や生活背景等、それぞれの状況に応じた適切かつ安全な薬物療法を受けられるよう、標準的治療の提供に加えて、科学的根拠に基づく高度な薬物療法の提供についても、 医療機関間の役割分担の明確化・連携体制の整備等の取り組みを進める
▽多職種連携をさらに推進する観点から、拠点病院等におけるチーム医療提供体制の整備を進めるとともに、都道府県がん診療連携協議会において地域医療機関と議論を行い、拠点病院等と地域の医療機関との連携体制整備に取り組む
▽がんリハビリ研修を受講した医師や看護師、リハビリ専門職などの拠点病院等配置を推進し、入院に加え外来においても、効果的・継続的ながんのリハビリ提供体制の整備を推進する
●ロジックモデルの暫定版はこちら
●最終アウトカムや分野別アウトカムなどの暫定版はこちら
協議会では、こうしたロジックモデルを「今年(2023年)7月まで」に完了させ、その後、各種のデータを収集し、それらをベースに2026年度に中間評価を行うことを目指して議論を開始しました。
委員からは、▼医療提供体制の格差が広がってしまっている。格差是正を重要な評価指標に加える必要がある(石岡千加史委員:東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野教授、東北大学病院腫瘍内科長、日本臨床腫瘍学会理事長)▼2次医療圏や都道府県単位で「がん患者の流出入」を把握できないか検討してはどうか(土岐祐一郎会長:大阪大学大学院医学系研究科外科学講座消化器外科学教授、日本癌治療学会理事長)▼「●●(例えば妊孕性温存、BCPなど)の議論を行っている都道府県の数」がアウトプット指標に据えられるが、わずかな議論だけでも「議論している」にカウントされるのはいかが、「実質的な、しっかりした議論が行われている」かを見られるようにすべきではないか(樋口麻衣子委員:富山AYA世代がん患者会Colors代表)▼専門性の高い看護師の配置状況を各指標に据えるべき(森内みね子委員:日本看護協会常任理事)▼診断時からの緩和ケア実施について、より実態を見られるようにすべき(前田留里委員:,京都ワーキング・サバイバー理事長、全国がん患者団体連合会理事)▼例えば、がんゲノム医療について「必要な患者にパネル検査を実施できた割合」「最適な抗がん剤(分子標的薬)を投与できた患者の割合」などを評価指標に据え、「誰一人取り残さないがん医療」実現を目指すべき。またドラッグ・ラグ、ロスの解消に向けて「新薬の開発状況」なども評価指標に加えるべき(谷島雄一郎:ダカラコソクリエイト発起人・世話人/カラクリLab.代表)▼「自分らしく日常生活を送れている」かどうかについて、例えば複数の類似項目をクロスさせて評価することなども検討してはどうか(小原眞知子委員:日本社会事業大学社会福祉学部教授、日本医療ソーシャルワーカー協会副会長)▼がん相談支援部門の「働き方」について評価指標に据えてはどうか。過重労働の中では十分ながん相談対応がなしえなくなる(久村和穂委員:金沢医科大学医学部公衆衛生学非常勤講師、石川県がん安心生活サポートハウスソーシャルワーカー、日本サイコオンコロジー学会代議員)▼がんの1次予防では「禁煙」と「HPVワクチン」が重要となり、指標化を十分に検討すべき(松田一夫委員:福井県健康管理協会副理事長、日本消化器がん検診学会監事)—などの多様な意見が出ています。
今後も議論を続けて「ロジックモデル」を完成させ、各都道府県でのがん対策推進計画作成につなげます。
このほか、4月28日の協議会では次のような方針も固められました。
▽第4期計画で重視されている「患者・市民参画の推進」に向け、まず患者団体、患者支援団体などからヒアリングを行い、その結果を踏まえてさらに議論・検討を深めていく
▽中間評価・第5期計画に向けて、3回目の「患者体験調査」(成人対象、600施設×100人程度予定だが、予算状況から縮小も検討)を2023年度に実施する
▽「難治がん」「難治性がん」の用語統一・定義づけに向けた検討をすすめていく
【GHCからのお知らせ】
約200超のがん診療連携拠点病院などが参加する CQI(Cancer Quality Initiative)研究会(代表世話人:望月泉:八幡平市病院事業管理者・岩手県立病院名誉院長)では、DPCデータをもと「がん医療の質向上」に向けた研究を行っており、Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)がデータ分析等を担当しています。
本年(2023年)8月26日には、第16回研究会を開催(会場+web)。研究会では、「診療の質」と「経営の質」を向上するためのデータ分析方法を議論。前立腺がんなどがん種別に内視鏡手術支援ロボットを用いた手術動向分析などをベースに議論が行われます。
参加病院には、がん診療分析ツール(Cancer Dashboard)を無償提供。また当日は「がん拠点病院の働き方改革」に関する講演も行われます。是非、ご参加ください(詳細はこちら)。
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